アズールレーン─トリカゴ基地の日々─   作:大和亀蔵

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「シリアスさんがやってきた」 その4

──メイドとは何か?

 

定義とするならメイドとは洗濯、清掃、炊事などなど、主の代わりに先立って動く労働者であり、忠実なる僕。

 

かつてはメイドの数が貴族のステータスでもあったらしいのだが、別にメイドの歴史に話を掘り下げたい訳では無いのでこのへんで。

 

言葉の意味だけでなく、実際に働くシリアスにとってメイドとは『主の期待に全力をもって応える』存在とも結論を得ている。

 

ロイヤルメイドの心得、いついかなる時も優雅に、華麗に、冷静に。

 

冷静さにしか自信がないシリアスとしては、まだまだ遠い存在である言葉だが、それでもシリアスだってロイヤルメイドの端くれだ。

 

主に仕え、主のために働く。

 

全力で。

 

ドジを踏むのは、ご愛嬌。

 

ともかく、それが本分であり、シリアスのメイドとしての喜び。

 

ではあるのだが、ここはロイヤルではなくトリカゴ......何が言いたいのかと言えば。

 

(......まだ、夜の十一時ですか)

 

恐ろしいくらいに、暇なのである。

 

この時間は、普段なら夜勤の警備任務の真っ只中だ。今のところ穴を空けてしまっているとなると、代わりに誰が埋めてくれているのだろうか?

 

ケント、シェフィールド、グロスター、それに姉のダイドーも、候補の顔がいくつも思い浮かぶ。

 

かれこれトリカゴに保護されて三日、意識を失っていた期間も合わせるなら六日ほど、シリアスはメイドとしての業務を果たせていないのだった。

 

部外者であるにも関わらず、基地の中を自由に歩かせてもらえている待遇には感謝しているが、常にロイヤルの誰かが見守って(監視して)くれているおかげで、下手な動きはできない。

 

(ベルファストメイド長、怠惰なシリアスをお許しください......)

 

シリアスだってメイドさん。誰かに仕え、誰かの喜びのために尽くしたい。

 

体が動かない内は大人しく瞼を閉じていたが、三日目ともなれば、歩けるくらいには快復もしてくる。元々メイドとして働いてこともあってか、何もしていない現状に罪悪感すら覚えはじめてきた。

 

一応、何か自分に出来ることはないかと声を上げてはいるのだが、

 

「大丈夫だよ。シリアスさんはトリカゴとしては重要保護人なんだ。気持ちだけ有難く受け取っておくよ。ありがとう」

 

一番お礼を返したい指揮官には、優しくそう言われ、

 

「いいかしらシリアス? 貴方は怪我人なのよ。なら、大人しくベッドの上にいて頂戴。今の貴方の任務は怪我を治す。それだけよ? 無駄に心配事を増やさないで。わかった?」

 

ウォースパイトには、王妹として窘められ、

 

「聞いておきますが、シリアスさんの直近のテストのスコアは? はあ、35? ギリギリ赤点圏外ですか......え? ベルファストメイド長になってから赤点ラインが40に? なら、赤点じゃないですか......ダメです。大人しく保護されていてください」

 

ニューカッスルには先輩メイドとしてキッパリと断られ、

 

「嫌よ」

 

フォーミダブルには三文字で言いくるめられ、

 

「正直、給仕としてだけなら私の方がシリアスさんより出来る自信がありますわ......ロイヤルメイド流の戦い方なら、ぜひ教授願いたいですけど」

 

ネプチューンには、一応約束は取り付けられたが、そこまでの快復はしていないので願いは叶わない結果となった。

 

「......」

 

今のところ本のページを捲っているオーロラも、優しい人だからこそ、シリアスの思いどおりにはさせてくれなさそうである。

 

かと言って、もう寝ることにも飽きてしまった。

 

「はぁ......」

 

普段は出さないようにしているため息も、思わず出てしまうシリアスなのであった。

 

「どうかしましたか、シリアスさん? 大きなため息でしたけど」

 

「あっ、いえっ、その......」

 

「どこか体調が悪かったりしますか? 食事が口に合わなかったりとかでしょうか?」

 

「えっと」

 

暇で暇で仕方がないなんて、口が裂けても言えない。そもそも預かってもらっている身なのに、これ以上の我儘は流石に失礼だ。

 

しかし、なにか上手な言い訳をして誤魔化さないと。

 

わざとらしく目線を上にあげてから、シリアスは苦し紛れに答えた。

 

「外を散歩しても、宜しいでしょうか?」

 

*

 

コツンコツンと、誰もいない暗い廊下に二人の足音が響く。

 

すでに、消灯時間は過ぎ去りトリカゴの照明は落ちている。今のところ働いているのは、夜間任務を請け負っているファンタスク級姉妹だけだ。

 

(少し、落ち着きますね)

 

ライトだけが頼りのこの独特の緊張感と静寂さは、夜間警備をしているあの感覚に似ていて、悪くは無いとシリアスは思った。

 

「ごめんなさい、シリアスさん」

 

「えっ?」

 

ふと、隣を歩いてくれているオーロラが放った言葉に、シリアスは一驚で返した。

 

「正直、退屈というか窮屈ですよね。ずっとベッドの上ですし、移動するにもこうして監視がついてしまって」

 

「いえっ! そんな、ことは......」

 

否定しきれず歯切れの悪そうなシリアスの様子に、オーロラは微笑を浮かべると続けた。

 

「普段はこの時間、何をなされているのですか?」

 

「警備の任についています。ちょうど今のように」

 

「そうでしたか。いつも有難うございます。トリカゴも警備してくださるなんて、シリアスさんは働き者ですね」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

「ふふっ。そう言えば、私の薔薇園はどうなっていますか? ずっと聞こうと思っていたんですけど、タイミングを見つけられなくて」

 

「オーロラ様の薔薇園でしたら、我々メイド隊一同で管理しております。オーロラ様にはとても敵いませんが、陛下がご満足頂けるくらいには、どうにか」

 

「そうでしたか。それはよかったです。シリアスさんも薔薇園を?」

 

「花がら摘みだけなら。水を運ぼうとすると、どうしてかいつも転んでしまうのです。あとは、虫の退治も私がやっております」

 

「シリアスさんは、虫が大丈夫なんですか?」

 

「はっ、全く問題ありません。どうしてあんな小さなものに怖がるのか、不肖シリアスには理解できません」

 

「ふふっ、シェフィールドさんも同じ事を言っていました。苦手なのは、サフォークさんあたりでしょうか?」

 

「はい、正しくご推察の通りです。オーロラ様もですか?」

 

「さすがにガーデニングを趣味にしていると、避けては通れない道なので、もう慣れました。ですが、私も最初は怖かったです。アリシューザ姉さんに、バカバカ言われながら虫を取ってもらっていました。ふふっ、懐かしいですね」

 

「そんな事が」

 

「大変でしたけどね。どうにかしなきゃと思って、思い切ってペットとして飼ってみたら、なんとかなったんです」

 

「なんと」

 

あの薔薇園誕生にそんな過去が、あったとは。

 

オーロラも彼女なりに困難に立ち向かって、あの薔薇園を作り上げたのかと、シリアスは改めて姉の言葉を思い出してもいた。

 

「懐かしいと言えば、今頃は陛下からパンケーキデイで使うから、薔薇を貸してほしいと言ってくださる時期でした。今年も催されるのでしょうか?」

 

「もちろんです。今年もパンケーキデイへの準備が進んでいます。私が海に出たのも、小麦や牛乳、その他諸々を含めてパンケーキレースなどへの手配を済ませるためでした」

 

パンケーキデイに合わせて行われるパンケーキレースは、ロイヤルにおいては目玉と言える行事だ。

 

フライパンを片手に、その上に乗った薄いパンケーキをリレーしていくだけなのだが、異様な熱狂で盛り上がるため、その人気は高い。

 

シリアス達が任されていた『おつかい』も、その準備を進めるためのものだった。

 

「なるほど、そういう事でしたか。今年はネプチューンさんがいませんから、メイド隊の方が優勝するのでしょうか。それとも、アキリーズさん達が......楽しみですね」

 

「はい、とても」

 

実はその優勝者の名前には、メイド隊に紛れてネプチューンの名前もあったりするのだが、今年はトリカゴにいるため強制的に不参加だ。どうなるのかは、神のみぞ知るというやつである。

 

そのまま、二人っきりの夜のお散歩を楽しく続けていると、

 

「あの、オーロラ様。あそこの部屋明かりがついています」

 

「えっ? ホントですね。キッチンの明かりがついています。どなたでしょうか?」

 

こっそりと、ドアの隙間を覗いて中を確認。

 

「ふふふふっ♪ 指揮官様〜♪」

 

上機嫌でキッチンに立っていたのは、紅の和装(エプロン付き)に身を包んだ人物だった。

 

「(オーロラ様、あの方は?)」

 

「(重桜の大鳳さんです。かき混ぜているのは......チョコレートでしょうか?)」

 

「(みたいですね。どうして、チョコレートを?)」

 

「(うーん? ......少し、お話を聞いてみましょう)」

 

大鳳と言えば、突拍子も無いことを急に始める認識こそあれ、その行動に理由は確実にある。

 

主にそれは指揮官関係ではあるのだが、どうしてチョコレートを作っているのかは見通せないので、ここは素直に聞いてみることにオーロラは舵を切った。

 

「あら」

 

「ご機嫌麗しゅうございます、大鳳さん。夜更かしとは珍しいですね」

 

「......」

 

「オーロラさんと、救助されたロイヤルメイドですか。こうして顔を合わせるのは、初めてですわね」

 

光のない真紅の瞳で見つめられ、シリアスは挨拶として腰を折った。

 

「初めまして、ロイヤルメイド隊所属の」

 

「シリアスさんでしょう? 指揮官様から聞いていますわ。怪我人が消灯時間に徘徊だなんて、報告案件ですわね」

 

「言い方が悪いですよ大鳳さん。ちゃーんと私もいますから徘徊ではありません。夜のお散歩です」

 

「なら、そうしておきますわ。私は作業に戻りますので。お喋りはこの辺にしてくれます? ハッキリ言って邪魔ですわ」

 

「......」

 

直感でシリアスは、この人は苦手だと判断した。

 

表面上は厳しい言葉を取りつくろうネルソンやシェフィールドとは違って、大鳳は本当に拒絶を示していた。そして、こうした人物はメイドとして一番やりにくかったりもする。

 

だが、オーロラは大鳳とはある程度の付き合いがあるおかげか、めげずに彼女の心に踏み込んでみせた。

 

「私としては、もう少し邪魔をさせて欲しいのですけど。カカオに砂糖に......これって、チョコレートの原料ですよね? どうしてチョコレートをお作りに?」

 

「はぁ? バレンタインだからですけど?」

 

「「......?」」

 

「......?」

 

大鳳の言っている意味が分からず、オーロラとシリアスは目線を合わせて首を傾げた。

 

大鳳としても、どうして不思議そうな反応をされているのかが分からず、オウムを返した。

 

「あの、シリアスさん。バレンタインとチョコレートって何か関係ありましたっけ?」

 

「いえ、そもそもロイヤルでは男性から女性への感謝を表す日だと、シリアスは認識しておりますが」

 

バレンタイン、別の名を恋人の日。

 

パンケーキデイと並ぶ一大イベントのひとつではあるが、ロイヤルでは男性から女性が一般的。仮に女性からということがあったとしても、チョコレートはこれといって出てこない。

 

シリアスとの共通認識を再確認すると、オーロラは息を吐いた。

 

「ですよね......指揮官さんから何かないかと楽しみにしてますし

 

「......?」

 

「コホン! 何でもありません。ですが、やはりそうですよね。バレンタインは男性から女性へアプローチをする日、女性からとは聞いたことなんて......」

 

「くくっ」

 

「......大鳳さん?」

 

小鳥のさえずりとしては大きすぎるほど、大鳳は悦に浸った笑声を響かせた。

 

「うふふふふっ、なるほど。道理で誰も準備をしないわけですわ。北風は知らないからともかく、重桜以外ではそういう認識でしたのね。あっははは!」

 

「「......?」」

 

何がおもしろおかしいのかわからず、ロイヤル生まれの二人はその場で立ち尽くしていた。

 

ひとしきり笑った後、大鳳は、

 

「あまりにも滑稽なので、お教えしてさしあげます。重桜では、バレンタインは女性から男性へチョコレートを渡して想いを告白する日ですわよ」

 

そう教えてくれたのだった。

 

 




ハッピーバレンタインです

とりあえず投稿したれの精神。

皆さんは、誰からバレンタインチョコを貰いましたか?
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