ハイスクールD×D 雷帝への道程   作:ユキアン

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私は何も見ていない

 

レーティングゲームをやることになった翌日、泊まり込み用の物を用意してオカ研メンバーで向かったのはグレモリー家が人間界で所有する別荘が建ててある山の麓だ。ここまでは転移で一瞬で来たんだけど、ここからは特訓の為に山登りだ。

 

私は一番鍛えないといけないので部長と朱乃さんの荷物も担いでの山登りだ。ただ気になるのは白音ちゃんだ。普通のスポーツバッグの他に、中に何も入っていないもの凄く大きな籠を背負っている。不思議に思っていたのだけど、すぐに謎は解けた。

 

山登りを始めてすぐに白音ちゃんは脇道に突撃し、少し進んだ先で合流して、また少し進むと脇道に突撃して、また少し進んだ先で合流するのを繰り返す。そして戻ってくる度に籠に色々な物が積まれているのだ。茸や山菜に始まり、頭が陥没して死んでいる猪や首をへし折られた鹿などが次々と籠に納められていき、いっぱいになると2個めの籠が出て来た。

 

「山の幸が取り放題です」

 

部長達は見慣れているのか特に何も言わない。体力のないアーシアは気にする余裕がないようだ。出来れば私もそっちが良かったな。そう考えながら現実逃避をする。うん、兎の親子らしき物を血抜きしている白音ちゃんなんて見ていない。というか、もしかしてアレが合宿中の食事の材料ですか?

 

現実逃避の為に空を見上げる。山の天気は変わりやすいと言うけど、本当に小さな雲が一つ浮かんでいる程度の快晴状態なら雨の心配はないだろう。

 

別荘にたどり着いた私達は部屋の割り振りをして着替えた後、ブリーフィングから始める。朱乃さんが冥界で使われている、DVDの様な物と映写機を持って来る。

 

「これから見るのは、昨年のレーティングゲームの中で、私達の対戦相手であるゼオンの使い魔、シュナイダーが最も活躍したゲームの記録よ。見ている途中でも良いからガンガン意見や感想を言って頂戴」

 

部長がそう言ってから映し出された映像には白いスーツに白いマントを纏ったゼオンが、一頭の逞しい馬に跨がっている映像だった。

 

「この馬がシュナイダーよ。並の上級悪魔よりも強い魔獣でゼオンが育て上げた相棒、そしてゼオンの言葉を借りるなら突然変異体よ」

 

『行くぞ、シュナイダー!!ディオ・エムル・シュドルク!!フェイシュドルク!!』

 

映像の中でゼオンがそう叫ぶと同時にシュナイダーの身体に変化が起こる。一瞬で身体が一回り大きくなり、炎で出来た鎧を身に纏い、鋭い角が生える。

 

「これはシュナイダーの戦闘での基本形態だと思って良いわ。見ての通り、身体が大きくなって力も強くなる。そして炎を自在に操り、空を駆ける」

 

シュナイダーが駆け出し、ゼオンもいつの間にか雷の大きな剣を握って相手に突撃している。シュナイダーはもの凄く速い。小回りは悪いみたいだけど、そこは炎とゼオンがマントと剣でカバーしている。

 

「あの炎って、自由自在に操れるんですか?」

 

「そうよ、確かこの後に、ほら」

 

『ウォール!!』

 

『メルメルメ~!!』

 

「「へっ?」」

 

シュナイダーが炎を広げて壁を発生させているけど、私とアーシアは別の事に気を取られてしまった。

 

「今のがシュナイダーの鳴き声よ。気にしてるみたいだから出来れば笑わないであげてね」

 

「は、はい」

 

「分かりました」

 

その後もゼオンの指示で炎を色々な形に変えて敵に対処していき、相手が炎に対処し始めた頃にそれは起こった。

 

『ディオ・ジキル・シュドルク!!』

 

炎が散っていき、風がシュナイダーを包み込んでいき、鎧の形が変化する。

 

「これは風を操る形態よ。他にも雷と氷を操る物もあるわ。それから見ておいた方が良いのは、シュナイダーの全力よ。今回のゲームでは使わないけど無理をすればそこまでの力が出せるってことは覚えておいて損はないはずよ」

 

しばらく戦闘が続き、相手側に大きな魔法陣が現れ、そこから巨大な龍が現れる。シュナイダーとゼオンは怯む事無く龍に突撃し、弾かれている。そして強烈な翼での一撃がシュナイダーとゼオンを捉える。ゼオンは吹き飛ばされる途中にシュナイダーから飛び降りて追撃のブレスをマントを広げて防御している。というか、どこまで伸びるんだろう、あのマント。

 

シュナイダーは地面に叩き付けられて、角と鎧がボロボロになっている。それでも立ち上がり、ゼオンの傍に駆け寄る。

 

『シュナイダー、下がっていろ。アレの相手はオレがする』

 

『メル!!』

 

シュナイダーはそれを嫌がる様に首を横に振っている。

 

『お前はまだエクセリオ・シュドルクとフェイ・シュドルクを同時に使えないだろう。どうやってアレと戦うつもりだ?』

 

『メルメルメル!!』

 

『シンを使うつもりか?アレはこんなゲーム如きで』

 

『メル!!』

 

シュナイダーがゼオンの腕に噛み付く。そんなシュナイダーの目を見てゼオンが微笑む。

 

『そうか、お前にとっては重要な事なんだな。良いだろう、サイフォジオ!!』

 

ゼオンの頭上に聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)と同じ光を放つ、剣が現れ、それがシュナイダーに突き刺さると傷が癒えていく。回復魔法まで使えるんだ。

 

『オレは、止めないし手も貸さない。周りの奴が邪魔をしない様にはしてやる。一騎打ちだ。お前が冥界最強の使い魔である事を示せ。シン・シュドルク!!』

 

『メルメルメ~~~~~~~!!!!』

 

元の姿よりも一回り大きかったシュナイダーの身体が更に大きくなり、鎧はより鋭利に、角はより太くて大きく、そして後ろ足の付け根にブースターの様な物が付く。

 

『駆けろ、シュナイダー!!』

 

『メルメルメ~~!!』

 

走り出したと思った次の瞬間、龍の頭が跳ね上がる。真下に潜り込んだシュナイダーがカチ上げたのだ。そして、そこからシュナイダーと龍の一騎打ちが始まる。大きさが全然違うのにシュナイダーは龍を弾き飛ばしたり、口に銜えて放り投げたり、角で翼に穴を開けたりする。

 

龍の方も負けじと翼を犠牲にしながらも再びシュナイダーを地面に叩き付けたり、爪で鎧を砕いたり、ブレスで鎧を融かしたりと互角の戦いを見せる。その後ろで黒い球体や板状の物が見えたり、雷が飛び交っているのはゼオンが邪魔をさせない為に戦っているからだそうだ。

 

あとで聞いた話ではゼオンはシュナイダーの戦いが終わるまでは妨害に徹していた為に力を抑えていたのだけど、それが逆に格下を嬲っていると受け取られてしまったらしい。ちなみに対戦相手はそんなことは思っていないそうだ。

 

この映像は個人的に撮っている物なのでゼオンとシュナイダーのやりとりが聞き取れたのでそうは思わない。ゼオンはよく誤解されている事があるから知っておかないと冥界に行った時に苦労する事があるそうだ。陰口をスルー出来ないと虐殺を行わないといけなくなるそうだ。どんだけ勘違いされてるんですか?

 

そして、映像の中ではシュナイダーがなんとか相手の龍を倒し、元の姿に戻って崩れ落ちそうになった所をゼオンがマントで支える。

 

『よくやった、シュナイダー。ゆっくり休め』

 

ゼオンが懐から小ビンを取り出して中身を振りかけ、魔法陣でシュナイダーを会場から退場させる。ブリーフィングから考えるとこれ以上は見る必要はないのだが、もう少しで終わるからと最後まで見る事になる。

 

『あのシュナイダーがここまで逞しくなってくれるとは。実に気分が良い。ローウェル、よくぞあの龍王クラス一歩手前の龍を使い魔にしてくれたな』

 

『こっちは大誤算だよ!!エクセリオ・シュドルクとフェイシュドルクを同時に発動出来ないから其所を付いてゼオンにもダメージを与えれると思ったのに』

 

『残念だったな。いつからシュナイダーがシンを使えないと勘違いしていた』

 

『ちくしょう、シュナイダー対策も考えなきゃならねえのかよ。気分がいいなら新しい手札を一枚切れよ』

 

『良いだろう。ちょうど仕上がった属性があるからな』

 

『げぇっ!?まだ強くなるのかよ!?』

 

『当然だ。オレはまだまだ強くなるさ。誰にも負けない様にな』

 

ゼオンがローウェルと呼ばれた男に走っていく。ローウェルさんも覚悟を決めたのかゼオンに向かって走りだす。

 

『しゃああ!!』

 

『ふっ、ゴウ・バウレン!!』

 

先に殴り掛かったローウェルさんの拳を躱したゼオンは正拳を放ち、当たる瞬間に魔力らしき物が炸裂する。それを食らったローウェルさんは苦しそうな顔をしながらバラバラに吹き飛び、炎となって再生する。

 

「ローウェルはゼオンの親友でフェニックスなの。見ての通り、ダメージを食らっても炎になって再生出来るから強いんだけど、一定以上のダメージを与えるか、心を折れば倒せるわ」

 

『なんだ、今のは?風じゃない、訓練で見た衝撃波でもない』

 

『鬪気と魔力を混ぜ合わせた物だ。体外に放出するのが難しい鬪気を魔力でコーティングする事で放てるようにした物だ。ローフォウ・ディバウレン!!』

 

少し離れている状態で横薙ぎと同時に何か動物の腕の様な鬪気がローウェルさんを切り裂く。更にゼオンは飛びかかり、腕を振り下ろしながら再び鬪気を放つ。

 

『ガウフォウ・ディバウレン!!』

 

今度はトラの顔がローウェルさんを噛み砕く。それでも再生すると言う事は一定以上のダメージになっていないのだろう。

 

『ディオ・レドルク!!』

 

再生途中のローウェルさんをゼオンが蹴り飛ばして距離を作る。そして止めの一撃が放たれる。

 

『ゴライオウ・ディバウレン!!』

 

両手足に刃物が生えた大きなトラの形の鬪気がローウェルさんを巻き込んでフィールドを粉々に砕いていった。映像はそこで終了する。

 

「ゼオンはともかく、これでシュナイダーがどんな戦いをするか理解出来たかしら?」

 

「えっと、とりあえずは。基本は突撃で、魔法は補助が基本ですよね」

 

「そうなるわね。あとは、状況に合わせて角による切り払い、踏みつけ、蹴り上げを組み合わせる事になるわ。魔法による補助は基本的にゼオンが出す事が……今度のゲームだとどうなるか分からないわね。ゼオンが騎乗しているかどうかで大分変わるわね」

 

「あとで問い合わせましょうか?」

 

「そうね。確認しておかないと絶対痛い目を見るわ。ついでに詳細なルールも確認しておいて」

 

「聞ける限りの事を聞いておきますわ」

 

「祐斗、修行の方はどの程度進んでいるの?」

 

「この前、“海”に続いてようやく“地”が出来た所です。正直、この先の“空”をまともに習得出来るか分からないのが現状です。禁手化の方はフルに活動させて30体を30分が限界です」

 

「でも、ディオ・エムル・シュドルクを使われると無効化されますよね祐斗先輩」

 

「炎だからね。相性は最悪だよ。だから禁手化は使わない方向で行こうと考えてるし、神器よりも剣技に頼ると思ってる」

 

「禁手化?」

 

聞き慣れない言葉につい疑問が零れる。

 

「簡単に言えば神器の強化形態だよ。能力が強化されたり、全く別の能力を見せたりするんだ。ちなみに僕の神器は魔剣創造、あらゆる属性の魔剣を作り出す事が出来る神器で、禁手化すると炎精傭兵団って言う炎で出来た戦士達を産み出せる様になるんだ。まあ今回は出番はなさそうだけどね」

 

「ディオ・エムル・シュドルクって他の炎も操れるんですか?」

 

「あのディオ・エムル・シュドルクの炎に触れた炎は全て操られるわ。かなり強力なら抵抗出来るけど、ローウェルが言うにはそんな事をするなら殴った方が楽らしいわ。だから祐斗の考えは間違っていないわ」

 

「他の属性もそうですわ。何を操っているかを見極めて攻撃しなければならないのは、厄介ですね」

 

「ギャスパーの停止結界の邪眼を使えば早いんだけどね。使いたくないんでしょう?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「良いのよ。ゼオンもあちこち文献を漁ったりして神器を抜き取っても死なずにすむ方法を捜しているみたいだから。それにしてもあの幼かったシュナイダーが今では冥界最強の魔獣なんてね」

 

「昔から知ってるんですか?」

 

「ええ。まだ体長が80cm位しかなかった頃から、そう言えば昔は二足歩行してたっけ」

 

「今でもたまに二足歩行で歩いてますよ。この前、グレイとムジカさんとお兄ちゃんと一緒にエアライドもやってました」

 

「エアライドって、あのゲームの?馬なのに?」

 

「普通に胡座でコントローラーを扱ってますよ。格ゲーはコマンドが複雑過ぎて出来ないみたいですけど、簡単な物なら意外と普通に遊んでますよ」

 

「器用を通り越してシュールな光景なんだけど。グレイとムジカって言うのは誰?」

 

「お兄ちゃんの眷属で二人とも兵士です。グレイは氷の造形魔導士でムジカさんは銀術士で、二人とも祐斗先輩よりも強いです」

 

「あ~、というか二人と戦うとグレモリー眷属全員で戦っても負けるから。決して僕が弱い訳じゃないから」

 

「ちなみに戦績順に並べると、私、部長、モグ、祐斗先輩、副部長の順です」

 

「えっ!?モグって戦えるの!?」

 

「モーグリ族1の槍使いです。アクセサリー作りの腕も一番で、人語を話せて、何より綺麗に空を飛びますからモテモテです。ゼオンお兄ちゃんなんか目じゃない位モテモテです」

 

「と言うか木場君と朱乃さん、モグに負けたの?」

 

「火水風土雷を半減するアクセサリーを沢山付けられた上に光学迷彩のマントに隠れて聖銀の槍で突いてくるんだよ。罠を作るのも得意だし、部長みたいに半減出来ない滅びの魔力を広範囲に放つとか、気を辿って居場所を知れる白音ちゃんじゃないとどうする事も出来ないさ」

 

「小さいですけど、80kg程度の物まで持てますし、変わったアイテムを持っていますから対処が難しくて。ゼオンが何か仕込んだらしくて戦い方が軍人に似ていますから」

 

「なんと言うか、あの姿から想像がつきません」

 

「そんな物よ。話がそれたわね。とりあえず基本方針は祐斗の炎精傭兵団を囮にして属性を炎に固定して他の攻撃を無効化されないようにしましょう。優先目的は回復役のアーシアとイッセーの護衛よ」

 

「私が回復役ですか?」

 

「昨日ゼオンから赤龍帝の篭手との聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)の詳細な情報を貰ったの。赤龍帝の篭手には倍化以外にも譲渡と透過の力があるそうなの。詳細はドライグに聞くのが一番らしいけど」

 

「ドライグ?」

 

問いかけると赤龍帝の篭手が現れてドライグが話してくれる。

 

『ふん、あの男、用心深いにも程があるな。今までの赤龍帝も透過の力まで発現させれた者はほんの一握りの上に白いのと戦う事がなかったからな、書物に残っているとは思わなかった。確かにオレには倍化以外に倍化の力を他人や部分的な強化に使える譲渡、そして障壁や異能を完全に無視して力を叩き込む事が出来る透過の力がある。だが、相棒の力が低いからな。未だに倍化の力しか使えん。10日有っても譲渡で精一杯だろうな』

 

「その譲渡の力で減った魔力を増やせるなら問題無いわね。それで、どうやったら譲渡の力を使える様になるの?」

 

『ふむ、簡単に言うならアレだ。ゲームで言うレベルが上がって、一定以上の能力になれば解禁される』

 

「つまり」

 

『何でも良いから身体を鍛えろ』

 

 

 

 

 

 

ドライグに身体を鍛えろと言われた為に白音ちゃん監修の元筋トレが始まった。だけど、これって何なんだろう?押してもギリギリ動かない位の大きさの岩に延々と体当たり込みで押し続けるのだ。何でもゼオンが昔から鍛えている方法らしい。現在も続けているらしいけど、重量を聞いて耳を疑った。高重力で圧縮した20tの岩を押しながら、1辺が1mmのサイコロをマントで積み上げてジオラマを作るらしい。部室においてある屋敷の模型もマントだけで作った物だそうだ。昨日も小手を使ってお好み焼きを焼いてたけど、本当に器用だよね。

 

20tはスルーだ。龍とパワー勝負出来るって言っていたからそれ位は可能なんだと割り切ろう。そんなに力があるようには見えなかったし、少しだけ触れた手は女の子と比べれば硬いけど柔らかい手をしていたのになぁ。

 

白音ちゃんは私を監督しながら午前中に確保した獲物をナイフ一本で捌いていた。血抜きした鹿も猪も兎もバラバラにして毛皮も綺麗に剥ぎ取って、並べられた生首を見て気分が悪くなってリバースしたのは不可抗力だ。あんなつぶらな目をした首が幾つも並んでるんだもん、気分が悪くなってもおかしくないよね?

 

夕食は白音ちゃんがバラしたお肉や山菜を使った鍋だった。おいしいんだけど、解体現場を見ている身としてはちょっとね。夕食を食べながら他の皆がどんな修行をしていたのかを聞いてみた。

 

部長と朱乃さんは二人で魔法を展開速度と射出速度を重点的に鍛えているそうだ。内容はちょっとよく分からなかった。木場君は目隠しをした状態でギャスパー君が放つ魔力弾を切り払う訓練をしていたそうだ。なんでも師匠にそういう修行を言い渡されているそうだ。アーシアは傷ついた木場君の治療だそうだ。

 

聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)は鍛えればエリア範囲での治療も可能になるそうだ。その為にどんどん使っているらしい。その分消耗も激しいけどそれも修行なのだそうだ。

 

白音ちゃんは今回の修行では料理などの裏方に回るそうだ。何でも成長の限界値らしくてその上限を上げる為の修行は学園を卒業してからじゃないとやる暇が無いそうだ。長期休暇の度に少しずつ上限を上げているそうだけど春休みの分は既に上がりきってしまったらしい。

 

それにしても、アレだけあったはずのお肉や山菜がもう半分しか残ってないんですけど、もしかして明日も狩猟ですか?えっ、私も手伝うの?

 

 

 

 

 

修行の最終日、なんとか譲渡の力を覚醒させる事に成功し皆でどれだけの力を譲渡出来るのかを確認していった。それが終わった後は自由時間となる。ゲームに向けて各自で体調を整える様にとのことだ。

 

白音ちゃんは日課とばかりに山へ獲物を求めるのかと思いきや、教科書を引っ張りだして来て勉強を始めた。部長と朱乃さんはカードを持って来て遊び始める。あっ、朱乃さんのソリティアが始まった。相変わらず容赦がないな。ギャスパー君は女性物のファッション紙を読み始めて、木場君は瞑想を始めた。ただし頭だけで倒立しながらだ。

 

「木場君、なんで頭だけで倒立してるの?」

 

「これかい?これは僕の剣術の流派の開祖が編み出した瞑想だよ。開祖はゲームのトラコンクエストの勇者みたいな人でね。剣や槍や弓なんかの武器の達人で、多彩な魔法も使えて、研究者としても優れていて、敵地のど真ん中で仲間に手作り弁当を振る舞う位の剛胆さを兼ね備えている人なんだ」

 

「最後のはどうかと思うけど、随分と万能な人だったんだね」

 

「そうだね。まあ、僕の師匠もその流派を一時期習っていたらしいから、その関係でやらされてるんだ。一応、僕もその流派を習っているからね。才能が無いって言われてるけど」

 

器用に倒立したまま落ち込む木場君がかなりシュールだ。

 

「ふふふ、才能あふれる者なら1週間で、ゆっくり鍛えても1年もあれば奥義まで辿り着けるはずなのに2年でようやく3分の2。やっぱり僕は中途半端な存在なんだ」

 

本格的に落ち込み始めた木場君をアーシアと二人で慰める。周りの皆は放置しているってことはこれも良くある事なの!?学園じゃあそんな姿は一切出さないのに。変に打たれ弱いとは。

 

これは藍華に教えて漫研にネタを提供して懐を温めるチャンス。学生の財布に優しいとは言えゼオンの屋台に通うのはそこそこ痛かったのだ。ついでにゼオンの事もネタにすればかなりの額になるはず。

 

藍華に連絡を取ろうと外に出て携帯にコールをかける。待つ間、空を見上げると今日も快晴で小さな雲が一つだけ……初日もあんな大きさと形をした雲を見た気がするんだけど。

 

コールするのを止めてメールで詳細を送ってから譲渡の力で視力を上げる。雲だと思っていたそれは、初日の映像で見た白いスーツにマントを羽織ったゼオンだった。ゼオンも私に気付いたのか手招きをしている。ドライグの補助を受けながら30分程かけてゼオンの元まで飛翔する。

 

「くくっ、乗ると良い」

 

私の無様な飛行姿を見てゼオンが笑いを零しながらマントを広げて乗る様に促す。おそるおそる体重をかけると、予想以上に硬い感触で、例えるなら人を駄目にするクッション位の硬さだ。

 

「良く気付いたな。この距離なら白音の仙術による索敵から逃れられるのだがな」

 

「初日にも似た様なのが浮かんでたから。もしかしてずっと居たの?」

 

そうだとしたらお風呂とか覗かれてたのかな?この別荘って露天風呂だから。

 

「いや、さすがに屋台もあるし夜中は屋敷で寝て、朝一にその日の屋台の材料を仕入れて、仕込みを終えてからだな。この時間位から夕方まで毎日通っている」

 

「毎日って、大変じゃない?」

 

「それほどでもないな。オレは心配性でな、無茶をしないかとハラハラする位ならこっそり監視する位負担にも感じないな」

 

「だけど部長が嫌がるからこっそりと?」

 

「正解。背伸びがしたい年頃なんだろう。夏休みから本当の意味でのレーティングゲームデビューだからな。現代ではレーティングゲームの戦績がその悪魔の評価に直結していると言っても過言ではないからな。次期グレモリー家当主として力が入り過ぎているんだろう」

 

「あれ、部長が当主ってことはゼオンが婿入り?」

 

「そうなる。オレには幼い弟が居るからな。ベル家は弟のガッシュが継ぐ事になるな」

 

「ふ~ん。あれ、でもゼオンがベル家を出るのってマイナス要素ばっかりな気がするんだけど」

 

「そうでもないな。グレモリー家は公爵でベル家は伯爵だからな。長男であるオレが婿入りしても不思議ではない。それに、いや、なんでもない」

 

何か話したくない事情でもあるのかそこで会話を切られた。まあ、知られたくない事の一つや二つ位あるよね。

 

「修行の方は順調か?」

 

「はい。なんとか譲渡の力も使える様になりました」

 

「ほう、中々の成長速度だな。少し使ってみてもらえるか?出来れば2回分でだ」

 

ゼオンに言われて譲渡の力でゼオンを全体的に強化する。するとゼオンが顎に手をやって目を瞑り考え事を始める。イケメンはどんな格好をしてもイケメンですね、眼福です。

 

「ふむ、すまないが今度は普通に自分を強化してもらえるか?」

 

「あっ、はい」

 

言われた通りに自分を強化する。その間、ゼオンはじっと瞬きもせずに私の事を見つめてきた。嫌らしい視線は全く感じないのでかなり恥ずかしい。顔も赤くなっている気がする。おかしい、いつから私に乙女回路が搭載されたんだろう。でも、ゼオンになら全部見せてもって私は何を考えているの!?第一、ゼオンは部長の婚約者で、でも朱乃さん達はゼオンに押し掛けてハーレムを無理矢理作らせるんだよね。だったら私が混ざってもって違う!?落ち着け、落ち着くんだ。素数だ、素数を数えるんだ。ええっと

 

「ふむ、なるほど」

 

素数を数えようとした瞬間、ゼオンは何かを理解したのか視線が外れる。おかげで少し冷静になれた。

 

「譲渡の力は使える様になっただけなのだな。かなり力をロスしている。それも今後は解消されていくのだろうが、現在の所は36%しか譲渡する事が出来ないようだな。溜まっている力によっては譲渡せずに自分を強化する方が良いだろう」

 

「でも私は弱いし、魔法もまだ上手く使えないから」

 

「魔法が上手く使えないか。イッセーなら逆に出来るかもしれないな」

 

「何が?」

 

「イッセー、君は魔法を難しく考え過ぎている。明確なイメージが有って大量の魔力があれば大概の事は出来る。それが悪魔の魔法だ。そうだな、漫画やアニメの登場人物の真似なんか特に良い。イメージが固めやすいだろう」

 

「まあ、なんとなくは」

 

「あとは魔力さえ足りれば再現は簡単だ。魔力が有るか無いか、それだけでどんな魔法でも使える。グレモリー家特有の滅びの魔力も再現は可能だ。消耗は激しいがな」

 

「そうなんだ。魔法って本当にどんな事でも出来るの?」

 

「そうだな、逆に出来ない物をあげてみよう。まずは時間逆行は無理だ。それから、若返りに完全な未来予知、生命作成も無理だな。まあ生命作成は擬似的な物なら可能だ。ゴーレムとかプログラムで組める物なら可能だ。限定的な物としては死者蘇生だな。死んですぐなら出来なくもない」

 

「それ以外なら出来るんだ」

 

「うむ。まあ魔力以外にも必要な物もあるがな。その所為で出来ない事は増える。だが、それも特殊な事だけだ。そうだな、ゲームで使える魔法の大半は魔力だけで使えるだろう。イメージさえ明確ならな」

 

じゃあアレも使えるかな?武装解除って良い言葉だよね。

 

「それにしても今日は修行をしなくても良いのか?」

 

「うん、今日は明日のゲームに備えて体調を整える様にって」

 

「なるほど。間違いではないな。それでは今日はそろそろお暇させて貰おう。明日のゲーム、楽しみにしていよう」

 

ゼオンが下まで送ってくれる事になったんだけど、自由落下は勘弁して下さい。地面が近づくにつれて速度を落としてくれたから良かったんだけど、一声かけて欲しかった。変な悲鳴を上げて、また笑われてしまった。

 


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