フォーミダブルは、自由を愛する少女であった。
──イラストリアスの妹として、なによりロイヤルネイビーとして恥のないように。
誰が言ったわけでもない言葉の鳥籠に押し込められた彼女にとっては、ロイヤルという組織は息苦しさを感じざるを得なかった。
別に、姉のことも敬愛する陛下のことも嫌いというわけではない。
ただ、期待に応えようとするとどうしても自分を押し殺さないといけないのだ。
姉であるヴィクトリアスと同じように、自由を愛する自分を。
だからこそだろうか、フォーミダブルにとってはロイヤルの中でも、特に自分の好きなことに生きるネプチューンとオーロラは一際輝いて見えた。
ネプチューンはメイド隊に入らずとも己の道を給仕に、そしてお菓子作りにへと向かって走り、オーロラは誰もが胸震わせる薔薇園を趣味で作り上げた。
フォーミダブルにはそれが羨ましかった、イラストリアスや陛下にとってのフォーミダブルにしか、彼女はなることが出来なかったから。
──大人しくて、気配りが上手で、華やかで。
ヴィクトリアスとは違って、ワガママを言わず迷惑をかけない。
そういった誰かの期待を混ぜ込んだカクテルのような、自分にしかなることが出来なかったから。
半ば素の自分も忘れかけていた頃、そんな彼女を救ったのはフォーミダブルにとっての理想であるネプチューンとオーロラであった。
細かな詳細は今は省くが、結果としてフォーミダブルは二人の前でなら素の自分を見せるようになったのである。
そして、今─────────────
「では、私達の友情とこれからの健闘を祈って!」
「「「かんぱーい!」」」
チンと、グラスのぶつかる音が三つ重なって部屋に響く。
刹那の協奏曲の演奏者はフォーミダブルにオーロラ、そしてネプチューンの三人。
後日ロイヤルをあげての大きな送別会はあるのだが、親しい間柄だけでの祝杯がフォーミダブルの自室で密かに開かれていた。
テーブルにはたくさんの料理が並べられている。
全てネプチューンのお手製だ。
「ん〜! やっぱりネプチューンの作るご飯美味しい〜」
「ふふっ、ありがとうございますわ」
素直な称賛に、ネプチューンはありったけの笑顔で応える。
誰かに食べてもらうことを喜びに感じる彼女が、誰かと一緒に肩を並べて共に時間を楽しんでいて、フォーミダブルも虚勢をはることなく、本当の自分を友に惜しげも無く見せていた。
「うふふ」
その様子を微笑ましく見守るオーロラは、早速話題を切り出した。
「それにしても、フォーミダブルさんもネプチューンさんも、今回の作戦にご参加なさると聞いてとても驚きました。私は陛下から選抜の枠を頂いて、すぐ退席したので、他のメンバーまでは知りませんでしたから。あ、ニューカッスルさんは知っていましたけど」
「貴方は東煌の代表としても選ばれましたのよね? 他国と繋がりがあるなんて、羨ましいですわ」
「そう言うネプチューンさんは、陛下からのご推薦と聞いています」
「ふっふふ。有難いことにそうですわ! 陛下ご自身から私の名前をあげてもらえるなんて、とても光栄ですわ!」
ネプチューンは鼻を鳴らし、えっへんと胸を張る。
ロイヤルネイビーとしての、なんなら給仕としては相応しくない態度ではあるが、この場では無礼講であった。
「でも、まさかニューカッスルが来るなんて。ネプチューンは会ったことないんだっけ?」
「そうですわね。前メイド長というということくらいしか、情報がありませんわ」
「ちょうどネプチューンさんが来る前にベルファストさんに代替わりして、ご隠居なされてましたね」
「みたいですの。で、どのような方で? 二人は面識あるのですわよね?」
その問にフォーミダブルとオーロラは口に運ぶ動作を止め、考え込んだ。
「あの人は......んー、ベルファストが全てを完璧にこなすタイプなら、なんでも卒なくこなすタイプって感じ。ベルファストみたいに、とても厳しくはないというか」
「フォーミダブルさんの説明が的をいてると思います。全員が無難に好きな紅茶をいれられる方と言いますか。そんな、優しさを持った方とも言えますね。静寂と平穏を愛する人ですから」
「ベルファストとは違うタイプの超人というわけですわね。仲良くやれるかしら」
「大丈夫よ。ニューカッスルを嫌いな人、私知らないわ。ネプチューンが嫌っても向こうが合わせて来るんじゃない?」
「私もフォーミダブルさんと同じ意見です」
「なら、ロイヤルとしては大丈夫ですわね......まあ、ありがとうございますわ。じゃなくて、貴方達もでしてよ? かつての敵に背中を預けることになるのですから、特にフォーミダブル!」
「ほえっ?」
「貴方、どっちでいくつもりですの? 環境が変わるのですから、最初からさらけ出すチャンスでなくて? 陛下もお姉さま方もいらっしゃらないのですし」
「それは、そうだけど......ウォースパイト様にニューカッスルはいるんだし」
「ウォースパイト様は実の所、気付いていらっしゃると思いますよ? ニューカッスルさんも聡い方ですし」
「うぐっ。で、でも、ロイヤルとして求められているのは、私ですわ。フォーミダブルでいるのは二人の前だけでいいもん」
「変わらず強情なお嬢様ですわ、ほんと」
「う、うるさいうるさい!」
「ふふっ。有難いことじゃないですか。フォーミダブルさんがもっと変われるかは他の方に任せましょう」
拗ねてメロンパンにかじりつくフォーミダブルに、頬を緩ませるオーロラ。
ネプチューンも「仕方ないですわね」と話にピリオドを打った。
「そう言えば、フォーミダブル。あなたって誰の推薦を受けましたの?」
「おふぇ?」
思わぬ舵の切り方に、フォーミダブルから素っ頓狂な声が出る。
「いえ、ですから。貴方は誰の推薦で今回の件に参加することになりましたの? 自分から手をあげる性格じゃないでしょう?」
「イラストリアスさんのご推薦ではないでしょうか? 私達の仲を気になさってとか」
「それはないですわ。だって、あのイラストリアスさんでしてよ? 大切な妹を、自ら戦火の火に近づけるようなことは絶対に致しませんわ」
「んー、なら......フォーミダブルさん。どうなんですか?」
「どうなんですの!?」
「......えっと、そのぉ」
瞬間、フォーミダブルの脳内で会議が開かれた。
議題は正直に話すか話さないか。
『イラストリアス姉様に推薦を受けたと言うべきよ! どうして、私が恥をかかないといけないの! ネプチューンのことだから正直に言ったら絶対にからかってくるわ!』
そうだそうだと、他の小さなフォーミダブル達が声を上げる。
確かに、イラストリアスに推薦を受けたと言っても、二人なら一応納得はしてくれるだろう。
──ここは、嘘をついて......。
と、口を開こうとした矢先、小さなフォーミダブルの一人がダンと強く机を叩いて抗議した。
『恥を偲んでも、きちんと言うべき! 友達に嘘をつくなんて言語道断だわ!』
またしても、そうだそうだと──以下略
結局フォーミダブルの心は、正直に話すことに決まったのだった。
友達に嘘は良くない。ようやく手に出来た、自分を見せることができる友達なのだから、正直に話そう。
「......っ。フォーミダブルが自分で立候補したの。二人が行っちゃったら、フォーミダブルを見せられなくなっちゃうから、どうしたらいいか分からなくて。怖くて。だから、陛下に連携も大事とか適当に言って頷いてもらったの。どちらかがいてくれたらよかったけど。そうは、ならなかったから」
恥ずかしさも交えつつ、正直に話す。
ああ、どんな風に言われるのだろうなんて、二人の顔を見ると
「「......か」」
「......か?」
「「可愛いいいいいぃぃぃぃ!!!!」」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
奇声を発し、二人はひたすらにインディちゃんを求めるポートランドさながら、フォーミダブルの頭を撫で始めたのだった。
陣営が違うことは気にしてはいけない。
「ああ、本当に可愛いですわあ。今ならエイジャックスさんの気持ちがすごく分かりますわ! これが、人を支配するということですの!?」
「うふふ。大丈夫ですよぉ、フォーミダブルさん。私たちはズッ友ですからあ♪」
「ちょっとネプチューンそれどういう意味!? オーロラもキャラ崩れてない?? もー! いい加減にしろー!」
楽しい秘密会議は始まったばかり────
フォーミダブルは、自由を愛する少女である。
そして、なにより。
フォーミダブルは、友情を愛する少女である。
私の中ではフォーミダブルとネプチューンとオーロラは仲良しだから......
ともかく、仲良しな三人のお話。まだ指揮官とは会っていない事になっています。これから三人それぞれ彼に想いを寄せるわけですが、そのお話もいつか書けたらなと()