アズールレーン─トリカゴ基地の日々─   作:大和亀蔵

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ホワイトデーの話はないです(


「シリアスさんがやってきた」 終

「急な停電ってことは。絶対、エルドリッジだな」

 

突如として暗闇に包まれたトリカゴ基地を、指揮官はライトを片手に歩いていた。

 

トリカゴでは、各勢力の助力によってセイレーンからのジャマーさえも耐えられる最新電源設備もとい通信機器を備えているのだが、それでも唯一防げないのがエルドリッジのスパークだった。

 

理由はよく知らない。周波数がなんだとか。

 

しかし、防げないのならという事でトリカゴでは、エルドリッジから一定量のスパークを感知すると自動的に電源が落ちる仕組みになっている。

 

エルドリッジの裁量一つで......と考えるのは恐ろしいのでやめておこう。

 

そして、落ちてしまった時は、トリカゴの地下にある電源設備の設置場所にまで行って、それを起動させなければならない。

 

地下へと行くには鍵が必要で、それを持っているのは指揮官を含めてノースカロライナ、ウォースパイト、大鳳、カブールの五人だけだ。

 

「最大の敵とは味方だって、ウォースパイトが言ってたなあ」

 

その敵とはあくまでも、無能な味方というニュアンスだったが。

 

もちろん、エルドリッジは紛れもなく有能だ。最大の敵だなんてとんでもない。

 

過去、エルドリッジが原因の停電履歴としては、ホラー映画を見てびっくりした時で1回。

 

北風が、大人げなくかるたでボロ勝ちして拗ねた時で1回。

 

そして、この間エルドリッジアタックをされた時の計3回だ。

 

言わずもがなだが、停電が発生するとトリカゴとしての機能がストップしてしまう。今は公務が終了した後だからまだいいものの、毎度毎度、停電させる度にノースカロライナに怒られている。

 

(今回は何だろうなあ。誰かと喧嘩したか? それとも、ネズミでも出たとかか?)

 

どんな理由だろうと、エルドリッジ自身も完璧には力を制御出来ないみたいなので、ノースカロライナには強く言いすぎないよう言っておかなければ。

 

傍からみれば、完全に父親のそれである思考を指揮官が巡らせていると、長い廊下の曲がり角から一筋の光が見えた。

 

恐らく、鍵を持っている誰かと鉢合わせる。

 

「お、ノースカロライナ」

 

「こんばんは指揮官。奇遇......ではないですね」

 

いたのはいつもの姿ではなく、可愛らしいウサ耳フードがついたルームウェアを着たノースカロライナだった。

 

「生憎な、ふっ」

 

指揮官は、堪らず微笑をこぼしてた。

 

「その鼻笑いは。もしかして、これ似合っていませんか? バターンさんから頂いたものなんですけど」

 

「ああ、いや可愛らしいし、似合ってると思うよ。丁度、ノースカロライナの事を考えていたからさ。つい」

 

「私を、ですか?」

 

「停電の犯人に、またゲンコツかなあ。なんて」

 

「あ、あはは......あの、私って指揮官からしたらエルドリッジにゲンコツをする人なんでしょうか?」

 

「悪いけど、間違ってはないな」

 

「はぁ......そうですか。個性がゲンコツ......」

 

がっくしと、布のはずなのにうさ耳が垂れる。

 

「あー、そうだな、いいお姉さんだと思ってるよ。実質、エルドリッジの保護者にもなってくれてるし、ここのまとめ役でもあるし。君がトリカゴに来てくれて、本当によかったよ」

 

「有難いですけど、褒めてもエルドリッジへのお説教は減りませんよ、指揮官? うふふ」

 

本当に有難いし、本当に嬉しいが、ノースカロライナも指揮官と出会っての月日はエルドリッジに並ぶ長さだ。彼の思惑は、それとなく分かる。

 

大人しく指揮官は、白旗を振った。

 

「バレたか、ノースカロライナお姉さんは怖いな」

 

「......それなりに、アナタの護衛をしてきていますから。今だってそうです。電源を起動しに行かれるのですよね?」

 

「そうだよ。じゃあ、いつも通り頼む。ノースカロライナ」

 

「お姉さん」と茶化されて、鼓動が早くなったお返しに「アナタ」なんて少し情を込めた呼び方をしてみたのだが、いつも通り、指揮官は気付いてくれない。

 

「ええ。指揮官」

 

なので、護衛人としての笑みを浮かべると、ノースカロライナは彼の横に並んで歩みを進めた。

 

(私からは、このくらいが限界ね)

 

ノースカロライナは、指揮官がトリカゴを離れる際に必ず護衛役としての選抜を受けている。

 

ガスコーニュやカブール等、他に腕の立つ人間はいるが、どうして自分ばかりに任せてくれるのかを訊ねて見たことがある。

 

─ノースカロライナが一番信頼出来るから、かな

 

とても嬉しかったし、信じられている事を誇りにも思っている。指揮官からの信頼を得たという、数少ない個性と言ってしまってもいい。

 

だからこそ下手に口走って、その信頼を崩したくはないのだ。ギクシャクしてしまって、誰かに護衛役を取られたくない。

 

そのせいか、必然的に彼女はあまり自分からアプローチを仕掛けられないのだった。

 

一応、護衛の時は実質二人きりのデートみたいなものでもあるので、彼をめぐるレースに置いていかれてはいないと思ってはいるのだが......。

 

(いつ襲撃があるかとか分かったものじゃないから、気が抜けないのよねえ。はぁ)

 

本当の二人きりのデートは、まだまだ遠い事実に心の中で嘆息を吐く。

 

普段から存分に甘えられるエルドリッジ含めて他のみんなが、少し......いや、かなり羨ましく思えた。

 

(あっ、そういえば)

 

甘えるといえば、近々、

 

「指揮官。もう明日はバレンタインですが、期待してもよろしいのですかね?」

 

「もちろんさ。今年は、ちゃんと用意してるぞ。去年は知らなかったとはいえ、エルドリッジには悪いことしちゃったからな」

 

申し訳なさそうに指揮官は、自分の頬をかいた。

 

昨年、ユニオン本部にいた頃は色々とあったせいで、そこまで手が回らなかったのもあるが、重桜と他国ではバレンタインの勝手が違うのを知らなかったのだ。

 

どうしてエルドリッジがしばらく落ち込んでいたのかを、バターンから教えて貰って初めて判明したのだった。

 

多くの国ではバレンタインは、男性が女性を気遣う日であり、聞けば、ホワイトデーも重桜限定らしい。

 

「ならよかったです。私も、三笠さんから聞いた重桜流にならって義理チョコではありませんが、義理贈り物をご用意しましたよ」

 

「おっ、ホントか。それは嬉しいなあ」

 

「ええ、ご期待は裏切らないかと」

 

「ノースカロライナからの贈り物だったら、なんでも嬉しいよ。ありがとう楽しみにしてるよ」

 

「ふふっ」

 

もちろん義理ではないし、本命中の本命贈り物。しかし、ここで義理としか言えないのが、ノースカロライナの悲しい宿命なのだった。

 

それでも、喜んでくれている彼の顔が見れて素直に嬉しいので、よしと思いたい。

 

「しっかし、鍵を持ってる面子でこうやって出てきてくれたのはノースカロライナだけか。ウォースパイトか、カブールは動くと思っていたんだけどな」

 

「大鳳さんは?」

 

「多分寝てる。夜ふかしが苦手だから、消灯時間前には寝てるって言ってた覚えがある。あと、寝ていてもいつでも部屋に来ていいとかも言ってたな」

 

「それは忘れてもらって大丈夫です。ちなみに、ウォースパイトさんなら、この時間はニューカッスルさんとお茶会ですね」

 

「お茶会なら、テコでも動かないな。仲良し三人組は......確かフォーミダブルが今日のシリアスさんの担当だったし。医務室か?」

 

「だと思われます。ガスコーニュさんとシュペーさんは、この隙に敵が襲撃してこないかを心配して、見回りに行かれていましたよ」

 

「ファンタスク級姉妹は、言わずもがな勤務中か。北風は......まあ暗いの苦手だしな」

 

「北風さんなら、カブールさんと一緒にいると思いますよ」

 

「カブールと?」

 

「はい。実は私、カブールさんとは、先程までチェスをしていたんです。停電の際、北風さんが心配だから、私には電源の方を頼むと」

 

「へえ。ちょっと想像出来ないな」

 

北風とカブールが仲良くしている場面を見たことがないため、頭の中の光景にモヤがかかる。

 

「そうですか? 私も同じ姉ですし、何となく放っておけない気持ちは分かります。それに、見た目とは裏腹に年長者ですし、何かと皆に気をかけてくれていますよ」

 

「伊達に、ウォースパイトよりカンレキ長いだけあるな」

 

「それ、本人に言わない方がいいですよ?」

 

「かと言って、子供扱いしたらしたで怒るしなあ。難しい」

 

「ふふっ。まあ、とにかくです。起きている皆さんやる事はやっていますよ。落ち込まなくてもよろしいかと」

 

「うーん、だな?」

 

お茶会なのは、うん仕方ない事にしておこう。文化だし。

 

話している内に、トリカゴ地下にある電気室へと続く扉を開ける。そのまま階段を降りると、存在感のある大きな機材達と対面した。

 

その中でも奥の方にあるトリカゴ基地の主電源となる機械を起動してしまえば、話はおしまいだ。

 

「これだな」

 

素人でもわかりやすい赤い起動ボタンを軽快に押すと、たちまち無機質な起動音が流れ、

 

─ガコンっ!

 

「あれ?」

 

たちまち、停止してしまったのだった。

 

「おかしいですね。こっちがダメなら、予備電源で起動してみてはどうでしょう?」

 

「やってみる」

 

ノースカロライナに言われた通り、予備電源の方でも起動してみるが、

 

─ガコンっ!

 

結果は、同じとなった。

 

「ダメだな。こっちでもつかない」

 

「仕方ありません。指揮官、少し離れていてください」

 

「一応聞くけど、ノースカロライナさん? なんで指を軽快に鳴らしてるんだ?」

 

ついでに、首まわりもしっかりストレッチをし始め、その場でノースカロライナは拳で虚空を切った。

 

「こういう時は、殴れば大体動いてくれますから」

 

「もし、大体じゃなかったら?」

 

「もう一度、殴るだけですね♪」

 

それは一体、いつの時代の修理方法の話をしているのか。

 

屈託のない笑顔なのが、また怖い。

 

「ストップだストップ。何か他の原因があるはずだ。考えよう。それは最終手段だ」

 

「......分かりました。しかし、予備電源さえもつかないということは、もしかして、あの子がまだ放電中とかですかね?」

 

「いや、そんな。でも......確かにそうなるか」

 

トリカゴは、エルドリッジのスパークを一定値以上感知すると落ちてしまう仕組みになっている。

 

ノースカロライナの考えのように起動してすぐ様感知して、エルドリッジが放電してたからブラックアウト。

 

機材側の不調の可能性もあるが、予備電源までダメとなったのだ。そう考えると、非常に辻褄があう。

 

「エルドリッジ本人を、どうにかしないといけませんね」

 

「未だに放電中って、何があったんだ?」

 

「寝ぼけているとか、他にも色々ですかね......どうされますか? 私が探してきて報告があるまで、ここで待機もありかと思いますが」

 

「俺もエルドリッジを探すよ。一人で探すよりも手分けした方が早いだろうし、まだ放電中なのが怖いけど」

 

エルドリッジアタックもといエルドリッジのスパークなのだが、あれは素直に痛いし、何より衝撃で気を失ってしまう事もあるから怖い。

 

寝ぼけているなら声をかけて起こせばいいが、それ以外だったら......これ以上考えるのはよしておこう。

 

「では、指揮官はまず先に、他の皆さんにもエルドリッジを探すように呼びかけてください。私がやるよりも、動いてくれるはずです」

 

「わかった。そうするよ」

 

「それと、最悪手荒な真似になりますけど、よろしいですか?」

 

「......本当にどうしようもなくなったら、頼む」

 

「分かりました......。それでは、散開しましょう」

 

「了解」

 

手筈を確認し、ノースカロライナを先頭に電気室から階段を上がり廊下にへと続く扉を開ける。

 

「では、指揮官ご武運を」

 

「そっちもな」

 

「ありがとうございます、では」

 

互いに敬礼をしあい、無事を祈る。

 

エルドリッジ捜索ミッションが、幕を開けた。

 

*

 

「指揮官いたー!」

 

「......」

 

ノースカロライナと別れて数分、まずはウォースパイトとニューカッスルに協力を求めようと移動をしていたところ、嬉々とした声が指揮官の動きを止めた。

 

唐突にも任務は、エルドリッジの方から発見されエマージェンシーを迎えてもいた。

 

否、彼女を見かけたらノースカロライナに連絡しようとは考えていた。

 

いたのだが、歩いていたら、空間に突如として見慣れた緑電が蜘蛛の巣状に閃いたと思いきや、エルドリッジが現れたのだ。

 

正直、どうしようもない。

 

まあ、見つかってしまったのは、こちらも彼女を探していたので都合がいいと言えるが、問題は、

 

「指揮官?」

 

(めっちゃバチバチしながら光ってるー!)

 

ノースカロライナの推測通り、エルドリッジは絶賛放電中だった。

 

まずは溢れ出る電撃を止めてもらわないと、トリカゴが永遠に機能不全になってしまう。

 

「あー、こんばんはエルドリッジ。俺を探してたのか?」

 

「うん! 探してた!」

 

(ひえぇ)

 

エルドリッジが一言こぼすたびに、電撃が空気を震わせ指揮官の頬に冷や汗が走る。

 

しかし、どうにもエルドリッジの様子がおかしいと指揮官は感じ取ってもいた。

 

やけにテンションが高いし、肌も紅潮しているように見える。

 

風邪...は違う。エルドリッジは、風邪の時はかなりぐったりしてしまうタイプだ。

 

(......もしかして、アルコールか?)

 

酔ったエルドリッジを知らないため、詳しくは分からない。

 

しかし、あの人相の変わりっぷりに、ガスコーニュの一件を酔っ払いと説明していたネプチューンのことを思い出した指揮官は、そう仮説を導き出した。

 

仮に酔っているのならば、素直に電撃を止めろと言っても無駄と判断した指揮官は、彼女から経緯を聞き出すことにした。

 

「そっか。なんで、俺を探していたんだ?」

 

「えっとね。シリアスのチョコ食べたら、指揮官に会いたくなった!」

 

(どういうこと!?)

 

話が一気に結末に辿り着き、詳細は闇に消える。

 

かろうじて、シリアスが原因なのだろうとしか分からなかった。

 

「ねえ、指揮官?」

 

「な、なんだ?」

 

不意に、エルドリッジは自分から指揮官へ質した。

 

「指揮官は、エルドリッジのこと好き? 好きか嫌いで答えて」

 

(え、何その質問!?)

 

急に出された内容にどう答えるべきか、指揮官の心の中で動揺が走る。

 

好きか嫌いかと言われたら、そりゃ好きだ。エルドリッジは、家族のように思っている。

 

もし、嫌いと答えたら──

 

 

「指揮官、エルドリッジのこと嫌いなの?」

 

「......そんな」

 

エルドリッジは、今にも泣きだしそうな顔をしている。

 

「むうううううううう!!!」

 

エルドリッジは、いきなりこちらに向かって走り出してきた!

 

どかーん!

 

 

BAD END──

 

 

(死ぬ未来しか想像出来ない!)

 

主に、あのまま電撃タックルされて!

 

嫌いと答えたら最後、エルドリッジアタックによって悲惨な結末となってしまうのなら、ここは好きと答える他にない。

 

はなから好きと答えるつもりだったのだが、これはもしもの話である。もしもの。

 

では、ちゃんと答えてあげるとしよう。

 

一つ、咳払い。

 

「......好きだよ、エルドリッジ。君と出会えて本当によかった」

 

素直な気持ちを、ありのままに指揮官は伝える。

 

本当に、エルドリッジとは出会えてよかった。心からそう思っている。

 

色んなことがあったが、彼女がいなかったら今はなかった。この繋がりを決して断ちたくないし、断ちたくないということは、好きに違いない。

 

指揮官にとっての好きとは、そういう理屈からなるものだった。

 

「ほんと?」

 

「ああ! これからも一緒にいれたらって思ってる。だから、手始めにエルドリッジ。そのビリビリ止められないか?」

 

「......」

 

「エルドリッジ?」

 

指揮官の言葉に、エルドリッジは何も答えない。

 

ただ、嬉しそうにしばらく顔を綻ばせている。

 

そして十分に指揮官の言葉を味わったのか、

 

「......んーっ! エルドリッジもおお!」

 

爆発する感情を我慢出来ず、指揮官の胸にへと飛び込んできたのだった。

 

もちろん、バチバチは纏ったまま。

 

「好きでも、結局は一緒かいっ!?」

 

堪らず、ツッコミをいれる指揮官。

 

どうする? 逃げ......いや、ここで逃げてしまったらエルドリッジを不安にさせてしまう。

 

ならばここは男指揮官、このドンとする彼女からの愛を受け止めるしかない!

 

「よっし! こい! エルドリッぐあああああああああああ!!!!????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

「指揮官、寝ちゃった?」

 

寝るというよりかは、完全に意識を落としてしまった指揮官の胸の上にエルドリッジは跨っていた。

 

ありったけの愛をぶつけたからか、もうその身体に、電撃はほとばしっていない。

 

「指揮官、好き」

 

自らの頬を、硬い胸板に擦り付ける。

 

今はたまらなく、好きと言われた事が嬉しくてこれがやりたくなった。だから、飛び込んだ。

 

そして、受け止めてくれた。

 

たまらなく、嬉しい。あの時と指揮官は何も変わっていない。

 

「......指揮官」

 

愛おしげに、彼の存在を確認する。

 

そう言えば、もっとやりたい事があったような。

 

なんだったっけ?

 

「頭が痛い」

 

思い出そうとしても、頭痛が酷くてかき消されてしまう。

 

何でもいいや、今やりたいことをやろう。

 

「ふわぁ。エルドリッジも、おねんねするね」

 

猛烈な眠気に誘われ、指揮官のカラダを枕にして、体重を預ける。

 

あぁ、凄く心地がいい。昔はいつもこうしてたのに。トリカゴだと、出来なくなっちゃった。

 

残念。

 

「......そうだ」

 

この幸せな気持ちを指揮官にも、分けてあげなくちゃ。

 

「指揮官、おやすみ」

 

そっと耳元で囁くと、エルドリッジは幸せを指揮官に分けてあげたのだった。

 

 

*

 

 

「......うっ、んん」

 

意識を取り戻した指揮官の下にあったのは、硬い廊下の地面ではなく、柔らかなベッドそのものだった。

 

真っ白な天井。

 

体を起き上がらせ、辺りを見渡す。毎朝シリアスのお見舞いで訪れている医務室だった。

 

時刻の時刻は午前三時を指している。六時間近く、気を失っていたらしい。

 

「誰が運んでくれたんだろう......あっ」

 

「......すぅ、すぅ」

 

答えは、意外とすぐ近く。着ていたうさ耳パーカーを微動だにゆらさず、壁を背もたれに眠るノースカロライナの姿があった。

 

「ノースカロライナが、運んでくれたのか」

 

気付けば、電気もしっかり点いている。復旧の方もちゃんとやってくれたようだ。

 

「ありがとうな」

 

せめてものお礼にと、頭を撫でようと思ったが疲れて眠ってしまった彼女を起こしてしまうのも申し訳ない気がして、指揮官はその手を引っ込めた。

 

「今は、休むか」

 

もう一度、体を横にして目を閉じる。

 

思えば、エルドリッジは普段からお酒を飲まない子だ。もしかすると、本能的にダメだとわかって飲んでいなかったのかもしれない。

 

今回は、偶然起きてしまった事故のようなものだ。そうに違いない。誰を咎めるとか、そんな話じゃないのだ。

 

せめて責任を取れとなるなら、監督役である自分だろう。

 

あの時の北風の忠告も、この事を言っていたのかもしれない。やっぱり、あの子の勘は見事に当たるものだ。

 

(......ん?)

 

楽観的にそう考えていると、指揮官は口の中に広がる微かな甘い味に気が付いた。

 

(チョコ......か?)

 

どこかクセになりそうなその甘味は、紛うことなきチョコによるものだ。しかし、口に含んだ覚えが全くない。

 

(まあ、いいか)

 

事は片付いたし、今はとにかく休みたい。詳しい話は朝になってから聞こう。

 

目を閉じて微かに口に感じるチョコの味と共に、意識を落とす。

 

指揮官の今年初めてのバレンタインチョコの味は、どこか幸せの味がした。

 

 




一ヶ月にわたってしまったバレンタイン話でした。

バレンタイン前日あたりの話を書いてみたいなあ、とかなって朧気に思いついてやったのですが......難しいですね。

描写をしていないのですが、シリアスと三人はノースカロライナに発見されて医務室に運ばれてますので、ご安心を



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