アズールレーン─トリカゴ基地の日々─   作:大和亀蔵

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世間のクリスマスは終わりかけてますが、お話的にはクリスマス前のとこです。


「桜降り積もる、この場所へ」 重桜編その1

「クリスマスかあ......」

 

書類の受付日がどれもこれも二十五日前には締切なものばかりな事に気が付き、どこか感傷に浸るように指揮官は仕事の手を止め天井を見上げた。

 

アズールレーン本部のあるユニオンはクリスマスは祝日と決めており、よってトリカゴにも久しい休みが、その日には与えられていた。

 

「貴方様、ご休憩ですか? 紅茶をいれましょうか」

 

「そんなつもりはなかったんだが、悪い。頼むよ」

 

「お任せ下さいませ」

 

ニューカッスルが秘書艦の際には必ずと言っていいほど、いつでも美味しい紅茶が飲めるようにカートが用意され、その上には一式の紅茶セットが揃っている。

 

手際よく準備を整えると、やがて指揮官の前にはニューカッスルの愛情たっぷりの紅茶が差し出されていた。

 

「どうぞ、貴方様」

 

「ありがとう......ふう。相変わらず美味いな。いつでも飲める美味しさと言うか」

 

「毎日、毎朝......毎晩でも貴方様が望むのであれば」

 

「はっはっは。ありがたいけど、ニューカッスルにはウォースパイトがいるじゃないか。主人に怒られるのはごめんだよ」

 

「......左様ですか」

 

あとでウォースパイトに相談しておこうと、ニューカッスルは心に決め、それ以上のアピールはメイドらしく控えることにした。

 

「唐突なんだが、ニューカッスルはクリスマスどうするつもりだ? やっぱりロイヤルに戻るのか? ロイヤルってクリスマスは家族と過ごす日だろ?」

 

「そうですね......私はメイドですので、主であるウォースパイト様のご判断に任せようかと。貴方様は如何様に?」

 

「......実は困っててな」

 

「......?」

 

わざとらしく目を逸らしてみせた指揮官は、小さくため息を吐くと机の引き出しから三通の便箋を出してみせた。

 

一枚はロイヤル、エリザベスから。

 

もう一枚はユニオン、アズールレーン本部から。

 

最後の一枚は、重桜、長門から。

 

それとなく指揮官の事情を察しはしたニューカッスルではあったが、黙って言葉を待つことにした。

 

「見ての通りというか、クリスマスパーティーのご案内だ。有難いことに三通も」

 

「貴方様の人徳の賜物かと」

 

「別にここまではいらないんだよなあ......」

 

もう一度ため息。

 

それから指揮官は、三枚の中で高級そうな紙に花柄の刺繍が綺麗に施された一枚を手に取った。

 

「これは、エリザベスからだ。パレスガーデンでパーティーやるから来いとさ」

 

「......元メイド統括としての発言ですが」

 

「......?」

 

「その招待状は、ロイヤルでも極わずかの限られた人間にしか出されないものです。しかも、偽造が出来ないように全て直筆、内容も人により異なります。公務で日々お忙しい、陛下の御尽力がわからない貴方様ではないでしょう」

 

誰よりも人を見る目に長け、誰よりもロイヤルの為、エリザベスの為にメイド隊を運営してきた統括としての重みのある言葉だった。

 

「......あいつも大変なんだな。ちなみになんだがニューカッスル」

 

「なんでしょうか?」

 

「この、最後のところの秘密の暗号? ってやつなんだが」

 

「ああ、陛下のお遊びですね。パーティーに出席する際は、その招待状と陛下がお考えになられた暗号を陛下ご自身に告げるのが、パーティー参加の条件となっております」

 

「その暗号が『エリザベス愛してる』なのは、あいつの嫌がらせか?」

 

「..................嫌がらせですね」

 

「やっぱりか」

 

今は元統括。加えてウォースパイトが主君なので、エリザベスのお巫山戯には付き合っていられないニューカッスルなのだった。

 

「次はユニオンだな。今年も来いと」

 

「行かれないのですか?」

 

「祝日に上司と会いたいか?」

 

「......心中ご察し致します。しかし、ユニオンはエルドリッジ様にノースカロライナ様のご故郷。それに、本部に気に入られておくのは必要な経費かと考えますが、いかがでしょう?」

 

「それで揺れてるよ。最後に重桜だな。見ての通りまだ開けてない。そもそも、クリスマスの誘いなのかもわからない」

 

長門から送られてきた便箋には、『開封厳禁』とでかでかしく書かれており、どこか荘厳な雰囲気が漂っていた。

 

「素朴な疑問なのですが、重桜にもクリスマスはあるのですね」

 

「あるぞ。元々は重桜......あー、ニューカッスルは重桜に大きな桜があるのは知ってるか?」

 

「存じております」

 

本でしかその存在を知ることは無いが、重桜にはその国の名前と同じ巨大な神樹があると拝読したことがある。

 

民の信仰を集める大樹、重桜を奉る機関の長が、長門ということも。

 

「ならよかった。元々、クリスマスの日はその桜─重桜に正月が来ることを知らせる祭事だったんだ。それが偶然にもその日は国の重桜も祝日でな、同じ日にやるならと、クリスマスも意外とあっさり受け入れられたんだ」

 

「なるほど、その様な背景が。学ばせていただきました。北風様はクリスマスについての話をされない方でしたので、重桜にはない文化なのかと」

 

「北風は、わりと最近生まれたKAN-SENだからな。しかも、ここに来るまでは外には出ずに訓練漬けだったって聞いてるし、そういう文化には疎いとこあると思う。大鳳とは?」

 

「......最低限しか話さないようにしてますので」

 

「ああ......まあ、背中預けるくらいには仲良くしてくれ。にしても、北風に至っては今頃エルドリッジに教えて貰ってるかもな」

 

「エルドリッジ様に?」

 

「エルドリッジはサンタさんを信じてる子だからな。基地防衛でよく一緒になる北風も信じそうというか、あの子は信じる。もしかすると、サンタさんへの手紙でも書いてるかも」

 

その内容が一時おっぱいになりかけていたことは、指揮官はもちろん知らないし、知らなくていい。

 

「お二人へのプレゼントの件を、考えないといけませんね」

 

「そうだな。こっそり靴下の中を覗かせてもらうとしよう。クリスマスが終わったらすぐに正月、重桜はそっちがメインだからなあ」

 

「ロイヤルはクリスマスに重きを置きますね」

 

「文化の違いを感じるよ」

 

「......」

 

「......」

 

会話のピリオドはそこでうたれると、紅茶が喉を通る音だけが室内に響く。

 

「......長門様のお手紙が気になりますね」

 

「あ、触れちゃう? あえて黙ってたのに!?」

 

開封厳禁と書かれているので、下手に触らない方がいいと思った指揮官は、会話の方向をなるべく和やかな方にへと意図的にずらしたのだが、ニューカッスルには効かないようだった。

 

「開封厳禁。なんでしょうね。こう、開けたくなる不思議なフレーズですね」

 

「気持ちは分かるが、長門の開封厳禁は本当に開けちゃダメなやつだぞ......気持ちはわかるが」

 

「......」

 

「......」

 

沈黙。

 

これ以上、会話を続けては己に負けてしまう。

 

しかし、開けるなと言われるとかえって開けたくなるというか、気になるのが人間というもので。

 

先に悪魔に唆されたのは、指揮官の方だった。

 

「............開けちゃう?」

 

ここでダメだと言える冷静さが、例えばガスコーニュならあっただろうが、メイドさんは意外とお茶目なのだった。

 

「......開けましょう。手紙とは読むためにあるものです」

 

「確かに、そうだよな。手紙って読まなきゃ意味無いよな!」

 

「そうです。思いを伝える手段として手紙を採用したのであれば、その手紙は読まれるべきです」

 

「だよな!」

 

「はい!」

 

適当にそれっぽい理由を並べ、結果の決まった出来レースで互いの心を確認しつつ、指揮官はペーパーナイフで長門からの手紙を取り出した。

 

開封厳禁と圧をかけていた割には中から出てきたのは、一枚の手紙、それと......

 

「サクラ? うわっ!?」

 

「貴方様っ!?」

 

手紙に挟まっていた一枚の桜の花びらがヒラヒラと机の上で舞い散ると、突如、執務室を眩いばかりの閃光が包み込んだ。

 

ニューカッスルは咄嗟に指揮官を庇い、その光に二人して飲み込まれると

 

やがて、執務室には、飲みかけの紅茶の湯気がユラユラとあてもなく揺れていた。

 

 

*

 

 

「ふんふふーん♪」

 

とても普段の姿からは想像出来ないほど、上機嫌で大鳳は歩を進めていた。

 

彼女がウッキルンルンと胸踊らせている日は決まって秘書艦の前日だからだというのは、トリカゴ基地のKAN-SEN達の共通認識である。

 

付け加えて、大鳳にはある計画があった。

 

「そろそろクリスマス、指揮官様には〜三通の手紙♪」

 

大鳳は頭の中で、かれこれ百八回目となる計画のデモンストレーションを始めた。

 

(まず、通常どおりに仕事を進めていると、指揮官様は恐らくこう言うはず。

 

「クリスマスかあ......」

 

それもそのはず、恐らく書類の受付がどれもこれもクリスマスの二十五日以前だから。

 

すかさず私は言うのです、「休憩にしますか?」

 

あの人は断らないはずだから、お茶を楽しく飲んでいると、指揮官様は次に「クリスマスの予定は?」あたりの事を言ってくるでしょう。

 

「もちろん、ありません! ずっと指揮官様のそばにいます......ずっと♡」

 

そう返すと、指揮官様は真剣な眼差して私を見つめながら「大鳳......」と、そのまま優しく肩を抱かれベッドへ行って早めのホワイトクリスマスに! あーん! 指揮官様ぁ〜♡

 

......とは、なりませんわね。指揮官様はクリスマスパーティーの件についてお悩みのはずですから。

 

あの方のお手元に、ロイヤル、ユニオン、重桜の三通が届いているはず。

 

他二勢力のは適当に扱って、肝心なのは『開封厳禁』と書かれた重桜の便箋。

 

指揮官様は、きっと開けたくてうずうずしていらっしゃるはず、でも、生真面目で優しい方ですから、間違いなくまだ開けていない。

 

そこで、私がきっかけを与えるのです。

 

「開けてみませんか?」

 

なんやかんや葛藤はしそうですが、指揮官様はお開けになられるはず、そしたら、あーら不思議!

 

うふふふふふふ♡ 完璧ですわあ!)

 

今回のイメージでも無事に指揮官は重桜の便箋を開け、大鳳は計画のスキのなさを自画自賛した。

 

長門には感謝しなければ、なにより明日が待ち遠しくて仕方ない。

 

上手くいけば愛しの指揮官様と──

 

(......ん?)

 

途端、大鳳は異変に気が付いた。

 

(指揮官様の匂いが薄い気が?)

 

なぜ指揮官の匂いがわかるのかは愛の力で説明がつくとして、大鳳はその場で何度か鼻で息をした。

 

(おかしい、指揮官様の新鮮な匂いがしない)

 

今日指揮官は、基地から出かける用事はなかったはず。

 

それなのにこの唐突さ、まるで神隠しにでもあったかのような......

 

「......っ!」

 

思考がそこまで辿りついて、大鳳は急いで執務室へと走り出した。

 

もしかすると、最悪のパターンが起こってしまったかもしれない。

 

あのメイドが起動したという、最悪のパターンが!

 

「指揮官様っ!」

 

勢いよく、執務室の扉を開ける。

 

いてくれるならそれでいい、適当に誤魔化すだけだ。

 

もし、そうじゃなかったら

 

「......あ」

 

大鳳の胸にポッカリと穴が空いてみせた。

 

誰もいない。

 

机の上には、半分ほど飲まれた紅茶のマグカップ、長門の招待状、そして重桜の花びら。

 

さっきまでは確実にいたことを証明する光景が、大鳳の目の前には広がっていた。

 




実際、日本でも25日は元々休日で。それと重なってクリスマスはすんなり受け入れられたらしいですね(ウィキペディア
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