鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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葉蔵は人間の頃から必要な時には冷酷になれます。
もし仮に人間を楯にされても、容赦なく撃ちます。
ゴブスレで肉の楯がありましたが、アレって実際に人間もやりましたからね。
そういった時のために容赦なく撃てるよう、大事のために小事を切り捨てられるように教育されました。
まあ、助けられるのなら助けますが。


不機嫌な葉蔵

「……胸糞悪い」

 

 右手に人の胴体程の大きさがある物体を持ち上げながら、ポツリと葉蔵は呟いた。

 いや、彼の持ち上げているのは胴体そのものだった。

 

 人魔の胴体。

 四肢をもぎ取られ、舌と目をくり抜かれ、針の根によって再生を防がれている。

 力任せに引き千切られた手足の根本から、針の根が飛び出ている。

 コレによって再生を封じられ、死ぬことも禁じられているのだ。

 

 戦いとすら呼べなかった。

 柱から見ても強力な鬼である人魔。

 流石に上弦の弐程ではないが、カナエが今まで戦ってきた鬼の中でもトップクラスにいたのは間違いない。

 しかし、ソレを圧倒する針鬼の力。

 人魔が血鬼術を使うより早く血鬼術を発動させてダメージを与え、人魔が血鬼術を発動させてもソレを上回る火力と性能の血鬼術で無力化どころか押し返した。

 気が付けば、両腕を虫の羽でも千切る様に容易くねじ切り、虫を潰すかのように両足を踏み抜き、地面に芋虫のように転がる人魔の目と舌を針でくり抜いた。

 

 

「うざい」

 

 

 怒りや憎しみ等の激しい感情はなかった。

 しかし、だからといって無感情でもない声。

 強いて言うなら不快感のあった声。汚い虫を見て嫌々潰すような、日常にありそうな声。

 こうして行われる残虐な行為と、その圧倒的な力のとギャップは、しのぶとカナエにとってはかなり大きかった。

 

「……帰るか」

「待ちなさい」

 

 葉蔵の前をカナエが遮る。

 

「私と一緒に来てください、葉蔵さん。貴方にはあの男……鬼舞辻無惨の事について話してもらいます」

「……何故知っている? 私が奴と会ったと」

「その反応、やはり奴と出会って戦ったのですね?」

「………」

 

 単純な罠に引っ掛かった。

 冷静な葉蔵らしくない失敗。

 しかしソレは、今の葉蔵が冷静でないことを意味する。

 上弦の壱を撃退し、無惨の血を取り入れた最強の鬼が、いつ爆発するか分からない状態になっている。

 

「断る。というか私に関わるな。今の私は非常に機嫌が悪い」

 

 ぱしっとカナエの手を振りほどく。

 

「お願い葉蔵さん。貴方の協力が必要なの」

「知らん。君たちの事情に合わせるな。今の私は忙しい。ソレに、今の私は非常に機嫌が悪い」

「そんな……いつもは助けてくれたじゃないですか!」

「機嫌が悪いと言っている。いつも助けると勘違いするな。……もういい、話しかけるな」

「え、待って……」

 

 

【針の流法 滑空する雷速(ファイターフラッシュ)

 

 

 葉蔵は血鬼術と呼吸の合成技によって加速しながら、その場を飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことがあったのですか」

 

 カナエの話を一通り聞いた炭治郎はうんうんと頷いた。

 

「ねえ炭治郎くん、貴方から見て」

「分かりません」

「「………」」

 

 即答した炭治郎に白い眼を向ける二人。

 

「そもそも、俺が語る葉蔵さん像は俺の視点から見て、俺の価値観で判断した葉蔵さんであって、本当の葉蔵さんではありません」

「構わないわ。私は色んな人から葉蔵さんの話を聞きたいの。話してくれる?」

「う~ん、そうですね……」

 

 腕を組んでウンウン唸る炭治郎。

 

「そもそも、葉蔵さん自体コレだ言えるほどに単純な人じゃないですよ。性根は善に近いんですけど、ハッキリと善と言えるほどでもありません。けっこう悪いこともしてますし」

「う、う~ん。まあ確かに……お、鬼との戦闘を楽しんでいる時点でソレは……ま、まあ分かってました」

「そうです。あの人、けっこう暴力的な面があります。自分の邪魔になる存在や嫌いなものには容赦しません。けど、誰彼構わず暴力を振るうような人でもないんですよ」

「ソレは分かっているわ。けど、それでもあの人は……」

 

 カナエはそのあとの言葉を続ける事が出来なかった。

 足して、炭治郎はあっけらかんと言った様子で話を続ける。

 

「そのことなんですけど、葉蔵さんはもう助からないって気づいてたんじゃないんですか?」

「え?けどまだ村人たちは意識があったのだけれど……」

「いや、そうとは言い切れませんよ。あの人、角から発する音波や電波とかで人体をスキャン…一瞬で体内がどうなっているのか把握出来るんです」

「何それ!? あの鬼そんなことまで出来るの!? ズルじゃない!!」

「え、ええ。ただ、見れるのは内臓や筋肉とかの大きなもので、細胞だったり体内の有害物質とかは針を直接刺して調べない限り分からないらしいで」

「十分凄いわよ! というか、成分まで分かるなんてずる過ぎじゃない……!」

「ハイハイ、しのぶは少し落ち着いて」

 

 葉蔵の理不尽な程に恵まれている鬼のスペックに対して嫉妬するしのぶを、カナエはどうどうと馬でも撫でるかのように宥める。

 

「まあ、ということで葉蔵さんは助からないって分かってたんじゃないんですか? 例えば、既に重要な臓器がズタズタにされてたとか、体内に鬼が潜んでその鬼が死ぬと宿主も死ぬとか」

「……なるほど。けど、そうならなんで言ってくれなかったのかしら?」

「そりゃあ、機嫌が悪かったからじゃないですか? 葉蔵さん、普段は穏やかで器も大きいけど、けっこう人間臭い鬼です。怒って余裕がない時もありますよ」

「そ、そういうことなのね……」

「そういうことです。あの人は助けられるなら絶対に助けます。葉蔵さんは美しく勝つ事に拘っていますから」

 

 カナエは安堵した。

 良かった、葉蔵さんは簡単に人を見捨てるような人ではなかったと。

 

「あと、おそらく早くその鬼を拷問したかったとかも理由の一つですね」

「………え?」

「葉蔵さん言ってました。苦しみとは生きているからするので、死んでしまえばソレで終わり。よって復讐するなら、対象が殺してくれと懇願するまで痛めつけるべきだって」

「……狂ってるわねその思考」

「そうですか? 俺はその通りだと思いますよ。だって、生きているから色んなことを感じたり、喜怒哀楽を持てるってことじゃないですか。いい考えだと俺は思います」

 

 もしかして炭治郎も大分影響を受けているのではないか。そんな心配を含んだ視線でカナエとしのぶは炭治郎を見る。

 

「話を戻しますね。たぶん、葉蔵さんはブチ切れていたと思うんですよ。人前ではあまり感情を見せませんが、キレる時は滅茶苦茶過激になります。一度、俺はブチ切れしたあの人の

 怒りの香りで気絶しそうになりましたし」

「そ、そうなの。で、どんな匂いなの?」

「獣と血、あと火薬と鉄の匂いですね。全身を銃で武装した巨大な肉食獣が飛びかかるうような、そんな恐ろしさを感じました。アレは人間には耐えられませんね」

「そ、そんなに……」

「とまあ、俺から言えることはこれだけですね。後は二人でどういった人か判断してください」

「そう、ありがとう」

 

 炭治郎は頭を下げて去って行った。

 

 





ふと思ったのですが、鬼殺隊の医療ってすごいですね。
蜘蛛山では兄蜘蛛によって蜘蛛にされた隊士を治せましたし。
アレ、骨格どころか内臓レベルで姿変えられてますよね? ソレを薬で治せるってどういう技術してるのでしょうか?
今回の村人も治せたかどうかは……ご想像にお任せします。
大事なのは、葉蔵の視点から見て不可能だったという点ですから。
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