指名手配犯ヒーローズ   作:詩亞呂

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Hero-1

「初めまして、編入生の赤谷海雲です。よろしくお願いします」

 

かっちゃんら秘密結社UAに保護された僕は、数週間後赤谷海雲という名前で新しい高校生活を始めた。

 

僕は恐る恐るかっちゃんの家にお邪魔させて貰うことになったけど、思いの外快適だ。

日常的に怒鳴り散らすのは疲れるのか予想外に静かだし、僕が家事でミスをやらかしても「次気ぃつけろ」と思いの外優しい。

ご飯や家事は居る方がやると決めたものの、自分のテリトリーを荒らされたくないらしいかっちゃんは僕が色々(特に掃除と洗濯)するのを嫌がる。

まぁ、数年ぶりに会ったばかりの異性の幼馴染みにパンツとか触られたくないよね……と心は思春期の娘を持つパパ気分だ。

言ったらぶっ殺される自信がある。

 

医大生は忙しいだろうに、僕の学校が始まるまではかなり無理して護衛の任にあたってくれた。迷惑かけたくないと言えば、お前は気にするなの一点張り。しかしそれもようやく終わるのだ、僕の新しい高校生活が始まったのだから!

どことなく雄英の制服を彷彿とさせるデザインに懐かしさがこみ上げる。まぁ僕が着てるの男子用じゃなくて女子の制服だけれど。

 

偽名は遠い親戚の苗字である赤谷を、海雲は僕の前に生まれるはずだったお兄ちゃんの名前を貰った。女が名乗っても違和感の無い名前で良かった。

 

前から勉強に苦を感じるタイプでは無かったし、凝り性なのが幸いして特待生としての地位も得た。新しい制服も教材も全部相澤さん……というかUA活動費?から出してもらってしまったんだ、学費くらいは自分の脳で賄います!

 

「じゃあ、赤谷さんの席はあそこで」

「はい」

 

指された場所に近付くと、隣の席にいる女子生徒の丸い頭にどこか見覚えがあった。

ぱっと目が合った瞬間、頬をにこっと緩ませる彼女。

 

「よろしく、赤谷さん!」

「……よろしくね」

 

前世での友人、麗日お茶子だった。

 

 

 

 

びっくりしたなぁ。

今世では全員では無いとはいえ、前世での関係者に思いがけず出会うことがちょくちょく存在する。

かっちゃん然り相澤さん然り、記憶が無くともヒーローめいた心は変わっていないのかもしれない。

ちなみに相澤さんの言うこの学校のUAヒーロー兼教師はなんとびっくり拳藤一佳さんだった。僕のクラスの副担任でもある。前はクラスも違ったせいであまり関わりは無かったけれど、教師向きな性格なんだと思う。

彼女も前世の記憶は持っていなかったが、気さくになんでも相談しろよな、と頼もしいお言葉を頂けた。

 

無事授業が終わり、早速麗日さんに話かけてみることにした。

 

 

「あの、初めまして。赤谷海雲です。よろしくね?えーと」

「よろしく、私麗日お茶子!えーと、海雲ちゃんって呼んでええ?」

「うんっ、ありがとう麗日さん」

 

デクくん、じゃないのは少し寂しいけれど今の偽名にデク要素は無いため仕方が無い。

 

「海雲ちゃんは前どこの学校にいたの?」

「あっと……実家のあった○○の近く」

「え、以外と近い!なんでわざわざ転校?」

 

『赤谷海雲』のプロフィール設定は既にかっちゃんと綿密に対策済だ。万一綻びを見つけられてボロが出たら大変だしね。

赤谷海雲、17歳。実家はこの学校から電車で2時間程の距離にあり、近所の高校に通っていたが学級崩壊がありいい機会だと幼馴染みの家の近くで生活することにした。

 

───ちなみに今時学級崩壊はかなりな確率で頻発している。個性を暴発させ他の生徒が怖がり集団不登校に陥るケース、強い個性を持つ生徒を抑え切れなかった教師陣に歯向かい授業が成り立たないケースなど理由は様々だ。生徒を犯罪者にしないため大体は内々で『学級崩壊』として処理されるが、その闇は根が深い。

 

───ということでそこまで珍しくも無い理由で引越したことにしつつ、さらに真実も絡め嘘がバレにくいようにした。

完璧である。

 

「幼馴染みって男!?」

「え、そうだけ……」

「彼氏!?同棲やん!!」

「はっ!!?」

 

……おや?てっきり転校のことを聞かれるものかと、

 

「かっちゃんは彼氏じゃなくてただの幼馴染みで、」

「かっちゃんさん!幼馴染みだけに許した呼び名!いいねぇ!親御さんがわざわざ娘の同居認めるくらいだよ、よっぽどの仲だと見たね!年上っ?」

「大学生……」

「きゃーー!!」

 

頬を赤く染めてきゃいきゃいと騒ぐ麗日さんを見て、女子高生のテンションを思い出し始めた。前の学校は地元の小中からの持ち上がりが多く、今更そういう雰囲気にもねぇ……と割とドライだったので忘れていた。

雄英での女子達は女子会と称して集まって、こんなテンションで楽しげに会話している様子を寮生活で何度か見たことがあった。

個性の圧制された環境下での学級崩壊……なんて堅苦しい話題よりも、幼馴染みとの同居の方が食いつきが良いのもなるほど納得だ。

相談相手がかっちゃんだったせいで女子向けの対策には一切役に立たなかったぞ。

 

しっかり聞き耳を立てていたらしい周囲には、それから数時間でクラス中に彼氏持ちの赤谷さんとして知れ渡っていた。

……一体全体どうしてこんなことに。高校生の情報ネットワーク凄い。

 

目まぐるしく一日を終えれば、帰宅の準備中待ってましたとばかりにかっちゃんから連絡が入る。探知不可の特殊な端末には幾重にもロックが掛かっており、UAヒーローへ直通の連絡先が目白押しだ。

『あと3分だけ待ってやる』

 

……ム○カか。

 

 

 

 

女子高生らしい会話に慣れず悪戦苦闘の日々だったけれど、ある程度コツを掴めばよく居る女子高生に紛れ込むことは可能だった。

共感、同調、少しの話題提供。

……どうしてもシステマチックに物事を考えてしまうのは思考回路が男だからだろうか。女の子という生き物はお揃いや平均を好み、極端に秀でたものや異物を嫌い、自分の悩みや考えに同調してくれるものに懐く。

別に女の子の友達が欲しい訳では無いけれど、この閉された社会でなるべく存在感を消して生きるには必要なテクニックだ。一匹狼は逆に目立つ。

 

そしてこのクラスの中で一匹狼的存在だったのは意外や意外、麗日さんだった。

一匹狼というのは言い過ぎか、広く浅くの交流はある。しかし特定のグループに所属することは無い。そんな感じ。

前世でも学生時代女子と群れるよりも僕と飯田くんと居ることのほうが多かったし、あまり女子高生のグループというものに興味が無いのかもしれない。

 

「麗日さんは行かないの?」

 

そう声をかけたのは、クラスの女子で僕の歓迎会をやろうと盛り上がっていた中帰宅の準備をする麗日さんを見たからだ。

 

「あー……私は」

「駄目だよぉ海雲ちゃん。麗日さんちはお金無いから、あんまりこういうの誘っちゃ失礼だよ」

「そうそう」

「……」

 

……歓迎会、と言っても学校近くのファミレスでせいぜい数百円のデザートとドリンクバーを頼む程度のものだ。

人数も人数だし、元より長時間居ることはかっちゃんからのお許しが出なかった。

多分、普段一緒にいないメンバーを入れることで場の空気感が微妙なものになるのを阻止するためだろう。『失礼だよ』とこちらを窘めつつも排除の意思がはっきりと分かる言葉に、女子の面倒臭さを感じる。

でもまぁ、僕は女の子でもあり男でもあるので。

 

「そうなんだ?僕、麗日さんともお話してみたかったな。残念」

「っあ……ごめんね?私、今日予定もあって……」

「ぜんぜん!もっと安いとこ見つけたら次付き合ってくれる?」

「う、ん」

 

ほっとしたように麗日さんは帰っていった。居心地悪かっただろうに、無理させてしまって悪かったなぁ。

 

「もー、海雲ちゃんお人好し〜」

「えぇ?お話したいと思ったのは本当だし。僕、早く皆の顔と名前覚えたいんだ!」

 

あぁ、女子って本当面倒臭い。

あの乱暴なかっちゃんの傍にいる時の方がまだ楽だなんて考えてしまう僕は、やっぱり『女の子』にはなれそうもない。

スカートをはいて胸には肩こりの元がぶら下がっていようとも、本質的なそれは男だ。

多分僕には、この目の前の集団を完璧に理解出来る日は来ない。

 

 

 

 

数時間後、迎えに来てくれたかっちゃんは予想外に疲れた表情の僕に少し驚いたようだった。

「……つまらなかったんか」

「ううん。皆いい子だったよ」

 

そう、悪い子達では無いのだ。ただちょっと、黒い部分を知ってしまっただけ。

 

「でも、やっぱりかっちゃんと一緒にいる時の方が落ち着くや」

「……は、」

「なんでだろうね。僕達、幼馴染みとはいえ一緒にいた時間ってそう長くないはずなのに」

「……知るか」

 

ふい、とそっぽを向くかっちゃんは静かだ。

変わったなぁと思う。前世の僕らの間に、こんな気の抜けた空気は終ぞ漂うことは無かった。どこか緊張感のある、そう、さっきまでいた空間のような居心地の悪さ。

ある程度大人になれば顔を見合わせただけで大喧嘩、なんてことはしなくなっていったけれど、どこか気まずい空気は消えないままだった。

 

「そうだかっちゃん。僕、明日もちょっと遅くなる」

「あ?歓迎会とやらは終わっただろーが」

「ちょっとね」

 

 

 

*

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