俺は慌てて走った。救える命なら救いたい。最悪、魔術で記憶の操作も視野にいれながら。視界に写ったのは
まずは。
パチン!
使うのは指弾の魔術。フィンガースナップで鬼は目に見えぬ爆発でも喰らったかのように吹き飛んだ。鬼と人との距離ができた。その時点で唱えるのは、
「
そこで唱えるのは短縮詠唱。コレで十分だろう。
魔方陣が幾重にも重なり、空気を多量に纏いながら赤い炎が噴き出す。それはまるでバーナーの様に一直線に炎が吹き上がり夜闇を赤く、紅く染め上げた。
…だが。
全身に火傷を負いながらもまだ生きている。そして…
…治って来ている。
俺は思わず瞠目した。
俺の得意な火属性。その中でも特に強力な魔術を使ったのにな。いくら短縮詠唱だからといって、そんじゃそこらのヤツに耐えられるモンじゃあない。俺は覚悟する。本気の魔術を撃つ事を。
「
魔術行使と同時に唸りをあげて周囲の空気が魔術師のもとに。それを喰らいながらも爆発じみた空気の圧力に体勢を崩されたのも束の間。火星の印が中央に描かれた魔方陣が組み上がっていく。炎が渦巻き、やがて空中にも無造作に魔方陣が展開していく。周りを火の粉が舞って空を覆い、更に赤く、紅く輝く。
行使の時を待ち焦がれるかのように空をもどかしそうに。ゆらゆらと炎がうねりをあげる。
「さっきとは違う」と本能で悟ったのか、逃げようとする鬼。だがもう遅い。
「
俺のてのひらの上には紅に染まった宝石が握られていて。
それを容赦なく圧壊する。
その魔術師の炎は爆音と共に鬼を容赦なく焼き尽くした。
(アッシュールバニパルの炎を使っても焼き尽くすのに15秒もかかるのか…)
周りが快哉を上げているのを聞きながら俺の心は冷めていた。
大抵の物なら数秒で跡形もなく燃やし尽くす事が可能なアッシュールバニパルの炎。
それを約15秒も使ってしまうという事は…。
…もっと有効な手段があるという事か?それとも―
考えにふけろうとした時、ある言葉に遮られた。
「鬼だ!」
は?どこに鬼がいるんだ?
俺がキョロキョロ辺りを見回していると。石が飛んできた。
「この鬼!この村から出ていけ!!」
村の子供から大人までみんな石をこちら目掛けて放ってくる。
…あぁ。そう言う事ね。俺が魔術を使ったのが、この村人達には鬼の妖じみた術に見えたのか。なるほどなるほど。
…はぁ。出ていくさ。せっかくいい村見つけたのになぁ。記憶の操作だけやってさっさと出ていこう。喋られるのもめんどうだしな。
俺はいつの間にか叫んでいた。目の前の男が鬼から助けてくれたのは知っている。だが、あんな不気味な力を操れるのは鬼に違いない。鬼が鬼から助けたからその代わりに村人達を要求するに違いない。そう思い、思わず叫んだのだ。
目の前の男は石を投げられても、平然としていて、ただ肩を落とした。
その男が無造作に手をかざしたので思わず目を閉じてしまった。
その瞬間、俺は意識を失った。
野山で野宿とはね。ずいぶんと久しぶりだ。俺はため息をつきながら寝袋に包まる。
明日は本格的に山を降りないとな。そんな事を思いながら、俺はゆっくり眠りに落ちていった。
この魔術師、自分が言うには「中の下クラス」なんだって。コイツで中の下なら上の上はどんだけ凄いんだろうね。