オメガ家に生まれ、オメガのカードに選ばれた少女エールは、昔からエックス族らしからぬ不器用な娘であり、非常に容量が悪かった。
そんな彼女を妹に持つ兄エレンはそれをエックス、及びオメガ家の恥とし、基本的に城の敷地内から外への外出を禁じた。曰く、『歩くだけで恥を晒しているから』らしい………
それでもエールは究極進化ができるようになる日を信じて努力を重ねていた。どんなに周囲の人間が自分に悪態をついても、彼らが弱い者がするものだと決め付けていた努力を怠る事は無かった。
ただ認められたいと思う一心で彼女は恥をかき続けてきたのだ。
しかし、その努力は一向に報われないまま、彼女が15になる年が訪れた…………
ー『よぉ、エックスの出来損ないお嬢様』
ー『何よテンドウ、またからかいに来たわけ??』
そんなある日、エールの前に三王の1人で、ライダースピリットを司るテンドウ・ヒロミがタバコを咥えながら現れた。
ー『相変わらず態度だけはデケェのな。あっ胸もそこそこデケェか?」
ー『うっさいわね!?ブン殴るわよ!?』
ー『あーはいはい、すんません………実はよ、ちょっとばっかし面白そうな奴を見つけたんだが、オマエ今からオレと一緒にコロシアムに来ない?』
ー『はぁ!?なんで私が下々の者に顔を合わなきゃいけないのよ!?』
当然の反応だ。エールはこのエックスの者達が住う城の敷地内から外へ出る事は兄であるエレンに禁じられている。街にある闘技場など行けるわけがない………
ー『そこで今日行われるのがこの国を旅する新人共が集まる『新人交流戦』だとしてもか??』
ー『!?』
………『新人交流戦』
齢15になる者達が集い、バトルスピリッツを行う昔からの習わしである。
ー『オマエもいつまでも籠の中の鳥でいるわけにはいかねぇだろ?……いい加減あの頭のお堅い兄貴から脱してもいいんじゃね??……まぁ全部オマエの勝手だけど』
ー『…………わかった。行ってあげるわよ』
それがアスラとロンがバトルした新人交流戦である。エールはあの時偶然ではなく、テンドウによって必然的にアスラと出会っていたのだ。
そしてエールはこの瞬間から兄であるエレンに黙って旅をする事になったのだ。その後はローザの報告書でエレンの耳にその情報が入ってしまったのは言うまでもない…………
******
「エール、余は本気で興が醒めたぞ………もはやこのバトルに大きな意味は無い。早々に終わらせてくれる………!!」
場面は戻り、今現在、オウドウ都の三王が集う鉄塔にて………
彼女の兄で、尚且つこの国の最強カードバトラー集団「三王」の一柱であるエレンは、妹に対して冷ややかな態度を取りながら、その手にあるカードを1枚引き抜いた………
そしてこう宣言するのだった………
「煌臨発揮!!対象はストライクガンダムッッ!!」
ー!!
「現れよ、我がエース!!……フリーダムガンダムッッ!!」
ー【フリーダムガンダム】LV2(2)BP9000
エールに見せつけるかの如く、エレンは彼女が失敗した煌臨を発揮させる。
彼の背後から飛び立ったのは光輝く何か。それは彼の場に佇むストライクガンダムと一筋の光明と共に重なりて、世に機械の身体を実体化させ、場へと顕現する。
その名はフリーダムガンダム。
全体的に白いボディと青い翼を持つモビルスピリットであり、三王の1人であるエレンのエースと呼べる存在である。彼はこのスピリットで多くの並いる挑戦者達を蹴散らしてきた。
「ふ、フリーダム………お兄様のエース……っ!!」
究極進化にも失敗し、正に泣きっ面に蜂の状態に陥っているエール。よりフリーダムの存在が際立ってしょうがない。
ただ、エレンはそんな彼女に容赦するわけもなく………
その効果を起動させる………
「フリーダムの煌臨時効果!!……スピリット2体をデッキの下へと消すッッ!!」
「!!」
「対象とするのは残ったアグモン!!……余の前から消え失せろ!!」
フリーダムは登場するなり、ビームサーベルを手に持ち、それを全力で振るって突風を発生させる。エールの場に唯一残っていたアグモンはそれに吹き飛ばされ、デジタル粒子も化してデッキの下へと消えてしまう。
「アグモン!?」
「さらに煌臨によりアタックは継続中!!」
アグモンを消しただけでは終わらない。フリーダムは翼部にあるブースターを逆噴射させ、地面スレスレを低空飛行する。狙いは当然ガラ空きとなったエールのライフだ。
「っ!!……ライフで受けます!!………っ!!」
〈ライフ5➡︎4〉エール
フリーダムはジャベリン状に伸びたビームサーベルを回転させ、エールのライフ1つを難なく斬り裂いた。
「さらに!!バトル終了時、オマエのライフ1つを追加で破壊する!!」
「っ!!……キャァァー!!!?」
「エールーーー!!」
〈ライフ4➡︎3〉エール
フリーダムのさらなる効果だ。その手に持つビームサーベルはエールのライフをまた1つ斬り裂いた。エールの明らかな絶対絶命の状態に、アスラは思わず彼女の名を叫ぶ。
「………ターンエンド」
手札:2
場:【フリーダムガンダム】LV2
【アークエンジェル】LV1
バースト:【無】
エールとの圧倒的な実力差を見せつけ、そのターンをエンドとするエレン。
(負けられない………負けたらもう二度とアスラに会えなくなる………それだけは嫌!!)
究極進化ができなかった事とフリーダムの急襲により、既に身体も心もボロボロになってしまったエール。
だが、このバトルに敗北して仕舞えば、アスラはカラーリーダーへの挑戦権を剥奪され、自分は城の敷地内から出られない生活に逆戻り。二度と彼と顔を合わせる事ができなくなるのだ。
それだけは絶対に回避したい。
その想いだけが今の彼女を奮い立たせていた。
「お、お兄様………私、まだやれます!!」
エールは立ち上がり、自分のターンを進行する。
[ターン05]エール
「メインステップ!!アグモンとグレイモンを再召喚!!」
ー【アグモン[2]】LV1(1)BP2000
ー【グレイモン[2]】LV1(1)BP4000
エールの場に成長期スピリットのアグモン、成熟期スピリットのグレイモンが現れる。
エレンのライフは残り3つ。強力なモビルスピリットであるフリーダムガンダムが疲労状態である今、早急に勝負を決めたいところではあるが………
「………ターンエンド」
手札:4
場:【アグモン[2]】LV1
【グレイモン[2]】LV1
バースト:【無】
エールは敢えてそれらをブロッカーとして残し、そのターンをエンドとした。
「フンッ……この余を相手にしておいて後手に回るとはな……愚かな妹よ……!!」
「か、構いません!!次のターンを凌いで必ず勝機を探し出しますッ!!」
「っしゃぁ!!よく言い返したぜエールゥゥゥー!!!」
「だからアンタはうっさいのよ!!」
エレンの色は防御に特化した白。ターンが長引けば長引く程彼にとって有利な戦場と化していく事は明白。エールの選択が正しいかは疑いの余地がある。だが、仮にそうだとしても一度した選択は変えられない。
ターンは切り替わり、三王エレン・オメガが自身のターンを進めていく。
[ターン06]エレン
「メインステップ……全てのカードのLVを最大まで引き上げるッ!!」
コアが追加され、フリーダムと母艦であるアークエンジェルのLVが最大限まで上昇した。
「アタックステップ!!…フリーダムよ、天を翔けろ!!……アークエンジェルの効果でコアを追加!!」
【フリーダムガンダム】(4➡︎5)
エレンの指示に従い、フリーダムが青い翼を広げて宙を翔ける。狙いは当然エールのライフ。だが、その眼前にはそれを阻むかのようにアグモンとグレイモンが待ち構えていて………
「アグモンでブロック!!」
フリーダムは効果によりそのアタックをまともに受けて仕舞えばライフが2つ破壊されてしまう。エールはそれを回避すべく、バトルでは敵わないことを知っていながらもアグモンでのブロックを選択した。
そして彼女のこの判断を察していたかの如く、エレンは手札から1枚のカードを引き抜いて………
「フラッシュマジック、「あなたを守るから」!!……バトル中のフリーダムを回復させる!!」
ー【フリーダムガンダム】(疲労➡︎回復)
「!!」
フリーダムガンダムが一瞬のみ白い光を帯びて回復状態となる。これでこのターン中に二度のアタックが可能となった。
そしてバトルの結果は言うまでもなく、アグモンは瞬く間にフリーダムのジャベリン状のビームセイバーに切断され、破壊された。
「フリーダムのアタック時効果、追加でオマエのライフをもらうぞ!!」
「ぐっ!!?」
〈ライフ3➡︎2〉エール
フリーダムがビームサーベルを振るい、エールに追撃を行う。そのライフ1つは容易く斬り崩された。
「まだ行くぞ、飛べフリーダム!!」
「ッ……グレイモンでブロック……!!」
容赦無い攻撃を続けるオメガ家の長男エレン。対してその妹エールは傷つついて弱り切った声を絞り出して、敵うはずがないグレイモンに儚くもブロック宣言を行った。
グレイモンは瞬きさえする間も無い速さでフリーダムに斬り刻まれ、大爆発を起こしてしまう。
「効果でライフを破壊するッ!!」
「ッ……う、うぁぁぁぁぁぁあ!!!」
〈ライフ2➡︎1〉エール
またしてもフリーダムがエールのライフを1つ斬り裂いた。エールは余りのダメージ量に呻き声を上げ、その場で膝を落としてしまう。
「ターンエンド…………エール、何を跪いている……仮にも誇り高きオメガ家の人間がこの程度で折れる事は許さんぞ……!!」
手札:2
場:【フリーダムガンダム】LV3
【アークエンジェル】LV2
バースト:【無】
傷ついた妹に実の兄が放った言葉は果てしなく冷ややかで、その視線は果てしなく冷たかった。とてもでは無いが実の妹に向けていいものではない………
「テメェ………いい加減にしやがれッ!!エールをなんだと思ってんだ!?…妹じゃねぇのかよ!?」
エールに対して冷たい態度を取り続けるエレンの言葉にブチ切れるアスラ。
「余に対して口を聞くなコモンのドブネズミ。オマエに発言権は無い」
「んだとォォォー!?」
コモンのアスラの言葉には聞く耳すら持たないエレン。アスラは呆れて今度はエールの方に顔を向けると………
「くっ……おいエール!!…もうこんなバトル止めろ!!」
「っ!!」
「オレは挑戦権なんか無くったって頂点王になってやる!!…オマエがそこまでボロボロになってまでやる事ねぇよ!!」
跪いているエールに向かって必死にそう告げるアスラ。仲間想いの彼らしい言葉である。エールがこれ以上傷つくのであればカラーリーダーの挑戦権なんか要らない。そう考えているのだろう。
だが…………
「うっさいわね………私はエックスよ、この世で最も気高き存在。コモンのアンタに口答えする権利は無いわ……!!」
「!!」
震えた声でアスラを罵りながらゆっくりと立ち上がるエール。その声色や表情からは不思議とほんのり余裕を感じさせるものがあった。
そんなアンタのためにこの私がバトルしてあげてるのよ!?……光栄に思うことね!!わかったららしく無い弱音吐いてないでそこで黙って見てなさい!!今に逆転してあげるわよ!!
「……エール……」
本当は恐怖の対象である兄を目の前にして今にも逃げ出したいはずなのに、強気な態度を取るエール。そんな彼女の言葉から感じ取れたのは確かな覚悟。
究極進化が出来なくともこれを乗り越えようとしている度胸が確かに確認できて………
ただ、昔のままのエールだったらとっくに諦めていた事だろう。
何事においても最後まで諦めないアスラが彼女のそばにいたからこそ、その熱が飛び火し、今のエールはこのバトルを投げ出さないのだ。
「………へへ……っしゃぁ!!…だったら任せたぜ!!オレはオマエが勝つって信じる!!」
あのプライドが高くて高飛車なエールがそこまで言うのだ。アスラは笑いながら腕を組み、エールの勝利を待ち構える事にした。
「ふんっ……やってやるわよ、究極進化が出来なくても、私はこのバトル、エレンお兄様に勝ってみせる!!」
エールはいつもの偉そうな口調で宣言した。昔のエールだったら「兄に勝つ」と告げるなど信じられない光景である。
「くだらん戯言を口にするなエール!!……そんなドブネズミとつるむからオマエはそこまで腐ったのだ………今オマエからソイツを引き剥がしてくれる……!!」
「嫌です!!」
「!!」
エールは声を張り上げ、兄であるエレンに反論する。
私はもっとこのアスラと旅がしたい!!コイツがいつか頂点王になるその瞬間まで一緒にいたいッッ!!
だから私はこのバトル、必ず勝ってみせます!!例え三王の1人であるエレンお兄様だとしても、必ず!!
エールの心からの叫び。本音。
「もっとアスラと一緒にいたい」
その言葉が兄であるエレンの耳を通過すると、彼は額に血管を浮き上がらせ、より怒りを露わにするような表情を見せる。
だが、その瞬間だ。
「………え!?」
思わず声を荒げるエール。
無理もない。何せ、Bパッドにセットしている自分のデッキが突然赤く光り輝き出したのだから………
それはまるでアスラのために戦うと胸に刻んだエールの覚悟に応えるかの如く、燃えるように煌めいていて………
ただ、その現象自体はなんら珍しいものではない。それは紛れも無く「デッキの進化」であるのだから………
「うそ、これって………」
「エールのデッキが……進化!?」
「………なんだと……代々受け継がれているオメガのデッキが進化するだと!?」
エールの持つオメガのデッキは先祖代々受け継がれているものだが、その長い歴史の中で一度も「進化した」と言うものはない。
それはオメガのデッキが既に完成されたものであるからである………
だが、エールはその概念を覆し、オメガのデッキを進化させてみせたのだ。この功績はエールが継承者の中では初である。そのため、三王であるエレンもこの光景には流石に驚愕の声を上げてしまう………
無理もない。よりにもよって進化させたのが、あの究極進化もできない出来損ないである実の妹、エールなのだから………
「っしゃぁ!!…行けるぜエール!!ブチかませェェェー!!!」
「だからうっさい。黙って見てなさいって言ってるでしょ…………アスラ!!」
デッキの光が静まる。進化し終えた証拠だ。
その表情に笑みを溢しながら、アスラのため、そして己を超えるため、エールはこのターンに全力を注ぎ込む………
「私のタァァァンッ!!」
[ターン07]エール
ターンを進める中、ドローステップでエールがドローしたカードはやはりこのデッキには存在しなかったカード。エールがデッキを進化させた確かな証でもある。
エールはこのバトルで勝利を収めるべく、それを出し惜しみなく使用する……………
「メインステップ!!……私は、第三のメタルグレイモンを召喚!!」
ー【メタルグレイモン[3]】LV3(4)BP11000
「ッ……第三だと!?」
地響きが唸りを上げ、地中よりエールの場へと飛び出して来たのは紛れも無く身体の半分がサイボーグと化している恐竜のスピリット、メタルグレイモン。
だが、その雰囲気や佇まい、醸し出しているオーラが全く違う。正しく[3]の名を持つカードと言えよう………
「オォォォォ!!!スゲェぜエールッッ!!」
「当然よ!!…私はこのデッキでエレンお兄様に勝利してみせる!!……アタックステップ!!…3のメタルグレイモンでアタックッッ!!」
3のスピリットの登場に興奮するアスラ。そしてエールはそのスピリットにアタックの指示を行い、3のメタルグレイモンはそれを聞くなり機械化されている左手のアームを射出した。
「アタック時効果、相手のネクサス1つを破壊!!……アークエンジェルを撃ち落とせッッ!!」
「!!」
その飛ばされたアームは一直線に母艦であるアークエンジェルへと伸びていき、それを貫通。アームがメタルグレイモンの元まで戻ると、アークエンジェルは大爆発し、その破片は地面に叩き落とされた。
アークエンジェルが効果を受けないのは【コスト:5以下】まで、コスト6である3のメタルグレイモンの効果までは凌ぎきれなかったのだ。
「さらにターンに一度、回復するッッ!!」
ー【メタルグレイモン[3]】(疲労➡︎回復)
「スゲェ!!3のメタルグレイモンは無条件で回復できるのか!!」
赤い光をほんの一瞬だけ帯びるメタルグレイモン。それは回復状態となった事を意味しており、このターンは二度目のアタックが宣言できる。
……しかし
「アークエンジェルを落としただけでいい気になるな!!……フラッシュマジック、スクランブルブースター!!」
「っ!!」
「フリーダムを指定!!…それによりこのバトルの間フリーダムは疲労状態でのブロックが可能となる!!」
「や、ヤベェ!!…BPじゃ3のメタルグレイモンよりフリーダムの方が上だ………!!」
ここに来てさらなるカウンターを切ってきた三王エレン。このままでは3のメタルグレイモンを破壊され、再びエールが窮地に陥ってしまう…………
かに見えた………
エールの手札にある1枚のカードが赤く光り輝き出した瞬間までは………
「ッッ!!………ウォーグレイモン……!?」
その輝いたカードの正体はオメガのカード。その究極体である「ウォーグレイモン」のカード。今までエールが幾度となく進化を試みたカードだ。今まで一度も出来なかったそれへの進化。
だが、今回は何かが違った。まるでウォーグレイモン自身がエールに対して「煌臨させろ」と告げているかのような、そんな反応を示していたのだ。それを感じたエールは己とカードを信じて手札の煌めくウォーグレイモンのカードを引き抜いた………
「ブロックされるその前!!……フラッシュ【煌臨】を発揮!!…対象は第三のメタルグレイモンッッ!!!」
「っ!!……何度失敗すれば気が済む!!…オマエではそのカード、ウォーグレイモンは扱えないと言っているだろう!?」
メタルグレイモンが巨大な咆哮を放つと、それに合わせて極熱の炎がその身体に纏わりついてくる…………
究極進化のエフェクトだ。
今まで何度もメタルグレイモンの身体を離れて行ったそれは徐々に徐々にとそこへと吸収されていき、メタルグレイモンの姿形を全く別のものへと変化させていく…………
諦めない!!……ライフが尽きるその時まで、諦めないのが私のバトスピッッ!!
メタルグレイモン、究極進化ァァァー!!!
ウォーグレイモンッッ!!
エールが究極進化を、その究極体の名を叫んだ。炎に包まれたメタルグレイモンだったそれは腕に備え付けられた鉤爪のある籠手を振るい、その炎を吹き飛ばして姿を見せる。
そこにいたのは究極体スピリット………
最強の竜戦士………
エールのエーススピリット………
ウォーグレイモンだ。
「………あ、あのエールが究極進化させただと………!?」
「へへ、やったな、エールッ!!」
遂に究極進化を成し遂げたエール。それを祝うかのように拳を固めてガッツポーズして見せるアスラに対してエレンは動揺を隠し切れないでいた………
ただ、一番喜んでいて、興奮で身体の震えが止まらなかったのはエール自身だ。だが、彼女は一旦その考えを捨て、先ずはこのバトルの勝利を収めるべく、煌臨時効果を宣言するのだった………
「ウォーグレイモンの効果!!……BP15000まで好きなだけスピリットを破壊する!!」
「!!」
「BP12000のフリーダムを破壊ッッ!!……ブレイブトルネードッッ!!」
ウォーグレイモンは登場するなり両腕を天に向け、身体を高速で回転させた。そしてそのままドリルの如くフリーダムへと突撃していく。
余りの速さに避けられないフリーダムは咄嗟に粒子でできた防御壁を展開するも、ウォーグレイモンはそれを一瞬で貫き、フリーダムをも貫いてみせた………
フリーダムは堪らず爆発してしまう。
あのエックスの落ちこぼれだと言われ続けていたエールが三王の1人で、尚且つ兄であるエレンのエーススピリットを破壊してみせたのだ。
「……アタックは継続中です!!」
「くっ……ライフだ………っ!!」
〈ライフ3➡︎2〉エレン
ウォーグレイモンはフリーダムを貫いたドリルの状態のままエレンのライフを破壊し、ここでようやく回転を止め、地へと足をつける。
「さらに!!……ウォーグレイモンのLV2、3のアタック時効果!!…トラッシュにあるソウルコアをウォーグレイモンに置く事でライフ1つをボイドにッッ!!」
「っ!!」
「行け……ガイアフォースッッ!!」
「ぐっ………ぐぉぉぉぉぉぉお!!!」
〈ライフ2➡︎1〉エレン
ウォーグレイモンが両手を合わせ、その間に球体の炎を形成していく。それは両手の間隔を広げていくと共に、肥大化していき、ウォーグレイモンはそれが最大限の大きさになると、エレンのライフに投げつけた。
エレンのライフ1つはそれをくらい、たちまち消し済みになってしまう。
「おぉ!!オマエの究極体スピリットスゲェぞエールッッ!!……勝利まで残りライフ1つだぜぇ!!」
「ふんっ!!このくらい当たり前よ!!(やった〜!!…遂に究極進化できた〜!!)」
エールを褒めちぎるアスラ。エールは偉そうに肩にかかった赤茶の髪を「ファサッ」と靡かせ、偉そうな態度を取るが、内心では果てしなく大はしゃぎし、喜んでいた。
(………エールが究極進化を……だが何故だ。何故今になってそれが可能となった!?)
アスラとエールが会話する光景を目に移しながら、兄であるエレンは推理していた。単純に考えれば「エールのデッキが進化したから」と言うのが妥当ではあるが、彼はどうもそれだけでは腑に落ちなかった。
その因果関係は何なのだとどうしても勘繰ってしまう………
(………まさか、あのアスラとか言うドブネズミがそれを促したとでも!?)
咄嗟に思いついたのはアスラと言う存在。彼との旅がエールの成長の一端になったと考えてしまう。
そう思ってしまうと、彼はバトルに対する意欲が無くなってしまい…………
「余の負けだ………オマエなどもう知らん。勝手にするがいい……!!」
「「え!?」」
BパッドのバトルモードをOFFにし、デッキをしまい直すエレンに、思わず口を揃えるアスラとエール。
無理もない。散々な事を言って来た挙句の果てにサレンダーして来たのだから。負けは認めているものの、態度や振る舞いから、アスラから見ればどう見ても負け惜しみにしか見えなくて………
「オマエ!!逃げんのかよ!?」
「そう思いたくばそう思っておくがいい」
「あ、あのお兄様………」
「聞こえなかったかエール、勝手にしろと言ったのだ。どこへでも出ていくがいい……!!」
「は、はい……あ、ありがとうございます!!」
罵倒するつもりで差し向けたエレンの言葉をポジティブ思考で捉えるエール。いや、これは単純にアスラとまた一緒に旅ができると思ったからこその「ありがとう」と言う返答なのだろう………
「おいおい、終わっちまったよ。せっかく負けそうになったら助けてやろうと思ってたのに」
ー!?
彼らにとって聞き覚えのある声がどこからか響いて来た。その声主は当然ながらアスラとエール、そしてエレンもよく知る人物であって………
「テンドウ!?」
「テンドウさん!?……ギャンブルとか言うやつに行ってたんじゃないんすかァァァー!?!」
「あぁ!?誰が行くっつってた?……殺すぞ小僧」
「えぇぇぇえ!?…すんませんッッ!!」
姿を見せたのはこの国の三王の1人であるテンドウ・ヒロミ。アスラは逆らったら何をするかわからない彼に全力で頭を下げて謝罪した。
どうやらテンドウはこのバトルが始まる前からここにいたらしく、もしもの時に弁護しようとしていたらしい。まぁ、自由気まますぎる彼にまともな弁護ができるかは定かではないが………
「エール」
「何よ?」
「究極進化……できたじゃねぇか。やったな」
「っ!!……と、当然よ!!私はこの国で最高の身分を持つエックスなんだから!!(ほ、褒められた〜!!)」
棒読みで雑だが、珍しく誰かを褒めるテンドウ。エールはまた言葉でツンケンしながらも、内心では褒められた事を喜んでいた。
「覗き見とは、趣味が悪いなテンドウ」
「オメェも実の妹痛みつけるとか、趣味悪すぎだぜ、エレン。そんなんじゃいつまで経っても女にモテねぇぞ」
「人聞きの悪い事を言うな。そして余はオマエの百倍はモテる」
睨み合う三王の2人。その目線の間には火花が飛び散る。エレンはどうやら異邦人であるテンドウの事はあまり快く思っていないようである。
「まぁいいや。おいオマエら。堅っ苦しいエックス様のありがた〜いお説教は終わりだ。この後休憩挟んでオレと付き合え」
「えぇ!?付き合うってどこに??」
「因みにオマエらに拒否権は無い」
「なんでぇぇ!?」
テンドウはアスラとエールの肩に手を置き、この場から連れ出そうとする。どうやら彼らをどこかへと連れていきたい様子。
「って言うか小僧、あのオレンジ犬はどうした?……ちゃんと世話しろっつったろ、殺すぞ」
「アイツ勝手にどっか行ったんすよォォォー!!!」
「ムエの事すっかり忘れてたわ………」
アスラに謎のオレンジ小動物ムエの世話を押し付けていたテンドウがアスラにそう言った。アスラもエールもこのオウドウ都に来てから急に行方不明になったムエの存在をすっかり忘れ去っていた。
まぁこれだけ濃ゆい時間を過ごしてしまえば無理もないが………
「ったく……ほれ、行くぞ小僧」
「オウッス!!……エールも行こうぜ!!」
「えぇ……………あ、あのお兄様………」
「なんだ……とっとと去れ、出来損ない……」
広大な一室から去っていくアスラとテンドウ。それを他所に、エールは最後に一言何かを言いたかったのか、1人立ち止まり、兄の方へと顔を向けた………
「私の旅を許してくださって、ありがとうございますッッ!!……いつか必ず帰って来てオメガ家の役に、いや、お兄様のお役に立って見せますッッ!!」
力強いエールの宣言。ただ、エレンはそれに対してもあまり関心を示していないのか、目線を逸らし、後ろを振り向いて………
「何度も同じ事を言わせるな。去れ、出来損ない………どこにでも行け……」
「はい!!失礼しました!!」
そう告げて、エールもまたアスラ達を追ってこの場を去って行った………
唯一無二の妹がその扉を閉めた…………
その途端だった…………
「………はぁ〜」
1人この場に残っていたエレンが大きな溜息をこぼした。
「何故余は妹の前では素直になれんのだ………こんなにも妹を愛していると言うのに……何故キツく当たってしまうのだ……」
さっきまでとは信じられない言葉を口にし出す三王エレン。あれだけの事を言っておきながら今更「妹を愛している」はどこかおかしい気もするが…………
「何はともあれ、初のウォーグレイモンへの究極進化……おめでとう、我が妹エールよ、心より祝福しよう………!!」
誰もいないが勝手にエールの進化を祝うエレン。ただ、そこから伝わって来るのはエールへの確かな愛情…………
「そして必ず無事帰って来い………そうだ。あのドブネズミ………余のエールに何かあってみろ、ただじゃおかんぞ!!……と言うか何なのだアイツは、エールに馴れ馴れし過ぎじゃないか!?」
エレンがアスラからカラーリーダーへの挑戦権を奪いたかった真の理由は「エールの保護」だ。
エレンは表向きではエールの事を「出来損ない」だと言ってはいるが、そんな事微塵も思ってはいない。況してや優れているとまで考えている。彼女が幼い頃から城の敷地内から出られなかったのは、単にエールが可愛過ぎた故の事…………
まぁ、要約すると、エレンはエールに対して「過保護」なのだ。それも異常な程に………しかもそれをエールに気づかれないように振る舞っているのだからより怖さが増す………
この男、三王の1人にして、究極のツンデレなり…………
「最後の声、可愛かったな。直視できなくて思わずそっぽを向いてしまった………まぁできれば、昔みたいに「お兄ちゃん」と呼ばれたかった気もするが………」
エールが自分に向けた最後の表情、声色が余りにも可愛すぎて直視できなかったエレン。ここまで考えだすと最早シスコンの枠組みなどとうに超えているように思えて来る…………
こんな兄を持ってしまったエールが気の毒でしょうがない…………
ツンデレという点では似ているかもしれないが、男と女とでは需要と言うものが違う…………
あぁ、愛しの妹、エール!!!
頑張れ!!!
遠く離れていても余はオマエを応援しているぞ!!
そしてエレンは最後に大きな声を張り上げ、居もしないエールに声援を送ったのだった…………
******
「どこだよ〜〜テンドォォォ〜!!!」
一方、頂点王シイナ・メザはテンドウが居そうな賭博場へと足を運んでいた。トランプやダーツなど、それらしい賭けのギャンブルゲームを楽しんでいる人々で賑わっていたが、そこにテンドウらしき人物はいなかった。
当然だ。テンドウは最初から三王のある鉄塔でスタンバイしていたのだから………
「あ、アレって頂点王シイナだよな!?」
「なんでこんな所にいるんだ………」
「お金沢山持ってたらギャンブルの1つでもやりたくなるんじゃない??」
流石に人が多い所ではシイナは目立つか、周囲の人々がシイナを見てざわつき出した。
「ん〜〜困ったな………このままじゃアスラ本当に挑戦権無くなるぞ〜」
全ての事情を把握していたシイナはそう呟いた。今考えるとテンドウなんか頼りにしないで自分だけでアスラを弁護すれば良かったと後悔している。
と、そんな時だ。背後から聞き覚えの無い声が複数聞こえて来たのは………
「おいちょっとそこのお姉さん〜!!」
「オレらと遊ばな〜い!!」
「楽しいぜ〜!!」
「ん?何アンタら」
所謂ナンパか。目の前にいるのが頂点王だと知らずにちょっかいをかけて来た男性が計3人。太っているのと、細長くて猫背なのと、それらを足して二で割ったくらいの体格でメガネをかけている如何にも「小物三人衆」と言う称号が似合いそうな3人組だった。
「悪い。遊ぶなら今度ね。今私忙しいんだ〜」
シイナは今急いでいる。早くアスラの元に行って挑戦権が剥奪されないよう弁護しなければならないからである。
しかし………
「え〜〜いいじゃんいいじゃん!!」
「せっかく賭博場にいるんだからさ!!」
「楽しまなきゃそんそん!!……オレらと遊ぼうぜ〜!!」
シイナを逃すまいと周囲を取り囲む小物三人衆。シイナは流石にイラッと来たのか、オレンジの長い髪が逆立っていき………
「………邪魔、しないでくれる??」
ー!!!
シイナがそう言いながらBパッドを展開して約数分後、小物三人衆は気を失い、その場に倒れ込んでいた…………
******
「なぁ、テンドウさん………ホントにこんな事してムエが戻って来るのか!?」
「オレに間違いは無い。それ取ったら殺す」
「えぇぇぇえ!?」
三王の鉄塔から出て繁華街に出たアスラ、エール、テンドウ。そしてアスラはムエを見つけるため、テンドウの提案の元、何故か頭の上に大きめのドーナツを乗せながら歩いていた………
テンドウ曰く、これに誘われてムエが戻って来るのだと言う………
犬は鼻が良いとは言え、にわかには信じられない事だが…………
「チッ、タバコがねぇ………おいオマエら、ちょっとそこでタバコ買って来いや」
「なんで未成年にタバコ買わせるのよ!?…自分で行きなさい!!」
「え〜…だる」
ニコチンが切れてイライラし始めて来たテンドウ。渋々タバコを買いに一旦アスラ達の元を離れる。アスラとエールは2人きりで彼を待つことになった………
そう、2人きりで………
「そういやエール!!」
「え?…何よ??」
「助けてくれてありがとな!!オマエのお陰でオレ危うく挑戦権が無くなるとこだったぜ!!」
「ッッ!!……べ、別にアンタのためにやったわけじゃ無いわよ!!……私は私のため、お兄様に認められるためにバトルしたんだから、勘違いしないでよね!?」
結果的にエールに助けてもらったアスラは改めて彼女に礼の言葉を伝えた。エールは顔が赤くなって咄嗟に彼を突き放すような言い方をしてしまう……
だが、「私のため」と言うのは本当の事でもある。エールは「アスラと旅を続けたいから」バトルをしたのだから………
「へへ、わかってるって!!……これからも頼むぜ、『パートナー』!!」
「へ!?…パ…パパパパートナー!?」
アスラは良い加減素直にならないエールの性格を理解して来たか、切り返してそう言った。が、流石に自分に向けられた好意までは見抜けていなかった。
エールは彼の口から出た『パートナー』と言う言葉に思わず顔を今まで以上に真っ赤に染め上げてしまう………
当然、アスラのここで言う『パートナー』とは恋人夫婦仲のことではなく、旅の相棒として頑張ろうと言ったニュアンスだった。
「こ、ここここの………」
「え」
「このバカスラァァァー!!!!」
「なんでだァァァァァァー!!!!」
エールは恥ずかしくなって思わずアスラを殴り飛ばした。
「何なんだよ、オマエは毎度毎度………」
「うっさい!!…お黙り!!…口を聞くなこのチビスラ!!」
「おいおい落ち着けって!!……色んな人の目があんだぞ!?」
「むえ〜」⬅︎このドーナツうめぇ〜
「そうそう、むえ〜………って、えぇぇぇえ!?」
「ムエ!?」
アスラがどうにかしてエールのご機嫌を取ろうとするが、その間にアスラの頭の上に謎のオレンジ小動物が一匹………ムエだ。
テンドウの提案でアスラの頭に乗せられたドーナツを小さい口でむしゃむしゃと食していた。
「ムエ!!テメェ、いつの間に!?」
「あぁ良かった〜どこ行ってたのよ私のムエ〜!!」
「むえ〜」⬅︎このドーナツうめぇ〜
安堵するエール。謎のオレンジ小動物ムエはその後もアスラの頭の上にある大きめのドーナツを食し続けていた………
何はともあれ、数々の七転八倒、四苦八苦を繰り返しながらも、アスラ達の旅はまだまだ続く………
〈オマケストーリーズ〉
【究極進化】
「究極進化!!……ウォーグレイモンッッ!!」
エールがメタルグレイモンを究極進化させ、ウォーグレイモンを煌臨させる。
「や、やったわ………私とうとう究極進化ができるようになった!!」
「おぉ!!スゲェぞエール!!これで向かう所敵無しだぜ!!」
初進化に大喜びするアスラとエール。そしてそれを陰から見守る人物が1人…………
(………おめでとうエール。オマエならきっとやり遂げられると思っていたぞ、お兄ちゃんは嬉しいぞ!!)
エールの兄であるエレンだ。本当は可愛い妹が成し遂げた初の究極進化に面と向かって称賛したいが、これまで保護のためとは言え散々やってきた行為から、今更そんな事は言えず、こうして彼らの行動を眺めているだけに留まっていた。
「…………本当はエールの事が好きならそう言えば良いのにな」
「………それが言えないのが思春期なのだよ、テンドウ」
「あいつオマエと同じ25じゃなかったっけ?…思春期じゃなくてあれは単なるツンデレ……いや、ツンデレシスコンだろ」
そしてさらにそれを遠目で見つめていたのはテンドウと頂点王シイナ。彼らは昔からエレンの本当の気持ちに気づいていた。が、それをエールに伝える事はせず、敢えて隠し、こうやって裏でエレンをからかっていた。
理由は単純、面白いから。
もう一度言おう、面白いからである…………
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《キャラクタープロフィール》
【エレン・オメガ】
性別:男
年齢:25
身長:174cm
身分:エックス
概要:この国のモビルスピリットを司る三王の1人にして、オメガ家の長男でエールの実の兄。エールの事を何度も「出来損ない」などと蔑んでいるが、蓋を開けてみれば度が過ぎるくらいのシスコン。エールにキツく当たっては毎度毎度後悔している。エールやアスラなど、大抵の登場人物が彼の本当の気持ちに気づいていないが、テンドウと頂点王シイナはとっくの昔に気付いている。
《用語設定》
【ウォーグレイモン】
オメガ家に代々伝わりしオメガのカード、その片割れであるアグモンの最終進化形態。エールは約10年の間、これを召喚できなかったが、アスラと共に居たいという志しに共鳴??してようやく進化できるようになった。
性能は非常にマルチであり、攻守ともに優れている。
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最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
最後に明かされたエレンの性格を知った上で10話や11話、そして4話でのエールの回想シーンを読み返してみると、面白いですよ〜