指名手配犯ヒーローズ   作:詩亞呂

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Reunion-2

出久side

 

 

僕にはこれからやることが!と拒否しても「良いから着いてこい」の一点張りで手を引かれてやってきたのは古ぼけたビルの一室。

『株式会社ウルトラ警備』とシンプルな表札が掛かっている。

なんなんだ、かっちゃん。久しぶりに会ったと思ったらいきなり幼馴染みが飛び降り自殺もどきをしていて動揺しているんだろうけど……。

「ここは?」

「……バイト先」

 

全くもって分からない。なんで僕がかっちゃんのバイト先に行かなきゃならないんだ?

 

「ねぇ、かっちゃん。そろそろ教えてよ。なんで僕こんな所に連れてこられてんの?」

「知るかよ。所長がお前を連れてこいってんだよ、知り合いかよ」

「僕に初めて来る警備会社の所長さんのツテがある訳ないじゃんか……」

 

どうやらかっちゃんも先程の電話越しで言われるがまま、よく分からない中僕を連れてきたらしい。

お互い頭上にクエスチョンマークを浮かべているため、これ以上の情報は得られそうにないだろう。

 

ギイ、と錆びた音のする扉を開けると、「爆豪か、早かったな」と懐かしい声が聞こえた。

 

……そこに居たのは、前世の僕の担任でもありプロヒーローの相澤消太……イレイザーヘッドだった。

 

「お前が緑谷出久か」

「へっ、あ、はいっ」

 

 

まさかの再会に頭がパンクしていると、訝しげに相澤先生は僕を見てきた。

その反応に、彼には前世の記憶が無いのだなと悟る。オールマイトの言い様だと、前世の記憶持ちは僕とオールマイトと他にも居るのだろうけど。一体誰なんだろうな。

 

「まぁ座れ。事情は分かってるか?」

「いえ、さっぱり……」

 

通されたソファに腰掛けつつ答えれば、

「あの人は……」

と深いため息を零された。

 

「俺の名前は相澤消太。

UAヒーロー、イレイザーヘッドだ。この事務所の所長もやってる。よろしくね」

「なっ!!?何正体明かしてんだよイレイザー!!」

 

隣のかっちゃんが食い気味に吠える。

UAヒーロー……相澤先生が……。

 

オールマイトの人選に、なるほどと驚きよりも納得が勝ってしまうのは仕方の無いことだろう。相澤先生とオールマイトの相性は良いという程では無いけれど、二人共相手の領分をきちんと理解して尊重する度量がある。

それを知っての采配だろう。

 

「こいつはヒーロー爆心地。……とは言え、新米な上に個性が派手過ぎるのと性格がクソ過ぎるせいで実働経験はほぼ無い」

「かっちゃんもUAヒーロー!?」

「だから部外者に……ッ!!」

「部外者じゃないんだよ」

怒りと動揺で混乱しているかっちゃんを無理矢理座らせ、逆に落ち着いた僕に相澤先生……相澤さんは話しかける。

 

「事情は何となく理解出来たか」

「はい。……オールマイトは、僕について何か言っていましたか」

「は……!?なん」

「爆豪は黙っとけ、話が進まないから」

 

特殊合金が編み込まれた捕縛武器で器用にかっちゃんの口元と腕を拘束する相澤さん。うっわかっちゃん凄い顔。

しばらく捕縛武器から逃れようと頑張っていたみたいだけれど、途中から面倒になったのか大人しくなった。

 

「そうだ。逮捕直前俺が聞いたのはお前さんを保護すること、譲渡はまだ完了していないこと、オールマイトさんが死ぬかもしれないこと。これだけだ」

「……オールマイト……」

「情報が足りない。お前は一体何でオールマイトさんと接点を持った。お前は一体なんなんだ」

 

……オールマイトとの接点?そんなの、人に言って理解してもらえる内容じゃない。

咄嗟に前世での出会いを語る。

 

「……僕が事件に巻き込まれた時、オールマイトに助けてもらったんです。僕はずっとオールマイトに憧れてて……無個性の僕でも貴方みたいなヒーローになれますかって聞いたんです。もちろんオールマイトは否定的でした」

「無個性……」

「はい。その後、近くで僕を襲った敵がオールマイトの手を逃れて暴れ回りました。……知り合いが、僕と同じように襲われていたんです。僕、我慢出来なくて。何も出来ないくせに、気付いたら飛び出してました」

「……その時、オールマイトさんは」

「活動限界だったんです。けれど、無理を推してオールマイトは僕らを助けてくれた。無個性でありながらもあの場で君は誰よりもヒーローだった、君はヒーローになれるって言葉をくれた」

「……非合理的だな。でもあの人が好きそうな展開だ」

 

馴れ初めは簡単に理解して貰えたようだった。僕は今世ではこの人と初対面、助けて貰うには信頼を得なければ。

 

 

「オールマイトとは少しだけ話をしました。UAを、ヒーローを頼むと。会えてよかった、そう言って去っていってしまって……。あとは、すみません」

「……なるほどな。事情は分かった」

 

ぐるぐる巻きになっていたかっちゃんを解放し、相澤さんは深いため息を付いた。

 

「現状、オールマイトさんが居なくなったのはUAにとってかなりの痛手だ。事実上の解体か、なんて世間じゃ騒がれてる。

象徴的存在がいない、更にこれを機に警察側は違法自衛団組織……まぁ俺らみたいなのの芋づる式一斉検挙を狙って本格的に行動し始めた」

「……僕の家にも、警察が来ました。おそらく僕は今オールマイトが最後に話した人物として警察にマークされています」

「間一髪だったな」

「はい……」

 

逃げてきてしまったけれど、お母さんは大丈夫だろうか。心配しないでと書いたけれど、きっとお母さんのことだ、死ぬほど心配してる。

……泣いてないといいな。

ごめんね、お母さん。

 

 

「僕には今、住む場所どころか身を隠す場所もありません。どうか力を借して下さい」

「……爆豪、紅茶買ってこい」

「は?紅茶ァ?」

「早く」

 

そうかっちゃんを無理矢理追い出すと、相澤さんはぼさぼさの髪を乱暴に掻いた。

……なんだろう。かっちゃんには話せない、機密事項なんだろう事は想像出来るけれど。

 

完全にかっちゃんの気配が消えてから、相澤さんは再度口を開いた。

 

 

「……手は貸そう。お前を保護しろとのリーダーからのお達しだ。緑谷、お前個性の継承はどうした」

「ありがとうございます。

まだ、です。去り際のオールマイトの様子が気になって、何となく躊躇ってて」

 

ワンフォーオールの継承。

前世でこのことについて相澤先生は知らなかったと思う。勿論、弱体化や活動限界について教師陣やプロヒーローは事情説明されていただろう。

 

今世でのそれがどこまで広がっているのか分からない。UAという組織はオールマイトが創始者でありリーダーだけれど、それに手を貸したとされている警察組織の人間は?ここの所長扱いの相澤さんが実質のNo.2なのだろうか。

 

「お前的にはすぐ継承を完了させて、ヒーロー活動に取り組みたい所だと思う……が、ちょっと待ってくれ」

「理由をお聞きしても?」

「あぁ。まずひとつ。先程言ったように今警察側の監視が強くなっている。ずぶの素人が超パワーを手に入れただけで上手く立ち回れるとは思えない。そのまますぐ捕まる」

「……」

 

 

ぶっちゃければプロヒーローとして活動してきた前世での記憶があるため、その点はいらない心配としか言いようが無い。

しかし前とは違い筋肉が少なく脂肪が多い身体では立ち回り方にも変化があるだろうことは確実。一応鍛えてはいるけれど、何をするにも胸の脂肪とかお尻の脂肪とかが邪魔だ。男の時のようにとまではいかない。

継承を終えてすぐさま本格的に活動というのには自分も否定的な意見だ。

 

「ふたつめ。……オールマイトさんが、死ぬかもしれない」

「え、それは死刑が云々ってやつ……ですよね?それが一体」

「違う。オールマイトさんは電話口でこう言ってたんだ、“あの子が後継としての覚悟を決めるまでは足掻こうと思う”と」

「っ……それって」

 

「現在の法整備下では、個性の違法使用は現行犯逮捕が基本だ。

個性使用中を誰かに見られたり映像が残っていたり、自白でもしない限りは証拠不十分になるんだよ。つまり犯人や現場にヒーローの痕跡が付着してない場合は殺人未遂どころか傷害罪、暴行罪にすらならない、なれないんだ」

 

今世でのヒーロー活動は時間との戦いだ。

警察よりも早く現場に駆けつけ、敵を倒し、無力化・拘束。影から通報し、警察の到着と共にそっと現場を離れる。これがセオリーだ。

SNSが発展した現代、しかし一般市民も弁えているのか証拠となるような写真、動画データは警察寄りの考えの人以外撮ることもしないため、警察がいない状況下で起こったことに対する罪を見つけるのは中々骨の折れる作業だ。

 

「だからオールマイトさんは“足掻く”って言ってんだな。あそこまで派手な活動だ、全部の活動を1から洗い出して突けば刑の最終決定を遅らせることくらいは出来る。

でも逆に考えてみろ、お前が後継としての覚悟……つまりヒーロー活動を開始すること、だな。一度でもオールマイトの再来だなんだと騒がれてみろ。自分の役目は終わったとその足掻きすら止めて、最悪自供なんてことにでもなったら」

「……オールマイトは、死にたがってるんですか」

「わからない。……わからないが、俺は死なせたくない」

「そんなの皆同じですっ!!」

 

だよな、と息を吐く相澤さんは、かなり参っているようだった。

 

「……でも仮に僕のヒーロー活動の開始を遅らせたとして、それは根本的解決にはなりませんよね。

オールマイトは捕まったままだし余りにも音沙汰が無ければ僕を諦めて別の後継を用意するかもしれない。

ヒーローはこの厳戒体勢でどんどん逮捕者が出るでしょう。戦力も象徴も失いつつあるUAを初めとした自衛団組織は事実上の解体とすら言われつつあると先程相澤さんもおっしゃいましたし」

 

「……分かってる」

「八方塞がりですよね」

「だからと言って諦める訳にもいかんだろう。更に向こうへ、plus ultra。かの英雄ナポレオン・ボナパルトの言葉だ。うちのUAはこれをモットーに掲げててね。

それに、策が無い訳じゃない」

「それって……」

 

 

コンコンコン、と律儀にドアがノックされる音が響いた。かっちゃんだろう。

聞かれたく無い話をしている事に気付いてわざわざノックをしてくる所、変なところで真面目なのは昔からだ。

 

「爆豪にはオールマイトの個性譲渡のこと、言うなよ。あいつはオールマイトに憧れてここまで来たんだ。無個性の知り合いがいきなり憧れてた力を手に入れたなんて知られたら多分、暴れ回るから」

「あぁ……はい」

 

確かになぁ。

前世での僕達も色々とその件について拗れた記憶がある。その時僕はもう個性の譲渡は済んでいたからこそかっちゃんは自分の力を高める方向に意識を持っていけた面もあるんじゃないかと思う。

それが無い今世。しかもヒーローと一般人で無個性の女、幼馴染みとはいえ長くご近所さんレベルの付き合いしかしてこなかった相手に憧れのオールマイトの個性の譲渡権があるとしたら。……まぁ普通にお前には不釣り合いだって暴れるよな。

 

 

「爆豪、入れ」

「紅茶、アールグレイで良いか」

「構わん。俺はコーヒー派だ」

 

軽口を叩きながら戻ってきたかっちゃんは、じゃあこの紅茶誰が飲むんだよと結構な数のティーパックを見て眉間にしわを寄せた。

紅茶なんてただ席を外してもらうための口実だなんてことかっちゃんなら理解しているはずだろうに、律儀にちゃんと買ってきてくれたんだな。しかも結構いいやつ。

 

「爆豪、お前確か一人暮らしだったな?」

「あ?そうだけど」

「よし」

 

何が『よし』?と二人で首を傾げると、相澤さんは首に巻いていた捕縛武器を外し鞄に仕舞いはじめた。……まるで、帰宅の準備をするように。

 

「緑谷、お前はしばらく爆豪の家に身を寄せろ。爆豪、お前は緑谷の護衛を任命する。緑谷はオールマイト関連の重要な証拠を託されている。捕まる訳にはいかないんでね」

「「ハァッ!!?」」

 

「とりあえず緑谷の名前と顔は警察のリストに上がってるだろう。顔は仕方無いにしても偽名は考えとけ。決まったらこちらで高校の編入手続きを取ってやる」

 

「ええええちょっと待ってください相澤さん!?高校!?なんでッ!!?」

「違うだろお前まず男の家に女を住まわせる所で疑問の声を上げろよアホデク!!」

 

わっちゃわっちゃと二人で騒ぎ立てれば、相澤さんは不機嫌そうに鞄を担いだ。

待って!帰らないで!

 

「……まず住居。こちらに関しては今手隙のヒーローがうちにはあんまりいない。名の知れてるヒーローには自宅待機を命じているしな。その点爆豪は認知度が著しく低く、そして暇だ。護衛にもピッタリだな」

「認知度低い言うなッ!暇言うなッ!」

 

「護衛……仕事として住まわせてる対象に手を出す奴でも無いのも分かってる。無問題だな」

わぁ、さすが相澤さん。そんな言われ方したらかっちゃんのみみっちい性格故に言い返せないだろう。っていうか、かっちゃんが僕に〜とか無いですから。

前世での拗れに拗れた関係では無いものの、幼馴染みで年下の女の子に木偶の坊のデクとか呼んじゃう人だよ?

 

「そして高校だが……。UA自体派手な活動は暫く控えるし、だからと言って爆豪の家に軟禁状態も酷だろう。幸いお前の顔は世間に割れてないし、教員にUA構成員のいる高校が近くにある。そこに話を付けておく」

「あ、ありがとうございます……」

「爆豪が大学で側に居れない昼間に代わりに護衛してくれる奴がいる学校のが都合が良いって話だ、気にするな。日中勝手に出歩かれるよりも安全だしな」

 

質問は、とそれこそ授業中の教師のように僕らを見渡し、咄嗟に何も言えなくなったのを見て

「なら解散。俺は用事があるから帰るぞ」

とさっさと出ていってしまった。

気まずい空気で固まるかっちゃん。

 

「……かっちゃん?」

「……」

「おーい」

「……いくぞ」

「あっちょっと待ってよ」

 

 

どうにか再起動したかっちゃんは、言われた通り僕の護衛に徹することにしたらしい。

要人みたいでなんだか申し訳ないけど、実際要人なんだろうなぁと感情が現実に追いつかない。

 

「かっちゃん、ヒーローなんだよね」

「……外ではその話すんなよ」

「うん、分かってる。でも凄いや。さすがかっちゃんだ!」

 

この社会でヒーローとして生きるのは前世よりも難易度が高く困難で危険も伴う。

小さい頃からの目標を18歳という年齢で夢を実現しつつあるかっちゃんは前も今も凄い奴だ。

 

しかしかっちゃんはボリボリと頭を掻き居心地悪そうに

「……まだ名ばかりもいい所だ。

いよいよ本格的に活動開始するって時にオールマイトの騒ぎがあったからな」

と言った。大した成果も出せていないうちからヒーローを名乗るのが嫌なんだそうだ。相変わらずである。

 

「でも凄いよ!コードネームはなんで爆心地にしたの!?何かこだわりある!?ヒーロースーツはどんな感じ!?爆破の個性を有効に使うにはやっぱり手に工夫があるやつだよね、僕的には」

「うるっせぇわクソナード!!」

「うぎゃ」

 

顔を物理的に掴まれた。強制的に口が開けなくされる。……前世じゃこのまま爆破確実だったし、まだマシなんだろうけどさ……。

 

 

「……俺の家は空き部屋なんざねーぞ」

「へ、部屋貰えるとは思ってないよ。大学生だしきっとワンルームでしょ?」

「1DK」

「わぁこの都心でぜーたくな……」

「るせぇ自腹だ」

 

マジかかっちゃん。大学生だよね?その資金は一体どこから。

 

「……セキュリティ面と防音にこだわってたらワンルームなんざねぇんだよ」

「成程、盗聴と個性対策……」

「そういうこった」

 

そんな雑談をしているうちに、かなり綺麗なマンションのエントランスに到着した。

……マジかかっちゃん。大学生の生活水準じゃないぞ。

ぽかんとしていれば、かっちゃんは今日初めて少しだけ表情を和らげた。

 

「……アホ面」

 

そんなこんなで、僕とかっちゃんの二人暮らしが開始されたのだった。

 

 

*




爆豪勝己
Not転生者。普段は医学部の学生。近所の無個性の幼馴染みを保護したらとんでもないことに巻き込まれていた。
『UA』の構成員。コードネーム「爆心地」。


相澤消太
Not転生者。『UA』構成員。実質のNo.2で、脳筋のリーダーに代わり内部の処理はほぼ相澤の担当。オールマイトが抜け大幅な戦力ダウンだが活動は細々と続ける予定。
コードネーム「イレイザーヘッド」。
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