「天音さん」
「………」
場所はいつぞや作戦会議を行ったブリーフィングルーム。人目を避け、密談に向いた場所を探した結果、此処に辿り着いた。天音は深く椅子に座って額を手で覆い、ナインは壁に背を預けたまま痛ましそうに項垂れる天音を見ていた。ぐるぐると、蓮華に告げられた言葉が頭を廻る。天音は暫くそうやって項垂れた後、ぽつりとナインに問いかけた。
「ナインはさ、どう思った」
「どう、とは」
「さっきの話」
ナインは口を噤んだ。ややあって、歯切れ悪く答える。
「……先の話が事実とは限りません、ただ出鱈目を並べた可能性もあります」
「本当にそう思うの? 私はあの人が、真実を言っている様に聞こえたよ」
ナインの返答に、天音はやや苛立ったような口調で告げた。髪を掻き上げ、眉間に皺を寄せた天音は拳を握る。
「じゃなきゃ、私達がFOBで見た光景はなんなの? 突然あんな、感染体が押し潰される様に死んで……私達の居た場所だけじゃない、FOBを取り囲んでいた飛行型も、水上型も、全て『圧死』していた、あんなの普通じゃない」
「………」
その通りだ。ナインは言葉を紡がず、内心で同意した。ナインの見たあの光景と蓮華の言っていた言葉は矛盾していない。寧ろ、彼女の言葉は、その蓋然性を高めていた。
天音の顔がくしゃりと歪んだ。掻き上げた髪を掴み、デスクに肘をついた彼女は低く唸る様に呟く。
「っ、何が人の命は大切よ、どの口でそんな言葉を言っていたの? こんな……こんな非人道的な兵器を今まで隠してきたというのに、使う度にあんな、酷い苦痛に苛まれて、その果てが廃人? そんなの、納得できる筈がないでしょう……!?」
ぎりと、噛み締めた歯の軋みが耳に届いた。天音はその身に余る怒りを持て余し、憤慨している。ナインにも気持ちは理解出来た、しかしそれを抑え込むだけの理性が彼女にはあった。少なくとも面に出さず、堪え切る程度には。
「ならば如何しますか、刑部さんの手を取って、逃げますか」
「それは――」
天音はナインの言葉に言葉を返そうとして――口を噤んだ。出来ないと思ったからだ。脳裏に家族の顔が過る。自分が愛しい人の手を取って逃避行をするとして、残された家族はどうなる? 漸く内側に家を得た家族は――再び外側へと蹴り出される事になるだろう。それに、逃げるとしても一体どこに逃げるというのだ。世界はもう、感染体に覆われ始めているというのに。
「機械人形ならば兎も角、人である身で大陸に渡るのは危険です、それに貴重なAS乗り――そしてあの様な兵装の適者である刑部さんを、委員会が無防備に管理しているとは、とても」
「ッ、分かっているわよ、そんな事……!」
ナインの冷静な口調に、天音は苛立たし気に答える。そうだ、手を取って逃げるなんて事は出来っこない。そんな事が許されるのならば、そもそもDブロック出身の連中が試みている筈だろう。あの、蓮華とかいう女性だってそうだ。出来るのならばやっているのだ、出来ないからこそ彼は此処にいるのではないか。
「でも、だからって……黙って見ていろって言うの……!」
「………」
天音は無力感に震える。怒りと、悲しみと、理不尽な世界に対する憤り。天音は暫くの間肩を震わせ、暴れ出しそうになる衝動を堪えた。そして、背後のナインに向かって問いかける。
「ナイン、こんな事を考え付いた奴は、上層だと思う?」
「……いえ、上層部には機械人形も在籍しています、少なくとも人間がこの様な兵装を扱うと聞けば表立って賛同はしないでしょう、無論、自ら使わせようなどと言い出す事も、であれば発案者は――」
「――四十人委員会」
ナインの言葉を遮る様にして、天音が呟いた。
「全員が人間だからこそ、平然と切れる手という訳ね」
「天音さん」
どこか覚悟を孕んだ口調で呟く彼女に、ナインは思わず声を掛けた。何か、良くない事を仕出かすのではないかという疑念と不安があった。天音はナインの方を振り返らず、淡々とした口調で言った。
「別に、何をしてやろうという訳ではないわ、ただ――」
言葉を切り、一度俯く。そして再び上がった彼女の表情に刻まれていたのは、酷く歪な冷笑であった。
「どうしようもなく、苛立っただけよ――此処のトップと、何も出来ない自分自身に」
■
藤堂刑部が部隊に復帰したのは、FOB襲撃から凡そ二週間程経過した後の事であった。
刑部が部隊へと復帰した当日。セブンよりミーティングルームへと呼び出されていた刑部は部屋に入るなり二人の影に飛びつかれる事となる。
「刑部ッ!」
「刑部君!」
思わず蹈鞴を踏み、突っ込んできた二人を受け止める刑部。言うまでもなくセブンと天音の両名である。刑部は苦笑を浮かべながら抱き着いてきた――というよりは最早タックルに等しい勢いであったが――二人の頭を撫でつける。久々に抱きしめた二人の体からは確かな温もりがあった。
「あはは、御無沙汰です……あっ、ちょっと、匂いは恥ずかしいので嗅がないで下さい」
「ふぐッ、二週間ぶり、二週間ぶりの刑部君……!」
「くぅッ、これだ、これが欲しかったのだ……!」
「俺は麻薬か何かですか」
セブンと天音の両名は胸なり腹なりに顔を埋めて何事かを呟く。刑部は内心で相変わらずだと辟易としながらも、そんな感情を表に出す事無く唯一後方で此方を眺めるナインに笑いかけた。
「ナインも、ただいま」
「……はい、お帰りなさい、刑部さん」
柔らかい笑みと共に刑部を迎えるナイン。珍しい、刑部は彼女の微笑みを見つめながら思った。普段余り笑わない者が笑うと、少し得した気分になれる。
「ふぅ……刑部、もう体は大丈夫なのか?」
「えぇ、御心配をお掛けしました」
胸元に顔を埋めていたセブンが満足気な息を零し、それから顔を上げ問いかける。刑部はそれに確りと頷いて見せた。
「あー、あの、刑部君、その……FOBで使った、兵装についてなんだけれど」
天音は腹に顔を突っ込んだまま、どこか言い難そうに顔を上げ呟いた。刑部は一瞬口を開きかけ、それからゆっくりと首を振る。その表情はどこか申し訳なさそうであった。
「ごめん、あれについては俺から話す事は出来ないんだ」
「そっか、うん……そう、だよね」
その返答に天音は一瞬だけ目を伏せ、それから下手糞に笑って頷いた。分かっていたことだ、天音はそれ以上踏み込むことをしなかった。ナインはそんな天音を横目に見ながら、しかし確りとした口調で告げた。
「……兎も角、どうであれ私達はあの兵装によって救われました、FOB1も絶望的な戦況から盛り返し、何とか占領されずに済んでいます、すべて刑部さんのお陰です、ありがとうございます」
「あぁ、いや、そんな……礼を言われるような事じゃないよ」
深く頭を下げるナインに対し、刑部は手を振る。あれは、自分が好きでやった事だ。誰かに感謝されたいとか、『救ってやった』と上から物を言う為に取り出した訳ではない。だから藤堂刑部にとって、その手の礼は必要ない。
そう口にすれば、ナインは「そうですか」と素っ気なく感じる程に淡々と呟き、それからゆっくりと顔を上げ、真正面から刑部に睨みつけた。
「であれば――二度とあの兵装は使用しないで下さい」
ナインが断ずる。それは強い――余りにも強い感情を伴った言葉だった。刑部が思わず面食らい、またナインだけではなく天音とセブンも同じような視線で己を見ている事に気付き、視線を左右に泳がせる。
「あの兵装が凄まじい威力を発揮する事は、この目で確認しました、そしてその上で、『何故刑部さんが開幕であの兵装を使用しなかったのか』――その理由も、理解しているつもりです」
「……参ったな」
思わず、口から出た言葉だった。刑部は未だ服を掴んで離さない天音、手を伸ばせば届く距離に佇むセブンを見る。二人はナインの言葉に同意する様に、頷いて見せた。
「今後は私達も事前準備を万全にし、更に訓練を積みます、貴方を危険に晒さない様に全力で取り込むつもりです、これは皆で決めた事です」
「そうだ、刑部、あの兵装は体に途轍もない負荷が掛かる物なのだろう?」
ナインのそれから続き、セブンから放たれた言葉に刑部は困ったように笑うだけ。胸元で天音が強く服を掴み、その額を押し付け絞り出すように言った。
「……私は、刑部君の苦しむ姿を見たくないよ」
「天音」
「それはセブンさんも、ナインも同じの筈――それとも、私達が信頼出来ない?」
天音は視線を上げる事無く、心細そうに、悲しそうに、そう言う。刑部は一度ナインを見た、そしてセブンに視線を移し――溜息。その瞳に宿る光の強さに、絶対に退かないという覚悟を見たのだ。少なくとも刑部が此処で首を縦に振らなければ絶対にこの部屋から帰してはくれないだろう。そんな未来を易々と想像させる程度には、情熱的で、昏い覚悟を孕んでいた。
刑部は両手を軽く挙げ、言った。
「……分かりました、自分の一存で発動する事は、もうしません、少なくとも死ぬ間際にならない限りは」
「! そ、そうかっ」
その言葉を聞き、セブンを含めた三名が喜色を滲ませる。そこには刑部の安全を掴み取った安堵の色が強く見えた。喜ばせた手前、口にするのは心が痛い。しかし刑部は心を鬼にして、「ですが」と続けた。
「御上からの命令で発動する場合は拒めません、その場合についてはご容赦頂けると」
「それは……そう、だな」
命令には、逆らえない。刑部のその言葉に喜色を滲ませていた三名はやや表情に翳を差し、目を伏せる事しか出来なかった。
■
「セブンさん、FOB1はあれからどうなっていますか?」
一息置き、デスクに座った刑部は真面目な表情でセブンに問いかけた。皆の視線の先、モニタの傍に立ったセブンは腕を組み、難し気な顔で答える。
「感染体に占領される事はなかったし、その後警邏隊の再編も行われたが……再稼働は困難だろうな」
再稼働は困難、それが前哨基地の現状である。セブンは予め用意していたのか、モニタの電源を入れると自身の端末と接続しFOBの見取り図を表示した。以前のミーティングでも使用したものである。3Dモデリングされたデータは上から見下ろす形で画面を切り替え、その幾つものブロックが赤い色で塗り潰された。
赤いそれは破損具合を示すもの。そして前哨基地の半分近くがその赤で染まっている。
「メインプラントの被害は甚大だ、内部に入り込んだ感染体が暴れたせいで各設備にも少なくないダメージがある、特に電源がボロボロだ、内部のバックスはほぼ全滅、サブプラントが軒並み破壊されているのも痛い、復興には時間が掛かるだろう、資材輸送ルートも安全とは程遠い、その間に攻勢があったら今度こそ防ぎきれまい、あの大攻勢を凌げただけでも儲けものだったと考えるしかないだろうな」
「ウォーターフロントは事実上、FOB1を放棄するしかない……という事ですか」
「それが委員会の決定だ」
セブンの声にはやや強張った色が含まれていた。それが感染体に向けられたものなのか、或いは別な部分に向けられたものなのか、刑部には分からない。
「当面はFOB1がカバーしていた範囲の警邏を増やし、やり過ごすしかない、水上型の連中の仕事が増えるが、仕方あるまい」
「俺達の任務はどうです?」
「大して変わらん、ウォーターフロントの警邏隊だ……だが、前よりも感染体の侵入は増えるだろう、特に水上型には注意しろ――そうだ、刑部にはまだ通達していなかったな」
セブンはそう言って手元の端末を操作し、画面を切り替えた。
「新たに発見された感染体だ」
告げられ、刑部の目がディスプレイに向く。そして其処に映り込んだ感染体の姿を目撃し、思わず目を見開いた。
「ッ、これは……」
「前回のFOB侵攻にて、ウォーターフロントから出撃した水上型ASの記憶領域に残っていた感染体だ、防衛線を敷いていた連中はコイツに食い殺された――上層部が解析、スキャニングによるモデルを作成したもの、それが是だ」
モニタに表示された感染体――一目見た瞬間の感想は、デカい。
余りにも巨大で凄まじい威容を誇っており、その巨躯は下手をすれば小型のプラントにも匹敵するのではないかと思う程。脇に表示された比較対象のASが小さなブリキ人形の様に見えて仕方なかった。全長は――どれ程だ? 少なくとも中に戦車を十台、二十台並べた程度では埋まるまい。セブンは涼しい表情でモニタを見つめ、言った。
「DADネーム『エイハブ』、巨大だろう? 恐らくモチーフは鯨だ、しかも通常のそれよりも体躯が大きい、スキャニングされたコイツは全長が五十メートル近い、解析班によると『陸上型の輸送、及び未発達の生産拠点』となるらしい」
「輸送、それに生産ですか――まさか、FOB内部の未発達は」
「そうだ、コイツが送り込んだ、私は飛行型が運んできたと思い込んでいたが……もっと巨大な、輸送機が存在したという事だ」
あの、FOB内で遭遇した異様な数の未発達。内部発生であれ程の数を賄う事はまず不可能、であれば何かしらの手妻があったと考えていたが――成程、この様な移動生産拠点とも呼べる存在がいるのであれば納得できる。
「移動する生産拠点とでも言えば良いのか、体内に多量のデイ・アフターを保有していると推測される、喉頭から太い管の様なものを射出し、ASごと捕食してくるという報告もある、死骸を取り込み未発達の材料とし、その管で建物内部にすら感染体を送り込める、非常に厄介な敵だ……見ろ」
画面が切り替わり、穴の開いた床部と腐乱した死骸が転がる写真が映し出される。刑部はそれを見て、思わず顔を顰めた。
「FOBの下層ブロックで撮影されたものだ、多重構造の防護床がものの見事に抜かれている、恐らくエイハブの管によるものだろう」
「……此処から未発達を送り込んでいたという事ですか」
そうだ、と頷き肯定するセブン。刑部は難しい表情を浮かべたまま、悔し気に呟いた。
「俺の『アレ』でも仕留めきれませんでしたか」
「……いや、恐らく感染体を全て送り込んだ後は『潜行』し、FOBから離れたのだろう、その後の調査でも行方は分かっていない、肉片一つ見つからなかったからな」
「そうですか……」
範囲外に逃れられたのならば流石にGSと言えどどうしようもない。潜航し海上型ASにも気取られずメインプラントに取り付き、感染体を送り込める拠点に等しい敵。それもこの様な巨躯で。
「厄介な感染体ですね」
「そうだな……深海から侵攻して来る感染体はコイツが初めてだ、別途対策が必要となるだろう、海中探査機や機雷の設置、ソナー等の整備が急がれる」
「委員会からの要請により
「それだけ脅威って事、か」
セブンの言葉を引き継ぎ、語るナインの口調に頷く。アラートが設定されるという事は最優先殲滅目標という事であり、それだけ重要視されている証である。現在、アラート設定されている感染体は二体。そして今回、エイハブが三体目となった訳だ。然もありなん、この感染体は危険が過ぎる。
「一度に百近い未発達を送り込まれてみろ、地形の有利でもなければ一気に押し込まれる、しかも海上戦ではどこから来るかも分からないと来た、上層の解析では外皮の硬度は
「えっと、なら一体どうすれば良いんですかね……?」
天音が心配げにそう問いかければ、腕を組んだままセブンは答えた。
「火砲か、若しくは連射砲の弾倉をカテゴリーA――AP弾辺りに換装するか、或いは支援兵装でHEAT弾を持ち込むか、兎に角重装甲を撃ち抜ける貫通力が欲しいだろう、しかし出現するかも分からない敵を相手に悪戯に重装化するというのは聊かリスクが大きいな」
「遭遇した場合、遅延行動に注力し増援を待った方が良いのでは? 遅延行為のみならば、恐らくそれほど弾薬や専用兵装を持ち込む必要はないでしょう」
「……まぁその辺りは上層と委員会の判断が全てだ、近い内に対エイハブ兵装や部隊の編成が行われる筈だからな」
セブンは渋い表情で呟く。エイハブと遭遇した場合、小隊規模での討滅はまず不可能だろう。そうなるとそもそも対エイハブ用の兵装を小隊規模で備え、準備する事自体無駄に思える。となれば組織的な運用が不可欠。その辺りの判断は上層と委員会が行うだろう。小隊一つが対策を講じたところでどうなる訳でもないのだ。
「さて、説明は以上だ――お前の居ない二週間の間、私達は警邏隊として活動していた、暫くは同じだろう、上層部は敵の第二次侵攻作戦がまた近い内に行われるのではないかと疑っている、戦力拡充は急務だ、故にこれ以上の損失は認められない」
「他のFOBにも攻勢が掛かると?」
「FOBならば良いさ、最悪このウォーターフロントに大挙して来るやもしれん……最悪の想定だがな」
ウォーターフロントに感染体が大挙して押し寄せる、その光景を想像するだけで怖気が走る。刑部は腕を擦り、セブンの言葉に対し首を横に振った。もし、あのFOBに勝る攻勢がウォーターフロントに仕掛けられたとしたら――防ぎきれるのか? 答えは、分かり切っている様に思う。
「――既に結末は決まっている、か」
ナインが俯き、何事かを呟いた。
「ナイン、何か言った?」
「……いいえ、何も」
天音が小声で問いかけ、ナインは目を瞑って首を横に振った。答えは、ナインの中だけに秘められた。
「取り敢えずこんな所か……あぁ、そうだ刑部、これを渡すのを忘れていた」
セブンはモニタの電源を切り、それから思い出したように懐へと手を入れる。刑部が疑問符を浮かべると、何やら小さな小箱の様な物を目前に差し出された。恐る恐る受け取る刑部、箱自体は軽く、妙に肌触りが良かった。傍目から見ても高級感が溢れる、中に何が入っているのか想像もつかない。刑部は軽く箱を眺めた後、問いかけた。
「……これは、何です?」
「勲章、だそうだ」
「はぁ、勲章ですか」
声はどこか他人事の様であった。無造作に手のひらサイズの箱を開け放つと、中には華に似た形をした煌びやかな勲章が入っていた。金色で、細工は美麗の一言、輪に通った掛け紐でさえ高級感溢れる。刑部はそれを見て、何とも言えない表情を浮かべた。手の中に納まったそれが虚栄の証に見えて、仕方なかったのだ。
「そうだ、金翼大綬章……埃を被った慣例だが、貰えるものは貰っておけ」
「……どうせなら、新型の兵装だとか装甲の方が嬉しいですね」
「違いない」
刑部の一言にセブンは笑みを浮かべ、ナインや天音ですら同意する様に口を緩めた。
こんな物に金を掛ける位なら、装甲の一枚でも生み出せば良い。若しくは、どこかの倉庫から引っ張ってきた骨董品なのかもしれないが。それにしては良く磨かれていて、光る物だと内心で吐き捨てた。
「……先の戦闘で生き残ったFOB警邏隊は少ない、ウォーターフロントからの派遣隊もな、特に刑部の兵装について緘口令は敷かれていないが、同時に上層や委員会からの説明もない――これが何を意味しているのか私には分からない、だがお前は変わらず私の大切な人間で、仲間だ」
「……えぇ、ありがとうございます、セブンさん」
その、暖かな言葉を聞けただけで十分だ。刑部は小箱を閉じ、そっと抱く様に握り締めた。
「よし、今日はこの位で良いだろう、態々集まって貰ってすまないな、明日の任務に備えて英気を養ってくれ――以上、解散!」
セブンが手を叩き、解散を宣言する。皆が立ち上がり、刑部の傍には天音が駆け寄った。
「あ、あの、刑部君、調子が悪くないのなら、これから一緒にご飯とかどうかな?」
「うん、勿論」
腕の端末に目を落とす。そろそろ時間帯的には昼に差し掛かる頃だった。食事をするには少し早いが、腹は十二分に空いている。刑部は退出しようとするセブンとナインに目を向け、声を掛けた。
「あの、ナインとセブンさんも一緒に」
「あぁ、すまない刑部、少々所用があってな、有難いが今日は遠慮しておこう」
「私も、少し調べる事があるので」
セブンは申し訳なさそうに、ナインはやや事務的な口調で刑部の誘いを断った。断られた刑部は一瞬意外そうに眼を瞬かせ、しかし用事があるならば仕方ないと笑顔で二人に頷いて見せた。
「そうですか……分かりました、それではまた」
「お先に失礼しますね」
刑部は天音を伴って退出する。セブンはその背中を眉間に皺を寄せて見送った。本当なら一緒に居たい。正直に吐露するなら、抱きたい。けれどそれはまだ許されない。惜しむ感情を押し殺し、セブンは自身の傍に居たナインに告げる。その声は低く、まるで獣が唸る様な響きを伴った。
「――ナイン、少し……話がある」
「……奇遇ですねセブンさん、私も丁度、話したいと思っていたところです」