古戦場(遺言)
話が進まなくて申し訳ないです、はい...
「緊!急!会!議よ!」
紅茶が飲めなくなる...程ではないにしろ衝撃の事実を知った一件の翌日、仲良しロイヤル三人娘とシリアスは医務室で久しぶりの秘密会議を開いていた。
お題はもちろん『バレンタインについて』
医務室で開催しているのは、今日の見張り役がフォーミダブルだからだ。この際、指揮官にお礼がしたいシリアスも一緒に参加していた。
「まさか、ロイヤルと重桜でバレンタインの認識が違うだなんて、完全に盲点でしたわ......しかも、チョコレートだなんて私の得意中の得意お菓子。知っていたらよりをかけて準備を進めていましたのに」
はあ、と大きなため息をネプチューンは吐いた。
お菓子作りという自らのアイデンティティを最大限に活かせた機会をみすみす逃してしまったのだから、無理もない。
「あの」
無理もないが、シリアスは手を挙げて訊ねた。
「なんでしょうか、シリアスさん」
「はっ! チョコレート自体は貯蓄庫のものがあるのでしたら、何の問題もないのでは?」
というのも、トリカゴでは月に一度、本部からの配給がある。
その中にチョコレートも含まれていることをシリアスは、すでにオーロラから聞いていたのだった。
それを使ってチョコを作れば......と発案してみたのだが、ネプチューンは首を横に振った。
「一理ありますけど、貯蓄庫のチョコを湯煎して溶かして、また固めたものを私は手作りとは認めませんわ。手作りというのならカカオから厳選しませんと」
「か、カカオからですか......」
「ネプチューンちゃんなりに、線引きがあるんですよシリアスさん」
「な、なるほど」
オーロラの説明に相槌を打つ。
シリアスからすればそれだけでも十分な気もするのだが、ネプチューンには彼女なりのお菓子作りの美学があるようだった。
「知っていたのなら、指揮官様好みのカカオマスを取り寄せていましたのに......」
「では、どの様に?」
「どうもこうも。今回は私、パスしますわ」
「「えっ!?」」
まさかの撤退宣言に、フォーミダブルとオーロラの声が短く重なった。
「作らないの?」
「ええ、教えてくれたオーロラには悪いですけど、自分のポテンシャルを最大限に出せないのなら、作る意味がありませんもの。どうせなら、指揮官様にとっての最高のチョコにしたいですし。
でも、その材料もありませんし、間に合わないのならやめておきますわ。下手に作ったチョコを渡したくありませんもの」
彼女の美学として、どんなお菓子でも美味しく作ることは勿論ではあるが、最優のモノをすぐ様作り出せないのなら、そもそも作らないというのもまた、ネプチューンの美学だった。
「なるほど、給仕は時にその様な心構えも必要なのですね!」
「いや、貴方本職でしょうに......おほん、というわけでシリアスさん、二人共、私抜きで頑張ってくださいな」
「はいっ!」
(それは......)
(......困るわね)
感嘆に打ち震えるシリアスとは違って、フォーミダブルとオーロラの二人は眉をひそめていた。
普段からお菓子作りをあまりしない二人は、ネプチューンから美味しいチョコの作り方を教えてもらうつもりで、満々だったのだから。
「私から教わろうとしてたのに、どうしようか困ってる顔してますわね」
「「ぎくっ!」」
「わっかりやすい反応ですわね......」
流石は親友というべきか、浅はかな考えはお見通しだった。
「えっとそのぉ、教えてくれないのネプチューン先生?」
「......私、実は今まで、一度も二人とお菓子作りをした事が、いえ、あえてしなかったのですが何故だと思います?」
「うーん? オーロラわかる?」
解答者のフォーミダブルさん、オーロラさんへ解答権を鮮やかにパス。
「んー、言われてみれば、確かにいつも一人で作ってますね。レシピを隠したいからでしょうか?」
チクチクタクタク...
「......違いますわ」
「ええー、じゃあ......」
オーロラの答えは呆気なく跳ね除けられてしまい、頭を悩ませる時間が続く。
「あの。シリアスは、分かりますよ」
そこでシリアスは、またしても挙手をして発言権を得た。
回答者の二人が驚きの眼差しを向ける最中、ネプチューンも少し目を見開いたものの、シリアスへと話をふった。
「あら、じゃあお答えいただけます?」
「はい。あれは皆様がトリカゴに行かれる前──」
────
───
「うー」
「どうかされたのですか? グラスゴー?」
「あっ! シリアスさん! いえっ、その......」
「......?」
「......ネプチューンさんっているじゃないですか」
「はい」
「メイド隊じゃないのに、お菓子作りが凄く上手だから、コツを教えてもらおうと思ったんですよ」
「サフォークからではなく?」
「サフォークさんは、その、かなり教え方がアバウトというか......それでネプチューンさんにも頼ってみようかなと」
「はあ」
「そしたら、
『手を動かすのが遅いですわ! もっと早く!』
『メイド隊では、その様なやり方で? いや、こっちの方が!』
とか......その、色々とお厳しい言葉を頂いて、最終的には私じゃなくて自分でタルトを作っていましたし。シェフィールドさんより怖かったです」
「ネプチューン様はお菓子作りに真摯な方なのですね......」
「でした......」
───
──
「─という話を、グラスゴーから聞きました。ネプチューン様は、ご指導の際にお厳しい言葉を使いがちだと」
「正解ですわね」
シリアスの話に、二人は「あぁー」と心の中で声を上げた。
ネプチューンらしいエピソードだなあ、と。
「どうも私、人に教えるという行為が下手みたいで、厳しくあたってしまう様ですの。もしかしたら、いや間違いなく二人にもそう接してしまうから、私は誰かとお菓子作りをしたくありませんのよ」
教えてもいいが、フォーミダブルとオーロラはずぶの素人、シリアスもお世辞にも上手とも言えない。
そんな面々に対して、嫌な思いをさせてしまうくらいならネプチューンは友情の存続を優先した。
「でも、この間、指揮官と一緒にプリン作ったって自慢してきたけど、そのときは?」
「あの時も、口は出してしまいましたわね。まあ、指揮官様は気にしていらっしゃらない様子でホッとしましたけど。ふふっ♪ 色々とありましたけど、楽しかったですわ」
新婚さんみたいでしたから、と一言。
「おほん! 話は分かりました。今回、ネプチューンちゃんは指揮官さんへのチョコを作らず、私達に手を貸すつもりもない、ということですわね」
そう言われると聞こえが悪いので、ネプチューンは、
「手を貸さないとは言っていませんわ。直接口を出すつもりがないだけですわ」
「......?」
「ふふっ。つまり、レシピならお教えしますわよ。代わりに、出来たら私に試食させなさい」
「え、なんで?」
「当たり前でしょう? 私のレシピですのよ? 不味く作られたら、たまったものじゃありませんわ!」
「えー、ネプチューン凄い厳しそう......」
「まあまあ、いいじゃないですか。ネプチューンちゃんを唸らせるくらい美味しく作れば、指揮官さんにも絶対喜んでもらえますよ!」
「で、どうしますの? とりあえず、それぞれ作りたいものを教えてくれたら、レシピを書きますけど」
「えーっと、なら私は......」
フォーミダブル、オーロラ、シリアスの作りたいものを聞き、それぞれのレシピをネプチューンは書き上げていく。
内容はなるべく簡単に、かつ材料や工程も素人でも作られるように最低限に。
「はい、シリアスさん。貴方の腕でもこれならきっと大丈夫ですわ」
「あ、ありがとうございます! 家宝にします!」
「そんな大袈裟な......」
ただのレシピでもシリアスにとっては宝の地図、無くさないよう大事に大事に胸に抱いておく。
「じゃあネプチューン、私達キッチンに行ってくるから」
「ええ、本当に困った事があったら私を呼ぶのよ」
「わかってる。じゃあいってくるねー!」
「いってきますね」
「それでは、ありがとうございました」
シリアスを最後に、医務室の扉が静かに閉じられる。
「ふぅ......」
不意に訪れた静寂に向かって息を吐き、ネプチューンは思った。
(私も作りたかったなあ)
本当ならチョコを作りたかった、指揮官様に自分のチョコで喜んで欲しかった。
別に、あの人なら何を作っても喜んでくれるだろう、そういう人だ。分かってはいるけれど、自分のプライドがそれを許さない。
来年があるなら、頑張ろう。それか、次にあの人にお菓子を作る時はうんと愛情を込めよう。
あと、
(あの子達の作るお菓子を食べてみたかったなんて、言えるはずないものね)
いつも作ってばかりの自分が、試食とはいえ誰かが作ったモノを食べるなんて中々ない。
それが親友のものなら、尚更。そもそも、こんな機会じゃないとフォーミダブルやオーロラは作ろうとも思わないだろう。
結構、楽しみだったりする。
(頑張ってね、みんな)
レシピ通りに作れば、どんなモノになっても間違いはないはずだから。
そう、レシピ通りにすれば。
北方キャラ沢山きましたね! トリカゴだとどうしよう、どうしようかな......