虹の橋がかかるまで―女神となった強面青年の勘違い冒険譚―   作:一二三 四五八

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3)目覚めたら全部美少女になった

 その時、カミナは目を覚ました。

 

何かがおかしい。

未だに微睡み続けるカミナはまぶたを降ろしたまま、その違和感を探ってみた。

 

 まず最初に柔らかい手でもってずっと誰かに頭を優しく撫でられているような感触が伝わり、その下では人肌の温もりを持った何かが彼の枕になっている。

 そしてカミナのその大きな腕の中にそれぞれ、同じく人肌ぐらいの温もりの何かを感じる。そしてそれらも、どうやらカミナの身体に優しく抱きついているようだ。

 

(ああ、すごい、幸せな夢だなぁ……)

 

 生来、人から恐れられて生きてきたカミナは、それらのあまりの現実味のなさから思わずそれを夢だと思った。改めて気を落ち着けるべく彼が大きく息を吸い込むと、強い草木の匂いに包まれて女の子特有の、甘い香りが彼の鼻孔をくすぐった。

 

(あれ、夢なのにどうして……)

 

 未だに覚めぬ夢心地のままカミナが少しだけ手を動かすと、その先になんだか柔らかいものがある。もにもにふわふわ。もにもにふわふわ。なんだかすごく癒やされる。

するとどうだろう。

 

「きゃあ、くすぐたぁっい♪」

「……こしょばゆい。」

「あはは、イタズラ好きなお手々さんだね~。」

 

自分の周囲で女の子達がはしゃぎ合う声が聞こえてくるのだ。

 

(……ふむ。)

 

 彼はしばらく固まった後。

 

(もしかして夢じゃないのか!!)

 

「っっ!?」

 

大きく目を見開いて、飛び起きる。

 

「わぁ、起きた!!」

「……カミサマ起きたね。」

 

「おっはよーご主人さま。いい夢見れたかにゃ?」

 

 起きざまのカミナにあらためて嬉しそうに抱きついてくる腕の中の幼気な女の子たち。さらに後ろから少女がふざけた感じで親しげに尋ねてくる。

 

 抱きついてきた少女たちはどちらもすごく可愛らしい。

 

右腕には花の妖精のような服をきた緑の髪を右でくくった、同じく緑のぱっちりおめめの表情豊かな女の子が。左腕には白と黒が砂利のように入り混じって灰色に見える、独特の柄の前開きのローブを身に着けた白い髪を左でくくった、半開きの綺麗な銀色の目をした落ち着いた雰囲気の女の子。どちらも年の頃は小学生の中学年位だろうか。

 

そんな子達が自分を恐れず嬉しそうに抱きついてくる。

 

 もちろん見覚えなんてまるでない。後ろから聞こえる少女の声にもだ。ついでにいうと彼の目に飛び込んできた周りの景色にも当然彼は覚えがなかった。

 

 そこは深い深い森の中。乱雑に所狭しと木々が競うように生えており、余りに密集したそれはそこに木漏れ日すら容易に届かせず、辺りは一面薄暗い。そこには幼き頃より山の中で身体を鍛えたカミナにもわからない植物達が多く見受けら、ここが異世界だと実感できた。

 

 そして森の中には軽自動車が通れそうな程の幅の林道が造られており、その辺りだけ少しだけ他の場所よりも日が差している。その脇でどうやらカミナは眠っていたらしい。身体には立派な紅い布が毛布代わりにかけられていた。……彼女達がかけてくれたのだろう。

 

 

 しかし彼にとって今の大事はそんな事ではない。目の前にいる少女達が何よりの大事だ。いまだ混乱したままの脳みそから、カミナは今の素直な気持ちが口につく。

 

「ああ、おかげ様で。……最高の気分だった」

「ふっふーん。私のお膝様を貸してあげたんだから当然だよねぇ♪」

 

「!?」

 

 心の底からそう答えたカミナへ、後ろから少女が思いっきり抱きついてきた。とたん、柔らかな感触が彼の背中へと伝わってくる。とっさの事で言葉を失うカミナ。

 

 同時に彼の顔の横、すごく近くに少女の顔が現れた。そのショートボブの茶髪を揺らし、黒い、どこか猫みたいな瞳をした同い年位のその女の子は、そのままカミナの顔にその整った顔をくっつけてきた。それがどこか甘え上手でイタズラ好きな猫の姿を連想させる。

 

そんな彼を見て幼い少女たちもまた、前から笑いながら抱きついてくる。

 

「ワタシもいっぱいぎゅーってしてたんだよ?」

「……ワタシもいっぱいぎゅーてしたよ?」

「「ぎゅー」」

 

 無邪気な少女たちの声が、その優しさと共に彼に届いた。自分の姿を恐れない誰かに優しく抱きしめられる。それがずっと望んでいた事だったから。

 

恐る恐るに、彼は少女を抱きしめ返した。

 

「わぁ、ワタシカミサマに抱きしめられてるよ!」

「……ぎゅーってされてる」

「「わぁい♪」」

 

「……」

 

 カミナの心に温かいモノが溢れる。この温もりが、ずっと欲しかった。誰かから愛されたくて、でも愛されなくて。愛したくて、でも受け入れられなくて。ずっと空回りを続けた彼の、求めていたものが腕の中にあった。その少女たちのキラキラした瞳の輝きは、彼にはどんな宝石のソレよりも遥かに綺麗な宝物に見える。

 

「お、よかったねぇアンタ達ぃ。ほら、カミナくん優しかったでしょ?」

「うん!!」

「……すごく優しい」

 

「ぎゅーってされるとぽわぽわするの!」

「……ぎゅーてされたらふわふわするわ」

「「ぎゅーってされたら幸せなんだね!」」

 

「そう、だな。本当に、そう、思う」

 

 大きな幸福感の中、その時のカミナは考えていた。この少女達はきっと彼が女神に望んだ力によって彼に好意を抱いてくれているんだろうと。

 

 とたん、受けていた温もりは恐ろしい罪悪感となって彼の心を責め立てる。彼は人の心を歪める力を女神へと望んだ。どうしても自分の夢を、家族の温もりを手に入れたいが為に。だがこんなに無差別に、少女達の心を歪めるものだとは考えていたかった。

 

 この優しい少女達が、自分の手によって歪められてしまったのだと思うと、自然と涙が溢れた。それでもこの温もりを手放せない自分を思えば、さらに。

そんな彼をどこまでも少女達は優しく気遣う。

 

「お、もうしょうがないなぁカミナくんは。ほらほら落ち着いて。……よっぽど嬉しかったんだねぇキミは」

 

「……ああ、ありがとう。本当にありがとう」

 

 後ろから抱きついている少女が、言葉通りとは裏腹に嬉しくてしょうがないと言った風な顔で、カミナの頭を優しく撫でた。その時カミナは動転していて、少女が自分の名前を知っている事に気付かなかった。

 

 カミナは知らない。

少女が元は彼の下着であった事を。女神に彼が与えられた力によって形を変えた美少女であることを。彼女は彼の下着として彼の姿を見てきた。だからこそ誰からも恐れられたカミナがこうして誰かに抱きしめられる事を、誰よりも望んでいた事を知っている。

 

今まで辛い思いをしてきた事も、それでも誰かの為に頑張り続けた彼の努力も。少なからず彼女の心に焼き付いていて、いつか報われて欲しいと願っていたから。

だからこそ、誰よりもこの光景を下着の少女は喜んでいた。

 

「カミサマ泣いてる!」

「どうしたのカミサマ、どこか痛いの?」

 

「いや、違うんだ。君らが抱きついてくれたのがあまりに嬉しくて、嬉しくてな。情けない事に、涙が出た。求めてたモンが腕の中に有るんだって思うとな、みっともねぇな」

 

 カミナは素直に自分を心配してくれている女の子たちに、とっさに本当の事が言えなかった。だからもう一つの本当を伝えた。それが偽り無くまったくの真実だったから

 

「「わぁ!」」

「はいはい。別にみっともなくないよ。ほら、ワカバもコイシももっとギューとしたげてよ。コレめっちゃ嬉しがってるからさ」

 

「「うん、ギュー!」」

「アタシもギューってね♪」

 

 カミナは知らない。

この幼い少女達が、彼が女神に彼が与えられた力によって形を変えた美少女であることを。下着の少女に呼ばれた通り、共にカミナのそばにあった若葉と小石が変わったモノだ。

 

 彼女達は嬉しかった。自由に見えず、自由に聞こえず、自由に動けなかったハズの自分が、何故か動けるようになっていたから。人として目覚めた時、世界の全てが少女達には美しく目新しく感じられた。だからこそ自分を変えたカミナを神様だと本気で信じている。

 

 唯の石や草を人に変える力を持つモノが、ヒトだなんて彼女達には思えなかった。大きな身体のすごく強そうな神様は、唯の草の事も、唯の石の事も、宝物のように抱きしめてくれたから。彼女達はこの神様が大好きだった。抱きつくと温かくて、さらに幸せな気分になれた。

 

唯抱きしめ合うだけで神様も嬉しくて、私たちも嬉しい。彼女達にはこれがとてつもなくすごい事に思えていた。神様のおっきな身体に抱きつくと、なにより安心できた。

 

 元々モノである彼女達に、ヒトの美醜は分からない。だからこそ彼女達にとって神様は、只々頼りになる大っきな大っきな神様なのだ。

 

 その優しさが、カミナにはたまらなく嬉しくて、悲しいのだ。彼は彼女達をこの辺りに住む少女だと思っているから。心優しい少女を、これからも自分はこうして無差別に歪めていくのだと思うと、そんなものを手に入れようとした自分の愚かさが呪わしかった。

 

「……すまない、少し耐えられん」

 

 簡潔に、それだけいって彼はその大きな右手でもって目を覆い隠した。大きな身体の自分が泣いている所をあまり彼女達に見せたくなかったし、何よりそんな顔を誰にも見て欲しくなかった。

 

「あ、カミナくん、そんなに顔抑えちゃったら!!」

「にゃ?」

「……?」

 

 下着の少女がそれを見てたまらずに声を上げる。彼女は彼の力をなんとなく理解していた。手に触れたものが女の子になっちゃうんだろうなぁ、と。

 

 カミナにはその言葉がただ自分を気遣って出た言葉だと思った。そんな風に顔を隠しながら泣くことはないと、言ってくれている風に。

そんな風にそこまでも気遣ってくれる少女の姿が、自分への静かな怒りと変わる。自然と手に力が込められ、こめかみを親指で抑え、顔を掴むように閉じられた。

 

「すまねぇ。本当に、少しだけ勘弁してくれ」

「いや、そういうことじゃ!!」

 

ピカ!!

 

「わぁ!!」

「……神様のピカピカ」

 

 次の瞬間、辺りは眩く1つ輝き。そこから現れたのはすっかり小さくなったカミナの姿。今の彼はもはや世にも悍ましい顔の大巨漢などではない。女性にしては少し高い位の身長の。

……絶世の美少女である。

 

 眩い夜明けの金星の輝きで編み上げたかのような金彩の御髪、深い宵闇の姿を写し込んだかのような紫水晶(アメジスト)の瞳、真昼の太陽の白光を透かした最上級のシルクの如き艷やかな肌艶に、春の華花が姿を変えたかのような淡く瑞々しい唇。その全てが奇跡的に組み合ってその美しさを創り上げている。

 

 体格差から少女達と一瞬だけ距離をおいたその身から、かけられていた赤い布がするりと落ちた。そこからは女性の象徴である、美しく豊かな胸がこぼれだしその一点の隙もないボディラインがあらわとなって、自然とそこに少女たちがまた抱きつく形に収まった。

 

 カミナの美しい裸体を少女達が包み込むその光景は、まるで優美を世に知らしめる一枚の名画のようで。それは至高の芸術すらも霞ませる事だろう。

 

しかしカミナにはもちろんそんな事はわからない。わかった事などただ1つ。

 

「な、な、あ!」

 

「わぁ、カミサマ女の人になった!」

「……カミサマ、綺麗」

「ああ、やっちゃったかぁ……」

 

「お祖父様ごめんなさい。ワタクシ女性になってしまいましたわぁ!!」

 

 自分が育ての親の言いつけの、親から貰った身体を大事にしろと言う言葉を今大幅に破った事だけだった。そんな彼の悲鳴を聞きつけて、そこへと駆けてくる者がいる。

 

「どうかしたのか!!」

「……神様の御姿が変わって、一体何が?」

 

 その声を聞いて駆けつけたサムライのような袴姿の出で立ちの刀の如き剣を帯びた乙女と、立派な鎧を身に着けた騎士のような出で立ちの美女。

 

 未だ混乱を続けるカミナに5人の少女達が自分の正体を明かし、彼が落ち着きを取り戻すまで、どうやらもう少しだけ時間が必要であるらしい。

 




閲覧ありがとうございます。

主にリメイク前から読んで下さってる方に地の文について質問なのですが。

  • 地の文は一人称のほうがいい
  • 地の文は三人称のほうがいい

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