勝己side
その日はちょうど、実家に置いてあった私物を取りに行っていた。
引越しするにも結構な金がかかる今、大学に入ったばかりではあるものの親の援助ばかり受けていられないと自力で荷物を運び出し、優先度の低い荷物はこうして後から少しずつ運び出しているのだった。
一人暮らしは初めてだし、クソババアも何だかんだ言いつつ心配しているのはわかっている。丁度いい顔見せの機会だ。
黙々と荷物を梱包していれば、ふと思い出すのは幼い頃一緒にいた幼馴染み。緑谷出久だ。
無個性の癖にやたらと正義感が強く、意志の強い瞳を見ると何故か胸がざわついた。
『かっちゃんすごーい!』と無邪気に後を付いてくる姿は純粋に可愛いかった。……初恋、だったと思う。
学年も性別も違うことが邪魔をして、生活のリズムがお互いズレて疎遠になってしまったけれど。
そう、昔はここの自室の窓から見上げた所にデクの部屋があって、いつも窓を全開にして大声で会話していた。うるさい!と何度もババアから叱咤が飛んできたのを覚えている。
何となく昔のように窓からデクの部屋を見上げれば、今年でおそらく高校2年になったデクが丁度自室の窓を開けた所だった。
「……見ないうちに」
色々と成長してやがる。主に胸とか、胸とか。学生服のブレザーから溢れんばかりのその質量ははっきり言って目に毒だ。垢抜けないのは相変わらずのため、どこか隙のある雰囲気を醸し出している。
デクはこちらに気付いていないようだった。
下の植木を確認し、意を決したような表情。そのまま窓枠に足をかけた。
……っておい、おいおい!
待て待て、お前の部屋は4階だぞ!!?まさか死ぬ気かッッ!!?
こちらの焦りも気にせず、デクは勢い良く窓から飛び降りた。
「クッソ……!!」
荷物の整理で埃を逃がすため窓を開けていたのが幸いした。個性を使い猛スピードでそこから飛び出し、空中でデクをキャッチする。
「えっ!!?かっ……」
驚愕で元々大きな瞳をさらにまんまるにし、突如として現れた俺に混乱しているようだった。
小爆発を繰り返し、なるべく低刺激で地面に降り立ってやる。ほ、と抱えたデクの肩が弛緩するのが感じ取れた。
「っっこの死ぬ気かクソデク!!!!」
「ごごごごめ……っ!往来でかっちゃんに個性使わせちゃって……!!大丈夫かな、見てた人とかっ!」
「んなこたァどうでもいい!!なんであんな事した……!!」
「い、色々と事情がありまして……。あ、自殺とかじゃないよ!合理的かつ最短距離の……だ、脱出?そんな感じ!!」
「それで死にかけてちゃざまぁねぇだろうが!!」
「う……植木に着地してれば死にゃしないかなと……」
「打ち所悪けりゃ普通に重傷だアホ!!」
「ご、ごめんなさい……」
「あとスカート!めくれあがってんぞ痴女!!」
「うひゃあぁっっ!!?」
とりあえず自殺では無いことが知れて人知れずほっとする。
顔を真っ赤にしてあわあわとスカートを直すデクはぱんぱんに膨らんだスクールバッグを持っていて、なるほど脱出は嘘では無いのだろう。
しかし、4階の窓から飛び降りるほどの事情……?
一体何が、と問おうとすれば、空気を読まないスマホが着信を告げた。
「かっちゃん?出ていいよ?」
「あ?今それどころじゃ……」
しかし着信元の名前を確認し、今一番連絡が欲しかった相手だと分かり舌打ちする。
ったくタイミング考えろや……!
「……ハイ、爆豪」
『お前に任務だ、爆豪。自宅の場所がお前の実家と非常に近かったためお前に任せることにした。なるべく短時間で緑谷出久という少女を奪取、保護しろ。そのまま事務所に連れてこい。くれぐれも警察に見られるなよ、以上』
「はっ……!?」
デクを奪取、保護だと……?
まず何故電話の相手がデクの名前を知っている?デクは無個性で、俺らみたいなのと関わりは一切無かったはずだ。 一体何が起こって……。
信じられないような目でデクを見ていたのに気付いたのか、すぐ隣でデクは小首を傾げてきょとんとしていた。
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