ブラック・ブレット8' 天子の銃弾   作:ねへほもん

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第3章③ 天子の銃弾

「アンタ達、覚悟しなさい!」

 

2発目の銃声の直後、木更達が部屋に突入。木製の入口の扉が崩れ落ちると同時に、テロリスト達に3人の襲撃者が素早く迫ってきた。状況が呑み込めぬまま、見かけだけは屈強なロシア人達が木偶の坊と化していた。

 

「殺人刀・雪影」

 

掛け声と共に、男の胴体から大量の血が噴き出した。斬撃から胴体が真っ二つに割れるまで、目にも留まらぬ早業である。

木更が辺りを見回すと、玉樹は敵の背後から殴り倒して昏倒、弓月はモデル・スパイダーの蜘蛛の糸に絡めとって拘束。瞬く間に全滅させ、部屋から敵の気配が消えた。

 

ほっと一息吐いた片桐兄妹とは対照的に、木更は一抹の不安を抱えていた。

 

「気配が消えただけで、敵はまだ残っているのでは・・・?」

 

聖天子から見せられた、研究所襲撃時の現場写真を思い出す。襲われた警備員は皆心臓を一突きされて絶命していた。他に外傷はなく、その無駄のない仕事ぶりは、とても屈強な男達になせる業ではなかった。

 

「おや、誰かと思えば木更じゃないか!」

 

部屋の奥、物陰から1人の男が現れた。

 

「ハッ!あなたは・・・!正臣兄さん!」

「覚えていてくれて光栄だ。なるほど、蓮太郎を北の方へ追いやって安心していたら、木更を寄越してきたのか。鋭い奴だ。だが、もうすぐ計画は完遂される。邪魔をしないでもらいたい。」

「あなたの狙いは何なの?東京エリアで上層部に上り詰めたあなたが、こんなテロまがいの行為をするなんて。」

「ハッハッハ、いつ私が東京エリアの犬になったとも?この世は力なのだ。テロリストとリブラを従え、まずは日本中に私の力を誇示する。日本を統一し、果てには世界を支配する。我々にはその準備がある!

来い木更、お前も菊之丞を憎んでいるのだろう?我々の思想は共通している!」

 

「ふざけないで!」

 

木更の間髪入れぬ一喝に正臣は一瞬たじろぎを見せた。

 

「あなたの目的は、この国を支配すること。菊之丞を倒すのは、その目的の付属品でしかない。でも私は違う。復讐が目的であり、私の存在理由でもある。誰の力も借りず、ただこの刃を以て、アイツの首を落とすことに意味があるの!その思想が共有できない者と組む理由は無いわ。」

「ふっ、残念だが、協力してくれというお願いではなく、協力しろという命令なのだ。歯向かうならば・・・」

「「イタッ!?」」

 

玉樹と弓月の叫び声を聞き、木更が振り返った。2人は床に膝をついた姿勢になり、首筋に短刀が突きつけられていた。その後ろには、銀髪の少女2人が立っていた。

 

「案ずることはない。動けぬよう、アキレス腱を切断させてもらったに過ぎない。だが、私に逆らうのならば、この2人の命は無いと思え。」

「あなた、どこまでも卑怯なのね・・・」

「ミーシャ・ストレイニコフ、サーニャ・ストレイニコフ。静寂の暗殺者(サイレント・キル)の異名を持つこの双子を侮らぬことだ。」

 

木更は玉樹と弓月の顔を交互に眺めた。

敵を刺激せぬよう、誰も言葉を発しないが、木更の目には2人から希望は失われていないように映った。木更は正臣の方に振り返ると、

 

「分かったわ。どう協力するか、話を聞かせて頂戴。」

 

と言いつつ、敢えて少し高い軌道で雪影を投げ捨てた。

敵の視点が雪影に集まった直後、

 

蜘蛛の糸で縛られていた男が弓月の方に倒れ込む。

 

実は糸が弓月の手とまだ繋がっていて、弓月が軽く腕を引いて倒したのだ。

咄嗟に弓月は姿勢を反転させ、突き出された短刀をはたき落とした。

玉樹も倒れ込みながら両肘を後ろに突き出し、敵を突き飛ばして反転。頬に軽い切り傷を負ったものの、怪我のうちには入らない。

 

「姐さん、もう大丈夫ですぜ!」

「こっちは安心して任せて頂戴!」

 

片桐兄妹は木更に無事を伝える。

かくして双方、3人ずつが向かい合う構図となった。

一見互角に戻したかに思えたが、足の自由を奪われた片桐兄妹の状況は相変わらず思わしくない。綺麗に神経を切断されたのか、動かそうとしても足先が一切反応しない。下手に手を出すと隙が生まれ、一瞬で背後を取られかねない。

先程の強気な発言とは裏腹に、敵の出方を伺うほかに選択肢は無かった。

 

「さて、私達も始めようか。」

 

正臣もまた、短刀を2本構えて木更に向き合う。

木更は涅槃妙心の構えを取り、攻撃の機会を窺っていた。

 

意外なことに、正臣から動きを見せた。

構えた2本の短刀を惜しげもなく即座に投擲。

たった2本、横跳びで躱せる間合いであったが、何故か木更の動きは鈍い。

 

頭が、重い―――

 

木更は脳に響くような違和感を覚え、体を動かそうとする電気信号がうまく神経を伝わらない。

結局回避しきれず、右肩と左脇腹に短刀が刺さる。

緩むことなく、更に正臣が飛び込んできた。

 

「天童式双刀術 一の型三番―――」

 

口上が聞こえる頃には、正臣は木更の眼前まで迫っていた。

 

「双葬牙」

 

正臣の胸の前で腕を交叉させる構えを見て、木更は力を籠めて雪影を握りしめ、縦に構えた。予想通り、X字に振り下ろす動きが飛んできたが、目測を誤った。

 

「!?」

 

脳の違和感からか、正臣の動きが木更にはぶれて見えた。そして突如、正臣の両腕が突然伸びた。刀の腹で受け止めるという木更の目算は外れ、二本の短刀は雪影の柄の近くに命中。今度は敵の攻撃によってだが、木更は再び雪影を手放した。

 

「二本の刀を以て双、二撃を与えて双葬」

 

正臣の振り下ろされた両腕が、振り子のように持ち上げられて再び木更のもとに襲い掛か

る。弾く術を持たない木更はやむなく左へ身を捩るが、躱しきれずに右肩を切り裂かれた。

木更は斬られた右肩以上に、避ける瞬間に見えた光景が気がかりだった。

 

正臣の右耳に、詰め物がしてあるのが見えた。

 

双刀術後の硬直を見て、雪影を拾う動作の中で木更は考えた。

戦闘中は視覚と同じ位、聴覚も重要な要素となる。特に背後を取られた場合、聴覚無くして察することは出来ない。自ら聴力を捨てる行為に合理性があるとは思えない。

だが―――

 

 

木更に飛び掛かる正臣の姿を認めると共に、思考は中断された。相変わらず木更の視界は覚束ない。

 

「天童式抜刀術 二の型十六番―――」

 

回避できないのならばと、木更は雪影を水平に構えた。

 

「隠禅・黒旋」

 

木更が左に1回転し、雪影が全方位を切り裂く。正臣は短刀で斬撃を受け止めるも、側にあった窓が大破し、カーテンが裂け落ち、部屋に夕陽が差し込んできた。ガラスが割れる音を聞く中で、木更には1つの仮説が浮かんだ。

 

「モスキート音よ!玉樹クン!」

 

防戦一方、敵の短刀を防ぐことに手一杯で出番の無かった玉樹のチェーンソーナックルが、ここに来て出番が回ってきた。歯車が出力全開で回り始め、唸り声をあげる。

耳障りな騒音が届く一方で、脳に響いた違和感はだいぶ楽になっていた。

 

「ほう、敢えて彼女達のモデルタイプを名乗らなかったが、よく気づいたものだ。

彼女達はモデルモスキートの双子のイニシエーター。生まれながらにして通常のモスキート音よりも高周波の音を出す能力を持っている。

彼女達は自身のモスキート音で鼓膜が破壊され、何も聞こえないが、今となっては自分の音の影響を受けないから好都合だ。

だが、トリックに気づいた所で、勝った気にならないでもらおう。」

 

再び木更と正臣が構え、斬り合う。

十合、二十合を数えるも、隙を見せることを嫌ってか、お互い大きな動きを見せない。

部屋中に斬撃が飛び交う手合いは、木更が片桐兄妹の近くに着地した瞬間、動きを見せた。

 

「姐さん、後ろ!」

 

片桐兄妹と組み合い、膠着を見せていたミーシャ・サーニャの2人が、突如組み手を放し、背を向ける木更へ飛び掛かっていた。

 

「あなた達の敗因は、見抜かれやすい浅知恵と、息の合い過ぎた双子の動き、ね。」

 

玉樹の呼びかけにも動じず、木更は振り向くことなく右足を踏み込んだ。

背後に弾丸が飛来し、2人の少女は木更に到達できずに倒れ込んだ。

 

「天童式抜刀術三の型八番―――」

 

勝利を確信し、満面の笑みを浮かべていた正臣の表情が一気に曇る。

勿論、斬撃を受け止める備えなど無い。

 

「雲嶺毘却雄星」

 

無数の斬撃になすすべなく、正臣はただ血と肉片の塊と化した。

 

「姐さん!」

 

復讐の完遂を見届けると、木更はその場にへたれ込んだ。

 

「流石ね・・・ティナちゃん。視界さえ開いてしまえば、きっと上手く撃ってくれると信じてた。

復讐は、これで2人目、ね・・・」

 

駆け寄った玉樹に抱えられるままに、木更は意識を失った。

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