【完結】例えばボクが死んだとして   作:とくめ一

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第1話

「例えばボクが死んだとして、キミは悲しんでくれるかい?」

 

 どうしたの、妙にセンチメンタルだね。

 

 そうおどけて返そうとしたが、男の珍しく真面目な目がそれを許してはくれなかった。

 

「……多分、悲しまないだろうね」

 

「酷いなぁ♠️」

 

 男──ヒソカは戦闘狂と言われる部類で、喜んで強い人間に戦いを挑み興奮し、将来有望な子どもに興奮し、トランプタワーを崩して興奮し、興奮が行き過ぎると誰彼構わず殺す変態である。

 そんな人間だから怪我をしてくることなんてしょっちゅうで、今更この男が死ぬなんて簡単には想像出来ない。寧ろ殺しても死ななさそう。

 ──でももしも、もしも万が一この男が死ぬようなことがあったとしたら……。

 

「……悲しまないけど、怒るよ。

 負けたことにも、死んだことにも。

 怒って怒って、それでその後は……分かんないや」

 

「……そう◇

 ボクはキミが死んだら悲しむけどね♥️」

 

 嘘つき。

 私が死んでもどうせヒソカは『あぁ死んだのか』程度で済ませて、それで最後にはどうでもいいものとして忘れてしまうクセに。

 

 声は、出さなかった。

 

 ヒソカは、もういつの間にかいつも通りの笑みを浮かべてトランプを弄っていた。

 

 ■

 

 ヒソカとの関係性は何かと訊かれれば、それは奇っ怪なものだとしか答えられない。

 

 友人なんて言う間柄でもなければ、恋人などと言われれば私は『馬鹿なのか』と返すだろう。

 しかし、ならばただの知り合いかと問われればそう説明するには付き合いが長すぎた。

 いつの間にか一緒にいるけれど、特に戦うこともない。どちらかが血だらけだろうがどちらかが傷だらけだろうが安穏とした空気が流れる、心地の良い関係。(あの変態奇術師を知る人間ならばきっと『あいつに安穏なんて一番似合わない言葉だ』と鳥肌をたてるだろうけど)

 だから強いて呼称するのならば『名前のない関係』が一番しっくりくるような、そんな曖昧な関係だった。

 

 ……でも、ヒソカはどうなのだろうか。

 戦うわけでもなく、ただ気が向いたら言葉を交わすような状況をあの変態がいつも何も言わず受け入れるのは、一体。

 

 ■

 

「オレはヒソカを殺す」

 

 偶然会ったクロロにそんなことを言われて、「あ、そう」としか言葉が出なかった。

 

 二人は天空闘技場で戦うらしい。

 クロロは『いい加減ヒソカの戦えムーブもストーキングも面倒になってきたのでここで息の根を止めよう』と、簡単に言うとそう言うことのようだ。

 

 まぁ、そうだよね。

 

 そもそもヒソカが面倒臭い手順を踏んで旅団に入ったのだってクロロと戦う為だし、嘘をバラして、戦い(ヒソカ風に言うならデートか)の約束をしてクロロの除念をした今、逆に戦わない理由がない。

 

 クロロが「いいのか?」なんて訊いてくるけど、何故そんなことを言ってくるのか分からなかった。

 仮に私が「よくない」と言ったとして、それであなた達が戦わなくなるなんて天地がひっくり返ってもあり得ないじゃない。

 ヒソカがクロロとの戦いを諦めるわけがないんだから。

 

「……ねぇ、どうしてそんなことを訊いてきたの?」

 

「そうだな、オレはお前たちの関係を存外に焦れったく思っていたのかもしれん。

 まぁ、慈善活動をしたくなるのと同じだ。

 ……簡単に言えば、お前の言うところの『名前のない関係』に名前を付けたくなったということか」

 

「……やっぱり、クロロってたまに何言ってるのかよく分かんないや」

 

 そう言うと、クロロは苦笑いをした。

 

 クロロと別れた後で、ふと私はヒソカのことを考えた。ショタコン奇術師、トランプタワー破壊愛好家、戦うためなら意外と頑張る戦闘狂、興奮狂……今までつけたあだ名を思い出してみて、そうだヒソカは殺しても死ななさそうな変態じゃないかと自分の中でのヒソカに対する評価を思い出す。

 

 そうだ、あのゴキブリ並の生命力を持つ男が誰かに殺されるなんてあるわけがない。

 

 ……なのに、こんなにも心がざわつくのは何故だろうか。


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