アズールレーン─トリカゴ基地の日々─   作:大和亀蔵

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よくよく考えると、この基地の面子、ですわ口調が多い(


「金平糖ラブフィッシャー」 その4

「で、出来ましたわ!」

 

苦節四日目の夜、大鳳は努力の結晶とも言える金平糖の出来に甘心の声を出した。

 

「はあ、ようやく」

 

振り返れば、金平糖作りは想像以上に茨の道だった。

作り出す前に調べてみたところ、一粒一粒小さいながらも、いや、小さいからこそ職人技の結集とも言えるものだったのだ。

 

本来ならば制作には二週間、その点はミズホの神秘でどうとでもなる。

だから、なんとかなるだろうと試しにやってはみたものの、そうやすやすと作り出せるものではなかった。

 

思っていたほど綺麗なトゲ状にならなかったり、鮮やかな色合いにならなかったり......。

 

しかしそこは空母大鳳、愛する指揮官のために諦めなどはしない。

 

むしろ彼女の心は熱く燃え上り、より完璧な出来を求めて日夜、仕事のない時はミズホの神秘を利用した金平糖作りに勤しんだ。

 

原料に使う砂糖も、あえて食糧備蓄庫にあるもの全てを自室にへと運び出した。なるべく、指揮官に知られるのを遅らせるのが狙いだった。

 

「あのメイド、本当に私の思った通りに動きましたわね」

 

金平糖の袋詰めをしながら、大鳳は思い返した。

 

このトリカゴにて、食糧備蓄庫にまで足を延ばすKAN-SENはそこまで多くはない。

 

考えられるのはメイドの二人、ネプチューンもしくはニューカッスルだ。

 

厳密にはネプチューンはメイドではなく給仕さんなのだが、大鳳にとっては同じようなものである。

 

ともかく、ネプチューンは艤装のメンテナンスでトリカゴを離れている。まずこの時点で、報告されるリスクは減る。

 

次の懸念であるニューカッスルだが、指揮官が自分のモノであることは譲るつもりはないが、彼女もまた彼に心を寄せている。だからこそ、そこを利用させてもらった。

 

ひとつやふたつ砂糖袋を拝借すれば、間違いなくあのメイドは指揮官に報告するだろう。

 

だが、全てぬす......持っていってしまえばどうだろうか。

 

普通なら報告する。しかし先も述べたが、ニューカッスルも指揮官を想うKAN-SENのひとり。何を言いたいのかといえば、彼女も指揮官に嫌な思いはさせたくないはずだ。

 

そう、例えば本部との連絡であるとか。

 

指揮官は本部と関わることは最低限にとどめている。大鳳も長門に積極的に会いたいかと言われれば、首を縦に振るのには時間がかかるので、気持ちはよく理解出来る。

 

癪ではあるが、ニューカッスルほど優秀なメイドであるならば、この事を考慮した上で彼に報告はしないと大鳳は読んでいた。

 

砂糖を手配するために、指揮官は本部に頼らないといけない。その行動は指揮官にとって厭わしいものであるはず、なら、報告せずにいた方が彼にとってもいいのではないか?

 

そして、この推測は寸分の狂いもなく当てはまる結果となった。

 

大鳳の中でのタイムリミットはネプチューンが帰ってきた時と考えていたが、この基地にはかなりの甘党がいることを彼女はまだ知らない。

 

しかし、そんな事は別に気にしなくてもいい。完成に至るまで指揮官にこの事で声をかけられることはなかったのだから。

 

にっくきアルバコアの言葉を借りるのならば、サプラーイズというやつである。

 

「あとは、指揮官様に渡すだけ♡」

 

とっておきの金平糖の袋詰めを完了し、時刻を確認する。

 

この時間なら、ちょうど執務が終わっているはずだ。オーロラは、仕事を時間通りに終わらせるように動く秘書艦、緊急事態でもない限り大丈夫だろう。

 

「さて」

 

あとは指揮官に褒めてもらうだけだと、金平糖の袋を胸の谷間の収納スペースに忍び込ませ、部屋の戸のノブを掴もうとした時だった。

 

「大鳳、いるか?」

 

ノックと愛する人の声が、大鳳の鼓動を揺らす。

 

間髪入れずに、大鳳は応答した。

 

「は、はい! 今開けますわ!」

 

扉を開けると、仕事終わりなのか少し軍服を着崩した指揮官がそこにいた。

 

「悪いな大鳳。忙しいだろうに」

 

「そんなことありませんわ! 指揮官様から訪ねてくださるなんて、今夜は大鳳をお求めですか?」

 

「んー、甘いものは欲しいかな」

 

「......っ!」

 

その一言で、大鳳は全てを理解した。

 

指揮官様は気付いていると。

 

「いつから......お気付きに?」

 

「実は今日なんだ。フォーミダブルから砂糖がないって連絡があってな」

 

「フォーミダブルさんから? あのロイヤルレディがどうして?」

 

「あー、まあ色々とな。本人に聞けばいいよ。で、だ。金平糖作ってくれてたんだろ? きっかけはトリオンファンからか?」

 

「は、はいそうです。指揮官様が金平糖を求めていると聞いて......これを」

 

先程しまった金平糖の袋を胸から取り出し、大鳳は指揮官に手渡した。

 

「胸に入るのかこれ......」

 

「うふふ。指揮官様ぁ、私の胸、気になりますか?」

 

「今は大鳳が作ってくれた金平糖の方が気になるかな。いただきます」

 

「あぁん。いけずぅ」

 

礼儀正しく指揮官は、食材への感謝を告げてから綺麗な小袋に入った金平糖を一つ手に取った。

 

ありふれてはいるが、だからこそ完璧な金平糖であり、薄紅色の彩色は重桜のさくらを想起させる。

 

とても、素人が一から作ったとは思いもしない出来だった。

 

見た目を楽しんでから、指揮官は早速その一粒を口にへと放り込んだ。

 

ほのかな甘みが口の中に広がり、疲れた体に糖分が染み渡っていく。

 

奥歯で噛み込むと、なんとも言えない金平糖特有の後味が味覚を幸福感で持続させていった。

 

「うまっ。すごいなこれ、お店にあるのとそんなに変わらないぞ。というか、よく手作りしようと思ったな」

 

「重桜から取り寄せることも考えましたが、指揮官様のお口に含まれるものなら、やっぱり大鳳の手作りがいいと思いまして。大鳳の作ったものが指揮官様の血肉となって、うふふふふふふふふふ♡」

 

「そっか。大鳳の作ってくれたものなら、喜んで食べるよ。この金平糖も貰っちゃっていいんだよな?」

 

「ええぜひ! 大鳳至極の一品ですわ」

 

ああ、よかった。指揮官様が喜んでくれた。嬉しい。

 

我儘を言うなら、もっとうんと褒めてほしかったけれど、卑しい女と思われたくはない。ここは我慢。

 

「ところでだけど大鳳、話を戻すんだが。トリオンファンにもだし、他の子にもちゃんと金平糖を分けるんだぞ」

 

「......わかりましたわ。指揮官様が言うのなら」

 

「ありがとう。あと、食糧備蓄庫の砂糖持っていっただろ? 全部使いきったのか?」

 

「いえ、一袋しか使ってませんわ。残りは奥にあります。どのくらい使うか検討もつかなかったので、とりあえず全て持っていこうと考えて」

 

出来る限りのカーテンで遮った理由ではあったが、指揮官は素直に大鳳の言葉を飲み込んだ。

 

「そういうことか。とりあえずよかったよ。フォーミダブルが限界みたいだったからな。指の次はどこを食われるかわかったもんじゃない」

 

「は?」

 

少し、いや、かなり聞き捨てならない。

 

指を? 食べる? 指揮官様の? ナニソレ?

 

「そんな騒ぐようなもんじゃないぞ? キャラメルあげた時に、ついでに指ごと口に含まれたっていう」

 

「......」

 

「大鳳?」

 

「指揮官様はあのロイヤルの小娘には指を食べさせるのに大鳳にはくださらないのですか?私はいつだってあなたの声が聞こえたあの日からあなたに尽くす事を決めてますけどそれでもむしゃぶりつくしたいと考えてしまって日夜我慢していますのにどうしてどうしてどうしてどうしてどうして......」

 

「赤城みたいになってるぞ大鳳!? 大丈夫か?」

 

肩を何度かぐらぐらと揺らされ、直に触れ合ったことによる指揮官成分を即座に補充することで、大鳳はなんとか己を取り戻した。

 

「はっ! ......だ、大丈夫です。少し我を忘れていましたわ」

 

「ふう、よかった。もしかしてだけど、大鳳もアーンされたいのか?」

 

「えっ......そ、そうです! 大鳳もあーんされたいです!」

 

なんならあわよくば、あはーんもしたいしされたい。

 

「へえ。みんな、アーンされるの好きなんだなあ。でも、手持ちに大鳳の金平糖しかないんだが」

 

「ぜんっぜん! 何の! 一切の問題もありませんわ! さあ! あーん♡」

 

「はいはい。あーん」

 

「あむっ!」

 

少しはしたないが、金平糖を投げ込まれるリスクも考えて大鳳は自分から指揮官の指を迎えに行った。

 

金平糖はこのさいどうでもいい、指揮官様の男らしさを感じる太い指をしっかりと味わなければ!

 

「あむっ......んちゅ...じゅる......ちゅっぱ......ふふ......(指揮官様のゆびおいひいいいいいいいいいいいい♡)」

 

「(......いやめっちゃ、指しゃぶってくるやん)」

 

指揮官も思わずエセ方言が出てしまうくらいには、大鳳は彼の指を味わいしゃぶりつくすと、淫らに染まった透明な糸を垂らしつつ、妖艶に微笑んだ。

 

「うふふ♡ 指揮官様ぁ、とっても美味しかったですわ」

 

「満足したか?」

 

「ええ♡ でもぉ、指揮官様はご満足して頂けてませんよね?」

 

「え?」

 

「とぼけなくてもいいのですよぉ? 私は指揮官様を味わわせていただけたんです。指揮官様もぉ、大鳳を味わいた──「貴方様」

 

最後までは言わせないとばかりに、冷徹に大鳳の言葉に割って入ってみせたのは、ロイヤルメイドが元統括ニューカッスルだった。

 

「ああ、ニューカッスル。執務室に行くよう聞いてなかったか?」

 

「ウォースパイト様から、大鳳様の部屋に向かわれた貴方様を迎えに行くよう、仰せつかっておりましたので。失礼ながらも、こうしてお声をかけさせていただきました」

 

「失礼もなにも、ここ私の部屋ですよ?」

 

「部屋の鍵が開いていましたので、入室しても問題ないと判断致しました」

 

「作法がなってませんわね」

 

「......精進させていただきます」

 

「まあまあ、ウォースパイトを待たせてるなら仕方ないよ。大鳳も、これからニューカッスルには説教しなきゃなんだから、そんなに強く当たらないでやってくれ」

 

「......へえ。指揮官様、私も執務室に行っても?」

 

「いいけど、見世物じゃないぞ?」

 

「ええ、わかっています」

 

いつもスカした態度のメイドが説教とは、面白いものが見られそうだ。

 

その原因をつくったのは、大鳳のせいではあるのだが、ニューカッスルは眉一つ動かさず、黙ってそれを受け入れている。

 

「......ふふっ」

 

逆に、まるでこれから先のことが待ちきれないと言わんばかりに、ニューカッスルは不敵に微笑むのだった。

 

 

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