アズールレーン─トリカゴ基地の日々─   作:大和亀蔵

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指揮官とニューカッスルがいない間、一方トリカゴでは......というお話


「オペレーションOSG!」 その1

指揮官とニューカッスルが重桜にへと旅立って、早数時間。

 

トリカゴに取り残されたKAN-SEN達の心情は、とても落ち着いたものとは言えなかった。

 

指揮官がいなくなった事は、まずもちろんの事。

 

一度連絡は向こうからあった、いつも通り過ごしていてくれ、明日には帰るからと。

 

彼の言葉は信じている、約束を違えるような人ではない。

 

帰ってきてくれるはず。

 

けれど、ほんの少しだけ信じ切れていない己がいて、このままトリカゴのクリスマスパーティーには彼がいないんじゃないか。

 

もしかしたら、ずっとニューカッスルと重桜にいるんじゃないか、とか。

 

沢山の可能性の言葉をそれぞれ反芻してしまい、大鳳のすすり声がさらに空気を重たいものにへとしていき、それでも残酷な事に時計の針は進んでいく。

 

時刻は正午を回り、食堂にKAN-SEN達が集まっているが、誰もほとんど手を付けていない。

 

金属が重なる音よりも、ため息の方が多く聞こえる食堂で普段通りに食べているのは、エルドリッジとノースカロライナくらいだった。

 

この空気に喝を入れるためにも早く帰ってきてくれと、海にいるカリスマお化けことウォースパイトにへ思念しながら、ノースカロライナは無理くり喉にへとご飯を通していた。

 

「ノースカロライナ」

 

いつもよりも重たい気がするスプーンを皆が持つ中、沈黙を破って話しかけたのはエルドリッジだった。

 

「どうしたの? エルドリッジ」

 

「エルドリッジ、今日はお仕事終わり」

 

「そうなのね。お疲れ様」

 

「うん」

 

必死に笑顔を貼り付けて、エルドリッジの頭を撫でる。

 

くすぐったそうに目を細める中、エルドリッジはこれからの自分の行動を告げた。

 

「それでね。執務室、お掃除していい?」

 

「執務室の掃除?」

 

何でまた急にそんな事を?

 

エルドリッジの真意を問おうとした、その時。

 

「それだああああああああ!!!」

 

『......!?』

 

普段の彼女からは想像できないくらいの絶叫をあげ、目が死んでいた大鳳は一転、キラキラと瞳に光を灯して勢いよく立ち上がってみせた。

 

注目の視線が大鳳にへと集まる中、ノースカロライナは一同の総意を汲み取って声をかけた。

 

「あの、大鳳さん? 急にどうしました?」

 

「ですから掃除! 掃除! 執務室の大掃除!」

 

「は、はあ? 大掃除ですか」

 

「歳神様をお迎えする為にも、執務室を掃除しておけば、指揮官様はきっと喜んでくれるはず!」

 

「と、トシガミ?」

 

周りを見渡すと皆、首をかしげている。いや、北風だけが確かにと一人納得していた。

 

その様子から見るに、カミと付いているし、重桜のナニカなのだろう。

 

ユニオン本部にいた頃には、大掛かりな掃除は寒い冬ではなく暖かい春にやっていたが、重桜流では冬にやるようだった。

 

ノースカロライナが頭の中の知識のメモ帳にへと書き込んでいる中、大鳳は猫なで声でさらに続ける。

 

「そ・れ・にぃ♡ 私、まだ執務室の捜索は出来ていない。いえ、普段なら指揮官様の目があるから出来ない。でもぉ、今は忌々しいあの扉の鍵があいていてぇ、尚且つ指揮官様はいない。あのメイドでさえ知らないはずの指揮官様の机を......うふふふふふ♡」

 

『......っ!!』

 

一同に衝撃が走る!

 

そう、大鳳がさっき言った通り、指揮官は私室には鍵をしない割に、執務室に関してのセキュリティ意識だけはやけに高い。

 

おそらく書類や帳簿といった盗られたら困るものが多数あるからだと予測はつくが、つまり、そのもしかしたらあるのではなかろうか、個人的に見られたら困る何かが!

 

好きな人の事はなるべく知りたいのがKAN-SEN心、そんな彼女達にとって一種の見えてしまっている宝箱。

 

それこそが、執務室の机なのだ!

 

ちなみに私室の捜索報告は、すでにあがっている。

 

捜索報告といっても、もしプレゼントをする時とかの彼の趣味嗜好を知るためであって、決してやましい本があったりしないかなとか、そんな邪推な思いは一切ない。断じて違う。ちなみに非常に残念な事にそういった本はなかった。

 

兎も角、いつもならこんな美味しい作戦をすぐ様独断で実行していそうな大鳳が、こうして口にしてくれた事で重苦しかった食堂を、一転また別の空気が駆け巡っていた。

 

──大掃除しちゃう?

 

............。

 

そして今。

 

執務室前にいるKAN-SEN達の心情はとても落ち着いたものではない、という訳である。

 

「えーと、これは悪魔で大掃除。執務室の大掃除ですからね? それはみんな分かってますね?」

 

『......』

 

ノースカロライナの言葉に皆、小さく首を縦に振り頷き返す。

 

さながら、餌を前に待てをしている利口な獣だった。

 

流石に失礼なので、今回都合がついて集まれた選手の紹介にうつろう。

 

ユニオン代表。試しに個性をと思い、ラフィーみたいにうさ耳をつけて仕事をしてみたら、指揮官に風邪かと言われて本気でへこんだ護衛人、ノースカロライナ!

 

重桜代表。あのメイドの役目は私のはずだった! 指揮官様に褒められる事で既に頭はいっぱい。数時間前まで死にかけてたとは思えない程元気を取り戻しここに復活、大鳳!

 

ロイヤル代表。給仕さんなのだから主の部屋の掃除をするのは当たり前。実は指揮官の私室の掃除を公式に任されているため、そこそこ美味しい(意味深)思いをしている給仕さん、ネプチューン!

 

最後にユニオン代表。立案人であり、邪な思いは一切無し。普通に掃除をしてあげようとやる気はMAX。静電気でホコリなんて残さない! 指揮官の思い出と執務室への来訪回数は断トツのトリカゴトップ、エルドリッジ!

 

以上、四名の参加となっている。

 

他のKAN-SEN達は任務だったりと忙しく参加は叶わなかったが、報告会を楽しみにしているとの事。ウォースパイトへの対応は任せろとも。

 

マランだけは夜間任務まで手が空いていたが、報告会で聞くから寝させてくれと、参加を辞退した。

 

「入る前に確認事項です。まず、部屋を荒らさない事。そして、今回見たことは皆に報告する事。書類などは捨てない事。もし、ウォースパイトさんが帰ってきて様子を見に来たら、誰か事情を説明する事──多分私だろうけど。最後にちゃんと掃除をする事。分かりましたね?」

 

「指揮官様の全ては、この大鳳が見つけてあげますからね? うふふ♡」

 

「了解ですわ!」

 

「らじゃ」

 

若干一名返事がなかったが、やらかしそうなら実力行使でいいかとノースカロライナは判断し、

 

「ではオペレーションOSG開始です。ゴー!」

 

執務室大掃除作戦が、号令をあげた。

 






皆さんは勝手に人の机を漁らないようにね!
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