アズールレーン─トリカゴ基地の日々─   作:大和亀蔵

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長くなりましたが、重桜編おしまいです

アニメでのニューカッスルさんの入浴シーンどこですか?(グルグル


「桜降り積もる、この場所へ」 重桜編 終

「はぁ〜......」

 

寒空に立ち込める湯煙に紛れ込ませるように、ニューカッスルは大きく息を吐いていた。

 

お湯に温められたことによって赤みが差したその表情は、従者としての張り詰めたものでなく、一日の疲れを癒すありふれた人間のそれである。

 

高価な陶器のようにきめ細やかな白肌。女性らしさを感じさせる肢体。既に髪を洗い終えたようで、水を滴らせている焦げた茶髪は束ねられ、頭にはタオルが器用に巻かれている。

 

ここは重桜神祠大社の大浴場、もとい大露天風呂。

 

今ニューカッスルは贅沢にも、この岩風呂を独り占めしている。

 

独り占めの経緯としては、ご立腹な長門により皆、夜間警備に当たっているからとだけ。

 

KAN-SENは一日くらいなら睡眠を取らなくても大丈夫ではあるが、何も悪くない瑞鶴が少し不憫に思えた。

 

「......ふう」

 

見上げた夜空には星々がキラキラと我を主張しており、大樹重桜から降り注いだ桜の花がお湯の上で小さなフネとなって浮かんでいる。

 

「......」

 

自分の目の前まで浮かんできた桜をお湯と共にニューカッスルは手で掬いあげると、段々と溢れ落ちるのを見下ろしながら、今日一日の出来事を思い返していた。

 

まず、狐桜と呼ばれる桜によって一瞬でトリカゴから重桜へ。

 

長門と陸奥に会い、ノースカロライナからはキツく忠告を受けながらも、指揮官のためにとクリスマスの買い物に行けば、軍に不法入国者扱いされて連行されかけた。

 

ただ、久しぶりの友達も出来た。

 

それから、長門が指揮官をよんだ本当の理由もわかった。

 

失った恋心の復活。何より、スペクテイターと名乗る個体。名こそ初めて聞くが、敵であることに変わりはない。

 

加えて、いくつかの懸念が残る。

 

長門が語ってみせた話からするに、スペクテイターは自らを母と主張し、どうも指揮官の事を知っている様子でもあった。

 

指揮官の両親は早くに亡くなっている。本人に確かめた訳でないが、書類の上ではそうなっていたのを覚えている。

 

ともかく、帰ったらトリカゴにも報告をしなければならない。

 

「......」

 

そう言えば、吾妻は大丈夫だろうか。

 

何やらどす黒いオーラを纏わせた赤城に連れて帰られていたが......生きている事を祈っておこう。

 

出来れば彼女にはトリカゴに来て欲しい。大鳳よりかは仲良くなれそうな気がする。

 

その時には重桜料理も是非、教示願いたい。

 

今日出されたあれは、おでんだったか。指揮官の傍にいなければならないし下手に動けないので、台所には行けなかったのが悔やまれる。陸奥にでも聞けば教えてくれるだろうか。

 

食事の時には、箸がちゃんと使えなくて恥ずかしい思いをした。

 

特に手こずったのがこんにゃく。あれは本当に箸で掴めるのだろうか。指揮官は易々と掴んでみせていたが、無理じゃなかろうか。

 

でも、掴めない自分を見かねて、指揮官が食べさせてくれたのは嬉しかった。あの人の箸で──要するにそういうこと。

 

「楽しい?」

 

「......っ!?」

 

背後からかけられた声にニューカッスルは大きく肩を揺らしお湯を跳ねさせながら、慌てて振り返る。

 

声の主は陸奥だった。

 

ニューカッスルと同じく一糸まとわぬ姿で、輝かんばかりの笑顔を浮かべている。

 

「えへへ。ごめんなさい。隣いいですか?」

 

「ええ、もちろんです」

 

「よかった。お邪魔します」

 

むしろお邪魔しているのはニューカッスルの方ではあるのだが、陸奥はお湯にへと足を差し入れる。

 

肩まで浸かると、蕩けた顔で恍惚感に満ちた声を出しながら、ゆっくりと身体の力を抜いていった。

 

「長門様と江風様は、ご一緒ではないのですか?」

 

「長門姉は祈祷と明日の帰る用の術の準備、江風さんは見張りと護衛。わたしは、ご飯食べた後のお風呂なだけ。あと、にゅーかっするさんとお喋りしに来たの。皆、いないし。指揮官寝ちゃったし」

 

「そうでしたか」

 

日頃の疲れがたまっていたからなのか、食事を取るなり指揮官はこたつなる布団に入って寝てしまっている。

 

抜け駆けは出来ないらしい。ただ、今は寝かせていてあげたい気持ちの方が強かった。可愛らしい寝顔も見れたし。

 

「本当、指揮官ってそういう所だよねえ。らしいっちゃらしいけど。それよりにゅーかっするさん、知ってる? こういうのね、裸の付き合いって言うんだよ。遠慮なしってやつ」

 

「そうです、ね?」

 

言葉は知っているが、果たして本当に裸である必要があるのか、ニューカッスルは疑問に思った。

 

「......」

 

「......」

 

お喋りに来たと陸奥は言っていたが、そこで会話は止まった。

 

しばらくの間、弾が尽きることの無いお湯鉄砲で陸奥が遊んでいるのを、ニューカッスルはじっと静観している時間が続く。

 

やがて、バツが悪そうに陸奥は切り出した。

 

「その......ごめんね。にゅーかっするさん。迷惑かけちゃって」

 

「迷惑、とは?」

 

「色々かな。いきなり慣れない土地によんじゃった事もだし、巻き込んじゃった事もだし、その......無くなっちゃった三枚目の事も」

 

伏し目がちにそう言うと長門の時と同じく、ペタンと狐耳が項垂れる。

 

ニューカッスルは思わず口元が緩んだ。

 

「お気になさらずとも、こうしてあの人と二人で逃避行というのも、中々にない機会なので私としては有難く思っていますよ」

 

「指揮官とお出かけとかしないの?」

 

「私はともかく、あの人に休みが来る日がほぼありません。毎日毎日公務やセイレーンの対処など多忙な日々。所用で基地を離れる事もありますが、護衛人に選ばれるのは私ではありませんので」

 

そう考えると、少し役得でもある。

 

経費無しで重桜に来られたと考えればいい。あまり観光は出来なかったが。

 

「護衛人って電話で話してた、のーすかろらいなさん?」

 

「はい。海はもちろん陸での戦闘面も合わせればトリカゴ随一と言っていい腕をお持ちの方です。加えて容姿端麗、スタイルも男性好みのものをお持ちかと」

 

「にゅーかっするさんも認めるくらい、凄い人なんだ。ほええ」

 

まだ見ぬ美人さんに、俄然興味を湧かせる陸奥。

 

「ですが、ご本人は全くその自覚がなく。個性がないと嘆いておいでの愉快な方です」

 

「ええっ!? にゅーかっするさんも認めるくらいなのに? 十分個性あるよ!?」

 

「私もそう思うのですが、ご本人が納得されていないようですので。この前も執務の際にウサギ耳を付け出して、指揮官様を困らせていました」

 

「なんでウサギ耳に辿り着いたんだろう?」

 

「さあ? ただ、その日は風邪をひいたのかと凄く心配されていました」

 

「あはは、指揮官らしいや──」

 

それからも、トリカゴの事や、他のメンバーの話をしたりと時は過ぎていき、月も段々とのぼり始める。

 

しばらくして、ふと陸奥は訊ねていた。

 

「あのさ、にゅーかっするさんも指揮官の事好きだよね?」

 

「......はい、お慕いしております」

 

恥ずかしがることなく、ニューカッスルは答えた。

 

「のーすかろらいなさんも? 他のトリカゴの人たちも?」

 

「そうでしょうね。トリカゴにいる全員、指揮官様の事を少なからずは想っていると思います」

 

「北風ちゃんもかあ。皆、恋してるんだなあ」

 

「陸奥様は違うのですか?」

 

「んー、陸奥はしてる......のかな? 江風さんと指揮官が仲良さそうに話してた時、胸がチクチクしたけど、これって恋かな?」

 

「さあ、どうでしょうか?」

 

わざとらしくニューカッスルはとぼけてみせた。

 

そんな彼女の態度に陸奥は口を尖らせる。

 

「むー、いじわる。じゃあさ、にゅーかっするさんはどうして指揮官の事を好きになったの? 教えてよ!」

 

陸奥としては、ささやかな仕返しのつもりだったのだが、ニューカッスルは勿体ぶることなく応じた。

 

「私に生き方を教えてくださったから、でしょうか」

 

「生き方?」

 

小さく頷く。

 

「......かつて、私は、あまり死ぬ事が怖くはありませんでした。自らの命によって平穏なる日々が守られるのであれば、私は喜んでこの身を投げ出していたでしょう」

 

「......そんな」

 

「そしてお恥ずかしい限りなのですが、この危うさに私自身が気付いていませんでした。平穏を望む自分こそが、一番平穏を脅かす存在だったのです」

 

「......」

 

「そんな私を変えてくださったのが、あの人です」

 

愛しげな声でニューカッスルは続ける。

 

「あの人がいなかったら、私はきっと無様に平穏を壊して死んでいた事でしょう。それにあの人は気付かせてくれた。本当に感謝しています。その感謝が肥大して、といったところでしょうか。参考になりましたか?」

 

一通りの惚気話を聞いた後ではあったが、陸奥の表情は明るいものではなかった。

 

「でも、指揮官はそんなにゅーかっするさんの想いにも気付かない。違う、気付けないんだよね......私たちのせいでミズホの神秘を失ったから」

 

「陸奥様が気を落とされる事はないと思います」

 

消え入りそうな弱々しい陸奥の嘆きに、ニューカッスルは、

 

「......確かに、心を戻せばあの人は私達に振り向いてくださったかもしれません。しかし」

 

「......?」

 

「私は、今を生きているあの方が好きなのです。平穏なる日常にいて下さるあの方が。それに、私はあの人には恋心はなくとも愛がないとは、とても思いません」

 

彼には愛があると言ってみせる。

 

「......どうして?」

 

「私がここに帰ってくる際、おかえりと、あの人は優しく迎えて言ってくださいました。長門様の時にも、此処に来た際、会えて嬉しいと。急によばれたのに怒りもしませんでした。本当に愛がないのであれば......想像がつくのではないのでしょうか?」

 

「......」

 

確かに彼は言っていた。

 

黙っていた大鳳の事も怒らず、むしろ懐かしい顔に会えて嬉しいと。

 

それは、一種の愛なのではないかニューカッスルは言いたいのだ。

 

そんな愛に私たちは悩んでいる。

 

わたしは悩んでいる。

 

わたしも?

 

つまり......

 

「隣人愛と私達の言葉では言います。彼はそれが少し人より大きいだけです。好意に気付かないのは、最早我々に課せられた試練と考える他ないでしょう。それこそあなたの信じるカミとやらの」

 

「......やっぱり」

 

「......?」

 

虚空に向かって囁いた陸奥にニューカッスルは首を傾げていると、一人うんうんと陸奥は頷くなり納得を示すと言った。

 

「うん、やっぱり! にゅーかっするさんは友達だけど、らいばるさんだよ! 負けないからね!」

 

威勢のある陸奥の言葉の意図を理解し、ニューカッスルは空に浮かぶ月と同じく三日月型に笑みを浮かべると、優しく返した。

 

「......ふふっ、そうですか。私も、負けるつもりはありませんよ」

 

彼女の愛する平穏が、また一段と賑やかさを増した。

 

*

 

翌日、指揮官とニューカッスルは長門の言っていた通り、無事にトリカゴに戻る事が出来ていた。

 

出来ていたと言うのも、目を覚ませば執務室にいたからだ。

 

久しぶりだったコタツの温もりは、いつの間にやらニューカッスルの膝枕に代わっている。

 

「おはようございます、貴方様」

 

「おはようニューカッスル......えっと、ここ執務室だよな?」

 

「はい、その様ですね」

 

「......そっか、帰ってきたのか」

 

執務室から重桜に行った時とは違って、今度は指揮官の方が慌てていた。

 

まさか、何の別れの挨拶もないとは。

 

「私としても貴方様に枕のご提供をと考え、自らの膝を差し出してから、少し目を閉じた事は記憶にあるのですが、次に目を開ければここにへと......それと」

 

「それと? お、なんだこれ」

 

ニューカッスルが流し目で横を見たので追いかけてみると、すぐ横に見慣れない紙袋が置いてあることに指揮官は気が付いた。

 

身を起こすなり、早速紙袋に手をのばす。

 

さながら、サンタさんからのプレゼントの様だった。

 

「クリスマスプレゼントでしょうか」

 

どうやらニューカッスルも同じ事を考えていたようだった。

 

「さてどうだろうな、どれどれ」

 

気になる中身はと。

 

「えっとこれは、何の小袋だろ?」

 

「それは北風様への刀剣油ですね」

 

「ああっ、北風のか」

 

忘れたら大変なことになるところだった、有難い。

 

「ええっと、次にこの箱は......」

 

「......あずき饅頭ですね」

 

「大鳳が好きなやつだこれ。長門のやつ、気を利かせてくれたな」

 

しかも一箱だけではなく、袋のほとんどをあずき饅頭の箱が占めている。

 

皆で食べろという事だろう。

 

全部取り出すと、袋はすっかり痩せ細ってしまっていた。

 

「これで以上でしょうか?」

 

「さて、どうかなっと。全部出してみるまでは......ん?」

 

カサりと、指揮官の指先を紙の感触が撫でた。

 

取り出してみると『読んでいい』と、わかりやすく墨の文字が書かれた便箋が姿を現す。

 

「また重桜に飛んだりしないよな......?」

 

「私はそれでも一向に構いませんよ」

 

今度は観光も出来そうなので。

 

「俺は勘弁だよ......」

 

机の上に出来上がっている新しい書類の山へ苦笑を浮かべながら、指揮官は手紙を取り出すと開いた。

 

『拝啓 トリカゴに戻った貴方へ

 

挨拶の言葉は面倒なので省かせてもらう。何より、つい先刻まで会っていたのだからな。

 

まずは、謝罪を。余の勝手な我儘で重桜にまで足を運ばせてしまったことを、改めて詫びさせてくれ。

 

ごめんなさい。

 

でも、会えて嬉しかった。余だけではなく、お主の顔を見れた重桜のKAN-SEN全員が思っていることだろう。

 

この長門が保証する。

 

それと、何故挨拶も無しにいきなりの別れなのかと考えていることだろう。

 

率直に言えば、涙を見せたくなかったからだ。

 

間違いなく、余と陸奥は別れ際に感極まって泣いていただろうかな。

 

別に見せたくなかったわけではないのだが、まだ恥ずかしいのだ。

 

許してくれ。

 

決して、行かないで欲しいとか、引き止めてしまいそうだからではない。

 

ないぞ。

 

違うからな。

 

次にいつ会えるのかは分からない。しかし、余はお主があの時言ってくれた言葉を信じて生きようと思う。

 

そして、お主も約束を忘れないでくれ。

 

最後にはちゃんと重桜に帰ってきて欲しい。

 

無論、五体満足で魂を収めてな。

 

指揮官。

 

私と陸奥と、いや、重桜の皆からのお願い。

 

決して、死なないで。

 

どんなに辛い事があろうと、いや、貴方の事だから、自分からなんて事もあるかもしれない。

 

でも、どうか覚えていて。

 

貴方が生きているだけで、嬉しい人間がここに、重桜にはいる。

 

だから、いつでも重桜に帰ってきて。

 

今度はちゃんと、お布団を敷いて待っているから。

 

ともかく体を大切に、心は余や陸奥がいるから大丈夫だ。

 

いや、トリカゴの者や。遠き異国の者も、かな。

 

略式ながら、以上とさせてもらう。

 

メリークリスマス、そして良いお年を。

 

敬具 長門

 

追伸

 

月が綺麗ですね』

 

「月? もうお日様出てき始めてるぞ?」

 

「......」

 

それは愛の言葉。

 

読書好きなニューカッスルはもちろん理解しているが、ただ、エリザベスの方が度胸はあるなと思った。

 

ここは、こっそりあの時出来なかった漁夫の利を得させてもらおうか。

 

「貴方様」

 

「どうした?」

 

拝啓

 

クエスチョンマークを浮かべ続ける、英雄で恋心を失った貴方様へ。

 

「......星も綺麗だと思いますよ、私は」

 

貴方のことを愛しています。

 

 

 

 

 

 

*

 

どこかどこかの暗い場所。

 

とめどない怒りを持て余す人物がひとり。

 

「どうして? どうして、皆お母さんの言う通りにしてくれないの? 世界!? 世界のせいなの!? そうだわ、世界よ、世界が全て悪い! どこ!? どこにあいつはいるのよ!? 私のあの子をあんな目にあわせた世界がぁ!!!!」

 

世界にへと、彼女は叫んだ。

 

叫ぶしか出来なかった。




Q なんでこの話書いたの?

A 話の世界観と設定を掘り下げておきたかった()

というわけで、お話の中ではクリスマスより前の重桜編終わりです

しばらく日常話続けようかなと思ってますので......なにとぞなにとぞ......

狐桜、神祠、指揮官の過去、ミズホの神秘消失のデメリット、スペクテイターさんなどなど勝手な設定盛りだくさんで、すんません。着いてきてくださっていれば嬉しく思います。

瑞鶴を出した理由なのですが、格好が紅白でサンタさんっぽいからです( ニューカッスルさんを巫女服にしたのもそんな理由だったり

唐突に出てきた指揮官の恋心消失問題ですが、わかる人にはわかる紹介なら、まもって守護月天のシャオ○ン状態的なあれだと思っていただければ
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