指名手配犯ヒーローズ   作:詩亞呂

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Game start

 

 

 

異形型個性の差別を無くすためのデモ活動は暴動により警察に差し押さえられるという、ある種最悪のパターンでの失敗を迎えてしまった。

どんよりと息苦しい程の沈黙を保つ車内。

轟くんが運転するパトカーは一般車とは違い広々としたワゴン車で、狭い空間に蛙吹さん万偶数さん僕3人の他に4人が同乗していた。

 

「で?ここから一番家が近いやつは誰だ」

 

「……え?」

違う意味でぽかんと固まる面々は、轟くんの放った言葉の意味を理解出来ずにいる。

「家まで送って……いや、それは嫌か。最寄り駅まで送ってやるよ」

 

なんで、警察に行くんじゃと誰かが零す。全員が全員、連行され何かしら自分の経歴に傷が付くことを覚悟していた。

 

「お?先輩はあの場にいたら色々不味いことになるだろうから先に逃がすために罪のないお前らだけ隔離したんじゃないのか。

『うるさい』奴らにここにいるお前ら関与していなかったのは俺も見ていた。

そいつらはもう俺の個性で捕獲済だし、あとは署に連れてくための応援の車が何台かあれば充分だろ」

 

なんと、あの人の話を聞かない警官が発した『先に連れてけ、応援呼んでこい』を『ここは危ないから関係ない人は先に連れ出せ、逮捕者確保用の応援を呼んでこい』に聞き取ったらしい。

……がっつり警官の前に素顔を晒している僕ですら、全くお咎めなしで返されそうとしている。

 

 

平和な勘違いをしている轟くんの誤解を解くメリットも無いため、全員が駅前の道路脇で下ろしてもらうことになった。助かったとあからさまにほっとした顔の集団。蛙吹さんと万偶数さんは轟くんに向け深くお辞儀をした。

 

しかし僕だけが車内に残っていることに、轟くんは少しだけ首を傾げた。

「お前はここから遠いのか?」

「……なんでですか」

 

なんでとは、とまた首を傾げる彼に向かって、ほぼ確信じみた考えの元問いただす。

「あの状況下で彼らを勝手に返すなんて、普通しませんよね。暴力沙汰は引き起こしていないとはいえ、立派な関係者です。なんでわざわざ嘘を?」

「嘘?なぜ嘘だと言える?」

「……貴方、初めて僕の顔見た時一瞬だけど驚いた顔したよね。そして睨んだ。……僕のこと、知ってるんでしょう。

分かってて一緒に逃がそうとした」

 

そう、あの場にいた警官の中で唯一僕の顔を見て反応したのは轟くんだった。

今一番捜査に力を入れている案件の重要人物を間近で見て気付けないのはそれって警官としてどうなんだとは思うものの、あの混乱した状況下じゃある程度は仕方が無い。

実際そのうっかりに命拾いした訳だし、そこについて何か言うことはあるまい。

しかし、轟くんは違う。彼は僕をきちんと認識していた。冷たい目で、確かに僕を視ていた。認識した上でなにも聞かず帰そうとするなら、すなわち───

 

 

 

「……お前はいらないことに首を突っ込むのは止めたらどうだ、緑谷出久」

 

……やっぱり。

「……いらないことじゃないよ。少なくとも、勝率がゼロならこんなこと言い出すつもりは無かった」

「お前は……」

はぁ、と深いため息を付かれる。

───予感が確信に変わった。

 

 

「……UA構成員、轟焦凍だ。

オールマイトの件のすぐ後だ、やたらに警官の前に顔を出すんじゃない。今回は運が良かっただけだぞ」

 

 

轟くんはこっち側の人間だった。

警察の皮を被りヒーロー側にも通じる、いわばスパイ的立ち位置。新人と呼ばれていたし、まだ重要な情報が耳に入るとは思えない。が、それでもかなりの危険性を孕む役回りだろう。

 

「……それに関しては、ごめんなさい。警察官にもUA構成員って多いの?」

「俺と創立者の1人でもある塚内さんが主立って。

他に数人いるが地方勤務なせいであまり動けない。今回のようなラッキーは今後無いと思えよ、ギリギリだったんだぞ。

緊急時の対応でイレイザーにデモ隊警備メンバーに紛れ込めと言われていたが、本当に頭が上がらないな」

「うぅ……」

 

相澤さんはこうなることを予期していたかのようだった。……結局僕が飛び出した意味はほぼ無く、いたずらに警官に顔を見られ危うく逮捕者を増やす所だった危険な行為。

……情けない。守るために飛び出したのに、逆に助けられることになるとは。

 

「今回ばかりは爆豪に同情する。護衛対象がこんなじゃじゃ馬だとはな。なんのためのボディガードだ。大人しく守られてるのがお前の仕事だろ」

「うぅ……」

 

今現在無力な僕が何をしても周りに迷惑をかけてしまっている。

かっちゃん然り、麗日さん然り。

 

僕が男だった頃、周りを見ずに一人で突っ走る事を何度も色々な人から注意されたのを思い出す。あの頃はまだ個性もあり守る力もあったからギリギリ結果を出せていたけれど、今はそれすら存在しない。ただの、木偶の坊だ。

 

「今回は、その……ありがとう。僕と蛙吹さん達を助けてくれて。轟くんは僕達のヒーローだよ」

「ヒーロー、か。

……俺にはお前みたいな事情もオールマイトみたいな崇高な理由も何も無い」

「?それってどういう」

「……別に。ほら、騎士様がお待ちだぞ」

 

指差された先には、肩で息をしつつも般若のような形相で僕をにらむかっちゃんが。マジかかっちゃん。車に追いついたのか、足で。……こんな往来でまさか個性、使ってないよね……?

 

「き、今日はありがとう轟くん!今度事務所に来てね、何か今日のお礼させて!」

 

そう言い返事も聞かず車内から飛び出した。かっちゃんに首根っこを掴まれるものの、逃げ仰せられる訳も無く大人しく連行された。

 

 

「……頭はよく回る、けど無個性で無力の正義感が強い女、か。

なんでオールマイトはあんなのにUAを託したんだか。血縁者か何かか?」

 

 

 

 

 

 

「ったくお前は本当に!!」

 

5度目である。

帰宅後烈火の勢いで正座させられ説教を受けている最中であるが、この台詞5度目である。あと3時間は開放されない未来しか見えない。

 

「自覚が足りてないようだがなぁ!

お前は今大犯罪者八木俊典が最後に会話した人物として名前が上がってるんだよ!

ただのファン、ただの通行人としてならまだ良かったが、お前は警察の捜査を振り切り逃亡。思いっきり関係者ですって言ったようなもんだ!

今はまだお前の前科が洗えてないからキーパーソンとしての域は出てないが、対応は指名手配犯そのもの!

捕まったら最後、洗脳系の個性で洗いざらいなんてことも覚悟しとけッ!!」

「……せ、洗脳系……」

 

そんな非人道的な捜査方法を警察が使うとは。自白剤もびっくりだ、犯罪者ですらない一般市民に対して黙秘権すら使わせて貰えないなんて。

 

「……お前に見せるか迷ってたんだけどよ」

 

机の上にどさどさ、と置かれた紙束。表紙は白く、クリップで止めてあるだけのそれは3束程あった。

 

「これは?」

「警察内の要注意個性持ちのリストだ、見ただけで犯罪者。超トップシークレットの敵からしたら涎ものの資料だな。

正直お前をクリーンなまま保護するかと散々悩んだが、どうせこのままならまた勝手に突っ走っていつか捕まるだろう。

捕まったら最後、オールマイト関連をペラペラ喋ってジ・エンドだ。なら自衛しろ、そのために相手を知れ」

 

と、言いたい所だがとかっちゃんは資料の上にすっと手を置いた。ニトロの香りが漂う。

 

「犯罪者の仲間入りする覚悟はあるか、木偶の坊」

「僕は犯罪者にはなるつもりないよ。僕がなりたいのはヒーローだ。

……でも確かに、内部資料を勝手に見るのは良くない、良くないね」

「即答かよ……何が言いたい」

 

訝しげに睨んでくるかっちゃんの腕を押しやり、僕はその紙束をひったくる。爆破されてたまるか。

 

「かっちゃんはうっかり机の上に盗んだ資料を放置した。

興味本意で僕が覗いちゃっても仕方が無いよね?反抗する手立ても予定も無い無個性で善良な一般市民の僕には、それを見たとしても実行に移す気も手段が無いんだから」

 

 

「……良い性格してやがるじゃねえか」「そ?」

 

歪に口元を歪ませたかっちゃん。

正義と悪の定義が曖昧なこの世界でヒーローとして生きるには、自分の確固たる意思が最重要だ。僕の意思?僕の意思なんて決まってる。

 

───人助けなんて正しい事した人間が、捕まってたまるかって話だよ。

 

 

「……まぁ覚悟があんなら良い。勝手に使え。それと、これ」

チャリ、と手渡されたのはネックレスと小さな鍵。

鎖の先には小さなボトルのような形をした銀色の物体。全くデザイン性は皆無で可愛くもお洒落でも無い。女性用にしては武骨で男性用にしては少し小振りだ。

 

「これ……?」

「お前、オールマイトからなんか預かってんだってな?随分小さいがイレイザーは最重要機密だっつって教えてくれなかったけどよ。

指紋認証、音声認識、暗証番号にアナログの鍵の4段構え特殊合金構造。個性持ちの職人が作った一点物だ。勿論非合法だがな。

実弾レーザー果てには核でも破壊不可能。預かりモンそん中入れて肌身離さず付けとけ」

「何その最強なネックレス……ありがたいけど……」

……僕が暗証番号忘れたらどうなるんだろう。鍵ってこの小さいの?無くしそうで怖い。

地球が滅んでもこのネックレスだけは無傷で日々を過ごしそうだ。

 

「……お前、今まではどうやって保管してたんだ」

「え、普通にジップロック……」

「アホか!!」

 

別に常に持ち歩くものでも無いため、今は僕の生活用品の置かれている隅の方にある小物入れにジップロックも一緒にぺぺっと入れてあった。勿論ちゃんと毎日無事を確認している。

かっちゃんに見つかったらキモがって確実に捨てられるだろうからちょっぴりハラハラしてたんだぞ、説明する訳にもいかないし。

 

事情を知らないかっちゃんには後ろを向いてもらいつつ、とんでも性能のネックレスにオールマイトの髪の毛をそっと移し替えた。認証系があまりに複雑なのもそうだけれど、暗証番号が16桁なのには目眩がした。覚えられる気がしない。

苦戦しつつもようやく無事髪の毛を移動させロックすることに成功し、ネックレスを首元に持ってくる。

……やっぱり女の子が付けるにはちょっぴり武骨すぎる気がするな。普段は服の下に隠しておいて、もし見つかったら彼氏が私物をくれたとでも言っておこう。いつの間にか定着してしまったかっちゃんの彼氏設定が役立つし、かっちゃんがくれたのは事実だ。

 

「よし」

もさもさの髪に若干苦戦しつつも鈍く光るそれをきちんと付け、見て見てとかっちゃんを呼んだ。

 

「どう?」

「……機密資料にどうもクソもあるか。見た目気にするなんて随分女みてぇじゃねぇかよ?」

「……一応僕、女なんだけど」

「忘れとったわ」

 

 

見た目もさることながら、仕草や口調が男の子みたいとは麗日さんからも実は指摘されていた。

ボサボサのくせっ毛に化粧気の無いそばかすの散った肌。凹凸はあれど女性らしい身体のラインが出るのが嫌で、いつも大きめなメンズものを着ている。

 

女性の身体に違和感はもう無いけども、今からいきなり色々女子っぽくするのは抵抗がある。

自分が今女である事を受け入れはしたが、可愛い女の子を目指したい訳でも無かったのだ。制服のスカートは良くても私服でまでふわふわさせる意味はないと思う。

 

……でも、かっちゃんからあんな風に言われ続けるのは何か癪だな。

 

むーと唸りながら万年床化しつつある布団へとダイブ。かっちゃんは布団を出しっぱなしにするのが嫌いのようで、ケッと軽く悪態をついてキッチンへと消えていった。

 

なんで癪なのかは自分でもよく分からない。女の子扱いして欲しいとか?

───まさか。

 

 

手持ち無沙汰に持ってきた資料をぱらぱら捲る。

資料には顔写真、名前、生年月日に階級、個性の事細かな情報と1人ずつ丁寧に記載されていた。個性使用に必須となる試験には、各個性を上手く使うためそれぞれに合った試験が用意される。一人一人その試験内容はがらりと変わってくるため、このように周到な情報収集が必要なのだろう。

……その情報がこちら側に漏れてるとなれば、危機管理意識大丈夫?と言いたくなるが。

 

ふむ、索敵能力に筋力増強、飛行能力に暗視の個性。どれも強力そうだ、顔は覚えておいて損は無い。

 

「……えっ」

見覚えのある顔にページを捲る手が止まる。

……取り調べで成果を上げまくっている敏腕刑事として注意者表記がしてあった。

……洗脳、彼のことだったのか。

心操人使。

確かに彼の個性は初見殺しもいい所だ。

 

 

再度ぱらりとページを捲れば、前世で見覚えのある姿よりもかなり大人しめ……というか、燃え盛る諸々を抜いた強面な男の顔が出てきた。

 

「エンデヴァー……」

警察にはヒーローと違いコードネームは存在しない。

そのため本名である轟炎司と記載されていたが、強力な個性持ちの警察大幹部、次期警視総監だと言われている超大物な人物だった。

表立って個性を使ってはい解決、とは行かないのが今世の警察職だ。あくまで個性は最終手段の拳銃。それを抜く時は相応の覚悟を持ってしなければならない。

ヒーローじゃない彼がそれでもここまで上り詰めたのはその才能と努力故だろう。

……個性について抑圧の厳しい今世、個性婚なんて言葉は存在しない。

前世では子育てに苦戦してしまった彼だけど、今はそんなすれ違いが無かったら良いな。……ね、轟くん。

 

 

ぱらりと最後のページを捲る。

ぎく、と身体が硬直するのが自分でも分かった。

 

「……うそ……」

 

余りにも見覚えのあり過ぎる、禍々しい顔。

その男の名は全田一郎。……言いたく無いが偽名だろう。

オールマイトとの直接戦闘後、大怪我を追い現場から離れたが相談役として未だに強い権力を持つ大幹部。

 

間違い無い、───オールフォーワン。

 

なんで、あの悪意の塊みたいな人が警察組織に。

……今世で改心でもしたか?いや、しかし今まで出会ってきた前世での知り合いは皆生き方は違えどその志だったり根っこの部分は変わらないという共通点があった。

彼だけが例外なんてことがあるのか?

しかし無かったとしてもこの、警察組織にいる今の現状は一体……?

 

 

頭がぐちゃぐちゃになり、一旦資料を閉じた。わからない、不確定要素が多すぎる。

 

「オールマイト……」

あなたが僕に個性を託そうと思ったのは、彼がいるからですか。彼への対抗手段を持つために、後継が必要なんですか。

───悪とは何で、正義とは何なんでしょう。

僕は、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いい加減にしてくれ、全田さん」

 

警察内、とある会議室にて。

炎司はバン、と力任せに机を叩いた。

 

「私達はあなたに恩義がある、力を貸せと言うなら貸そう。

だから勝手に警察外の人間で私設部隊を組織するなど、敵と変わらん事はいい加減辞めて欲しい」

 

「硬いねぇ轟炎司くん。わかった、わかったよ。組織は解散させる。近いうちね」

「……約束だぞ」

 

バン、と部屋を出ていく炎司。備品を壊しそうなその勢いに、言葉にせずとも強い憤りを抱えている様は実に全田の愉悦を誘う。

 

 

 

「楽しい、楽しいなぁオールマイト。

前世では平和の象徴だったお前は今やただの敵で、敵だった私達は正義の味方と言うわけだ。

思想が変わった訳でも目的が変わった訳でもない。世の中の仕組みが違う、ただそれだけ」

 

さぁ、と椅子をきいっと鳴らす。

オールマイトはもう既に手中に収めた。後は、彼の駒である残りカスのようなヒーロー達だけ。

 

「君の駒をズタズタにして、君の前に肉塊を置いてやろう。どんな顔をするだろう。楽しみだなぁ」

 

ゲーム・スタートだ。

 

 

 

 

*




轟焦凍
幹部の轟炎司のご子息として鳴り物入りのエリート新人23歳。まだまだ下っ端だけどもその仕事ぶりに信頼は厚い。UAヒーローとしての側面も持ち合わせている。

轟炎司
轟焦凍の父親。警察組織の大幹部。

心操人使
彼以外にも警察勤務の元デクの知り合いは数人在籍している。

全田一郎
前世、オール(全)フォーワン(一)。オールマイトの言う「もう1人の前世の記憶持ち」。
オールマイトとの過去の激戦で顔の造形がほぼ焼け爛れたかのようになった。その影響で第一線は退いたものの、警察内部の崇拝者は多い。
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