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「あら、大鳳さん。ご機嫌麗しゅう。ちょうど良かったですわ」
夜も更けた、ある日のこと。
これから就寝、もしくは怒られない程度に指揮官の部屋に忍び込もうと画策していた大鳳を、トリオンファンが廊下ですれ違いざまに呼び止めた。
「はあ、なにか? 時間がありませんので、手短にお願いします」
やや気だるげに、仕方なく大鳳は応答した。
これがもし指揮官によるものなら、飛ぶ勢い─なんならちょっと飛んで─甘い声で受け入れるのだが、例え仲間であったとしても、大鳳にとって他国のKAN-SENはどこまでも恋敵という敵なのだった。
ましてやトリオンファンは以前、エルドリッジアタックを加えられた前科がある。
基地を一時的に停電させたエルドリッジ曰く、「ちゅっちゅしそうだったから」と、たんこぶ頭に正座でノースカロライナに証言(言い訳)していたことから、大鳳の中でトリオンファンの要注意度は、跳ね上がっていたのだった。
それでも無視しなかったのは、指揮官から他のKAN-SENとも仲良くするように言われているからである。
「えっと、ではなんですけれど。コンペートーをご存知?」
「金平糖? ええ、わかりますけど」
もちろん知っている。重桜に古くから伝わるお菓子だ。
作り方までは知ろうとも思わないが、主に砂糖が原料の飴の一種であり、色彩鮮やかなことから子供からお年寄りまで根強い人気がある。
しかしなぜ、重桜から遠く離れた地であるアイリスで生まれたトリオンファンが、金平糖を気にかけているのか大鳳にはさっぱり分からなかった。
分からなかったが、大鳳のその回答は騎士姫の表情を一転明るいものに変えるのには十分だった。
「まあ! 本当ですか! でしたら、ぜひそのコンペートーご用意していただけませんこと? このル・トリオンファン、異文化の食にも大変興味がありまして」
「はあ」
熱く語るトリオンファンとは対照的に、冷めた態度で大鳳は受け答えた。
どうやら、金平糖というものを教えて欲しいというより金平糖を見てみたい食べてみたい、その手にしたいという願望が強いらしい。だが、ますますもって大鳳の内で謎が深まる。
金平糖を気にかける理由は異文化勉強として判明したが、それを用意するのが何故自分なのかが今度はわからない。
少なくとも、大鳳からトリオンファンに、何かアイリスお菓子を用意してくれと言える仲かと問われれば、全くもってそんな事は無い。
そもそも、アイリスのお菓子に興味すらわかない。確か、マカロンなるお菓子が有名だったか。
ともあれ用意をさせるのならば、同郷である北風の方が彼女とは仲が深いはずだ、なのに何故この私を?
「それに指揮官が久々に食べたいと、この前仰っていて。大鳳さんなら」
「全力でご用意させていただきます!」
前言撤回、そういうことなら協力せざるを得ない。
否、嫌でも協力させてもらう。
「それで指揮官様は金平糖をどの程度ご所望で!? 何グラム? 何キロ? 何トン!?」
「え、えっと。トリカゴのみなさんが分け合える程度に......でしょうか」
「かしこまりましたわ!」
「お、お願いします」
先程までとの豹変ぶりに、トリオンファンは肩を掴まれながら目を丸くして圧倒されていた。
彼女としては、大鳳と話すきっかけにと気をつかってくれた指揮官の言葉を真面目にこなしているのだが、そんな事を大鳳が知るわけもない。
「うふっ。うふふふふふ、指揮官様ぁ。この大鳳が必ず貴方の望みを叶えてさしあげますからね。うふふふふふふふ♡」
すっかり自分の世界にトリップしてしまった大鳳は、別れの言葉も告げずに自室にへと向かって歩いていく。
「............やっぱり、苦手ですわ」
独り取り残されたトリオンファンは、そうこぼすのだった。