アズールレーン─トリカゴ基地の日々─   作:大和亀蔵

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アズールレーン二次創作です。オリジナルの設定、キャラ解釈がございます。ご注意ください。


前日譚
「エリザベス女王様の言う通り」


 「うっそでしょう!?」

 

 心地の良い木漏れ日、そして小鳥のさえずり。

 

 かつて文明を重ねた時代であれば間違いなく誰かがキャンバスに筆を走らせたであろうその場所は、ロイヤル陣営本拠地内──パレス・ガーデン。

 

 緑と色とりどりの花々に囲まれ、白を基調としたテラス。

 

 その中で、いつものようにお茶会を楽しんでいたウォースパイトは、自らの姉であり学友であり、なにより守るべき主であるクイーン・エリザベスが、緊急を要する封筒の中身を確認をするや否や、大きく声を上げたことに肩を震わせた。

 

 何分、優秀ではあるものの落ち着きのない主君ではあるが、あそこまで大きく動揺を見せることは珍しい。

 

 その場にいた他のものも、どうしたのかと口には言わずともエリザベスの言葉を待っていた。

 

 代表してウォースパイトは口を開く。

 

 「どうかされましたか、陛下?」

 

 「あの下僕、やってのけたみたい。ウォースパイト、見てよこれ」

 

 「拝見します」

 

 エリザベスから書類を受け取り、その内容に目を走らせる。

 

 「なんと......」

 

 綴られていたのは、現在アズールレーン側に所属しているユニオン、アイリスを初めに北方、東煌の承認のサインに加えて、敵でもあるレッドアクシズ勢力──鉄血、重桜、ヴィシア、サディアによる作戦の承認であった。

 

 そして、文の結末は『約束は果たした』と締められている。

 

 「あの下僕、まさか本当にやってのけるなんて..... ま、まあ! 期待はしていたけど!」

 

 明らかに強がりであったし、女王のその言葉に茶会に参加していたものは、驚いた理由の大まかな内容を認識した。

 

 彼女が下僕と呼ぶその男は、重桜出身ながらも今の世界の在り方に疑問を持ち、やがてアズールレーンに指揮官としてみこまれた男のことである。

 

 彼の考え方はすぐには無理でも、もう一度目線をセイレーンに合わせるべきだというものだった。

 

 かといって、すぐに各国家間の垣根を越えての協力は無理があるから、せめて各陣営から少しずつ戦力をだしあい、わかりあっていこう、と。

 

 その理想を叶えるため、彼がユニオンの承認を得た後、直談判にやってきたのはここロイヤルであった。

 

 滅多なことがない限りは全面的支持をとるのだが、クイーン・エリザベスと付人のウォースパイトを見るなり「え、ちっさ」と口を滑らせた例の事件に始まり、エリザベスの堪忍袋の緒を見事に切断させたことは記憶に新しい。

 

 ただ、参加を拒否すればアズールレーンにて権力を握るロイヤルとしての体裁もたたないわけで、

 

 「敵勢力含め、全ての他陣営の承認を得られたら、ロイヤルも協力してあげるわ!」

 

 と、最終的には半ば試すような形でロイヤルは参加を示したのだった。

 

 そして、その試練の壁は見事崩されたのである。

 

 「ウォースパイト様、私も見聞してよろしくて?」

 

 「ええ、もちろん」

 

 朗らかに微笑み、聖女を思わせる雰囲気を纏うイラストリアスが興味深そうに声をかけてきたので、歴史の変遷となるかもしれない書類を手渡す。

 

 数回、目を瞬かせ、彼女は満足そうに頬を緩ませた。

 

 「嬉しそうね?」

 

 「ええ。これで、世界平和に確実に一歩近づいたのですから。あの指揮官さまはやはり、イラストリアスの見立ての通りでした。少し、 口が粗暴なところがキズですけど」

 

 「ほんっとそれよ! そもそも、この私と初対面でいきなりタメ口きいたやつなんてアイツが初めてだわ! 何より、紳士としての──」

 

 実の所、そんな態度を取られたことは本当に初めてで、肩を並べた対等な立場の相手が出来たことが嬉しかったりしているのを、ウォースパイトは見抜いていた。

 

 それでも、不満をこぼすのは複雑な乙女心ゆえと言えるだろう。

 

 「(にしても、本当にどうやって協力をこぎつけたのかしら?)」

 

 そんな主君の思惑を振り払い、ウォースパイトは素直に疑問を抱くことに思考を切り替えた。

 

 彼の考案した連合部隊はいくつかの条件があり、その一つに各陣営のKAN-SEN五人までの参加というものがある。

 

 体良くいえば協力しあって敵を倒すともとれなくはないが、裏を返せば、それぞれの勢力から人質をくすねているとも取れる。

 

 国の大事な戦力を、知りもしないひよっこに託すのと同義でもあるのだ。

 

 レッドアクシズ側もそれがわかっていないほど、愚かではないはずだ、何かうまい話があるのか、はたまた......。

 

 ちらりと、ウォースパイトはまだまだ楽しそうに彼のことを語りつくすエリザベスを見る。

 

 さながらその姿は、恋する乙女のようであった。

 

 「(......他の者も、たらし込まれたのかしら)」

 

 あながち、ないとは言えなかった。

 

 というか、現に彼女も彼のことはかなり気になっていたのだった。

 

 なんならあの指揮官にまた会えるのだから、今回の作戦に立候補したいくらいではある。

 

 流石に主君のもとを離れるわけにはいかないので、名乗りは出せないが。

 

 なぜそうなったのかは、またいずれかの時に。

 

 ......ともかく。

 

 「陛下。お楽しみのところ申し訳ありませんが、ロイヤルからは誰を推薦するのかお考えで? 茶会を切り上げて、正式な会議を開くべきかと」

 

 「えぇー、今ここで大体の面子揃ってるじゃない。いない連中には私から言えば問題ないし。ここで決めてしまいましょ! さ、ロイヤルの代表である訳だし、恥のない人選をしないと」

 

 「......はあ」

 

 まさに女王特権であった。

 

 思わず、ため息も漏れる。

 

 「そのことについて、まず私からの具申をよろしいでしょうか?」

 

 落ち着いた声でありながらも、先手必勝と言わんばかりに挙手をして発言したのは、現ロイヤルメイド隊メイド長であるベルファストだった。

 

 「いいわよベル。意見の具申を許可するわ」

 

 「ありがとうございます」

 

 エリザベスの言葉にベルファストは深く腰を折る。

 

 本人の美貌も重なり、美しさすら感じさせる挙動を終えると彼女は考えを述べた。

 

 「ぜひ、ロイヤルメイド隊の中から一人を推薦させていただきたいのです。ロイヤルの代表としてなら、ロイヤルを象徴する我々メイドからも参加するべきかと」

 

 「まあ、確かにそうかもね。あの下僕を補佐する誰かがロイヤルのメイドだとしたら、私たちロイヤルの名もさらに箔が付くわけだし。いいわ、ベル。その提案飲んであげる」

 

 「有り難き幸せに存じます」

 

 エリザベスの言葉に、ベルファストはもう一度腰を折った。

 

 「ところでだけど、誰を出すつもりなの?」

 

 「そうですね。対セイレーンの最前線となるわけですし、戦闘面だけでならシリアスですが、給仕におけるロイヤルメイド代表として出すのは、時期尚早かと考えております」

 

 「私もそう思うわ」

 

 エリザベスだけでなく、その場にいる全員が心の中で首を縦に振った。

 

 「私自身が赴くことも考えましたが、現状を考えるとあまり得策ではない結論に至りました」

 

 「貴方が抜けたら困ることしかないしね」

 

 その言葉はエリザベスが抜けても同じことが言えるのだが、一同は野暮なことは言わない。

 

 「そこで現在の仕事分担を考え、仕事を抜けても構わず、ロイヤルメイドしての恥をかくことのない者となると、私からはニューカッスルさんを推薦したいと考えております」

 

 「ニューカッスルねえ......なるほど。理にはかなってるわね」

 

 ベルファストの前代のメイド統括、ニューカッスル。

 

 その仕事ぶり、優秀さはベルファストに決して引けを取らないが、今は隠居に近い立場をとっている。

 

 現状、ロイヤルメイドの中から誰かを向かわせるなら一番と言ってもいい人選だった。

 

 「ただ、ご本人が平穏と静寂を望まれる方です。最前線への復帰をどう思われるか」

 

 「私が言えば動いてくれるとは思うけど。それに、そこに至ってはあの下僕の責任だから、あいつに取らせるわ......うん、ニューカッスルの選抜は決定よ」

 

 「承りました。では、そのように」

 

 決が下ると、ベルファストは軽く礼をして引き続きメイドとしての立ち位置に戻った。

 

 早速、一人の枠が埋まったところでエリザベスは自らの考えを改めて言葉にした。

 

 「さて、ちなみにだけどロイヤルは五人選出することを考えているわ。きっちりと、我がロイヤルに力があることを示さないといけないわけだしね」

 

 「良きお考えかと」

 

 数が出せないことは、他国にそこまで戦力を回す余裕がないとも取れなくはない。

 

 彼のことを信じていないとも考えられるが、ここでなるべく戦力を見せることで、余裕があることを他組織に知らしめられるチャンスとも言える。

 

 「あのう、私からよろしいでしょうか?」

 

 会議がひとつ進展をみせたところを見計らってなのか、テラスの外からおずおずと声を上げるものが現れた。

 

 ここ、パレス・ガーデン屈指の美しさを誇る薔薇園を切り盛りする金色の髪を持つ少女でもある。

 

 「あら、オーロラじゃない。どうしたの?」

 

 アリシューザ級軽巡洋艦のひとり、オーロラ。

 

 暁の女神の異名を持つ彼女ではあるが、こうしてわざわざ参加していないお茶会の間に入ってまで発言をすることは珍しいことだった。

 

 何事かとウォースパイトも気になり、彼女の容姿を眺めていると、その手に一通の封筒が握られていることが目に止まった。

 

 「先程、東煌から連絡がありました。連合部隊の一件にて、ロイヤルの籍を持ちながらも東煌代表として出てもらえないかと、こちらがその提案書です」

 

 エリザベスはオーロラから提案書を受け取り、大まかに斜め読みをして口を開いた。

 

 「......そう言えば貴方、東煌にいたカンレキがあったわね」

 

 「はい」

 

 東煌では重慶として、オーロラの名は知られている。

 

 その特殊なカンレキから東煌との交流も深い彼女は、どうやら東煌側の余裕がないことを理由に、協力を提案されたようであった。

 

 「東煌に貸しを作れると考えれば、悪くないと思います。陛下」

 

 「すでに貸してもいるけど。量が多いことにこしたことはないか......でも、あなたはいいの? オーロラ?」

 

 「私の協力で東煌のためになるのであれば、私としては構いません。それに、例の指揮官さんにも、ぜひ会ってもみたいですし」

 

 「むむっ」

 

 オーロラの言葉に思う箇所があったのか、少し訝しむエリザベス。

 

 実際、ライバルがまだまだいることを彼女はまだ知らない。

 

 「いや、でも。ユニオンの選抜は多分あの二人よね? 全員金髪だったし、もし金髪好きだっとしたら、オーロラを向かわせれば、最終的にロイヤルに来る可能性も」

 

 「(絶対関係ないと思いますよ、陛下)」

 

 ブツブツと隣にいる者にしか聞こえない程度の小声で空論をかざす主君に声のないツッコミをウォースパイトはいれつつ、紅茶を一口喉に通した。

 

 ちなみにあの二人というのは、彼がロイヤルに訪れていた際引き連れていた面子のことで、エルドリッジとノースカロライナだったと彼女は記憶している。

 

 確かに全員共通点としては金色の髪があげられるが、元々ユニオンはブロンドの髪をもったKAN-SENが多い組織であるし、偶然だろうとしか思えなかった。

 

 エルドリッジはKAN-SENとしても特殊な力を使えると聞いているし、ノースカロライナは彼女達の護衛役と把握している。

 

 ならば、直接指名したとは考えにくい。

 

 金髪好きの可能性も、完全に捨てきれはしないが。

 

 「(私も............いやいやいや!)」

 

 ティーカップをソーサーに置くと同時に、余計な雑念も置いておく。

 

 今は選出会議中なのだ。もう少し真面目に取り組まねば。

 

 「陛下、彼女を選出するメリットも考えれば彼女でよろしいかと」

 

 「そうねえ。皆も、賛成なのかしら?」

 

 エリザベスの目配せに、こくりと頷きで返す一同。

 

 それを見るなり、エリザベスは

 

 「なら、決定ね。オーロラ、ロイヤルのため東煌のため、苦労することもあるだろうけど、精一杯励みなさい」

 

 「はい。陛下の寛大なお考えに感謝致します。では、東煌の方にもそう返事をしてきますね」

 

 「ありがとうございます」と、感謝の言葉を述べ、オーロラは茶会から離席した。

 

 「さて、二人決まったわね。順調に決まって何よりだわ」

 

 「陛下のお力ゆえかと」

 

 「ふふん、そんなこともあるわね。──でも、オーロラが抜けちゃうなら薔薇園をどうしようかしら。聞くのを忘れていたわ」

 

 快く承認したが、抜けた後のことをすっかり忘れていた。

 

 パレス・ガーデンにおいても、オーロラの薔薇園は非常に評価は高いが、その育て人がいなくなるわけなのだから一大事だ。

 

 かと思ったが懸念はすぐ様、ベルファストによって払われる。

 

 「オーロラ様の薔薇園は我がロイヤルメイド隊が引き継ごうかと。全く同じ美しさは難しいかと思いますが、無いよりはよろしいはずです」

 

 「流石ベル。話が早くて助かるわ。引き継ぎの方もしっかりとお願いね。あの薔薇園、私大好きだから」

 

 「この命にかえましても」

 

 立ち塞がった問題も片付き、選抜会議は3人目への進展をみせたのだった。

 

  *

 

 その後、会議は至って順調に事が運んだ。

 

 三人目にはエリザベスからの推薦で計画艦であるネプチューンが選ばれた。

 

 本来なら存在しなかった図面だけの空想艦。それが、計画艦である。

 

 未だに不明な点の多いメンタルキューブによって、その空想は現実にへと昇華し、ネプチューンという船は確かにこの世に君臨することとなった。

 

 加えて、彼女は対セイレーンにおいて無類の強さを持ってもいる。

 

 今回の人選において提供する戦力としては、最適と言えるかもしれない。

 

 同じく計画艦としてモナークも名前としてはあるのだが、後の防衛の点も考慮してネプチューンが残った。

 

 四人目には、これまで沈黙を保っていたフォーミダブルが自ら立候補。

 

 オーロラ、ネプチューンとは友の関係であるから、少なくとも多少は同陣営で連携を取れた方がいいというフォーミダブルの意見に、エリザベスは承諾した。

 

 普段、あまり意見をしないフォーミダブルが自主的に発言したことに、姉であるイラストリアスが嬉しそうに顔をほころばせたのは言うまでもない。

 

 姉の想いと、妹の思惑が一致しているのかは神のみぞ知るわけではあるが。

 

 ともかくとして、エリザベスの手腕もあってか会議の舵は順風満帆に取られ、とうとう最後の五人目の選抜に頭を悩ませることとなった。

 

 「ここまで選ばれたのはメイド隊からニューカッスル、東煌代表も担っているオーロラ、あとネプチューンにフォーミダブルね」

 

 戦力としては、軽巡洋艦3に空母1。

 

 やや偏りはあるものの、残りの一枠を埋める艦種は決まっているようなものだった。

 

 「勿論、あと一隻の枠は戦艦であるべきだわ! ちゃんと力があることを示さないと! じゃあ、ウォースパイト!」

 

 「......はい?」

 

 ビッグセブンの二人のどちらか、もしくは、他の誰かの名が呼ばれるだろうと考えていたウォースパイトは、自分の名前が呼ばれたことに、やや遅れて半音高い声で反応を示した。

 

 その返事を受け取ってから、エリザベスは高らかに声を上げた。

 

 「この枠は貴方に任せるわ! 下僕のためにも励んでちょうだい!」

 

 「わ、私でよろしいのですか?」

 

 参加出来るのなら願ってもないことではあるが、まさか推薦されるとは思わず声が詰まる。

 

 少なくとも、ウォースパイトはエリザベスの傍に最も長くいると自負していはいるだけあってか(過去に、ずっと傍に仕えていてほしいと言われたこともあり)今回の選出にあがることはないと彼女自身考えていたし、自分から離れるつもりもない。

 

 それゆえ、なぜ主君が自分を選ぶ結論に辿り着いたのかが、ウォースパイトにはわからなかった。

 

 「正直、傍にいて欲しい気持ちはある。あるけれど、みんなをちゃんとまとめることが出来て、例え敵だとしても相手と目線を揃えて語り合える人となれば、貴方以外にいないと私は考えてる。これって、とっても難しいことなんだから」

 

 「......」

 

 主君の中での自分の評価を聞いた覚えなどなかったし、なにより褒め慣れていないのもあってか、ウォースパイトは自分の顔が熱を帯びていくのを感じた。

 

 「それに」

 

 「......?」

 

 それに?

 

 まだ、褒められるのだろうか。顔が熱くて紅茶を沸かせそうなくらいなのに。

 

 意を決して構えていると、エリザベスは姉としての笑顔を浮かべ、他のものに聞こえないよう耳元で囁くのだった。

 

 「あなたもアイツのこと、好きでしょう?」

 

 「......え」

 

 「はいっ、これで決まったわ! 引き継ぎお茶会お茶会! あっ、離れる子のためにも送別会もしないとね!」

 

 エリザベスがそう言うやいなや、茶会の話題はあっという間に送別会にへと切り替わる。

 

 その状況に置いてけぼりのウォースパイトは、再度思い知らされたのだった。

 

 ──ああ、やっぱり。お姉ちゃんには適わないや

 

と。

 

 

 

 




ゲーム本編でお姉ちゃんしてるエリザベスどこですかね(

トリカゴ結成前のロイヤルのお話でした。エリザベスとウォースパイトが指揮官に想いを寄せる理由は、またいつか書けたらなと思っています。

パレスガーデンについてですが、小説、エピソードベルファストでの記載から拝借してます。
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