「んんッ、ではこれより防衛任務について説明する」
「………」
「………」
部屋の中は宛ら極寒の地であった。
小隊規模の人員が集まれる小さなブリーフィングルーム。長テーブルを囲み、沈黙する天音、刑部、ナインの三名。その三名の前に立ち、モニターを点けるセブン。しかし、どう見ても防衛任務前の空気ではない。明らかに、死んでいる、諸々が。
セブンは視線を泳がせ沈黙する三名――特にナインと天音を見て言った。
「……あー、何だ、皆、思うところはあるだろうが任務は任務だ、切り替えて欲しい」
セブンが懇願する様に、喉を鳴らしながら告げた。ナインはじろりとセブンを一瞥し、勤勉で物腰丁寧な――ある意味無機質ともいえるが――彼女には珍しく、やや感情的な口調で問いかけた。
「セブンさんは切り替えられるのですか」
「も、勿論だとも! 昨日休憩所で言ったと思うが私は公私の線別は確り引く、例外はない」
ナインの問いかけに対し、セブンは胸を張って早口で捲し立てた。ナインは「ふぅん」とも言いたげな表情で目を細め、ぽつりと呟く。
「そうですか、では任務中刑部さんの腕に引っ付いたり、無暗矢鱈と話しかけたりはしないという事ですね」
「えッ!?」
濁点の付いた「えっ」だった。セブンは「まさかそんな事、えっ、ありえるの? いや、駄目だよそんな事」とも言いたげな表情で、途端にちらちらと刑部を見た。明らかに吹っ切れていない、というか公私の区別がついていない。私一色である。ナインはそれ見た事かとばかりに溜息を吐き、額に手を当てた。
「……全然線引き出来ていないじゃないですか、このポンコツ軍事人形」
「今更だけれど、ナインって結構辛辣だよね」
「仕様です」
「絶対嘘だ」
こんな辛辣仕様の機械人形がいるものか。
「――ですがまぁ、今更言っても詮無き事、任務に支障をきたしてはいけませんから、セブンさんがちゃんとしてくれさえすれば何も言いませんよ、えぇ、【私は】」
ナインはそう告げ澄まし顔。最後の言葉に何やら含みを感じたが、刑部は狼狽するセブンを窘めながら残りのメンバーに目を向けた。
「因みに天音は――」
口にし、デスクにうつ伏せになった彼女を見た。一目でわかる、「駄目そうか」、思わずそんな言葉が口をついた。頭上に雨雲を幻視する、これは復活に時間が掛かるに違いない。
「……いえ、ちゃんと、話は、聞きます……聞きます、よ」
しかし天音は腕を枕にした状態で、下から覗き込むようにして唸った。その視線に晒された刑部は冷たい汗を背中に感じながら頷く。
「そ、そうか」
物凄い怨念の籠った声だった。きっと気のせいではない。
セブンは刑部に、「きちんと任務をこなすセブンさんが見たいなぁ、格好の良いセブンさんが好きだなァ」と発破をかけられ、「えっ、そ、そうか? じゃあ任務頑張っちゃおうかな、寂しいけれど、仕方ないよな、任務だもんな!」と奮起した。
ちょろい。
咳払いをし、再び我を取り戻したセブンはやや申し訳なさそうな表情で二人に告げた。
「う、うむ、何というか……すまないな、二人とも」
『謝る位なら最初からやらないでください』
二人の声が綺麗に揃う。
「ぎ、刑部ぅ、天音とナインが私を虐めるー……!」
セブンは涙目になった。
■
「さて、気を取り直して――私達の初任務、初めての防衛任務だ、気負う必要はないが十分に気を引き締めて臨んで欲しい」
セブンが先程とは打って変わって、真剣な様子でそう告げる。ナインは変わらず能面の様な表情で話しに聞き入り、天音はどこか雨雲を背負いながらも涙目でセブンを見ている。心なしかセブンは天音の方を見ない様にしている風に見えたが――まぁ概ね、何とかなった。
先程と比べれば雲泥の差だ。
「皆昨日の内に送信していた内容には目を通してくれていると思う、故に今日の説明は最終確認を兼ねた細部についてだ、時間帯、場所などはデータの通り、後は我々の隊列と配置等だな」
セブンはそう言ってモニタにウォーターフロントのマップ情報を映し出した。巨大なメガフロートは幾つものブロックに分けられ、細かく分類されている。
「我々の担当はウォーターフロント外郭三十四番と三十五番、兵装は一任しているが場合によっては配置コンテナから兵装の換装を行え、これは各外郭に設置されている予備兵装だ、弾薬が無くなった場合、或いは兵装に不調が起こった場合の保険だな――ナインは狙撃兵装の類が昨日確認されなかったが、準備は?」
「完了しています、既に主兵装の突撃銃をロングレンジライフルに換装済です」
「宜しい、なら後は
セブンの言葉に刑部は脳裏で組み分けを思い描いた。
「えぇと、俺とナイン、セブンさんと天音、ですか」
「そうだ」
頷くセブン。ナインは少しだけ驚いたような表情でセブンを見た。未だその視線は冷たいが、やや態度が軟化している様に見える。
「……てっきり自分と刑部さんを同じ組にすると思っていましたが、存外真面目なエレメントですね」
「だ、だから公私は確り線引きすると言っているだろう!」
顔を真っ赤にして、言い訳する様にセブンは叫んだ。
無論、嘘である。
この女、つい先ほどまで自分・刑部ペアでエレメントを構成する気満々であった。
刑部が「セブンさんの、ちょっと良いとこ見てみたい」をしていなければ何の臆面もなく自分と刑部のエレメントを発表していただろう。セブンは喉を鳴らし、やや赤らんだ頬を隠す様に続けた。
「んんッ! 兎角、これが恐らくベストな組み分けだ、私と刑部は重装型である以上機動力に難がある、その代わり火力が積めるからな、この二つのASを主軸に軽装かつ前衛を任せられる逆関節型と軽装二足歩行型を配置した」
刑部のASは四脚型、そしてセブンは重装二脚型。どちらも火力に富んだ機体である。防衛任務という性質上、必ずしも前衛・後衛の組み合わせが必要とは言えないが――自分と刑部をエレメントにする際はこの論法で押し込もうと考えていた――オーソドックスな組み合わせを守るというのもまた大切な事。万が一ウォーターフロントに上陸された場合の生存率が違う。故に、この組み合わせ自体は真っ当なものだ。
「私と天音さんを逆にしなかった理由は?」
「
「……成程、最悪の場合は盾にもなりますし、万が一の場合は人間だけでも、という組み合わせですね」
「そうだ」
セブンは寸分の躊躇いもなく頷いた。ナインは彼女の提案に賛同し、頷いて見せる。
「合理的判断です、賛成します」
「……私も、まぁ、セブンさんと刑部君が別々なら」
「おいおい」
天音、本音が漏れているよ。刑部は未だに死んだ目でセブンを見つめ続ける天音を見て思った。
「ではエレメントはこれで決定とする、各自ハンガーに移動、ASに搭乗・装着し待機せよ」
「了解」
是が非でも天音の方を見ようとしないセブン――心なし視線が泳いでいる――の言葉に返事をし、刑部とナインは席を立った。後はハンガーに向かって待機するだけだ。出撃を控えた新兵に、経験者であるセブンが緊張を解き解す為に笑って言った。無論、天音の方は見ずに。
「万が一、などと言って脅したが此処はウォーターフロントだ、人類最後の砦に相応しいだけの備えはある、私達はただ海と空に目を光らせれば良い――頼んだぞ」
雨にも負けず、風にも負けず。
若干ツンデレながらも病み気質の幼馴染を持ち。
「ど、どうせアンタの事貰ってくれる女なんていないし? しょうがいないから私が貰ってあげるわ!」と常日頃罵られ。
ならばと一念発起し彼女を作り、それなりに上手く関係を築くも。
当の幼馴染は日に日に窶れ、「どうして」だとか、「私の事、嫌いになったの……?」と問い。
ある日突然幼馴染の家に呼ばれ、「最近は互いの家に行き来する事もなくなったのに、一体どうしたのか」と疑問に思いながらもホイホイとお邪魔し。
どこか肌が荒れ、やつれた幼馴染にアイスティーを出され、昏睡し。
気付いた時には既に事を終えた幼馴染に、「責任、とってくれるよね?」と迫られ。
気付けばいつの間にか結婚し、二児の親となり夫婦円満な家庭を築いていた。
そういうものに、私はなりたい。(迫真)
追記:タイトルを「四脚を駆る」から「鉄屑人形」に変更しました。
本編を書いている最中、とあるキャラの台詞で使ったら思いの他しっくりきまして。