リリカル・ブレイン   作:SLB

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第六章:C-side 見守る者たち ~Suspicious-Party~ 前編

 アースラブリッジに、巨大モニターから強烈な光が差し込まれる。

 力強く、しかし温かなそれが収まれば、モニターに映っているのは白衣の魔導師。

 杖型のデバイスを構える魔導師の前に、青い宝石がゆっくりと落ちてくる。

 重力を無視して一定の速度で地上へと降りて行き、やがて地上に留まる魔導師の少女――なのはの前で落下を止める。

 次の瞬間、青き遺物は小さな光となって杖頭の宝石――デバイスの中枢部分へ、一直線に吸い込まれていった。

『Receipt No.Ⅷ』

 そのデバイスから発せられた電子音声を聞いた途端、艦長席の隣で始終を見守っていたセラは安堵の溜息を吐く。

 管理局に保護されてから、既に数日。なのはとユーノは民間協力者という形でアースラに搭乗し、ジュエルシードの回収に取り組んでいる。

 歳の近い人なんてこの船には乗っていないだろうと思った矢先、別れたばかりの二人に再開できたのは個人的に嬉しい。

 もう会えなくなるなんて寂しいわねっておかあさんが落ち込んでたよ、と言われた時は、苦笑せざるを得なかった。

「状況終了。ジュエルシードNo.Ⅷ、無事確保。なのはちゃん、ユーノ君、お疲れ様」

『はーい!』

 こちらを見上げる形で元気な声を返すなのはの傍らに、すっかり元の人間形態で動いているユーノが空から降り立つ。

「ゲートを作るから、そこで待ってて」

 アースラのブリッジオペレータたちがモニターの向こうに言葉をかけ、手元の操作卓を叩いて遠隔次元転移の準備を始める。

 空間モニター越しにこちらを見つけたのだろう、なのはが笑顔で手を振ってくる。釣られて右手を振り、思わずセラも口元を緩める。

 無論、なのは達の安否が心配ではある。友達だからとか、自分より年下だとかいうのも理由の内に入るが、戦闘方面においても同じ事だ。

 ユーノはまだいい。後方支援型だからあまり前に出ることはないし、援護も的確にこなす。

 しかしなのはの場合は違う。決して強いわけではないと自覚しているセラの目から見ても、明らかに経験が不足している。

 ジュエルシードの封印は流石に慣れているらしく、それほど危な気はない。しかし実戦ともなればそうはいかないだろう。

 戦闘中でありながら、なのはは時々無防備になる事が多い。自ら直そうと努力したことがあるセラの目には、嫌でもよく見えてしまう。

 何より、保有魔力と出力に任せた荒削りな戦法。確かに凄い力なのだが、結局は力だけ。

 相手が自分と同じ能力を持っているか、相性がよくない限り、魔法士だったらあのような戦い方はまず行わない。

 要約すると、今のなのはは危なっかしい。実戦に出すには、まだ少し訓練や経験が必要なのではないか。

「んー、二人とも中々優秀だわ。このままうちに欲しいくらいかも」

 そう考えていたセラの右耳に入る、悠長な声。

 声の聞こえた方向へ首を向ければ、艦長席で優雅に座しているリンディの姿。

 足を組み、大量の砂糖が含まれたお茶を優雅に一口しているところだった。

 確かに、彼女の言う通りだとは思う。この先成長していけば、目覚ましい速度で腕を上げていくのだろうが――

「そんなにすごいんですか?」

 珍しく、セラは顔と声にいつもより強い疑問の色を表して問う。

 ん? とミントグリーンの瞳がセラを捉えた。

「魔導師ランクで言うなら、平均はC程度。対して彼女はAAA……って言っても、分かりにくいかしら」

 口元に指を当て、んー、と小さく唸り、

「とりあえず、現時点でも“並の魔導師じゃ相手にならない程の天才”と思ってください」

「はあ……」

 その“並”を知らないセラは、曖昧に頷く他ない。

 魔法士で言うならAAAランクの実力は第一級(カテゴリーA)辺りなのだろうか、と想像してみるのがやっとだ。

「それじゃあ、フェイトさんやクロノさん……あと、ユーノさんはどうなんですか?」

 こういう時は、他の魔導師で比較するべきだろう。早速、自分の知っている既知の二人を挙げてみる。

「彼女も推定AAAランクで、クロノ執務官はAAA+、ユーノさんはA。因みに私はAA+です」

 周辺の魔導師が全員並以上である事実をあっけらかんと述べ、

「といっても、ランクはあくまで能力の高さ。戦闘能力と同義ではありませんからね?」

「実際、クロノ君ならなのはちゃん相手でも、全力を出さずに勝てちゃう筈だよ」

 後ろからやってきたエイミィも、リンディに新しいお茶を差し出しながら会話に参加する。

 能力の格付けに関しては、魔法士のそれとあまり変わらないようだ。

 そうなんですか、とセラは素直に感心して頷く。一度だけしか見たことはないものの、クロノの実力は本物だった。

 身体能力も含め、あの少年は確かに魔導師の中でも強い部類に入るという確信がセラにはある。

 今の自分とクロノで戦闘になったら、結果がどうなるかは実際に戦ってみないとはっきりしないものの、油断していい相手ではない。

 フェイトの方はといえば、ある程度の訓練は積んでいる様子。しかしなのはと同様、微妙に実戦経験が足りない様子だった。

「いずれにせよ、あの子は管理局に入っても優遇される程の即戦力となるでしょう」

 リンディの言葉に納得しつつ、セラの気分は晴れない。この先管理局側の戦力になってもらうのは困るのだ。

 魔法士の事がばれてしまうのは殆ど確定事項。遠からず、自分は元の世界と同様の理由で追われる身となるだろう。

 管理局と魔法士の争いに関して、できることならなのはを巻き込みたくない。

 また、クロノやフェイトのような魔導師との戦闘に備え、セラ自身も魔導師について色々と学習している。

 その中で、非常に重要なことが幾つか判明し、魔法士能力は尚のこと隠さなければならないと思った。

 魔導師と魔法士には、決定的な差が存在する。それがセラにも分かってきたのだ。

 自分の力は、魔導師にとって極めて非常識なものであり、彼らの技術を遥かに上回ったものである、と。

「セラちゃーん!」

 不意に後ろから、鈴を鳴らすような声。

 振り向けば、既にバリアジャケットを解いたなのはが駆け寄ってくる。無邪気なままの少女を見て、思わずこちらも顔がほころぶ。

「なのはさん、ユーノさん、おかえりなさいです」

「えへへ、ただいま!」

「帰りました」

 目の前まで来たなのはがはにかみ、歩いてきたユーノが遅れて返す。

 二人に再開してから殆ど間をおかず、なのはとはすっかり打ち解けた。それ以降、ユーノも入れて三人でそれぞれの世界について話し合っている。

 それと、なのはを通して桃子から美由希のおさがりを一部貰ってしまった。曰く、こういう服はセラちゃんの方が似合ってるだろうから、だそうだ。

「お疲れ様でした。それでは、セラさんと一緒にまた部屋で待機していてくださいね」

 艦長席の台座を回して振り向いたリンディが、にこやかな笑顔で告げる。何を考えているかは読めないにしろ、悪い人間でないことは間違いない。

「はーい!」

「えぇっと、お疲れさまです」

「それでは、失礼します」

 必要な言葉を三人で順に述べ、背を向けて廊下へと向かう。三人揃って横に並び、なのはを中心にして会話が始まる。

 ――いい三人組だなあという意見は、アースラ内では(気づいていない三人を除いて)満場一致である。

「確か、セラちゃんの世界の続きだったよね?」

「あ、そうでしたね。えぇっと……」

 出撃前にのぼっていた話題は、確かフライヤーの話だったはず。空飛ぶ自動車として、周りから興味を持たれたのが始まりだったか。

 確か動力関係で内容が止まっていたと思い出し、重力制御システムで動いているという“半分嘘の話”を頭の中から引っ張り出した。

 事情聴取以降も、魔法士の世界に関しては色々と聞かれている。

 といっても、突っ込んだものではない。答える役である自分は結局十歳の子供。知らない事の方が多いと皆が理解しているのだ。

 実際そうなので、セラ自身も助かってはいる。

 ただし、フライヤーやシティの動力に関しては“自分もよく分からない最新鋭の動力機関”で通しておくことにした。

 フライヤーや航空艦艇の主動力たる演算機関も、シティを支えるマザーコアも、元を辿れば情報制御と魔法士。知られる訳にはいかない。

 非常に後ろめたいことこの上ないし、問われる度に何が来るかと身構えてしまう。おかげで、会話の最中は心臓がバクバクと鳴り続けている。

 もう数年位は寿命が縮んだかもしれない、と余計な事を考えつつ、なのは達と会話を共にしながら歩いていく。

 目の前で屈託なく微笑み、無邪気な瞳を好奇心で煌めかせる少年少女。

 魔法士でもないのに、ただ魔力を持っているだけで前線で戦っている、自分より年下の二人。

 自分だって、彼女の手伝いくらいはしたい。その力だってある。しかし自らの立場が、状況がそうさせてはくれない。

 自分一人では易々と決められない隠蔽事だ。慎重にならざるを得ない。

 いつまで、こんなことを続ければいいのだろう。

 心から笑って、折角できた目の前の友達と話がしたい。

 こうして再会できても、事件が終わってしまえば遠からず離れ離れになってしまうであろう少女と、何の隠し事もなく他愛のない話がしたい。

 そんな簡単なことができれば、どれほど楽だろう。

 自分の前で色々と隠してきた人達も、或いはこんな気持ちだったのだろうか。

 あの人達も、今の自分と同様に、誰かに気付かれないよう必死でいたのだろうか。

 だとしたら、二人にこんな考えを見抜かれてはいけない。暗い顔をしていたら、今の明るい会話が台無しだ。

 いつかは、こんなこともしていられなくなるから。

 いつかは、相容れない立場になるだろうから。

 だから、セラは精一杯笑った。

 

 無意識に両掌を握り締める少女。

 その後ろ姿を、若き提督は静かに見つめていた。

 

 

 母親にして提督たる女性がオペレータ室に入ってきたのは、敵魔導師の話が一通り済んだ直後のことだった。

「あ、艦長」

 クロノと同時に振り返ったエイミィが、オペレータ席に座ったまま報告する。

「フェイトちゃんの捜索は、もう少しかかりそうです」

「そう」

 クロノの予想を違えて、リンディはそっけなく返してきた。どうやら別のことを聞きに来たらしい。

 難色を示した表情で、女提督はこちらのすぐ後ろまで歩み寄り、

「どう? セラちゃんの世界、見つかりそう?」

「そちらも難航しています」

 上司の意図を察し、先んじてクロノは返す。

「シティとか大気制御衛星とか、専門用語的な手掛かりは多いんですけど……」

 ここでエイミィが続く辺り、すっかりコンビみたいになってしまったな、と心の中で苦笑する。

 何の因果か、女性に振り回され続けて早十年。そろそろ慣れを自覚し始めた。

 弱冠十四歳にして既に一通りの女難を味わったクロノだが、これでいいのかという疑問は常に頭の中で渦巻いている。

 それでも結局解決策が見つからず、今もズルズルと悩みを引き摺り続けている。

 俗に言うヘタレなのだろうか、これは。しょうもないことを新たに考え始めた今日この頃。

 自分の苦労に、気付く人たちは極めて少ない。気付いたとしても放っておく人の方が多いのかもしれない。

 

「それじゃあ、“ディーくん”の方は?」

「同じく」

 ジュエルシードは順調に集まっているものの、それ以外は完全な膠着状態。

 必要最低限を上回る手掛かりこそ揃っているのだが、やはり探すとなるとかなりの骨である。

 芳しくない報告に、女艦長は人差し指を口元にあて、頭を心持ち上に向ける。

 そのまま、んー、と唸り続けて五秒。

「今日も大した収穫はなさそうですね……」

 呟き、再びこちらに目を向けた時には、いつものニコニコ顔へ戻っていた。

「まあ、気長に構えましょう。簡単に終わるものでもなさそうですし」

 あっという間に持ち直してしまうところは流石。しかし、クロノにとって腑に落ちないことが未だに残っている。

 ……聞いてみるか……

 意を決し、まずは口上を切り出す。

「艦長、幾つか質問が」

「ん? 何かしら?」

 無邪気さを装って、一航行艦の艦長は首を傾げる。

 自分の知る年齢からは考えられない程に若さと美しさを撒き散らしているが、生まれた頃からずっと見てきたクロノには通じない。

「まず……局員ではないあの二人を、民間協力者としてこちらに引き入れた理由について、です」

 年上の相手に、小細工などまず通用しない。だからこそ意見はストレート。

 しかし、肝心の女提督は先程と反対側に首を倒す。

「前にも言ったでしょう? あなた一人では手が足りなくなるかもしれないって」

「それは理由の一つか、もしくは建前の一つか……ですよね?」

 僅かに眼を鋭くした執務官とは対照的に、「あら、立派な理由よ?」と心外そうに肩を竦める提督。

 時空管理局は昔から慢性的な人手不足に苦しんでいる。これは事実だ。

 事実、リンディが現在動かせる切り札――強力な魔導師はクロノただ一人。如何に強かろうと、一人で出来ることは限られる。

 問題は、本当にそれだけの理由で民間人を戦力に引き入れたのかということ。

 母は非常に優しい。自分だってそれを受け継いでいるのかもしれないと思う時すらある。

 それでも非情な決断を下す時はあるし、本物の悪党相手には相応の態度をとる。

 現在のリンディは、どちらかというと両方だ。不審者に接しているのか、只の少女に接しているのかまるで分からない。

「他にも色々と理由があるのではないですか? 例えば――」

「カワイイからとか?」

 続けようとして、“伏兵”の存在を忘れていたことに気付く。

「エイミィ! ……はっ!」

 しまった、と思った時にはもう遅い。

 一度オペレータの方へ向けかけた首を、ぎこちなく前へ戻していく。

 ギギギ、と何か軋むような音が自分の首から聞こえてくるが、無視。こめかみを嫌な汗が流れているような気がするのも、無視。

 母を視界に捉えれば、己の人生経験上予想通りの光景がそこにあった。

 俯き、両拳を握り締める女提督の姿。第三者から見れば、何かを悔しがっているように見えるだろうが、断じて違う。

 自分には、敢えて中で封印していたモノを表に出さんとしているように見えた。

 プルプルと肩を震わせたままの母を呆然と見つめ、そのまま三秒。

 ――次の瞬間、広大なオペレータ室のど真ん中で、リンディ・ハラオウンという名の“女傑”は勢いよく顔を上げ……叫んだ。

「そぉーなのよ――!」

 握り締めた両拳を胸の前で合わせ、さながら少女のようにミントグリーンの瞳を煌かせる。

 頬を僅かに染めたその佇まいは、断じて提督や一艦長のものではない。

 これが、これこそが、一部の身内にしか決して見せない裏の顔。

 仕事中はおくびにも、もしかしたら脳内にすら浮かんでいないのかもしれない、隠された思考回路。

 一言で表すなら――可愛いもの好きである。

 なのは達がこれを見てしまったら、絶対に引くだろう。賭けてもいい。

 いずれにしろペースを奪われてしまった事に、クロノは盛大な溜息を吐いた。

 今の彼女に、何故あの二人を引き入れたかなどという問いは愚問。どう返されるか、クロノには簡単に想像できた。

 実に綺麗な笑顔で「可愛いからよ!」と返してくるに違いない。今の母は、そういう状態なのだ。

「あぁもう、ホントに可愛いわよねぇー! ブリーフィングでクロノに笑いかけたときなんかもう最高っ! エイミィ、そろそろ何か仕掛けてみようかしら?」

 一体何を想像しているのか、うふふふふ、と妖艶に笑う母。

 エイミィへと話題を振るその姿は、キャピキャピという効果音でもついてしまいそうな挙動である。

 まあ、今まであの三人組に何のちょっかいもしなかっただけマシかもしれない。

 

 クロノの人生における最初の女難は、他でもないこの女傑であった。

 思い出したくもない。一体何度この人に騙され、“可愛さを引き立たせるために”女装され続けてきたことか。

 かわいいかわいいと言われてきた無邪気な幼少時代は、何故女の子の服装をされるのかよく分からなかった。

 年月とともに母の思考を理解し始めるまではよかったが、その時は既に引き返せない状況まで追い込まれていた。

 例えば学生時代。妹がいるのかと聞かれたり、“女友達として”同級生である女性たちと云々などはお約束。

 管理局員になった後も、本局では存在そのものが都市伝説の如く語られるまでに至っている。言わずもがな正体は知られていない。

 当然、この事態を大らかに受け止められるほど被害者は甘くなかった。幾らなんでもプライドに関わる。

 止めさせよう、ついでに一泡吹かせようと行動に出たことは約十回。だがしかし、その度返り討ちにあったことは大変苦い思い出だ。

 気がつけば最後は女装させられていたり、周囲の女性陣に囲まれててんやわんやされたり。

 いくらはっちゃけていても、若くして提督になったその手腕は間違いなく本物だ。

 上層部相手でもある程度なら渡り合えるその実力は、常にクロノの一手二手先を上回る。

 そんなわけで反撃も空しく、されるがままであった。

 結局それも自然となくなったのだが、あれは執務官になる前後……数えるなら三年前だっただろうか。

 何故ぱったりとなくなってしまったのかは幾つか考えられるが、嬉しいことなので余計な詮索はしなかった。

 女装を受けていた頃の、年内でも数少ない休暇は、いつの間にか女装させられた状態で朝の目覚めを迎えている確率が約五割となっていたからだ。

 母にじっくりと眺められた後ですぐに着替えてしまえばいいので、その位はまだマシ。身内以外に知られた時のダメージは洒落にならなかった。

 そう。エイミィならまだしも、恩師である双子の使い魔にばれてしまったあの時は――

 

 回想、強制終了。

 これ以上思い出したら精神の均衡が崩れかねない。というかもう既に両足が震えている。今にも体が崩れ落ちそうだが、必死で堪える。

 今頃自分の顔は、色々な感情が綯い交ざり真っ赤に染まっているだろう。

「ふっふっふ、丁度それを考えていたところなんですよ」

 トラウマを思い出している執務官を無視して、女二人の話題は弾む。

 エイミィも可愛いものに目がなく、この二人はよくつるんでいる。

 確証こそないが、過去にクロノが上司に刃向かおうとした際、艦長の騙し返しに協力していたらしい。

 二人の内どちらを相手取ろうと分が悪いのに、リンディと対決する時点で二対一。

 最初からクロノに勝ちの目なんてなかったのだ。世の中とはなんと理不尽にできているのか。

 ただ今回のエイミィは……リンディに利のありそうな流れを作っただけで、あとはただのノリだろう。

 いい加減何とかしたいものの、何だかんだ言ってやることはやるのだ。仕事中は本当にきっちりやっているので文句も言えない。

 気付くべき問題は、上官がオペレータ室にて度を超えた会話を繰り広げている事。場所や時間からして不自然だ。

 個人的話題を繰り広げる為に、態々ここへ足を運んできたとは思えない。

 未だにオペレータとペラペラ話している提督を、ポーカーフェイスで観察する。

 提督の顔はどこへやら、すっかりハイテンション。今現在会話している場所を理解しているのだろうか。

 いや、理解した上で行っているのだ。そうでなければ矛盾している。

 ならば、このような“無駄”をしている理由は何なのか。クロノには一つしか思いつかない。

 推測が正しければ、このまま自分のペースで強引に押し切るつもりなのだろう。それと気づいたからにはこちらのものだ。

 目立つように、一つ咳払い。ノリで行われている会話に、はっきりと自分の声を通す。

「苦し紛れの誤魔化しは、そろそろいいでしょう?」

 小気味のいい硬直音が、母から聞こえたような気がした。

 表面上はにこにこ笑顔を張り付けたまま、今度は相手の方が軋む音を響かせる。

「何を言っているのかしらクロノ? これでも半分以上はホン――」

「悪い冗談ですね。“母さん”が可愛いもの好きであることは重々承知していますが」

 睨めつけるような鋭い視線を、上司へと投げかける。

 いい加減にして下さい、という意思をのせて。

「“提督”は、そんな理由で動いたりしませんよね?」

 今度こそ、提督は完全に硬直した。

 提督と執務官、二人の間を微妙に強張った空気が漂う。

 ……いけるか?

 立場の問題もあって、リンディに口先で勝ったことは滅多にない。

 しかし、今回は勝てる気がしたのだ。提督は今、何かを焦っている節があるのだから。

 長い長い沈黙の後、先に折れたのはやはり提督であった。

「成長したわねぇ。母さん嬉しいわ」

 溜息混じりに、しかし未だ冗談めかして呟く提督に、クロノは自らの勝利を悟る。エイミィは感嘆の声を上げながら小さく拍手していた。

 同時に、まだはぐらかすつもりではないかと口調から疑う。

「……艦長」

「はいはい、わかりました」

 つれないわねぇ、と呟きつつ、女提督はミントグリーンの瞳を閉じる。

 あまりにさりげないその所作が何を意味するのか、見知っているのはこの場の二人だけ。

「そうね、まずは……」

 再び開いた瞳が、鋭く光る。

 先程までとは別人のように違う。知性と理性と強靭な意志が、全身から迸っている。

 一人の母が一流の提督へと変わる、これがその瞬間であった。

 この顔も、あの三人は知らない。いつもの穏和な態度がそもそも地なのだから、想像できる筈がない。

 人を見る時の第一印象はやはり大事だ。目の前の提督を見ると常々そう思う。

 今のリンディと最初に対面していたら、なのはやユーノならば緊張でまともに話せなかっただろうし、セラの場合理屈抜きで警戒心を強めていただろう。

 冷徹さを帯びた眼を確認して、漸くクロノは肩の力を抜いた。

 切り替えの早いことだ。まあ、それが上司のいいところなのかもしれない。

「エイミィ、艦内データベースの閲覧ログを見せて頂戴」

「え? あ、はい」

 唐突な指示に若干戸惑いつつ、オペレータが手前の操作卓に両指を走らせる。

 次元航行艦のコンピュータには、データベースを設置することが義務付けられている。

 コンピュータと言っても艦内のネットワーク限定であり、本局のものほど大規模でもない。

 それでも、魔法や次元空間に関しての情報は基礎部分から載っている。

 更に、提督や執務官の権限若しくは許可があれば、管理局の内部情報ならある程度潜り込める。

 オペレータや尉官以上の権限を持つ人間なら、閲覧ログに目を通すことも可能だ。

 前方の巨大モニタに、日付・閲覧者・閲覧内容を表形式で纏めたログが投影される。

 最近のものを見てみれば、局員ではない特定の人物がかなりの頻度で利用している事が窺えた。

 

「艦長が許可を?」

「操作方法と、翻訳機能も少しね。……後者はあまり使ってないらしいけど」

 クロノの問いに一切の否定を含まない返答を送り、

「次に、ログをグラフ化してみて」

 指示通りにエイミィの両指が忙しなく操作卓上を踊り、一覧表の上に重なる形で新たな結果が表示される。

「殆ど魔法関連ですね」

 しかも、魔法を成り立たせるプログラム関連には一切手をつけず、魔法の機能についてを重点的に調べている。

「本人は興味本位と主張しているけれど、このログからして調査目的が本命でしょう」

 呟いたクロノへ話しかける提督の口調に、いつもの飄々とした雰囲気はない。

 別人としか思えない佇まいに、内心で信頼と僅かな畏怖を浮かべつつ、クロノは考えを巡らせる。

 少女がこのような目立つ行動に出た理由は何なのか。

 魔法に対する好奇心が勝っているのか、それとも知られる可能性まで考えが回っていないのか。

 どちらも否。

「こういうこと調べてるって知られるのを、分かっててやってるんだ……」

「同時に、正体を完全に知られた際にも何らかの手立てがある、と」

「そうなるわね」

 エイミィも分かったらしく、真っ先に口を開く。空間に響く三人の声が、酷く虚ろに聞こえた。

 しかし、問題はこちらへの対処法。僅か十歳の少女に手の込んだ真似が出来るとは到底思えない。

 真っ先に浮かびあがる方法もあることにはあるのだが、それを行うという確証も――

「これは状況証拠からの確信なのだけれど、対処法は恐らく武力行使。対魔導師戦を想定して、下調べをしているのだと思うわ」

 エイミィが驚愕の表情で振り向き、クロノ自身も目を見開いた。

 突如として響いた提督の発言は、完全に予想外。まさかこの段階で、第一に浮かび上がる短絡的手段を確信しているとは思わなかった。

 セレスティ・E・クラインが決して頭の悪い人間でないことは知っている。

 しかし、態々怪しまれるような挙動をとって何かしらの策を練られるほど人生経験が多いわけでもないのだ。

 少女の人物像とは明らかにかけ離れた行動。いや、そもそも……

「あるん、ですか? 力があるという証拠が」

「手掛かりと言質しか取っていないけれど、まず間違いないでしょう」

 説明が必要ね、と一拍置き、

「セラさんの閲覧している内容と、魔導師のカリキュラムに合わせた内容は本来合致している筈、なのだけど……」

「調べてみます」

 早速エイミィが閲覧ログの詳細データを引き出し、閲覧内容の目次と見比べてみる。

「いくつか飛ばしてますね」

「本当に興味があるだけなら、もっと丁寧に読んでいるわ」

 受けた印象は、まるで重要事項を頭の中に叩き込んでいるよう。それも大急ぎで。

「因みに、さっき魔導師ランクのことを少し話したから、今はその辺りを調べているでしょう」

「あ、ホントだ」

 確認したエイミィと共に、クロノは納得の表情で頷く。

 これだけ見れば、確かに好奇心だけで調べているとは言い難い。いざ魔法士と戦闘になった場合、どう対処すべきかを見極めていることは確実だ。

「もう一つ。セラさんが現場にいた時のジュエルシード戦を見せて頂戴」

 指示通り、オペレータが先日の映像を再生する。

 夕刻の公園で起こった、二人の少女による捕獲劇。本来なら誰もが二人の魔導師に注目し、その実力を見定めるだろう。

「セラさんの所を」

「はい」

 その中で、金髪碧眼の少女が唇を噛みながら戦況を見つめているところを拡大させる。

 茂みに隠れているため見えにくいが、悔恨の表情を浮かべているのは明確だ。

「助けたいけれど、力がないために悔しがっている。最初はそう見えていたの」

「違う、と?」

「……ついさっき、なのはさんが魔導師の中でどのくらい強いかを聞いてきました」

 流石のクロノも、訝しげに片眉を上げた。

 ついさっきと言えば、なのはがジュエルシードを封印していたときだ。魔導師ランクの話も、その時一緒に話したのだろう。

「分かるように教えても、具体的な強さまでは理解できないと思ったのだけれど……」

「まさか」

「あなたを引き合いに出してみたら、納得のいった顔つきをしていたわ」

 嫌な事実に、思わずクロノは眉を顰めた。

 聞いた人間が大人だったなら、誰しも納得はするだろう。なのはとクロノ、二人の年齢にも戦闘経験にも歴然とした差があるのだ。

 しかし、生まれて僅か十歳の少女がそれを理解できたとなれば話は違ってくる。

「それって……セラちゃん自身に実戦経験がある、ってこと?」

 遅れて理解したエイミィに、二人は揃って頷く。

 戦闘に関する主観的な知識や経験がなければ、十歳の少女に力の差を理解できる訳がない。できたら寧ろ不自然だ。

 なのはの強さと魔導師ランクが噛み合わないと思っているのだとしたら、少なくともなのは以上の戦闘経験の持ち主ということになる。

 その上で、魔導師と対等に渡り合えるような何らかの能力をあの“脳”から発揮できるのだとしたら――

「彼女、恐らくなのはさんより強いわね。油断できなくてよ」

 仮面の如く冷徹な表情と声音、そして行き当たった真実が、クロノの身体に緊張を走らせた。

 あの時の少女は、無力感に囚われていたのではない。

 二人の魔導師に対抗できる程の力を有していながら、同時に己の立場を理解していたが故、介入する訳にいかなかったのだ。

 力があり、手伝いたいという意思があっても、状況が悪いために見守るしか手がなかったとなれば、悔しさも一潮だろう。

 感情表現に乏しいあの少女から、そこまで察してしまうとは。上司の洞察力に唯々感心してしまう。

「そこまで分かっていて、止めなかったんですか?」

 同時、僅かな詰問口調で問う。

 戦闘能力が存在するのなら、魔導師能力について知られればこちらが不利になるのではないか――と。

「止められるだけの正当な理由があって?」

 確かに、根拠もなく制止すれば尚更警戒されてしまう。

 有力な手掛かりをどれだけ掴もうと、状況証拠だけではまだ言い逃れが利くはずだ。

「では、次に考えるべきは……」

 力があるという、決定的な証拠足り得るもの。

 自分達と少女の情報戦がどんなに不利になろうと、五分五分とまではいかなくても四対六まで持ち込めるもの。つまり、

「具体的にどんな力を有しているか、ね」

 提督の言葉に頷き、少女が持っていると思われる能力で最も有力なものを挙げる。

「彼女の世界にあるという魔法、もしかすると……」

「ええ。彼女が隠している力こそ、それなのかもしれない」

 事情聴取の際、少女の世界に魔法が存在することは本人の口から聞いている。

 彼女の世界にあるという魔法、そして所持している十個の宝石。繋がりがない、とは未だに言い切れない。

 問題となるのは、本人が魔力を一切持っていないという点。しかし力があるとするなら、こちらで得ている知識の上ではそれしか思いつかないのだ。

 他にも別のものはあるかもしれないが、少女が持っている最も可能性の高い特殊能力は――

「魔力を一切伴わない“魔法”……」

「でも……有り得るんですか、そんなの?」

「有り得ないからこそ有り得るのが、異世界というものよ」

「仮にそうだとしても、理論的に説明がつくものでしょうか?」

「その点はロストロギアとて似たようなものね」

 十代二人の意見をそれぞれ難なく一蹴し、

「理論的に説明のつかないものは、彼女の説明にも幾つかあるでしょう?」

「まあ、それはそうですが……」

 返せる言葉などなく、クロノは押し黙った。

 彼女が隠しているのは、おそらく自分の正体だけではない。世界そのものについても、まだ何か隠している節がある。

 例えば、乗り物やシティの動力について。

 あれが誤魔化しであることは、説明している時の僅かなそぶりと、少女が述べた世界の状況を会話の内容と照らし合わせてみれば分かる。

 天空から降り注ぐ光を失い、核エネルギーによる発電すらない真冬の状況で、一体どうやって枯渇しているエネルギーを賄っているのか。

 風力や地熱の発電という手もあるが、星の環境から考えると二億の人口を生かすことすらままならないはず。

 もしかすると、これも少女の正体……ひいては彼女の知っている“魔法”に関わるものなのかもしれない。

「とにかく、彼女に何らかの力があることは理解しました。ですが、それだけでは行動の説明がつかないのでは?」

 最後に肝心なことを問う。しかし、予想より早く答えが返ってきた。

「自分の正体がいずれ知られてしまうことを、あの子も理解しています。それを止める術がないことも、既に気付かれていることも」

 だからこそ、尚更怪しまれる行動も厭わない。一番身の安全を確保できる可能性が高い最終手段として、彼女は力押しを選択したのだ。

 確かに少女がそう考えているのだとしたら、辻褄は合う。しかし……

「だとしても、無謀過ぎませんか――? たった一人で、管理局を敵に回すなんて!」

 信じられないといった面持ちでエイミィが声を上げる。

 無理もない。どんな力を持っているかは分からないが、おそらくは次元転移で逃げる事もできない、か弱い一人の少女である。

 こちらの戦闘員、管理局という組織を敵に回して勝てるという確実な保証はないのだ。

 薄暗いオペレータ室に反響したそれとは対照的に、提督の声音は機械のように静かで冷たかった。

「道具や兵器、もしくは実験動物のように扱われることを恐れて、ね」

 彼女の元居た世界で、魔法を扱う者たちが迫害を受けている可能性は無きにしも非ず。次元世界によってはそういう世界だってある。

 少女の目には、この世界とて危険に映ってしまっているのだ。

「そんな……私たち、そんなことをするつもりなんて……」

「こっちの世界がそうでなくとも、あの子の世界ではそうだったということよ」

 俯くオペレータを諭すように、女提督は呟く。

 あの少女は、まだ時空管理局というものを信頼してない。だからこそ実行している、これは少女が引き出せる精一杯の抵抗。

 考えられる最悪の事態を想定しているとなれば、どれだけ絶望的な状況に追い込まれているかは想像に難くない。

 彼女は今、自分の身を守るために必死なのだ。

「何とかして誤解を解いておきたいわ……」

 大きく溜息を吐いた提督に、しかし執務官は未だに納得できなかった。まだ、最後の疑問が残っていたのだ。

「随分と肩入れしますね。本来ジュエルシードを優先すべきだというのに、何故?」

「……気付いていないのね」

 問うてきたクロノに、上司は意外にも鋭い視線を向けてきた。

 射竦められて両肩が強張り、提督の口調に叱責の声音が混ざっているのを感じ取った。

「あの子の攻撃が非殺傷とは限らない。その上でなのはさんより強い。そんな子が全力で抵抗してきたとして、周りの人達を巻き込まずに捕らえられる自信がある?」

「それは……」

 状況にもよるが、近くにエイミィのような戦闘能力を持たない人間がいた場合、庇いきれる自信はない。

 卑怯なことはまずしてこないように見えるが、あの少女は本当に追い詰められている。あちらと同様に、最悪の事態を考慮しなければならなかった。

 では、そうならないようにするにはどうすればいいのか。

 ある程度戦闘力のある武装局員で囲んだとしても、なのはに及ばない時点でアウト。

 自分と提督の二人がかりなら何とかなるかもしれないが、少女の能力が未だ不明であることを考えるとやはり楽観できない。

 となれば、少女が戦闘をするつもりにならない状況を作るしかない。

 幸い、少女は管理局に対し幾つか誤解している。それを解いてしまえば、少女がこちらに向けて攻撃する理由も失せてしまうのだ。

 もしも成功したならば、それはつまり――

「今、私たちは未然に悲劇を防げるかもしれないのよ?」

 思考と聴覚から、同時に脳へと届いた最良の可能性に、クロノは息を呑んだ。

 時空管理局はいつだって、事件が起こってから現場に現れてきた。しかしだからこそ、一度でもいいから悲劇が起こる前に事件を解決したい。

 犯罪を取り締まり、法を守らんと志す者たちにとって、それは夢であり目標でもある。

 もしかしたら、今回は未然に防ぐことができるかもしれない。そう思うと、居ても立っても居られなくなる。無論、クロノとて例外ではなかった。

 提督という重要な立場なら、自分だって同じことを考えてしまうだろう。今のリンディと同様に、焦っているのかもしれない。

 漸く上司がとっていた不審な挙動の理由を理解したクロノは、リンディに複雑な視線を向けた。

「ごめんなさいね、さっきは隠してしまって。少し意固地になっていたみたい」

「いえ」

 脱力するように溜息を吐いた提督の心痛を察し、それだけしか返すことができなかった。

 そのまま俯くクロノに、打って変った能天気な声が掛けられる。

「ま、ちゃんとした証拠が出ない限りは膠着状態が続くでしょうし。ね?」

「……はい」

 励ますような言葉に、幾らか気を取り直して頷く。

 そういえば、こうやって他人を鼓舞したり慰めたりと、人心のコントロールが上手い人物でもあったのを思い出す。

 人を動かす立場の人間として、これは良い部分と評価できるだろう。

「さあこの話はそろそろお開きにして、時間は昼休み! あの子たちに仕掛けるなら今よエイミィ!」

 ――この悪癖さえなければ、自分は何の文句も言わないのだが。

「合点承知之助です! それで、内容はですね……」

 互いに瞳を輝かせる女性二人、モニターの隅に映っている時計を見てみれば確かにそんな時刻。

 今度こそ話題を止め切れない、間違いなく。仕事の時間外だし。

 そんな確信を抱きながらも、実はまだ話したいことがあった。

「あらいいわねそれ! 服はこっちで用意するから、誘導よろしく!」

「お任せあれ! ところでクロノ君」

「機会がなくて使えなかったあなたの服、一部使おうと思うのだけれど……いいかしら?」

 この状態で聞き入れてくれるだろうか。というより許可が必要なのですかそれは。

 正直な話、今の二人には半ば本気で関わり合いになりたくなかった。

 ターゲットにされたのであろうあの二人……いや最悪の場合三人に心の中で謝りつつ、クロノは盛大な溜息と共に、

「……好きにして下さい」

 途端にやったあ、とハイタッチする二人を見て、まあこれもいいか、と思う。

 どうやら精神的に参っているみたいだし、上司にもこの位の休息は必要だろう。

 あの標的達は……まあ、責任もって温かく見守るとしよう。多分それがベストだから。

 因みに、変に巻き込まれたらきっと碌な目に合わないだろうから見守ることしかできない、などという動機ではない。断じて。

 さて、いい加減こちらの話をしたいところだが、果たしてまともな反応を返すのだろうか。

 深く考えなくとも、付き合いの長さが自問の答えを導く。是、と。

 これだけ羽目を外していても、きちんと聞き入れた上で冷静な意見を返してくれる。

 あまり根拠が無さそうな考えだが、仕事においても親子としても信じられる。というか、ここで何も話さずにいたら本当に発言を無視されかねない。

 だからこそ、クロノはその場の空気を全く読まなかった。

「それで、さっきの続きなのですが……一ついいでしょうか」

「何かしら?」

 即座に振り向いた女傑の顔には、案の定提督にしか持ち得ない鋭利な瞳が輝いていた。

 

 

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