アズールレーン─トリカゴ基地の日々─   作:大和亀蔵

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気付いたら10万文字! 小説一冊くらいでしょうか? ついてきてくださっている皆さんに感謝を...


「桜降り積もる、この場所へ」 重桜編その8

「へえ、匂いで俺を。流石の長門でもそれは考えなかっただろうし、赤城はやっぱり凄いなあ」

 

(受け入れるんだ......)

 

(さすがは貴方様です)

 

気絶した吾妻を介抱しながら、諸々の事情を聞いた指揮官が発した第一声は、感嘆のこもったものだった。

 

正直、ニューカッスルと瑞鶴の二人としては赤城の愛の深さに末恐ろしさを感じてもいたが、指揮官の懐の深さに改めて好意を鰻上りにあげていた。

 

「俺としても赤城の所に行ってやりたいのは山々なんだが、今はちょっとな」

 

「貴方様は、赤城様の事がお嫌いではないのですか?」

 

「え? そんな事全然ないぞ。あー、長門と話してた時に厄介って言ったのは明日には間違いなく帰れないからだ」

 

軍に行くなり盛大にもてはやされ、更には赤城だけでなく軍には沢山のKAN-SENがいる。

 

訓練を見てほしいだとか、演習の指揮を執ってほしいだとか、宴会だとか、買い物に付き合ってだとか、お背中お流ししますだとか、お布団温めておきましただとか。

 

なるべく軍にいる全員の希望を叶えるとなると、どうしても三日は必要になる。

 

「ちゃんと休みが取れてるなら別に問題はないけど、明日には帰らないと仕事も溜まる一方で困るからな。だから、今は赤城のとこにはいけないんだ。そう言う意味での厄介って捉えてくれ」

 

「なるほど」

 

(いやいやいや! 最後の方のちょっと聞き捨てならないんだけどっ!?)

 

お背中とお布団!

 

「それにしても、薄々分かってはいたけど神祠と軍って滅茶苦茶仲が良いってわけじゃないんだな。簡単に一枚岩とはいかないか」

 

「個人としては仲良いよ? 組織としてはまだギクシャクしてるだけで」

 

「なら、赤城を神祠に呼んでも問題ないってことか?」

 

「長門様が許可するなら良いと思うよ。私じゃハッキリ言えないかな」

 

「それもそうだ」

 

考えなくてもわかる当たり前の事だ。

 

「貴方様。どのようにして、赤城様を神祠にお呼びするのですか? 組織の長なのでしょう?」

 

「向こうが俺を軍に来る理由を作ったのなら、こっちも赤城が神祠に来る理由を作ればいいってだけだよ。しかも、なるべく赤城の顔に泥を塗らないカタチでな。そのためにも、吾妻が倒れてくれたのは都合いいけど。本当に起きないなこの子、大丈夫か?」

 

指揮官は吾妻の様態を確かめるために、鳥居の柱を背もたれにしてぐったりとする彼女の首筋に軽く触れてみせた。

 

「......あっ♡」

 

「「......」」

 

「んー、脈は大丈夫だな。仕方ない。俺が大社までおぶっていくか。よっこい......しょ。あ、ダメだ重すぎる」

 

「おもっ?」

 

「「......」」

 

何故か指揮官には聞こえていないようではあるが、傍から見ている二人は冷めた目で吾妻の様子を見届けていた。

 

内心、おんぶなんて羨ましいとも思いながら。

 

「艤装をしまってくれたらいけそうなんだけどな」

 

「......♡」

 

「おっ? 軽くなった。あれ、艤装が解除されてる。まだ展開に慣れてなくて時間制だったのかな? ともかくちょうど良かった。これならいけそうだ」

 

「......ふふっ♡」

 

「「(絶対起きてる!)」」

 

なんならすっごいしっかりと首に腕を回して、胸押し付けてる!

 

「二人とも、どうしたんだ? 帰るぞ〜」

 

しかしそこは流石の鈍感指揮官、胸を当てられた程度で動じはしない。

 

歩き出さない二人に心配の声をかけるくらいには余裕綽々だった。

 

「あの、瑞鶴様」

 

「なに?」

 

「私、慣れない下駄で走っていたせいか凄く足が痛いのですが」

 

「それは大変だね。言われれば、私も痛くなってきた気がする」

 

「......」

 

「......」

 

「「はあ......」」

 

時にしてミズホの直感は、こういう事にも働くのだった。

 

*

 

長門のいる大社に戻ってくるなり、指揮官は吾妻を陸奥に任せ、赤城がいる軍との連絡を繋いでもらっていた。

 

赤城が神祠に来られるよう、理由を説明するためである。

 

御殿の、ある一室には指揮官をはじめとして、長門、護衛の江風に瑞鶴。

 

ニューカッスルはメイド服に着替えたいからと席を外している。

 

接続した通信機器からは、嬉々に染まった赤城の声が響いていた。

 

『重桜にいらっしゃっていたのなら、まず軍に来てくださればよろしかったのに......。しかし、こうして指揮官様から直々にご連絡をくださるなんて、この赤城、天にも昇る心地ですわ~』

 

「ははは、相変わらず大袈裟だなあ赤城は。もう少し挨拶をしたいところなんだが、悪い。早速話に入らせてくれ。実は吾妻が大社の近くをパトロール中に倒れてたのを見つけてな。今、こっちで預かってるんだ」

 

『まあ! そうなのですか。それは初耳ですわ。吾妻は大丈夫でしょうか?』

 

(白々しいなあ!)

 

指揮官からも、そういう体で話をする。赤城ものってくるはずと聞いてはいたが、赤城の見え透いた態度に傍にいた瑞鶴は声のない叫びを上げざるを得なかった。

 

斬りあいまでにはニューカッスルのおかげで発展しなかったものの、刀を向けられたのだ。知らないとは言わせたくないが、荒波を立てないためにも、黙って受け入れる他はない。

 

「容態に異常はないと思う。俺もなるべく揺らさないようにおぶってきたし」

 

『指揮官様、今なんと?』

 

「え? 容態は大丈夫だって」

 

『その後です』

 

「おぶって帰ってきた」

 

『まあ、そうでしたか。あの子が。うふふふふふ、指揮官様の手を煩わせるなんてイケない子ね。うふふ』

 

(声だけでもヤバそうなオーラが出てるのが分かるよ赤城先輩!?)

 

ついでに、お面のように貼り付けた笑顔で笑っているのであろうことも。

 

「そう怒らないでくれ。昔、赤城もおんぶしてあげたことあったじゃないか。歩いている最中に靴が壊れてさ。あの時、軍まで戻るの大変だったんだぞ?」

 

『そ、それは......もう、指揮官様ったら!』

 

(あざとい! あざといよ先輩! シキガミ使えばすぐ帰られるのに!)

 

「昔話もこの辺にしとくか。それでだ赤城、吾妻を迎えに来てくれないか? 長門からも許可は貰ってるから。そっちさえ都合がつくならなんだが......」

 

『............』

 

「赤城?」

 

静寂が続き、返事が戻ってないことに不自然さを覚えた指揮官は何度か赤城の名を呼んでみたが、結果は同じものだった。

 

それを見ていた長門も疑念の言葉をかける。

 

「どうした?」

 

「急に応答がなくなった。どうしたんだろう」

 

と、首をひねったちょうどその時、勢いよく襖の戸が開かれるなり、甘ったるい声が部屋を走り抜けてみせた。

 

「指揮官様〜。赤城。馳せ参じましたよ~」

 

『(はやっ!?)』

 

シキガミを使ってここまでやって来たのではあろうが、それにしても早すぎるご到着。

 

加えて、指揮官は大社のどの部屋にいるのかもまだ伝えていなかったのに、何故か確信を持って赤城はこの一室へと足を運んだのだった。

 

愛の力である。

 

ぐるりと、目線だけで赤城は部屋を見渡すと不服そうに続けた。

 

「あら、大層なお出迎えね。指揮官様だけでよかったのに」

 

「そうはいかぬ。銀蝿されては困るのでな」

 

「私を蝿呼ばわりとは、随分と大きくなったものね。長門様」

 

「......」

 

「......」

 

両者睨み合い、言葉に出来ない緊張が漂う中、指揮官は瑞鶴に小声で確認をとる。

 

「なぁ、あの二人本当に仲良いのか? 切磋琢磨って言ってたけど呉越同舟の間違いじゃないか?」

 

「え? 仲良いよ? 喧嘩するほどって言うじゃん?」

 

「そもそも喧嘩はしないのが一番なんだよなあ!」

 

お互い本音を言える仲ならまだしも、赤城と長門は明らかに敵意を向けているのが指揮官の目には丸分かりだった。

 

その原因が自分であることには、もちろん気付かない。

 

「まぁいいですわ。指揮官様。吾妻は今どちらに?」

 

「別室で休ませてるよ。陸奥もいる」

 

「でしたら指揮官様。吾妻の看病に行ってくださいませんか? あの子、ずっと指揮官様との邂逅を心待ちにしていたものですから。それに私、これから少し長門様と込み入ったお話がありますの」

 

込み入った話。

 

何の話なのかと問い質したい思いはあれど、今はトリカゴの指揮官。重桜の政治に首を突っ込む資格はない。

 

「......分かった。長門もいいか?」

 

「構わん。ここには江風もいる。心配無用だ。瑞鶴、お前も一緒に行くが良い」

 

「あ、は、はい!」

 

「そっちの心配じゃないんだけどな。大丈夫ならいいけど。じゃあ、俺は失礼するよ」

 

俺がいないところで喧嘩しないでくれよ、という心配なのだが、無用と言うなら信じさせてもらうことにしよう。

 

赤城と長門の気遣いを真に受ける事にした指揮官は、吾妻の様子を確認しに、部屋を後にしたのだった。

 

*

 

「......」

 

「......」

 

指揮官と瑞鶴を見送った後、一室には再び言葉にできない緊張が舞い戻っていた。

 

互いに目をあわせるだけの森閑とした時間がしばらく続くと、やがて先手を切ったのは赤城の方だった。

 

「そこまで警戒なさらずともよいではありませんか。別に、取って食おうという訳でもないのですから」

 

「わかっておる。しかし、余はお主の目が好かん」

 

「目?」

 

「ああ、曇り空のような、見ていて憂鬱になる目だ」

 

「うふふ、そうですか。指揮官様には綺麗な目だとお褒めいただいたのですけど」

 

「......」

 

早速赤城は早速本筋にへと話を動かした。

 

無論、指揮官絡みの話に。

 

「さて、長門様。私も、そして貴方も忙しい身ですので、単刀直入にお訊ねます。この度、指揮官様を重桜に御呼び立てした理由をお聞かせくださいませ」

 

「......なぜ?」

 

「そうですね、貴方の先程の言葉を借りるなら、匂いでしょうか」

 

「匂い?」

 

「指揮官様の芳しい甘い香りと、どうでもいい雌の匂いがいくつか。それと、どうしようもない事を考えている、狐の匂い。あら、これは妹さんもかしら?」

 

「......」

 

「......」

 

赤城の言葉に僅かながら眉を動かす長門であったが、赤城はそれ以上は固く口を閉ざしていた。

 

とにかく、お前の答えを聞かせろ、と。

 

「貴方様。不肖、ニューカッスル。ただ今よりメイドとしての職務を全うさせていただきます......おや」

 

長門が答えを告げる前に戸が開かれ、好奇の視線が現在重桜にいる唯一のメイドであるニューカッスルに集まる。

 

それを一身に受け止めたニューカッスルは、

 

「失礼致しました。どうやら、お部屋を間違えたようです。邪魔立てをするつもりは毛頭ございませんので、私はこれで」

 

「待ちなさい」

 

腰を折って詫び、そのまま退出しようとしたニューカッスルを赤城は呼び止めた。

 

「何でしょうか? 赤城様」

 

「軍も、貴方の事に対しては目を閉じていてあげるわ。代わりに、私の質問に答えなさい」

 

「......」

 

だからどうしたと物語るニューカッスルの態度。

 

指揮官を連れてくる為だったとはいえ、実力行使をされたのだ。むしろ黙ってやるのはこっちだった。

 

「指揮官様がいらっしゃるお部屋の場所を、知りたくないのかしら?」

 

「......大変恐縮ですが結構です。自らの主君さえ見つけられないようではメイド失格ですので」

 

「なら、何故指揮官様が重桜に来る羽目になったのか......だったらどうかしら?」

 

赤城にとっても最後の交渉カードに、ニューカッスルはジョーカーを引いた時のように顔には出さずとも、じっと赤城を見つめた。

 

「......一応、その件についてはこの耳で聞いております」

 

「あらそう。なんて?」

 

「あえて、私がトリカゴと通信している時に話されていたので信頼性には欠けますが、寂しかったから、と聞き覚えております」

 

「そう。寂しかった、ねえ......」

 

「......」

 

愉快そうな赤城の声に、長門は何も答えない。

 

赤城には見えているのだ、長門が()()()()()()()で指揮官をよぶ人間ではないという事を。

 

かつての敵として、そして今は同じく重桜の未来を担う者として。

 

彼女の根底にある思いは、困ったのなら頼れ。なのだが、それを表立って言葉に出来ないのが、赤城という人間だった。

 

「重桜神祠を、ましてや民を率いるものが聞いて呆れますわね。己が感情を優先して、勝手に指揮官様にご迷惑をおかけするなんて。貴方はそんなに弱い人だったかしら?」

 

「貴様っ!」

 

「よい江風。座して待て」

 

「......はっ」

 

激昴に駆られ刀に手をかけた江風を静止させ、長門は目を閉じ、一つ呼吸を整えてから、重々しく告げた。

 

「............赤城」

 

「何でしょう?」

 

「お主は余がせいれーんと共謀したと言えば、余を侮辱するか? また敵として余を嫌うか? 答えてほしい」

 

「......っ!?」

 

セイレーン。

 

長門の口から出たその言葉に、ニューカッスルは目を見開いて彼女を見る。

 

一方の赤城は、落ち着いた様子だった。

 

「......話を聞いてからにしましょう。私もかつてはそうだった身なので」

 

赤城はかつてセイレーンの力に魅入られ、そして裏切られた過去がある。

 

底の見えない泥沼の状況から救ってくれたのが指揮官であり長門であるからこそ、長門の言葉を受け入れることにした。

 

「そうか。では、話すとしよう。我等に恵みを授けしミズホよ、そして重桜よ。どうか御照覧あれ」

 

宣誓。

 

その言葉はカミへの誓いだった。

 

これから話す内容は決して揺るがず、嘘がない清廉潔白である事の誓い。

 

赤城はその言葉の重みを、静聴して聞き遂げる事にした。

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