鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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復活の葉蔵

「それで、義姉さんは結局あの鬼をどう判断するの?」

「そうね。一言で表すなら……子供、かな」

 

 カナエはため息を付きながら即答した。

 

 彼女が見た葉蔵は、子供だった。

 頭が良く、今ある玩具で最大限に楽しむために手間と苦労を惜しまない。

 だから加速的に強くなれる。

 

 楽しむから一つの事に没頭し、様々な事柄から学んで引用し、思いついたことを即座に実行する。

 そうやって葉蔵は技を増やし、技術を磨き、実力を付け、戦略を編み出し、加速的に強くなった。

 

 死に物狂いで、血の滲む努力で強くなる鬼殺隊とはまた違った道。

 しかしこのやり方もまた、強くなれる別の道。

 むしろ、苦しんでやるより健全かもしれない。

 

「……案外、楽しんでやる子供みたいな人が成功するものかもしれないわね」

「……まあ、ソレはなんとなく分かるわ」

 

 遊びと侮るなかれ。

 子供が遊びにかける情熱と工夫は、時に歴史を動かすほどの成果を齎すこともある。

 実際、アメリカのペンタゴンに高校生程の子供がハッキングを仕掛けた事件なども存在している。

 

「それだけじゃない。あの人には特別な知識と独特な視点がある。だから余計にあの人が魅力的に見えるの」

 

 転生者である葉蔵は、この時代にとって未来の知識と考え方を持っている。

 未来とは未知の出来事。何も知らない者から見れば、葉蔵は自分たちが知らない世界を知っている特別な人間に見えてしまう。

 結果、こう思ってしまうのだ。この人なら自分の知らない世界を見せてくれると。自分を知らない世界へと導いてくれると。だから本人がその気にならずとも魅力的に見えてしまうのだ。

 

「これであの人がちゃんと人間をやっていれば問題ないわ。むしろいい未来を作ってくれるかしれない。……けど、そうじゃない。葉蔵さんは鬼としての生き方を肯定している。……これじゃあ、逆効果よ」

 

 そう、ここがカナエの危惧する点である。

 葉蔵が鬼でも、彼に人間として生きる気があればここまで考えなかった。

 しかし、葉蔵は鬼としての自分を肯定し、人としての縛りやルールを破り捨て、鬼として生きようとしている。

 ソレは人の生き方ではない。獣の生き方だ。ソレも、軍クラスの力を持ち、人を惹きつける魅力を持つ者が。

 

 力が強い獣はそこにいるだけで害獣になる。

 人里に下りたヒグマが問答無用で撃たれるように、危険な獣は即座に殺さなくてはいけない。

 まして、上弦並の力を持つ鬼を何の制約もなく野放しにするなんて危険すぎる。人類のために即刻手を打たなくてはならない。

 

 そこにいるだけで様々な影響を与え、巨大すぎる力を持ち、力を振うことを楽しんでいる獣。

 そんなものは断じて放置していいはずが無い。

 

 

 上弦の鬼をも凌ぐ実力。

 実力を十全に使いこなす頭脳。

 更なる成長を楽しみ妥協しない精神性。

 人とは違う知識と価値観による独特な魅力。

 自身の命を顧みず修羅の道を楽しんで歩む狂気。

 

 どれか一つでも恐ろしいのに、全てが揃って相乗効果となっている。

 

 危険。

 あまりにも危険ぎる。

 このまま放置していい筈がない……。

 

「けど、どうしようもないのね……」

 

 カナエにはどうする事も出来ない。

 葉蔵は誰にも縛られない。誰の指示も聞かない。

 だって彼は鬼神なのだから……。

 

 

 

「やっぱり、珠世さんと一緒に人間になるべきなのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。やはり針鬼は眠ったのか」

 

 とある屋敷。

 産屋敷と珠世は対面して話し合っていた。

 

 ここ一年程、針鬼は姿を現していない。

 大庭家でもその半年ぐらい前から引継ぎなどの準備らしきものをしており、葉蔵は自身が眠る時期が来たのを理解し、そのための準備をしていたのではないかと二人は推測している。

 ただ、珠世はまた別の理由もあると考えていた。

 

「ええ、葉蔵さんに休眠期が来たからというのもありますが、引継ぎをしたのは……おそらく、飽きたからではないでしょうか?」

「飽きた?」

「そうです。葉蔵さんは興味のある事柄に関しては凄まじい集中力と発想力がありますが、一度興味を失うと簡単に捨ててしまいます。流石に家の事は自分一人の問題ではないから

 引継ぎをちゃんと終わらせましたが、もし誰とも関係しないのならすぐ放棄していたでしょう」

「なるほど、好きなことはとことんやるけど、そうでないものには驚く程に無頓着。ますます子供っぽい印象だね」

「ええ。葉蔵さんの運営方法は基本的に丸投げですから。引継ぎの件も自分の仕事を全部次期当主の方に押し付ける形でしたし」

 

 基本的に、葉蔵は自身の仕事以外はしない。

 任せられるものは全部任せて、自分は出来るだけ最低限の仕事で済むようにしている。

 彼曰く、餅は餅屋に任せるのが一番、下手に素人が手を出すべきではないとのこと。

 良く言えば役割分担、悪く言えば丸投げ。

 上手い具合に仕事を割り振ることで組織を運営している。

 もっとも、割り振った仕事がダメにならないよう見張りを誰かに任せたり、仕事が失敗しても大丈夫なようにサブの仕事を誰かに任せる等はちゃんとしているが。

 

「ソレに元から、葉蔵さんは組織を動かす事にあまり興味がありません。規則や人間関係などで縛られるのを嫌う性分ですから」

「なるほど。じゃあ、もし彼が無惨に成り替わっても、その力で新しい鬼の軍団を作ったり、日本を支配しようとはしないと」

「どうでしょうか。大義名分さえあれば戦争もゲームとしてやるとは思いますが、政治などの管理や運営は面倒臭がってやらないか、他の者に丸投げすると思います」

「その場合、どんな人間が管理を担当すると思う?」

「やはり愛国心が強くて常時の仕事を卒なくこなすような人ですね。葉蔵さん、人のやる気や欲望を煽るのが異様に上手いので」

「では非常時の場合は葉蔵さんが出ると?」

「おそらく。その時はゲームとして楽しみながらやるでしょう」

「……ゲーム。遊びという意味か。それじゃあ、やはり葉蔵さんは遊び感覚でやると」

 

 渋い表情で唸る産屋敷。

 

 別に、産屋敷は遊びとして仕事やっても文句を言う性格ではない。

 どうせやるのなら楽しみながらやってくれる方が言いに決まっている。

 ただ、ちゃんと使命感と責任感を持ってくれる限り。

 遊び感覚でやると、どうしてもそういった感覚が無くなってしまう。

 コレが下々の者ならせいぜい失敗して雇い主に迷惑をかける程度なのだが、組織を運営する立場になるとそうは言ってられない。

 周囲に大きな被害を与え、下の者たちの人生も大きく変え、場合には命を奪う事になる。

 

 力と知恵のある子供が日本のトップになる。

 おそらく外国の脅威はなんとかなるかもしれないが、そのあとが怖い……。

 

「葉蔵さんが負の影響を出さないと断言は出来ませんが、可能な限りそういった手は使わない筈です。葉蔵さんは美しく勝つ事に拘っています。利益の分配と“駒”を守るのもその一つです」

「………やはり最後にアテになるのは彼自身の美学、か」

 

 美学のある男は強く魅力的に見える。

 たとえやることが世間的には悪とされる行為でも。

 

「………惜しい、実に惜しい。そんな魅力的な人がちゃんと正しい道を歩んでくれたら、その道を照らす光にも成れた筈なのに」

「………機がなかったとしか言えませんね」

 

 機会はあった。

 

 もし、藤襲山で義勇や錆兎と一緒に下山すれば、二人と友になって鬼殺隊の鬼として強くなっていたであろう。

 もし、甘露寺とあのまま一緒に過ごせば、二人は恋人にでもなって鬼を滅ぼすために共に戦っていたであろう。

 もし、不死川家であのまま過ごしていれば、家族にでもなって修羅の欲求を捨てて父親代わりになっただろう。

 

 人の道を歩む機会は与えられた。

 しかし葉蔵は数多ある道から修羅道を選んだ。

 もう彼は人の道には戻れない。戻るには修羅道を歩み過ぎた。

 鬼として生きる限り、修羅道を進むと決めている限り、人の道に向かうことはない………。

 

「「やっぱり、人に戻ってもらおうか」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…あぁ……」

「………気持ち悪い目覚まし時計だ」

 

 地中に掘られた洞穴の中。

 永い眠りから目覚めた葉蔵は、補給用に生かしておいた人魔を軽く蹴った。

 いや、ソレを生きているというのは不適切であろう……。

 

 人魔は生かされていた。

 四肢をもぎ取られ、全身を針に侵食され、目と目と舌をくり抜かれた状態で。

 額からはチューブのように針が伸びており、そこから葉蔵はジワジワと鬼因子を吸い取って眠っていたのだ。

 例えるなら、病院の点滴。人魔は補給用の道具として死ぬのを禁止されていたのだ。

 

「殺…して。こ、殺し…て………」

「うん。貴様はもうい用済みだ。眠る前に気が済むまで痛めつけたし、もういいだろう」

 

 パチンと、葉蔵が指を鳴らす。

 

 

 

 

「最期まで苦しみながら、生まれた事を後悔しろ」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!?」

 

 

 針によって全身を細かく切り刻まれながら、出来るだけ苦痛を与えられながら、人魔は洞穴を赤く染めて逝った。

 

 

「あ~スッキリした。ソレじゃあ、行こうか」

 

 その場を跳んで埋められた洞穴の入り口を力ずくで突破。

 激しい破壊音が鳴り、地面が揺れる。

 服や体に付いた土を払いながら優雅に着地し、ぐるっと周囲を見つめた。

 

 月夜。

 いつもなら万遍に輝く星が一つもない夜空。

 自分が主役とばかりに赤い月のみが光を放つ。

 

「……いい月夜だ」

 

 葉蔵の影の形が変化する。

 人の影だったモノが、一瞬で獣のソレに。

 影は一瞬で消え、その場に大きな穴だけが残った……。

 

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