「よし、これなら大丈夫ね。フォーミダブルー! こっちは終わりましたけど、そっちはどうですのー?」
場所はトリカゴ内、食糧備蓄庫。
一覧通りに物があることを確認したネプチューンは、同じく点検作業に入っていたフォーミダブルにへと呼びかけた。
少し離れた場所から、こだまのように返事が返ってくる。
「大丈夫ー! オーロラはー?」
「こちらも問題ないですよー!」
倉庫管理担当ではないのだが、二人の手伝いをしていたオーロラも同じく問題なしのこだまを返した。
「なら、集合ですわ! 艤装が凍りついてしまう前に早く戻らないと」
ネプチューンが担当していたのは生モノなどを保管する冷凍庫、KAN-SENは艤装を展開していれば温度変化に順応できるが、肝心の艤装側が悲鳴をあげかけていた。
急いで冷凍庫から出て、ネプチューンは二人と合流を果たした。
「終わったー! 今月はクリスマスだからって管理品多すぎー」
「そう喚くものではないですわよ、フォーミダブル。こうして確認を取ることで、ちゃんとクリスマスパーティーが出来るのですから。クリスマスプディングにジンジャークッキー、他にも七面鳥に。祝うのには必要な料理はたくさんありましてよ?」
「それもそうね、ネプチューンの料理。今から楽しみ〜」
パーティー当日のテーブルを思い浮かべ、顔を綻ばせるフォーミダブル。
そんな彼女とは打って変わって、オーロラの表情は険しいものだった。
「しかし、ロイヤル流のやり方でいいのでしょうか? 指揮官さんは重桜の方ですよね」
「トリカゴで開くパーティーに関しては、私とニューカッスルさんに任せると言ってくださいましたし、即ちロイヤル流で問題ないということでしょう」
「そうかもしれませんけど......」
「あなたの言いたいことはわかりますわ。折角のクリスマスパーティー、楽しんで頂きたいのは私も一緒ですもの」
トリカゴではクリスマス当日ではなく、その数日前にパーティーを開くことになっていた。
本国に一時的に戻ったりするKAN-SENもいるだろうからと、彼なりの気遣いもとい、例の三通の手紙があってのことなのだが。
「そもそも重桜って、クリスマス祝うの?」
ふと、抱いた疑問をフォーミダブルは二人に投げかけた。
「祝う......のではないかと思いますけど。北風ちゃんはクリスマスを気にかけていない様子でしたね」
「あの子、ツリーを見て、煌びやかで素晴らしい針葉樹ぞ! って感嘆している所を私、見ましたわ」
「じゃあ、ないのかしら?」
「北風ちゃんが知らないだけかもしれません。大鳳さんか指揮官さんご本人に聞いてみましょう」
「ですわね。指揮官様に聞けばわかることですわ」
大鳳への相談は自然と却下されていた。
「んー......」
話に決着がついたかと思われたが、フォーミダブルはまだ首をひねっていた。
「今度はどうしましたの、フォーミダブル?」
「仮に重桜にクリスマスがあるとして、何を食べるのかなって。重桜ってワビサビの国じゃない? お茶も緑だし」
「本当に貴方は食べ物のことばかりですわね......でも、そうですわね。重桜では、クリスマスに何を食べるのかしら」
「あれじゃないですか? トリカゴの着任祝いに振舞ってくれた」
「ああ! あの甘辛いタレのお肉のやつ?」
「スキヤキ、でしたわね。生卵を食べるなんて信じられませんでしたけど、とても美味でしたわ。確かに、着任祝いでしたし、同じお祝いと考えるとスキヤキなのかしら?」
「それとも、案外私たちも知ってるものだったりとか?」
「例えば?」
「............苺のケーキとか」
「「ぷふっ!」」
考え抜いたフォーミダブルの答えに、思わずオーロラとネプチューンは吹き出し、笑い声が重なった。
「あははははっ! フォーミダブルも冗談言うのですわねえ! ふふふっ、ごめんなさいお腹痛い」
「ふふっ。苺ですか......ふふっ」
「二人共笑いすぎよー! 確かに苺はロイヤルだと夏の果物だけど、重桜じゃ冬に食べるかもしれないじゃない!」
散々笑っている二人だが、ところがどっこい重桜ではクリスマスには苺のケーキを食べるものだったりする。
「久々に大笑いしましたわ。お詫びに今日のスイーツは腕によりをかけませんと」
「普段からかけなさい! もー!」
「ふふふっ」
ロイヤルにいた頃と何も変わらない、あたたかな友情をそれぞれ胸に抱き、任務に励もうとした。
その時だった。
低く、それでも高く。本能的に危機を知らせるアラートが談笑の余韻を上書きした。
「......っ!? 何事ですのっ!?」
「緊急サイレン!? まさかセイレーン!?」
「執務室に急ぎましょう!」
「ええっ!」 「うんっ!」
お互い頷きあい、執務室にへと急ぐ。
緊急招集警報は執務室からじゃないと、鳴らすことができないようになっている。
つまり、指揮官しか鳴らすことはないのだ。そして、彼にはセイレーンを見つけられる目がある。
突発的なセイレーンの出現。それによる招集。
すでに何度かは経験していることだ。ともかく今出来ることは執務室にへと急ぎ、指揮官の判断を仰ぐことのみ。
「あれは」
駆け付けた三人は、執務室前でたむろう四人の駆逐艦達を見つけた。
どういう事か、皆、執務室には入らず困った表情で立ち尽くしている。
「駆逐艦の皆様方、どうなされましたの?」
ネプチューンの問い掛けに、北風が答えた。
「ロイヤルの! それが、大鳳さんが......」
「「「......?」」」
バツの悪そうに答える北風に首を傾げ、何事かと執務室の中を覗く。
そこには、
「うわあああああああん!!!! 指揮官様ああああああ!!!!」
「よしよし」
『......』
さながら子供のように泣きわめく大鳳をノースカロライナがあやすという、なんとも奇怪な現場が出来上がっていたのだった。
*
「ううっ......ひっく......ということですの」
「......なるほど」
泣きぐずる大鳳から諸々の事情を聞いたノースカロライナは、静かに頷いてみせた。
招集に集まったKAN-SEN達も、一応は大鳳の説明を飲み込んでいた。
「あの、大鳳さん。お言葉ですけど、そこまで緻密な計画をたてておいて、何故失敗した時の事を考えないのですか?」
「だって、失敗するなんて考えないものおおおおおぉ......うう......いやだああああ、指揮官様に怒られなくなあい、私を捨てないでええええええうわあああああああん!!」
「ああ、はいはい。よしよし。あなたのその自信が心底羨ましいです」
また泣き出した大鳳の頭をノースカロライナは優しく撫でる。
計画というものは、失敗を前提に様々な想定を基に組み立てていくものだが、大鳳はそもそも失敗しない計画を作っていた......つもりだった。
だからこそ、思いもよらないハプニングには滅法弱く、計画が頓挫した事により気が動転してしまった結果が緊急サイレンというわけである。
実際、緊急事態ではあるが。
これ以上大鳳から話を聞くことは不可能と判断したノースカロライナは、北風にへと質問の行き先を変えた。
「北風さん。ミズホの神秘というものは、本当にそんな奇跡を起こせるものなのですか?」
「......おそらく、とだけ。実際指揮官達は飛んでしまったのならば、出来るということになるぞ。相当な霊力が必要かと思うが」
「......」
「ノースカロライナさん?」
「......ごめんなさい。指揮官にもしもの事があったら、ニューカッスルさんと大鳳さんを許せないかもしれない。何より彼を守れない私自身が一番許せない」
「......っ」
護衛人として冷酷にノースカロライナは目を細めてみせた。北風は唇を噛み締めて、手足の震えを止めた。
「ノースカロライナさん、落ち着いてください。北風ちゃん、本当に指揮官さんとニューカッスルさんは向こうに行かれたのですか?」
オーロラの仲裁に、北風は肯定してみせた。
「うむ、大鳳さんの言うことが本当なら、指揮官とニューカッスルさんは今──」
故郷を瞼に浮かべてから、北風は目を開くと言った。
「──重桜にいるぞ」
大鳳さんが泣く姿が想像出来なくてこんなんなりました(反省