ブラック・ブレット8' 天子の銃弾   作:ねへほもん

6 / 14
第2章③ 思惑の交錯

「里見蓮太郎、お前に国家元首誘拐の容疑が掛かっている。大人しく投降せよ!」

 

突然の爆発から無我夢中で身を守った蓮太郎は、外からの呼び掛けが自分に対するものであることに一瞬気付かなかった。

横転した車体から外を見ることはできないが、聞こえる音から察するに、敵は複数、いや多数と言っても良い位だろう。迂闊に飛び出せば銃撃が集中して蜂の巣にされかねない。

 

無策は愚策。

 

蓮太郎は小声で延珠に話し掛けた。

 

「延珠、外の状況、分かるか。」

「全部で十二人。武装は重いが足音はその割に小さく、足並み揃って無駄がない。おそらく軍隊だな。」

「延珠には悪いが、まず飛び出して相手の銃撃を誘ってくれ。死角から俺が飛び出して、叩ける範囲で叩いて数を減らす。」

「妾との共同作業だな。任せておけ!」

 

兎の因子を持つ延珠は足の速さばかりが注目されるが、実は聴力も人並み外れている。過去には蓮太郎が靴を買い換えて帰ってきたら、ドアを開ける前に延珠が気づいたこともあった。敵の人数のみならず、十二人の大まかな配置まで教えてくれたのだから、こういう場面では本当に頼りになる。

 

「その後延珠は極力車の周辺で戦ってくれ。ドサクサに紛れて聖天子様を連れ去ろうとする奴が出てくるかもしれない。後この合図を出したら―――」

 

敵の戦力が分からぬ以上、最悪の事態を想定する必要がある。使わぬに越したことは無いが、非常時の対応を伝えておいた。

その後蓮太郎は待機の指示を出そうと、聖天子の方を振り向いた。その瞬間、背後に円柱状の物体が落下するのが見えた。僅かに煙が噴き出している。煙幕か催涙弾か、いずれにせよ、これ以上の籠城は許されないようだ。

 

「延珠!」

 

延珠も事の緊急性に気づいたのか、素早く車体から飛び出す。サブマシンガンの発砲音が無限に響き渡る。延珠の安否は不明だが、作戦通り回避していることを祈るしかあるまい。

白煙が聖天子の足元まで迫ることに気づき、蓮太郎も車から飛び出す。結局聖天子に対して頷くことしか出来なかったが、飛び出す中、聖天子が蓮太郎に僅かに頷き返すのが見えた。車内待機という意図を理解してくれたはずだ。

 

左斜め前方に5人、前方に3人、右方に2人、後方に2人。延珠から聞いた事前配置、及びサブマシンガンの銃声を考慮し、左斜め30度に向かって全力で飛び出す。被弾を避けられるよう、極力上体を屈めて駆け抜ける。狙いの場所、左斜め前方の5人から丁度等距離の位置に辿り着くと、右足で地面を強く蹴って飛び上がった。空薬莢が舞い落ちる。「新人類想像計画」により施された右の義足内部のカートリッジが、跳躍のエネルギーを何倍にも加速させた。

 

「天童式戦闘術二の型十六番―――」

 

兵士達は銃撃を止め、一同に蓮太郎の方を振り向くが、時すでに遅し。

 

「―――『隠禅・黒天風』」

 

放たれた回し蹴りは、狙いの5人を完璧な間合いで巻き込んで一閃。分厚い装甲は見た目上変化はないが、内部には余さず衝撃を伝える。5人の肢体は回し蹴りの軌道に沿って円環状に飛散し、互いに衝突しながら地面に叩き付けられる。

まずは5人。

 

回し蹴りの最中にも、蓮太郎は周囲の状況に目を配る。回し蹴りの一瞬だけだが、周囲360度の視界が開けた。「二一式バラニウム義眼」の前では、刹那は十倍にも百倍にも遅延して映る。右斜め前方の3人が素早く銃口を向けたことは評価に値するが、銃弾が蓮太郎の胴体を射抜くには遠く及ばない。

着地と同時に、義足のカートリッジを引き絞る。硬直は無く、素早く左回りで接近。攻撃後の隙を逃すまいと、洗練された早業で銃撃を放った3人にとっては、蓮太郎の全身に銃創叩き込んだように見えただろうか。捉えたに見えたか蓮太郎の残像は一瞬で霧消し、銃弾は後方の彼方へ飛び去る。

 

時空がぶれたように本体が目の前に現れ、右の拳が飛び出す。6人。

倒れ行く呻き声よりも先に左の脚が飛来する。7人。

事態を飲み込めず、立ち尽くす最後の一人に対し、右足を蹴り上げ、重力のままに振り下ろした。8人。

 

「延珠!」

 

蓮太郎は叫ぶ。

回し蹴りの最中、銃口とは別方向で2人と交戦する延珠を見た。再び見返すと、その方角には延珠1人と、5mにわたって地面を引き摺り倒れ込んだ2人の兵士の姿があった。10人。

 

「ガッ!」

 

後方よりヒュンと金属が擦れた鈍い音の後、蓮太郎の右肩に激痛が走る。ライフルによる狙撃だろうか。2発目の音が鳴ると同時か少し前、蓮太郎は反射的に屈んだ。

背後には横転した車体。目には見えずとも、上を狙えば通り過ぎ、下を狙えば鋼鉄のボディに阻まれる安全領域。銃弾を後方に見送り、車体の影から残る2人の様子を見る。

ライフルを構えた兵士が2人。装甲の上からではあるが、構える姿勢からは一方は女性であるように見受けられる。もう一発は発射されるだろうと読んだ蓮太郎は、右に大きく跳んで軌道を外し、一目散に2人に駆け寄る。2発の銃弾があさっての方向に飛び去るのを横目に見送り、間合いを図って左足を強く踏み込む。

 

「天童式戦闘術二の型十一番―――」

 

右の義足は迷いなく、敵の一方を射程に捉えていた。敵は柄から先まで漆黒の、2本の細長い棒を構えていた。特殊警棒だろうか。

 

「―――『隠禅・哭汀』」

 

敵は警棒をX字に交差させ、蓮太郎の蹴りを受け止めようと構える。だが、角度を完璧に捉えた一撃は、受け止めきれずに敵を後方に吹き飛ばすだろう。

 

いつも通りならば。

 

命中の直前、蓮太郎は脚部に及ぶ抗力を感じた。まだ警棒とは衝突していない。蓮太郎は疑問に思いつつも、止めることなく脚を前に突き出す。だが、謎の抗力は蓮太郎の推進力をみるみる減衰させ、天童式の一撃は華奢な警棒に受け止められてしまった。

 

「!?」

 

蓮太郎の思考が乱れる。が、敵は待ってはくれない。左からもう1人が警棒を突き出す。勢い十分、見かけは細くとも、命中すれば蓮太郎の腹から背までを貫通せしめるであろう。不可避を覚悟した刹那、目にも止まらぬ速度で小物体の残像が目の前を横切った。

甲高い金属音を聞くと、蓮太郎は延珠が横から突きを妨害したことに気付いた。

 

ここで再度、蓮太郎の思考が乱れる。誰も居ないはずの後方から、再び銃弾の波が襲ってきたのだ。咄嗟の判断で右に飛び退くと、先程蹴りをガードされた敵が円柱状の物体を投げ込む。訓練された動きで、瞬時に2人が顔を伏せたが、ここでは素早い反応が蓮太郎に味方した。

 

閃光弾だ―――

 

微かな光を放つ物体から目を反らし、蓮太郎は「延珠!」と呼び掛けると同時に遥か後方を指さす。非常事態の合図に即座に反応し、延珠は蓮太郎の元に駆け出す。蓮太郎は延珠に抱きかかえられ、強烈なGを感じながら閃光弾から遠ざかる。半端に目を瞑るだけでは回避しきれず、閃光弾の炸裂と共に、視界が消えた。

 

蓮太郎を抱える延珠もまた、敵が閃光弾を放ったことを理解していた。いつ来るか分からぬ炸裂に備え、前方の位置関係を完全に把握した。炸裂後、視界が完全に消えてもなお、延珠は自分の記憶と感覚を信じて足を緩めない。

横転した車体に潜り込んで聖天子を回収し、再び駆け出す。ガストレア因子の力を受けた肉体と言えど、2人を同時に抱えて全力疾走すると身体に大きな負担が掛かる。歯を食いしばり、遠くへ、なるべく遠くへと、一直線に走り去っていった。

 

「延珠、もういいぞ。」

 

呼び掛けに応じて足を緩める。

蓮太郎を下ろし振り返ると、先程の一団は見えなくなっていた。撒いてなお、追跡の可能性を考慮し、蓮太郎、及び聖天子を抱えた延珠は全力疾走ではないながらも、再び走り始めた。

登り坂が続く小高い丘の上に、一軒の廃屋が見えた。外観からは人の気配はない。中は明かりの無い真っ暗闇で、家具はなく生活感は全く感じられない。古く埃を被った椅子が放置されているのみだったが、休息を取るには十分であった。

 

「延珠、ここで休もう。」

 

一行は腰を下ろし、深い溜め息をついた。身体が落ち着くと、蓮太郎は全身から汗が噴き出すのを認識していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。