天空(そら)の彼方に響く旋律 -穢れた七世界の中で生き抜く戦士達-   作:室谷 竜司

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Episode9. プリンセス×銀髪迷子、結託の時

 ワタシは、小瀬戸さんに連れられるままレンくんの部屋を出て小瀬戸さんの部屋に向かった。き、着替えておいてよかったよ……。流石に、あの格好のまま外に出るのは恥ずかしいからね。

 それにしても……、なんだかもやもやするなぁ……。

 小瀬戸さんがレンくんと話しているところを見た時、正確にはその時の小瀬戸さんの表情を見た時、ワタシは察した。この子は、ワタシと同じだということを。

 ま、まぁ、仕方ないよね。だって、レンくんだもんね。昨日、レンくんは恋人いないって言ってたけど、だからって必ずしも思いを寄せられていないとは言えないもんね。

 はぁ、でもライバルいたのかあ……。しかも、小瀬戸さんすっごく可愛いもんね……。これじゃあ、自信なくしちゃうなぁ……。

「ここだよ。」

 なんて、いろいろと考えていると、ワタシの前を歩いていた小瀬戸さんがぴたりと足を止めた。見ると、「103号室」と書かれてあった。お、思っていたより近かったんだ……。レンくんの部屋が確か101号室だもんね。

 レンくんは、ほとんど空いてるって言ってたけど、実際どこが空いてるのかな?

「どうぞ、入って。」

「お、お邪魔しまーす。」

 ワタシは、ちょっと緊張しながら小瀬戸さんの部屋へと足を踏み入れた。

 

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 わたしは、黒咲さん……だっけ?を引き連れて神奈和くん改めレンくんの部屋から出ていった。正直名残惜しくはあったけど、これからいろいろと大切なお話をしないといけないからね。ここは我慢しないと。

 にしても……、黒咲さんって、レンくんの彼女……じゃないんだよね……?迷子みたいなもの……とか言っていたけど、どういうことなんだろう?

 そ、それに……、少なくとも昨日の夜は一つ屋根の下で一緒に過ごしたってことなんだよね……。うう、うらやましいなぁ……。すごく気になるなぁ……。

 もともとレンくんはあんまり色恋に興味ないのかと思っていたから、レンくんの部屋に入ったとき、女の子の靴があって驚いちゃったけど、レ、レンくんくらい素敵な人だったら、普通に彼女くらいいるよね……、って納得できちゃう。

 黒咲さんには、その辺りちゃんとはっきりさせておかないと。もし、黒咲さんがレンくんと恋人関係になかったとしても、黒咲さんがわたしと同じようにレンくんに思いを寄せていることはなんとなく察したし。案外、わたし自身が患っていると、同じ相手に同じ思いを抱いている人がわかっちゃったりするものなんだよね。

 っとと、いろいろと考えていたら、もうわたしの部屋の前まで来ていた。って、距離なんてほとんどないんだし、すぐに着くのも当たり前か。

「ここだよ。」

 わたしは、短くそうとだけ伝え、鍵を開ける。さっきここに着いたばっかりだから、あんまり人を上げていいような室内環境じゃないかもしれないけど、黒咲さんにはその辺り目を瞑ってもらおう。

 扉を開き、黒咲さんを中へと通す。

「どうぞ、入って。」

「お、お邪魔しまーす。」

 黒咲さんは少し怯えたような足取りのまま、わたしの部屋に入った。

 

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 小雪は彼方を連れ立って、リビングへと移動する。その間、二人の間に会話はない。あるのは緊張だけである。

 そして、小雪は彼方をソファへと導く。レンの部屋にあったものと同じものである。彼方は、それに対して思うところがあるのか、少し眉を寄せた。そして、若干重い空気の中、ようやく口が開かれる。

「これ、レンくんの部屋にもあった。」

「それはね、もとから寮内に設置されていたものなんだよ。」

「あ、そうなんだ。」

「うん、ひとまず座ってよ。 落ち着いて話したいから。」

「それじゃあ失礼するね。」

 彼方が静かにソファに腰かける。その隣に小雪も腰を落ち着ける。が、すぐに立ち上がり、キッチンへと駆けていく。

「ご、ごめんね、何か飲み物あった方がいいよね。」

「あ、お構いなく……。」

「いいのいいの、気にしないで。」

 小雪は手早く二人分のお茶を用意して、慌ただしく彼方のもとへと戻る。そして、手にしたカップを一つ、彼方に手渡した。

「はい、どうぞ。 冷たいので良かった?」

「うん、ありがとうね。」

 二人はまたソファに横並びになる。

 だが、二人とも同会話を切り出したらよいのか戸惑い、しばらく沈黙が続く。

「ねえ……」

 やがて、先に沈黙を破ったのは小雪だった。

「黒咲さんって、本当に昨日レンくんと初めて会ったの?」

「ふえ? う、うん。 そうだよ?」

「そうなんだ。 で、昨日の夜一緒に過ごして、レンくんのことが、その……好きになったの?」

 彼方は少し驚いたような表情を浮かべるが、すぐに何かを考えるような表情に戻る。

「まぁ、そうかな。 実はね、ワタシ昨日海に身投げをしようとしてたんだ。 リージェリストとして本島で爪弾きにされて引きこもっちゃった弱い自分が嫌でね。」

 小雪の動きが固まる。「身投げ」という言葉があまりにも衝撃的だったのだろう。

 だが、彼方は構わず話を続ける。

「でもね、やっぱり怖かったんだ。 で、いろいろと悩んでたらちょっとふらついちゃってさ。 気づいたら海に落ちてた。」

「え、えっと……、そ、そうなんだ……。」

「でも、その時ワタシを海から引き揚げてくれた人がいた。 それがレンくんだったんだよ。 しかも、ワタシに生きる術を教えてくれた。 リージェリストとして生きるレンくんに、ワタシは救われたんだ。」

 彼方は昨日のことを思い出しながら、時折顔をへにゃりと緩ませる。彼方の中で、あの時のレンの姿はとても印象深く、そして輝いていたのである。

 そんな彼方の表情を、小雪はボーっと見つめる。

「それに、すっごく優しいしね。 あと、カッコいい。 えへへ、ほとんど一目惚れだったかな。 それで、小瀬戸さんはどうなの? 少なくとも、レンくんのことは好きなんでしょ?」

「そうだね、好きだよ。 でも、きっかけは黒咲さんとは全然違ったなぁ。」

 小雪は自分の中にしまわれた思い出を紐解く。

「わたしね、転入生なんだ。 両親がRSOで働くことになって、去年のちょうどこの時期くらいに沖月に転入したんだよ。」

「RSO……って?」

「あー、そっか。 あんまり詳しくない? リージェル関係のこと。」

「うん、正直あんまりわからないかな。」

 小雪はふむふむと頷いてから、RSOに関するもろもろを説明した。そして、一通り話し終わると、彼方は感心したようなため息をこぼす。

「ふええ、そんな団体があるんだ。 知らなかった。」

「まぁ、これからこの島に住むなら嫌でも詳しくなるよ。 んでね、沖月にはすぐに馴染めたんだけど、リージェリストへの差別とかレジェリザムっていう特殊能力とか、なんかもういろいろと怖くって、正直その時はリージェル関連のことから逃げてたんだよね。」

 少し恥ずかしいのか、小雪は自分の頬を掻きながら、話しを続ける。

「でも、あれは確か……、今年の1月くらいだったかな……。 一人で学校の中庭をフラフラしてたら、一人黙々と鍛錬にいそしむレンくんを見つけた。 表情は真剣で、目はすっごく真っすぐだった。 レンくんは、自分のレジェリザムと真面目に向き合って、真っすぐな気持ちで自分を磨いてたんだ。 他の人たちってね、大半はなんというか、怖い目をしてたんだよ。 復讐とか、見返してやりたいとか、そういう黒い心みたいなものが見え隠れしてたんだ。」

「でも、レンくんは違ったの?」

「うん、そうなんだよ。 もちろん、レンくんと同じように真っすぐに自分の異能力と向き合おうって考える人もいたんだろうけど、わたしはあの時のレンくんの力強くて優しい、それでいて何にも怯えず前を向いているその瞳に目を奪われちゃった。 一目ぼれというか、憧れから始まったというかね。 それからわたしも、少しずつだけど自分の異能力と向き合おうって頑張れるようになったんだよ」

 小雪は、うっとりと顔をほころばせる。

 彼方も小雪も、レンを思い出すたびにだらしない表情になっている。

「でもね、わたしってやっぱり臆病なんだよね。 なかなかレンくんに話しかけられなかったんだ。 今年からクラスメイトにもなれたのに。」

「え、そうだったの?」

「うん。 だからね、昨日初めてまともに話したんだ。 そしたら、すっごく優しくてね!」

「うんうん、わかるよぉ!」

 意気投合。彼方も小雪も単純な女である。

「やっぱり好きなんだなって、実感させられたよ。」

「そっか。 お互い、一目惚れだったわけなんだね。」

「あはは、そうみたいだね。 そ、それでさ……、昨日レンくんの部屋で一緒に過ごしたんだよね? な、何もなかったの?」

「え、えっと……、何もなかったって言いますと……?」

 小雪があわあわし始める。どことなく顔も赤らんでいる。

「ほ、ほら、ハプニング……的な? と、特に……、お風呂とか……、トイレとか……、寝るときとか……。」

「ふ、ふえっ!?」

 ピンポイントな指摘が彼方に突き刺さる。思わずたじろいでしまう彼方。

 それだけで、小雪は半眼になる。

「あったんだね……。」

「で、でもでも、一緒のお布団で寝てもらっただけだもん……。」

「そ、それだけでもずるいよぉ!! わたしなんて、まだ少しお話しただけなのにぃっ!!! こ、こうなったら……、わたしもおんなじことしてもらうもんっ!!」

「ま、待って待って! 落ち着いて、小瀬戸さん。 またレンくんに怒られちゃうよ?」

 頬を膨らませて不満の声を上げる小雪を、彼方が何とかなだめる。レンに怒られる、という彼方の言葉を聞いて、小雪は落ち着きを取り戻す。だが、表情は未だ不満げなままである。

「むぅ、いいなぁ。 どうしてそんなに積極的になれるの?」

「う、うーん、なんでだろうね……。 今同じことやれって言われても、できない気がする。 あの時だったからこその勢いみたいなのがあったのかも。 あと、やっぱり心細さとかもあったから。 引きこもっておきながら、人恋しさとか積もってきちゃってね。 だから、昨日あれだけレンくんに甘えることができたのかもね。」

 照れ笑いを浮かべながら、彼方はそういった。そんな彼方の気持ちを聞いた小雪は、少し切なげな表情になっていた。

「今はどうなの……? その、人恋しさとか。」

「まだちょっと。 でも、昨日みたいに思い切り甘えたいってほどじゃないんだ。 ただその……、一人でいるのがまだ少し寂しいかなって感じ。」

「そっか。 わたしじゃダメかな?」

「ふえっ?」

 小雪が真剣なまなざしで彼方を見つめる。

 彼方は小雪の言葉をとらえきれず、首をかしげている。

「えっとね、わたしでよかったら、いつでも一緒にいるよ。 けど……、わたしじゃ、寂しさはまぎれないかな……?」

「えっ、そ、そんなことないよっ!! 正直、今は小瀬戸さんがいてくれて、ワタシ結構安心してるんだよ? むしろ、さっきあんなに剣か売るようなこと言っちゃったのに、いいの?」

「あれはお互い様だよ。 話してみて、黒咲さんとは争いたくないって思えるようになったから。 同じ男の子に思いを寄せる仲間……みたいな?まぁそんな感じ。 できれば、もっと仲良くなりたいな。」

 小雪ははにかんで見せた。心無し顔が赤みが買っているが、彼方はそれに気づいていない。何故か……?

「ひっく……、ひっく……。」

 感極まって涙を流しており、小雪の表情をうかがう余裕がなかったからだった。

「わわっ!? ど、どうしたのっ!?」

「う、嬉しくて……。 ワタシ、お友達とかいなかったから……。 ホントに……、ワタシでいいの……?」

「うん、もちろん。 これからよろしくね。 えっと、彼方ちゃん。」

「うん、こちらこそ、よろしくお願いします、小雪ちゃん。」

 手の甲で涙をぬぐいながら、彼方は表情をほころばせる。そんな彼方に、小雪も微笑みを浮かべる。もはや、この二人の間には、初対面時の敵対心は消えていた。

「もう、そんなに嬉しかったの?」

「それはそうだよ。 ワタシにとって、初めての友達なんだよ。 嬉しくないわけないじゃん。」

「あはは、わたしも嬉しいよ。 でも、やっぱりうらやましい。 わたしももっとレンくんに近づきたいなぁ。 でも、なかなか勇気出ないんだよね。」

 小雪が肩を落とす。自分にとっての憧れであり、思いを寄せる存在に近づくのは、少し臆病な小雪にとっては非常にハードルが高いことである。

 実際、昨日レンと会話を交わした時も、心臓が跳ねるように拍動し、顔は赤面状態で、まともにレンの顔を見ることができていなかった。失礼なことであることは小雪自身理解していたが、それでも面と向かって話す勇気は出なかったようだった。

 だが、その反動なのか、帰宅後の小雪は今までにないほどテンションが高かった。小雪の両親も、これまであまり見たことなかった小雪のハイテンションな姿に、目を丸くしていたほどである。

「同じ寮なんだよね? 今まで話す機会とかなかったの?」

「それがね、わたしさっきここに来たばっかりなんだ。 ほら、まだ荷物片付いてないでしょ?」

 小雪が部屋の片隅を指さす。彼方は指し示されたほうへと視線を向ける。

 そこには、未だ未開封のままの段ボールが置いてあった。転入当時にこの部屋に置いたまま放置されていたものだ。

「そうだったんだね。 でも、これからはチャンスあるじゃん。 頑張ろうよ。」

「そうだね。 って、応援してくれるの?」

「うん、そりゃもちろん。 だって、仲間なんでしょ? 態々取り合わなくても、二人でレンくんを狙っちゃえばいいと思うな、ワタシは。」

「なるほど、いいかも。」

 二人でハイタッチ。この二人は気が合うのかもしれない。

 本来、一人に対して複数の交際者がいるというのは珍しく、国や地域によっては忌み嫌われる。月銀島及び日本においては、現在黙認状態ではあるが、あまり好ましいものとはされていない。

 時折街中などでそう言った存在を見かけても、ほとんどの場合後ろ指をさされるか見て見ぬふりをされるかである。

 けど、どうやらこの二人はそんな批判などお構いなしのようだった。

「じゃあ、一緒に頑張ろうね。」

「うん、まずはちゃんと顔を見てお話しできるようにならないと。」

「だね、頑張って!」

 こうして、沖月のプリンセスと迷子の銀髪少女は、レンにとって最も厄介な形で結託したのであった。

 

 

「そういえば、彼方ちゃんって、これからどうするの?」

 しばらくして、小雪が思い出したように話を切り出した。

「これからって言うと?」

「この島に住むんだよね?」

「うん、そうだよ。 えっと、沖月……だったっけ? そこにも通うつもり。 もちろん、寮にも入るよ。」

「そうなんだ、ちゃんと寮の希望はここにしといてよね。」

「わかってるよ。 もともとそのつもりだもんね。」

 「にへっ」と笑う彼方。小雪も安心したように柔らかい笑みを浮かべる。

 けど、すぐに心配げな表情に戻ってしまう。

「えっと、荷物はあるの? 服とか、日用品とか。」

「あ、ないなぁ。 服は2着しかないし、日用品なんてもっての外だよ。」

「だよね。 なら、買いに行かないとね。 えっと、手続きは少し時間かかるから日用品はほどほどでいいとして、服はすぐに必要だもんね。」

「確かに、そうだね。」

 うんうんと頷く彼方と、まだ少し不安げな表情の小雪。

「お金はあるの?」

「それは平気。 少しくらいなら手持ちはあるし、最悪銀行から引き出せばいいからね。 だから、その辺は心配しないで。」

「そっかそっか。 それならさ、今からショッピングにでも繰り出さない? いろいろと島内を案内するよ。」

「いいの? やった! あ、でも、今ワタシの荷物、レンくんの部屋にあるんだった……。 どうしようかな……。 レンくん、部屋にいるかなぁ。」

「戻ってみる?」

「そうだね。」

 彼方と小雪は連れ立って、レンの部屋へと直行する。

 そして、インターホンを鳴らしてみるが、中からの反応はない。

「あー、やっぱりいないかぁ。 多分だけど、ワタシの転入手続きのための書類とか取りに行ってくれたのかも。」

「なるほどね、それじゃあ、レンくんが返ってきてから3人で行く? わたし的にも、3人でお話しできる機会ができて嬉しいし。」

「それいいね。 まぁ、レンくん次第化もだけど。 じゃあ、レンくんが返ってくるまで待ってよっか。」

 そうして二人は、小雪の部屋へと戻っていった。

 それからレンが返ってくるまで、二人はガールズトーク……というか、レンの話で盛り上がっていた。

 なお、昼食は小雪が作った模様。彼方は大絶賛とのことである。


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