金平糖砂糖消失事件、エンディングです
トリカゴ内、執務室。
ニューカッスルをはじめに部屋には見物人として大鳳、ロイヤル勢責任者のウォースパイト、本日の秘書艦オーロラが指揮官の口から出る言葉を、ただ静かに受け止めようとしていた。
「さて、ニューカッスル。お互い今日もお疲れなところ悪いが、俺もここを運営する人間だ。言うことは言わなければならないし、それ相応のペナルティも与えなければならない。わかるな?」
「......全て承知の上でございます。ただ、釈明の余地があるのであれば、私は貴方様のことを思ってそうしたとだけ」
「なるべく、俺が本部に手回しさせないようにしてくれてたんだろう?」
「さすがは貴方様。お気付きでしたか」
「ニューカッスルこそ、優しい気遣いをありがとう」
「もったいないお言葉です」
深々とニューカッスルが頭を下げる中、残された三人はアイコンタクトで意思疎通を図っていた。
「(これ、説教の時間よね? ニューカッスルの表彰会じゃないわよね?)」
「(そうだと思います......多分)」
「(はあ、セイレーンとの戦いで指揮を執る時はもっと堂々としてるのに......)」
「(でも、指揮官様のお優しいところ。好き♡)」
「(わかる)」 「(わかります)」
深く頷く二人。
その点に限っては全面的に同意しつつ、引き続き、事の顛末を見届けることにした。
「とりあえず聞くが。砂糖が無くなっていたことには気付いていたんだな?」
「はい、無くなった当日から気が付いておりました。相談することも考えはしましたが、貴方様の手を煩わせる事を考えると、私の努力でどうにかなると判断いたしました」
「(最近茶会の一品に甘さの控えたものが多かったのは、そういう......)」
彼女の努力は、ウォースパイトを誤魔化すことはできていたようだった。
フォーミダブルは、そうはいかなかったわけだが。
「なるほど......だが、いくら俺のことを考えての行動でも、物がなくなったのなら、食糧備蓄庫を預かっている身として帳簿にはちゃんと書き込むべきだし、俺じゃなくても他の誰かに、例えばウォースパイトに言いようはあったはずだ。違うか?」
「......仰られる通りかと。全ては私の責任です貴方様。どのような罰でも受け入れる覚悟は出来ております」
「反省してるならいいよ。元はと言えば、俺が悪いから、そこまで気にしなくてもいい。対処としては、ネプチューンとフォーミダブルにも食糧備蓄庫を任せることにした。それと、フォーミダブルに何か甘いものでも作ってあげてくれ。今回の一番の被害者はあの子だから」
「......かしこまりました」
またしても、ニューカッスルが腰を折ったところでアイコンタクトがはじまる。
「(フォーミダブル? あの子がどうして一番の被害者なのかしら?)」
「(今回の砂糖の件も、フォーミダブルさんの働きでバレたようですし......オーロラさんはなにか知っていて?)」
「(え、えっとー......そうだ。たまたま、マランさんとホットケーキを作ることになって、判明したらしいですよ)」
「(へえ)」 「(ふうん)」
「(......ほっ)」
どうにか友の秘密を守り抜き、心底フォーミダブルから発覚までの経緯を聞いておいてよかったとオーロラは一安心した。
一方、話はニューカッスルの処遇について切り替わっていた。
「さて、ニューカッスルに対する処分だが。どうしたものかな。正直に言うと、艦隊運営としては問題なだけで、俺個人としては助かったからな」
「傍から見ていて、私もあなたに同意よ指揮官。彼女は組織としては間違っているけれど、あなたに対してなら何も間違ったことはしていない」
ウォースパイトも口を揃えたからなのか、指揮官は小さく唸ってみせた。
「なんだよなあ......かといって、処分ナシも示しがつかないし......んー.....................」
指揮官の低い声が執務室に響く中、ニューカッスルは密かに口角を上げ、自分から手をあげてみせた。
「お悩みの貴方様に、私から処分につきまして意見の具申がございます」
「なにか、いい案でもあるのか?」
「二週間の秘書艦勤務処分はいかがでしょう?」
「「「(......は?)」」」
その場にいた指揮官とニューカッスル以外の全員......すなわち、見物人の三人は、一瞬思考が硬直した。このメイドは一体何を言っているのだと。
無理もない、二週間の秘書艦勤務とは要するに、二週間もの間、指揮官を独り占めできるということだ。
そんな羨ましい暴挙、到底指揮官に恋する彼女たちからすれば許せるわけがない。
しかし、指揮官の方はと言えば......
「なるほどなあ。でも、ニューカッスルはいいのか? 二週間も秘書艦なんて」
「今回、貴方様に誠意を見せるとなると。このくらいが妥当かと」
「確かになあ......」
「「「(いやいやいや!!!)」」」
首を縦に振りかけている指揮官とは裏腹に、見物していたKAN-SEN達の心境は穏やかなものではなかった。
国の垣根をこえての、アイコンタクト緊急会議が開かれる。
「(あの女! 最初からこれが狙いでっ! 道理で
「(詳しい話は聞いてないけれど、貴方が言えたことじゃないでしょう大鳳)」
「(ともかくです! このままじゃニューカッスルさんが二週間も秘書艦になっちゃいますよ! しかも、指揮官さんは私たちが嫌々秘書艦をやっていると思っているみたいですし......)」
そう、何よりも厄介でありニューカッスルが優勢であることを決定づける理由は、指揮官本人は秘書艦任務を夜間見回りと同等の任務と思い込んでいるところにある。
KAN-SEN達からしてみれば、半日は指揮官と一緒の空間にいられ、昼ごはんも一緒に食べられる。自分の出したお茶を飲んでもくれる。
特に指揮官と出会うのが遅かったKAN-SEN達にとっては、時間のアドバンテージを埋めるために、これ以上最高の任務があるのかと言わんばかりのものなのだ。
秘書艦任務の時、オーロラはいつも二本のバラの入った花瓶を置きに行くし、ウォースパイトは普段から早い起床時間がさらに早くなる。大鳳にとっては、朝に指揮官の部屋に行っても怒られない最高の日だ。
そんな誰もが羨む秘書艦任務を、二週間も独占など!
この時ばかりは重桜、ロイヤルとしてではなく一人の人間に惚れた女として互いに手を取った。
早速、ウォースパイトが動く。
「ちょっと、待ってちょうだい指揮官。少しそれは処分として重すぎるんじゃないかしら? 彼女の誠意を示すだけなら秘書艦じゃなくとも、戦闘に委託に、他にも見せようはあるはずよ?」
ウォースパイトのとった手段は表面上で言うのなら、部下を庇う上司の図である。部下思いな一面をアピールしつつ、ニューカッスルの減刑もできる至極の一手だった。
「......っ」
ニューカッスルも、これには口を挟めまいとウォースパイトは考えていたのだが、
「......いえ、貴方様。ここは組織の見せしめとしても、二度とこのような事がないように秘書艦勤務でよいはずです」
「んなっ!?」
あのニューカッスルが、私に逆らった!?
常にロイヤルのために最善を尽くし、今でこそベルファストがメイド長ではあるものの、影でロイヤルを支えてきたニューカッスルが!?
「(ウォースパイト様、しっかりしてください!)」
「(だ、大丈夫よ......)」
想像以上の精神的ショックはあったが、辛うじて指揮官もウォースパイトの言葉が耳に届いた様子だった。
「んー、けどウォースパイトの言うことも一理あるな。二週間は長すぎる。毎日毎日何時間も俺と顔合わせるの嫌だろ? 俺は嫌だ」
『(いやあ、全然)』
むしろご褒美ですと、その場にいたKAN-SEN達の心の声が重なり、ウォースパイトは加えてイメージの拳を高く上げていた。
「(よし! 指揮官の思考をずらせた!)」
「(今だけは貴方が味方でよかったと思いますわぁ)」
「(これで、大丈夫ですかね)」
ニューカッスルは優秀で従順なメイドだ。軽巡だが。
ともかく、指揮官の言葉は彼女にとっては絶対だ。彼にまで異を唱えることはしない、はず。
「......左様ですか」
「「「(......ほっ)」」」
ニューカッスルの目線が下がったことを確認し、安堵する三人。
「でも、二週間の秘書艦勤務は悪くない案だと思う」
「では!」
「(いけない!?)」
まさかのどんでん返しが来るのかと、ウォースパイトは頭をフル回転させ次の一手を模索し始める。
しかし、それは杞憂だったようで。
「ああ。この基地にいるKAN-SENはニューカッスルを除いて十三人、そして俺を足してちょうど十四、二週間になる。ニューカッスルはウォースパイトと一緒のことが多いし、レクリエーションとしても、罰としてもいいんじゃないか?」
「えっと......?」
「「「(あー、なるほど......)」」」
指揮官の言いたいことをなんとなく理解した三人は、とりあえずメイドによる漁夫の利は最低限に抑えられたことに、波のない勝鬨をあげるのだった。
*
「それで今日、小生は君と任務というわけか。一体何の嫌がらせかと思ったよ」
ニューカッスルの処分が決まってから数日。基地の食堂にて、カブールはエスプレッソ片手に金平糖の彩られたアイスクリームを食べながらボヤいていた。
彼女のすぐ横には、席に座ることもなくニューカッスルがメイドとして応対している。
「断られてもよかったのですよ?」
「指揮官が決めたのだろう? なら、小生は受け入れるさ。トリカゴに行けばトリカゴに従え。彼が言うのなら受け入れよう」
「その様でしたら。本日は不肖このニューカッスル、カブール様のサポートに尽力させていただきます」
ニューカッスルはカーテシーで本日限定とはいえ、カブールへの忠誠を誓った。
「よろしく頼むよ。しかしまさか、太陽を落とした国の使者が入れたエスプレッソを飲む朝が来るとは思わなかったよ。味も悪くない。失礼ながら、紅茶しか入れられないと思っていた」
「お気に召したのなら、なによりです」
「うむ。話は変わるが二週間、毎日主人を変えるのだろう? 指揮官は何番目にしたのかな?」
「最終日です」
「そうかい。君は好きなものを最後に食べるタイプか、覚えておこう。トップバッターは?」
「......カブール様です」
「だろうな。明日は大鳳か?」
「さあ、どうでしょうか」
ニューカッスルはとぼけてみせるが、半分答えを告げているようなものだった。
「......まあ、君が決めたことに文句はつけんよ。ただ、本日の任務の休憩時間でもいいから、ひとつお願いがある」
「なんでしょうか?」
「別に行くとは決めたわけではないのだが、ロイヤル流の茶会の作法を小生に享受願えないかね? 決して行くとは言ってないが、フォーミダブル主催のパンケーキの茶会とやらに、指揮官から顔を出すよう言われてね。行くとは言ってないがね!」
「......ふふっ」
「なんだね?」
「いえ、もしもう一度このような不祥事があれば、カブール様は四番目くらいにしようかと、そう考えただけです」
「ふっ、光栄だな......さて、美味しかった。本日の勤務といこうか」
「はい。お供いたします」
手早く食器を片付けながら、ニューカッスルは思った。
意外と、この罰も悪くないかもしれないと。
これは自分が望む平穏の一端には、間違いないと。
「(このような機会を与えてくださるとは。貴方様のことを、ますます好きになってしまいそうです)」
漁夫の利を狙ったメイドが釣り上げてみせたのは、光り輝く宝石ではなかったが、決してガラクタとも言えない確かな日常なのだった。
金平糖からはじまった甘党が苦しむだけのお話はこれで、おしまいです。
ちなみに、タイトルなんですが「金色ラブリッチェ」をもじったものだったりします。
あと、2本のバラの花言葉は「この世界は、あなたと私だけ」
フォーミダブルが勝手に甘党設定になってますが、びそく!37話から、カップケーキをつまみ食いしてたので甘いの好きなのかなあと想像を膨らませてこうなりました。