虹の橋がかかるまで―女神となった強面青年の勘違い冒険譚―   作:一二三 四五八

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1)勘違い転生

「あぁ。今日も生きる活力を貰ったぜ……」

 

(まったくお猫様ってのは、なんであんなに愛らしいんだろうかねぇ。今日は黒いのにも会えたし大満足だ。うむ。やはり可愛いは正義だな!)

 

 それはある春の日の週末の昼下がり。

 

その高校生、依里朱(イリス) 神那(カミナ)はご機嫌だった。今彼は日課の街の猫への餌やりを済ませてきたのだが、なんとその中に普段めったに会えないレア猫の姿があったのである。もうそれだけでこの可愛いもの好きな男の気分は一日中快晴なのだ。

 

 それから彼が路地裏を抜け人気の少ない公園のそばを差し掛かった時。

そんな気分が吹っ飛んだ。

 

「むぅ!?」

 

 そこでは幼児が車道に飛び出して、向かい側の母親の所に駆け出していて。まさに今スピードを緩めないダンプか、その子へと噛みつこうとしていた。

 

刹那。

 

 カミナはおもむろに飛び出した。今にもはねられそうな幼児に向かって駆け出した彼の強靭すぎる肉体は、瞬く間にその距離をつめ、

 

「おかぁさー、っん!?」

 

 嬉しそうに母に呼びかけるその子を素早く抱き上げると、もうダンプは目の前だ。だれもが諦めを抱く光景。だがこの青年は諦めない。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!」

(ま、に、あ、えぇぇぇぇぇっっっ!!)

 

 雄叫びを挙げてそのままダンプのヘッドを斜めに蹴り飛ばし、激突の衝撃で足から嫌な音を響かせながらも僅かな距離を稼ぐと、衝撃により大きく回転する身体の流れを利用して、その横っ腹にパンチ!!

 

どぉぉぉぉぉぉぉっっっっん!

 

砲弾を打ち込んだような轟音を響かせて、まんまと我が身を歩道へ撃ち出した彼は、荒ぶる身体を抑えつけて着地。そのまま後ろの低い街路樹の中に倒れこむと、背負われていたリュックがその衝撃を吸い込んだ。

 

(へっ、やりゃあできんじゃねぇか俺。……上等だ。)

 

 こうして幼少の時からお山の中で身体を鍛えて続けてきた彼の、その人の域を超えた力が発揮された救出劇は、見事に子供と彼の命を救い上げる結果に終わった。

 

(頑張ったな坊主。

もう大丈夫だ。見たトコ傷もねぇ。……でも早く病院にゃ行かせてやりてぇ所だな)

 

まさかの主人公、転生回避である。

 

 カミナは幼児の無事を確認した後に抱えたその子の頭を撫でると、思わずニッコリ。誰からみても大団円。まさに感動的な光景と言えるだろう。

 

だが彼の場合は(・・・・・)そうはならない。

 

「いやぁぁぁぁぁぁっっっっ、化け物ぉっっっ!!

私の子供を返してよぉっっっっっ!!」

 

その時突然、幼児の母親が悲鳴にも似た叫び声をカミナに向けてきた。

 

(ああ。今のでサングラスとマスク、……とれちまったんだな)

 

 この場面。幼児を命懸けで助けたカミナの行いは彼女の目からは違って見えた。

 

子供の声を聞いて道路へ振り向いた彼女が見たものはダンプではなく、サングラスとマスクをつけた異常に筋骨隆々なタンクトップ姿の恐ろしい不審者の姿であり。

それを見た時、彼女からはそれ以外の情報が吹き飛んだ。

 

 しかも直後、不審者がよくわからない速さで我が子に飛びかかると、その動きの激しさからサングラスとマスクが弾け飛んだから大変だ。

 

「きゃぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!」

 

その下には、とてもこの世の者とは思えないおぞましい顔が隠されていたのだから。

 

 説明が難しいが、言うなればそれは鬼と般若、なまはげと修羅、餓鬼と羅刹と、何かその様な造形のモノをありったけ混ぜ合わせ、さらに邪悪な何かで丁寧に煮詰めこんだ上で、奇跡的にその醜悪さとおぞましさのみを抽出しまとめ上げたような顔であり。

 

むしろ実際はそれらの表現すら生ぬるいもっと恐ろしい人外の、ナニカであった。

 

(あ、あ、ウチの子が、化け物にさらわれるっ!!)

 

これが彼女の結論である。

 

 そして彼が街路樹に沈みこんだ後見た。

そのぼさついた黒髪の奥に光る、仄暗い死の色を思わせる濁った紫の瞳が、娘を抱えたまま邪悪に嗤う不気味な大きすぎるその口が、温厚な母親の心から完全に正気を奪いさった。

 

結果。そこには娘の為に化け物に立ち向かう強く優しき母の姿だけが残ってしまう。

 

「放せぇ!! 放しなさいよ!!」

「……落ち着いて下さい、奥さん。俺は別に怪しいモノじゃありません」

「そんなワケ、ないじゃない!!」

 

 同じく異形の影を見て思わず走り去ってしまったダンプはもはや見る影もなく、そこには助けた筈の幼児の母から、決死の覚悟でハンドバックで殴られ続ける哀れな青年の姿。こうなると彼を恐れた人には何を言っても無駄である。

 

 これこの通り、この青年はいつも極端に間が悪い。その見た目と相まって、それはいつでも彼を傷つける凶器となってその身へと突き刺さるのだ。通う学校ではその姿から陰ながら魔神やら鬼神と恐れられ続ける彼の、生涯の苦悩である。

 

 そんな中、本人は至って冷静で。

 

(ああ。俺見てぇな強面相手にでも子供の為なら立ち向かえるってか。……やっぱ、母親ってのはすげぇモンだな。悪い事をしちまった。……俺は笑った顔が一等怖いらしいんだ)

 

むしろこの母親の行動に感心し、逆になんとなく申し訳なさすら抱いている所であった。

 

 彼にとってこんな事は日常の一部。今更騒ぐ気にもならない事だ。どこに行こうが泣く、喚く、騒ぐ、怒る、殴る、警察を呼ぶ、気絶する、心臓発作などが付き纏うのが自分だともう自覚している。そんな事より必死に子を守ろうとする母親の姿が、捨て子であり、育ての親すら失った彼にはどこまでも眩く思えた。

 

(……早く息子さん(・・・・)を彼女に返して安心させないとな。それにこの子の身体も心配だ。なんもねぇとは思うが、大事に越した事はねぇ)

 

「おい坊主。もう大丈夫だ。

……お母さん心配してるぞ?

ほら、お母さんの所に言ってやりな?」

「うああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そう思った彼が幼児を母親の元に返そうと頭を静かに撫でながら声をかけるも、幼児は大きく泣き叫んで自分の身体へと力強く抱きつくばかりでどうにもいけない。仕方なく母親から叩かれながらそんな子供の頭を優しく撫で続けてやるカミナ。

 

 しかしそんな事をしていればいくら田舎の人気の少ない通りでもいくらか人が集まってくるもので。

 

「誰かぁっ、誰か助けてぇっっ、ウチの子が化け物にぃっっっ!!」

「どうしたんですか!?」

「ひぃっっ、ば、化け物ぉっっ!!」

「誰か警察、警察呼べぇっ!!」

「ど、動画、動画とらないと……」

 

 彼にとってはまさに、いつも通りのひどい流れだ。まぁこの後警察が来てくれれば大概解決する。伊達に怖い顔はしていないのだ。些細な勘違いから誤認逮捕を続けた彼は、この辺りの警官の中ではもう割と有名だった。後少しの辛抱。そう思ってカミナは痛みをこらえ続ける。

 

 大きな傷にもそこそこ慣れてるカミナは、自分の傷の具合をよく理解していた。いろんな所が折れてるが別に命を落とす程じゃない。ならば問題ないとこの男は思うのである。日常から事故に会いやすい男の、悲しい達観だった。

 

 しかしこの日ばかりは、どうも勝手が違うらしい。

 

(む、いかんな。流石に気が抜けたのか、どうにも、こう……、気が遠のく、ぞ)

 

「テメェっ、俺の子を放せっ!!」

 

朦朧とする意識の中でカミナは誰かに殴られた。その衝撃がきっかけとなり、微睡むようにカミナの意識はさらに薄くなっていく。その時カミナは1人物思いにふけるのだ。

 

(ああ、いつも通り。俺は化け物扱いか。……いつかこんな思いから抜け出せる日はくんのかねぇ。……どうも神様ってのは今日も寝てるらしいぜ。神那(こんな)名前なのに皮肉なこった。

まったくいつも通り、いつも通りだ。ま、諦めねぇよ。少なくとも誰かは分かってくれるんだ。そん為にバカになって人におせっかい焼き続けるって、俺ぁあの人に誓ったんだから)

 

思うのは遠い日の約束で。

 

「なんで殴るのパパぁ! お兄ちゃんはボクを助けてくれたのにぃ!!」

 

聞こえてきたのは届いた思い。

 

(ああ、そっか。はは。オメェは分かってくれてたか坊主。なら、ま、上等だ)

 

 なんとも報われた気分になったカミナは静かにそのまま目を閉じた。そう。こんな風にちゃんと伝わる事もあるのだと、最後にその子の頭を1つ撫でて、前のめりに倒れ込む。

 

(……少し、眠る。足が1本折れただけなんだ。こんな傷じゃ死んだりはしねぇよ俺は。だからオメェも早く泣き止んで、家族を安心させてやりな坊主?

……ああ、佐藤さんにまた迷惑かけちまいそうだなコレ。……親子共々いつも迷惑かけちまってホント、すんません)

 

 カミナは何かと自分に目をかけてくれる頼れるお巡りさんと、その娘の仕事熱心な自分のクラスの委員長の事を思い出しながら心の中で頭を下げると、程なく意識を手放した。近くで何故か猫の鳴き声が、聞こえた気がした。

 

 

その後、彼は不思議な夢を見た。それは夜空のような色をした紫色の蝶の夢。羽ばたくたびに星屑のような煌めきを振りまきながら翔ぶソレがあまりに綺麗だったから。カミナは暗闇の中、ソレを夢中で追いかけた。

 

その果てに光が見える。

 

見たこともない程に美しい虹色の、光が。

 

 

 そこはまるでギリシャの古い時代の神殿のような場所だった。現実のそれと違う所は大きく3つ。その部屋は古ぼけ朽ちたものでなく、部屋の所々には幾多学模様の不思議な虹彩が浮かび上がり、そこらじゅうに神秘的な光の珠がシャポンのように立ち込めている事。

 

それらを見ていると、どうにもそこが地上のどこかとは思えない。

つまりここは天界などと呼ばれるのが相応しい場所なのである。

 

 その神殿の祭壇の前で、背中から白い羽を生やした美しい女性が1人、堪えきれぬとその喜びを形のよい唇から零している。その身に包んだ古代ギリシャ風の衣装が、彼女の身体に張り付いて妙に細かいシワを作り出し、彼女の見事な肢体の形を際立たせていた。

 

 この気の強そうな切れ長の碧眼に、長く美しい金糸の髪を真っ直ぐ降ろした整った容姿の女性の名はアルメリア。多元時空に数多に浮かぶ世界の一つを統べる新米の女神である。

 

 彼女は今、自らが手にした幸運を思い出しながらその時を今か今かと待ち続け、その心を踊らせていた。すなわち新たな勇者が召喚される、その時を。

 

(ふふ、依里朱(イリス) 神那(カミナ)。魂の価値の薄い現代のコモンの存在で在りながら、まるでレアクラスのような能力を持つ男。完全に生まれる時代と世界を間違った優れた魂。有象無象のステータス郡の中から彼を見つけられたのは本当に幸運だったわ。お買い得過ぎるんだもの)

 

 彼女の言うお買い得とは、異世界から魂を召喚するのにかかる費用の事を指す。こうして異世界から魂はそれらを時代ごと、立場ごとの区分で分けて、示された神力をその世界の神へと支払う事でトレードがなされていた。

 

 特に地球はその魂が多く管理がずさんで、探せば今回のようなお買い得な魂が見つかる場所なのだ。その為まだまだ世界の総力が足りない若い世界の神などはこぞって地球からお得な魂をよりすぐり、自分の世界へと買い集めていく。

 

地球側は溢れすぎた魂が減り嬉しい。弱小世界は世界が強くなって嬉しい。まさにwinwinの関係だ。どうやらまだまだ神々の世界では異世界転生・転移のブームは終わりそうにないらしい。

 

 そんな女神の目的の魂は本日死亡予定の魂である。

名を依里朱(イリス) 神那(カミナ)という。彼の者の運命予測にダンプによる接触事故を見つけた時、彼女は思わず笑ってしまった。

 

はいはい、アレねと。

 

 異世界から召喚されるようなレアな魂はなぜかダンプという物に轢かれやすく、その後は流れで速やかに死亡して神々の元へとやってくる。もはや彼ら異界の神の中ではあまりに常識的な事柄であり、彼女の反応も無理はない。

 

 そして先程ようやくそのイベントが起こる時刻となり、彼女はここでその魂の到着を待ち構えている所なのたが、ここで思わぬ事態が起こる。

 

「……こないわね?」

 

そう、待てども待てどもカミナが召喚されないのだ。普通ならイベント終了と共に現れる筈なのに。こんな事は女神には始めての経験だった。

 

 次第に女神の中にイライラしたモノが貯まり出す。多くの世界の神が傲慢であるように、この女神にもまたその気があった。若干以上にSっ気が強く我儘な気質のあるこの女神は、元より誰かに待たされることが大のニガテなのである。人間に待たされるなど論外だった。

 

 どうにも現れない目的の魂に、ついにその女神はある覚悟(ぷっつん)を決めた(した)

 

(……もういい。よく考えれば当然よね。彼のステータスは英雄並なんだもの。どうせその強靭過ぎる肉体が災いして長く死の苦しみを味わっている所なのでしょう。

ならば私がその苦しみから貴方を開放してあげるわ。感謝しなさい人間風情。……少し追加で神力はかかるけど、彼の場合はそれでも大幅な黒字だから問題ないわ。

 

何よりこれ以上待ってられないわよ!!)

 

……とてもよくない決断である。この時の女神の思いが最後の心情に集約されていた。

 

 言うが早いが女神は勇者を召喚する為の神言を唱え始める。神殿の紋章が輝き、光珠が配列を変え、女神のその薄絹のような衣装がその風圧ではためいて、その術の強大さを指し示す。

 

「苦しみ足掻く哀れな異界の魂よ! 我が名アルメリアの命により汝に救いの道を差し伸べん。光輝に従い、汝の魂を我が前へ。汝はここで生まれ変わり、その理を変えるモノなり。標に従い迷うことなく疾く疾く来たれ、栄光の担い手よ!!」

 

 主神権限による魂の強制召喚。

瞬時に強力なゲートがその場に開き、彼の者の魂をこの世界に誘わんと純白に輝き始める。

 

 だがこの神言とて万能ではない。最初に述べた条件を満たす魂でなければ、道は開かれるものの召喚はなされないのである。

 

この場合は”苦しみ足掻く”。女神はコレを今現在事故によって生死の境をさまよっているだろうカミナを思って唱えあげた。

 

 しかし彼はその時、別に生死の間にいるわけではなかった。

 

だが同時に彼は苦しみ足掻いていた。いつまでも周りに化け物呼ばわりされ続ける自分自身に。そしてその現実に。それでもいつか人に分かって貰える筈だと決して諦める事なく、誰かへと手を差し伸ばし続ける道を選んだ彼は。

 

苦悩の中で、いつも足掻き続けていたのだから。

 

 だからこそ噛み合ってしまう。

召喚が成立する。

 

祭壇の前に新たに刻まれた魔法陣がうっすらと輝き始め……。

次第に彼が姿を現す。

 

 うつ伏せに眠るその姿をみた女神は途端に機嫌がよくなった。彼女はカミナの想像以上のその肉体を見て、自分の選択した魂の価値に改めて心踊らせたのだ。

 

 身の丈こそ180の後半だが、その身に宿すこの筋肉の凄まじさはどうだ。腕など女の腰より遥かに太く、足などもはや大樹のそれだ。戦神の中にだってここまでの肉体を持つものは多くない。女神の彼女でさえ、思わず背筋に冷たいものが落ちそうな程に異常な体躯。

 

(……もしかしたらレアクラスにすら収まらないのかもしれないわね♪)

 

自分の選んだ商品に確かな価値が見られれば誰だって嬉しくなるものだ。今の女神はまさにその心境だった。

 

 ほんの少し、いつもより優しい声音でその男に声をかける彼女。うまく手駒に出来るならこれほど使いやすそうなコマはない。その声にはそんな心胆が込められていた。

 

「苦しみ足掻いた哀れな魂よ。非業の死を遂げた汝の前に新たな道を指し示しましょう。

目覚めなさい、イリス カミナ」

 

(なんだ、ここは?)

 

 その声を聞きカミナは静かに目を覚ます。

目を開けて見えたのは見たこともない石材で出来た石畳で。その所々には幻想的な虹彩を放つ不思議な文様が描かれていた。目端にはフワフワと宙に浮くたくさんの光の珠。

 

そしてなにより自分に声をかけた人物から放たれる()を感じた時、彼はそこが死後の世界であると直感する。

 

(そ、うか。俺は、死んだのか……)

 

 その事実に気づいた彼の胸中に浮かぶのは。

 

(ふがいねぇ、鍛え方が足りんかった!!

じいちゃんの言いつけ、あの人の教えてくれた事、全部守れんまま死んじまうなんざ、俺はなんて軟弱な男だ!!)

 

自分へ激しいの怒り。

 

 彼には守るべき指標があった。自分を拾い育ててくれたじいちゃんの遺言となった口癖と、世間の風に自分がとうとうグレてしまった時に自分の全てを受け止めて、道を示してくれた恩師、名も知らぬあの言葉。それが彼の目標であり、生き様だった。

 

1つ、弱くちゃなんも護れん。護るならテメェも護れ。

1つ、真っ当に生きろ。そういうヤツが一番えれぇ。

1つ、親から貰ったモンは大事にしろ、親がなくともそりゃ忘れんな。

 

じいちゃんの口癖を、彼は1つ1つ思い出し。

 

バカになって人を助け続けてたら、いつか絶対幸せになれるから。絶対分かってくれる人がいる。だから自分も、助けてやりなさい。

 

恩師の言葉を反芻する。

 

(そんな生き方をずっと続けてきた人だった。そんな人に俺もなりたかったのに。死んじまったら、なんも護れねぇだろうが!!)

 

 大きな怒りが彼の心を震わせる。だがその時彼はふと思い出す。自分の目の前には神様、きっと女神様がいる事に。

 

(……いつまでも男が下を向いてちゃなんねぇ。後悔は、1人の時でも出来るだろ)

 

 カミナは立ち上がった。怒りを胸に抑え込んで。その表情はいつもより険しいが、この男は不屈の魂を持つ。立ち上がるべきなら、立ち上がるのだ。そうしてずっと生きてきた。

それはこれかも変わらない。

 

「っっっっっっっっっっっっっっっ!!」

(俺を見ても声1つ上げねぇか。流石は女神様って所なんだろうな)

 

 しかしその怒りを抑え込んだ鬼の形相を向けられた女神は溜まったものではない。その顔は本来の彼の顔など比べ物にならない程に恐ろしく、多くの異形を見てきた女神の目から見ても口にするのもはばかられる代物だった。

あまりのその恐ろしさに完全に言葉を失ってしまう女神様。

 

ちょっといい気分になったわがまま女神、まさかの奈落への転落である。

 

 もっとも面倒事を部下に放り投げる事に関しては定評のある女である。本当に気持ち悪いモノやおぞましいモノをあまり見た事がない事も、この恐怖の大きな原因といえる。

 

怒れる魔神の静かな歩みは、女神となって捨てたハズの生物として本能を、今アストレアに思い出させ彼女から自由を奪う。

 

 悲鳴を上げなかったのは最後の意地で。

 

(ナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレ!!)

 

もはや決壊は目の前である。

 

(しかし、神様っていたんだな。今までさんざん疑って悪い事をしちまった。こういう所が俺に足らん部分だったのかもしれん。……ちっ、また自分に怒りが湧いてきたぜ)

 

 カミナは知らない

今この時カミナが怒りを抑え込んだその気迫が女神からはもはや可視化して感じられている事を。それが名状しがたい恐怖であったカミナの顔を、さらに高次元な領域まで引き上げてしまった事を。

 

つまり断罪の(そして決壊)の時である。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!! あ(ぷつん)」

「!?」

 

 程なく限界を迎えた女神はもはや最後には高周波の域に達した悲鳴を皮切りに、糸が切れたかのようにその場に倒れ込む。

とっさにカミナは飛び込んでそれを受け止めるも。

 

「……そっか。俺の顔ってのは女神様なんかも気絶させちまう程に、ひでぇのか」

 

彼が受けた心の傷は、決して小さいものではなかった。

これがこの後、彼に思わぬ決断を選ばせる事になる。

 

 

こうして18年間。人から恐れられ続けた心優しき青年の苦悩の時は終わりを告げ。

 

《世界主神の戦闘不能を確認。依里朱 神那の勝利判定を獲得申請。成功。獲得しました。ステータス情報を更新。ステータスは現在未整備の為、経験を初期ステータスに反映します。

称号スキルの獲得を申請。成功。【主神を倒せし者】【最速世界制覇者】を獲得しました。

 

ようこそ。

どこまでもお人好しな転生者。

世界はきっと貴方の事を望んでいます》

 

ここからは、伝説が始まる。

 




閲覧ありがとうございます。

前作のリメイクとなります。前作にあったようなつらい展開がなくなります。
こんな作品ですがどうかよろしくお願いします。

主にリメイク前から読んで下さってる方に地の文について質問なのですが。

  • 地の文は一人称のほうがいい
  • 地の文は三人称のほうがいい

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