指名手配犯ヒーローズ   作:詩亞呂

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Hero-2

 

「おはよう麗日さんっ!」

 

僕は別に今世、麗日さんと同じように友情を築きたいとは思っていない。僕の存在は表の世界に住む彼女達にとって害悪になり得るだろうから。

けれど、別にクラスメイトとして最低限仲良くしたいなって思うくらいは許して欲しい。

 

「お、はよう海雲ちゃん……どしたん?」

「ん?昨日言ってた安いお店、見つけたんだ。今日空いてない?」

「……本気だったんだ」

 

ぼそりと呟かれた本音。

……なんとなく麗日さんが女子と群れない理由が分かった。

言葉とは裏腹な感情を空気から読み取らなければならなかったり、お世辞と本気をニュアンスで感じ取らなきゃだったり……そういう煩わしさが苦手なんだろう。

良くも悪くも素直で嘘が付けない僕や飯田くんの傍は麗日さんにとって楽だっただろうし、雄英の確固たる目標が存在する校風も、それに惹かれて集まる人種も彼女に向いていたのだろう。

こういう答えも出口も無いふわふわした意地の探り合いは僕も嫌いだ。

 

「もちろん。ね、だめ?今日も予定あるかな」

「……大丈夫だよ」

 

だから、ちょっとだけ。

言葉の裏を考えなくて済むような時間を麗日さんに。かつての友人との束の間の時間を僕に。

……それくらいは、許して欲しい。

 

 

 

 

 

「え、お金に困ってるのが嘘?」

「う、嘘ちゃうよ。ちょっと大袈裟なだけ」

 

誘ったのは、大通りから少し外れにある寂れた公園にキッチンカーを出しているお店だ。

学生に優しい値段設定なのに人が全然いなくて、内緒話にはうってつけ。

冷えたドリンクを飲みながら、僕は麗日さんの告白に目を丸くした。

 

「……じゃあなんであんなにクラスで」

「四六時中同じ人と一緒に行動するのが苦手なだけだよ。……まぁお金ないのも本当やけど、そんな放課後の買い食い節約しないと生きていけない程じゃないし。苦手なんだよねぇ、ああいうグループでずっと行動するの。トイレまで一緒とか訳わからんよ」

 

だからお金無いって何度か断ってたらあぁなったのと言われれば、やっぱり僕の予想は当たっていたのだなと納得した。

苛められている訳では無い。友達未満知り合い以上みたいなよそよそしさ。やっぱりもう少し気軽でドライな関係が楽なタイプなんだろう。

「それ、僕もだよ」

「えぇ?ほんと?」

「前の学校と毛色違ってびっくりしてる。溶け込もうと思って頑張ってるけど、やっぱりちょっと疲れるよね」

「そう、嫌な訳じゃないし仲良くしたくない訳でもないんやけどね。難しい!」

 

人間関係は複雑だ。特に女子は。男の頃は全く考えたことも無かった問題に悩む麗日さんは、男だった僕には見つけることの出来なかった一面だ。

 

「そういえば、海雲ちゃんは学級崩壊で転校してきたんだよね。……やっぱ個性関連?あ、ごめん嫌なら答えなくていいんやけど」

「ううん。そう個性が暴発しちゃってね、ちょっと」

「そっかー

……私さ、今の個性使用絶対禁止って、なんか違うと思うんよね」

「麗日さん……?」

 

いつの間にか飲み終えたドリンクをゴミ箱へと投げ入れる麗日さんは、苦笑いを浮かべた。

「私の実家、建築やっててさ。私の個性が使えたら皆楽になるし今みたいな苦しい生活しなくて良くなると思うんよ。でも建築業界に個性の使用って認められてない。

海雲ちゃんの前の学校の子だって、個性使用が駄目じゃなくて暴発した時の対応がしっかり出来れば別に禁止にする必要なくない?せっかくの便利なものを無理矢理規制して使えば犯罪者扱い。なんで?って思っちゃうんだ」

 

なんて、私が何か言って変わるとも思えないんだけどと頭を搔く麗日さん。

 

……あぁ、一緒だ。ご両親の役に立ちたくてヒーローを目指していた前世の麗日さんと、根っこの部分は全然変わらない。

 

「……そうだね。僕も、」

 

ガァァアアアン!!!!

 

突如としてけたたましい金属音が響き渡る。次いで、悲鳴。

いきなりぶわりと風が吹き荒れ、ただ事では無いぞと慌てて周囲を見渡す。

 

「なにっ!!?」

「麗日さん、アレ……!」

 

そこに居たのは、木々や電柱をなぎ倒しながらこちらに向かってくる巨大な敵だった。

 

コミックさながらの典型的な巨大化個性持ちは、ただ大きいだけで純粋な恐怖を周囲に与える。敵も混乱しているようで、足元に構う様子は無い。

このまま逃げなきゃ潰される。

麗日さんは足を竦ませながらもパン!と頬を叩き気合いを入れた。

 

「こっちへ!!」

腰を抜かしたキッチンカーのお姉さんの腕を無理矢理引っ張り、倒れるものの少ない公園の中心部へと逃げる。

 

「麗日さんはお姉さんとここにいて!」

「はっ!?海雲ちゃんは!!」

「僕は避難誘導してくる!あんな巨大な敵、歩くだけで大被害だよ!なるべく被害者を減らさないと!」

「な、なんで海雲ちゃんがそんなことせんといかんのや!運悪かったら死んじゃうんだよ!?」

 

「そんなの、僕がやりたいからに決まってる!」

 

確かに一般人の僕に避難誘導する義務は何も無い。

……義務が無いからやらない?否。

報酬が無ければ、仕事じゃなければ動かない?否!

 

僕が目指すヒーローは、そんなんじゃないんだよ!

「人助けが犯罪になる世の中なんて真っ平ごめんだ!!」

 

 

「海雲ちゃ……!」

 

絹を裂くような呼び声を背に、僕は大通りへと飛び出した。

かなりの人がもう逃げてはいる。しかしまだちらほらと逃げ遅れた人や転んでしまい半分諦めたような老人、目が悪いのか全く状況を分かっておらず杖を持ちオロオロとする女性がいるのを見つけ、瞬時に要救助者を見分ける。

 

「おばあちゃん!歩ける!?」

「もうダメだよ……」

「じゃあ乗って!はやく!」

 

幼い頃から鍛えていた僕にとって、老人1人抱えて全力疾走なんて屁でもない。

個性を使ったとんでもないパワーは無くとも、身体能力は鍛えたことも無い一般人とは程遠い。

 

おばあちゃんを背負うと、声を大にして周囲へ避難を勧告する。

「交差点を右へ曲がったすぐそこに大きな公園があります!広場は倒れるものが少ないです、逃げ遅れた方はそちらへ早く!!」

 

わっと人が交差点へ向かい始める。

その中から目の不自由なのだろう女性を見つけだし、「触ります」と声をかけた。

 

「あの、私、何がなんだか」

「巨大な敵が暴れています。このままだと潰されかねない。僕が手を引きます、走れますか!?」

「は、はい……!」

 

集団で公園の入口に到着すれば、麗日さんがそこに立っていた。

「うららかさ……」

「1人で飛び出して……バカ!!うちも手伝うからッ!!」

「!!……ありがとうっ」

 

涙を浮かべ、怖いだろうに。前世と違い、今の彼女には敵と対峙するための訓練も覚悟も存在していない。普通の女の子だ。

なのに飛び出した僕を叱咤し手助けしに一歩踏み出してくれた。

 

「こっちです!!」

 

 

 

 

「平太……平太がいないわ……!」

公園の広場でパニックになっているのは、若い母親だった。

「手を、手を繋いでいたのに……!」

気の毒そうに周囲は彼女を見るものの、この非常事態で子供を探しに歩き回ろうとする大人は誰もいない。

可哀想に、はぐれたのか。そんな囁き声に母親は打ちひしがれる。

 

「平太……!」

「平太くん、ですか?服装は?髪型や特徴的なものはありますか?」

 

そんな状況下で、全く気負わずにそう出久は声をかけた。

 

「あぁ……ぁ……!5歳くらいの男の子で、オールマイトの人形を手に持っている……あの、髪型は坊主の、」

「ありがとう、探してきます。お母さんはもし平太くんが戻ってきた場合に備えてここに居てください。きっと無事ですよ」

「ちょ、海雲ちゃん!」

 

 

お茶子の制止を振り切り公園から飛び出した出久は、交差点付近から聞こえた泣き声に気付いた。

「!いたっ」

 

5歳くらいの男の子、坊主頭でオールマイトの人形を持っている。

おかあさん、と泣く彼にパッと見外傷は無いようだ。良かったと安堵し駆け出す出久。

「平太くん!こっち!」

「……っ?」

 

 

ガアアアン!!

 

刹那、あまりに近くで聞こえた轟音に出久は慌てて大通りに目を向けると、暴れる敵は子供のすぐ手前まで迫っていた。

 

「危ないッッッ!!!!」

 

───こんな時、個性があれば!!

 

 

ワンフォーオール使用時とは比べ物にならない程遅い。守りたいものが、守れない!

 

子供をぎゅっと抱きしめた時、大型敵の足はもう退避不可能な距離に迫っていた。

 

 

「、や、ば」

「ッ海雲ちゃんッッッ!!」

 

突っ込んできたお茶子に目を白黒させる暇も無く、キィン、と軽い個性発動音。

 

これは、この発動音は。

 

 

ふわ、と巨大な敵が僅か数センチだけ浮く。唐突な浮遊感に慌てた敵は途端に慌て、バランスを崩した。

 

「解ッ除!」

 

轟音を立て仰向けに倒れる敵。浮かせたのはほんの数センチ、至近距離にいた出久ら以外にはただバランスを崩して転んだだけに見えただろう。

 

「敵が倒れた!確保だ!!」

 

スピーカー越しで会話する警察の声。

すぐそこまでもう警察らは来ていたらしい。

……助かった。

 

 

「どうしよう……わた、私、個性使っちゃった……」

青い顔をし、ガタガタと震えるお茶子。近隣の人間の避難が完了していて、尚且つ敵が大きすぎたせいで誰にも見つからなくて済んだ。

しかしそれはただの結果論でしかない。すぐそこまで警察が迫っていた状況下、お茶子も個性の不正使用で現行犯逮捕される可能性は充分にあったのだから。

 

「麗日さん……」

「わた、私、なんにも考えてなかった。すぐそこに警察いるのにとか、そんなの、考える前に」

 

海雲ちゃん達が、死んじゃうって。

ぼろ、と大粒の涙を零したお茶子を子供ごとぎゅっと抱きしめる出久。

 

「麗日さんは僕らのヒーローだよ!!

自分の保身より僕らのために飛び出してくれたんだ……ありがとう……!」

「ありがとうおねぇちゃん!!」

「平太くんだね?今のこと、僕達だけの内緒にしてね」

「うん!」

 

ありがとう、僕らのヒーロー。

そう出久がまた呟けば、うわぁああんと大泣きしてしまったお茶子。

 

こうして転校早々の大事件は幕を閉じ、お茶子と出久は図らずも友情を深めていくことになった。

勿論出久はこの後勝手に行動した件についてお茶子に責められ、迎えに来た勝己には烈火のごとく怒鳴られた。が、長くなるのでそこは割愛することとする。

 

 

*




麗日お茶子
Not転生者。『赤谷海雲』のクラスメイト兼友達。
女子特有の群れがあまり得意では無くクラスでは浮き気味。
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