【完結】例えばボクが死んだとして   作:とくめ一

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第2話

 行くつもりなんてさらさらなかったけど、何となくクロロにメールで戦う日時を訊いた。

 

 ……結局、当日になってもヒソカからクロロと戦うことについて聞くことはなかった。

 まぁ親や彼女じゃないんだし報告の義務もない。言われなくても当たり前と言えば当たり前か。

 それなのに、私は何でモヤモヤしているのだろう。いや、私は一体『名前のない関係』に、何を求めていたのだろう。

 

 ■

 

 妙に騒がしい天空闘技場のモニター前に私は静かに近付いた。どうやらまだ戦いは始まっていないらしく、騒がしさはどちらが勝つのかという賭けをしている人間たちのせいらしい。

 

 (やかま)しいなぁ。

 

 自分がいつも以上に苛々していることに疑問を感じたが、答えに辿り着く前にモニターから実況のお姉さんの大きな声が聞こえてくるのが先だった。

 

 そっか、もう戦うのか。

 ……本当に、戦うんだ。

 

 認識した途端に苛立たしく感じていた喧騒がいやに小さく感じられて、モニターから流れる音と映像だけが私の世界を支配した。

 

 ■

 

 大爆発が起きて、モニターが見えなくなって……それで、どうして今私は天空闘技場のフロアマスター戦が行われていたところに向かっているのだろうか。

 ……ここ最近の私は一体全体どうしてしまったんだろう。

 

 分からない、分からないけれど……足を止める気にはなれなかった。

 

 あぁ、ヒソカまでの距離が、うざったいほどに、遠い。

 

 ■

 

「……マチ達も、ここに来てたんだ」

 

 そう言ってはみたものの、視線は目を瞑るヒソカにしか向かない。

 

「……それはアタシらのセリフだよ。

 アンタも、来てたんだね」

 

「うん、クロロに聞いてさ。

 来るつもりなんかなかったのに……なんか、来ちゃった。

 ……本当に死んだんだね、あのヒソカが」

 

 沈黙が空間を支配する。

 それに気まずくなったのかシャルとコルトピは先に帰ってしまったが、マチは残ると言った。

 何でもヒソカから前金を貰っていたらしい。……ま、クロロを殺す気だったヒソカがそんな事するわけないし、マチも受け取る訳もないから嘘だろうけど。

 

 ……ボロボロになったヒソカの顔をよく見つめる。何でだろう、ヒソカに『死んだら怒る』と言ったのに、全然怒りが湧いてこない。

 

 なんか、空っぽだ。

 

 怒りだけじゃない。

 悲しみも、思い出も……何もかもが、抜け落ちたような感覚で上手く思考が回らない。

 分からない。……分かりたく、ない。

 

 空っぽの頭でただマチがヒソカを治療しようとするのを見つめる。

 戦いの結果も確認できたし、私ももう帰っていい筈なんだけどなぁ。……離れる気が、全く起きないや。

 

 その時だった。

 死んだはず、否、()()()()()筈のヒソカが動き出して、それから起き上がって、声を、出した。

 

 ヒソカとマチが何か話しているけどそれすらよく分からないくらいには思考が止まっているらしい。

 まばたきも出来ずそのままマチがヒソカに拘束されても動けないまま、ただただ私はヒソカを眺めていた。

 

「……あれ、キミ来てたんだ◇

 キミは例えボクとクロロが戦うと知っても、わざわざ来ることはないと────おや♠️……キミ、泣いてるのかい?」

 

 ぽたりと頬を何かが流れる感覚に、ヒソカに指摘されてやっと気付く。

 

「そっか……私、泣いてるんだ」

 

 私、泣けたんだ。

 涙なんて久しく流していないからそんな感想が一番に出たけど、次いで濁流のように感情が溢れ出てきて、私はヒソカに抱きついていた。

 何となく、反応でヒソカが驚いたことが分かる。

 

「ヒソカ……私、ヒソカが生きてることに安心してるみたい」

 

「……みたいだね♣️」

 

「それから、ヒソカが死んだら悲しいみたい」

 

「それは意外だなぁ◇」

 

「あとさ」

 

「なんだい?」

 

「ヒソカが、好きみたい」

 

「……それは本当に驚きだ◇」

 

 あ、ヒソカの驚き顔。意外とレア。

 

「……『天使の微笑み(身勝手な善意)』」

 

 呟いて発を発動すれば、ヒソカの顔に付いていた薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)と身体を擬似的に復活させていた伸縮自在の愛(バンジーガム)が剥がされ、代わりとばかりにヒソカの傷が完全に癒える。

 

 天使の微笑み(身勝手な善意)は週一回しか使えない代わりに一瞬でどんな傷でも癒すことが出来る能力だ。

 正直ヒソカが治して欲しいと思っていたのかは知らないが、私が治したいと思って治したんだからヒソカの意思はどうでもよかった。

 

「ねぇヒソカ、とりあえず外に行こうか」

 

 マチの目が怖いし、と付け足せば、ヒソカは「そうだねぇ♣️」といつも通りの微笑みを浮かべた。

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