バトルスピリッツ コラボストーリーズ   作:バナナ 

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12コア「仮面ライダーカブト」

バトルスピリッツが全てのとある世界。

 

その世界でソウルコアが使えないと言う前代未聞の謎体質を持つ少年アスラは、ガムシャラに最強の証である頂点王を目指している。

 

******

 

 

「さぁ着いたぞ、ここがオウドウ都一のショッピングモール、『オウドウモール』だ」

「うぉぉぉぉお!!!デッケェェー!!!」

「むえぇぇええ!!!」⬅︎便乗

「オメガ家の城よりはちっちゃいわね」

 

 

エールの兄、エレンによるアスラの挑戦権剥奪の件から約数時間が過ぎた。アスラとエール、ムエはテンドウに連れられ、オウドウ都で最も巨大なショッピングモール、『オウドウモール』に着ていた。

 

 

「な、なんかスゲェな。ちょっと科学の進歩的なモノを感じる……!」

「頭悪いクセに何無理してそれらしい事言おうとしてるのよアンタは」

 

 

アスラの目の前に聳え立つコンクリの塊(ショッピングモール)は彼が田舎者と言うのもあって未知数。

 

 

「てか、テンドウさん。こんなデッカイとこで何を買いに来たんすか??」

 

 

アスラは純粋な疑問をテンドウに投げた。正直なところ、アスラはライバルであるロンが既に向かっているであろう3番目のカラーリーダーがいる町に向かいたい。

 

だがしかし、テンドウの誘いを断れば殺されかねないため、渋々着いてきているのだ。

 

 

「何買いに来たって、そりゃ冬服をな。どうせオマエら1着も持って無いんだろう??………オマエ達が次に行く町は『ユキカイ町』っつって、年中真冬なんだよ。オレもちょっとそこに用があってな、オマエ達一緒に行ってやろうってこった」

「ッ!!……テンドウ、アンタも一緒に来んの!?」

「あぁ、取り敢えずユキカイ町までな…………なんだエール、オマエ嫌なの??」

「う〜ん、まぁ少なからず熱苦しい男が増えるのは嫌ね……って言うか、私は城に帰れば服なんていっぱいあるんだけど」

 

 

テンドウはどうやらアスラ達の次の目的地である年中真冬の町「ユキカイ町」に用があるらしく、どうせなら一緒に行くか的な感じで一時期彼らの旅に同行するようだ。

 

 

「おぉ!!一緒に来てくれるんすかテンドウさん!!」

「オマエは変わらずうっせーな……まぁいいや、よし!!冬服買いに行くぞ!!」

「っしゃぁ!!行くぜェェェー!!…………あ」

「どうした小僧」

 

 

テンドウとアスラが勢いよくショッピングモールへと足を踏み入れようとした直後、アスラは思わずその足を止めてしまった。

 

どうしても気になる事があったからだ。

 

 

「そう言えばテンドウさん。オレ冬服買えるだけのお金があるかわかんないんすけど………」

 

 

そう。アスラの財布事情だ。元々貧乏人のアスラは服も今着てる1着しかない事もあり、服を買った事がない。因みに今着ている黒いパーカーとかダボダボの黒いズボン等は全て頂点王シイナのお下がりだ。

 

アスラは本能的に財布が空になるのを恐れていたのだ。

 

 

「あぁ!?…んなモンそこの金持ちエックスお嬢様から借りれば問題ねぇだろうが」

「仲間からお金は借りたくねぇっす!!」

「別にいいわよ、お金なんか持ってても重たいだけし」

「おのれエックスゥゥゥー!?!」

 

 

そう言いながら、エールは金貨がこれでもかと詰められた小袋をアスラの両掌に置いた。その貧乏人にとっては嫌味とも取れる行動にアスラは思わず発狂する。まぁ、別にエールに悪気があったわけではないのだが………

 

まぁ、何はともあれ、ようやくアスラ達のショッピングモールが幕を開けた。開始早々、オウドウモールの異常なまでの広大さにアスラが大きな声で騒いだのは言うまでもない。

 

そしてその後はアスラテンドウ組とエールムエ組に分かれ、それぞれ自分の服を買いにオウドウモールを歩き回った………

 

 

******

 

 

 

「はぁ〜……いつかエールにお金返さねーとな………」

 

 

ショッピングモールの冬服コーナー。そこに所狭しと並ぶ冬服を掻き分けながら、結局エールにお金を借りる羽目になってしまったアスラはそう呟いた。いくら超絶お金持ちのエールからとは言え、仲間からお金を借りた事に少なからず罪悪感を感じていたのだ。

 

アスラは密かに何かしらお金が得られたらエールに借りた分のお金を返そうと言う志を胸の内にしまった。

 

 

「つーかよテンドウさん〜……シイナどこ行ったか知らねぇっすか??……鉄塔で別れてからそれっきりで……一応テンドウさんを探しに行ってたんだけど」

「オレに聞くな。どっか行ったんじゃね??…アイツが考えてる事は昔からわからん」

 

 

ふと、思い返し、アスラがテンドウに訊いた。

 

テンドウを探しに行ってからすっかり姿を潜めてしまった頂点王シイナ。アスラはそんな彼女の行方が気になっていたが、テンドウはそれに対して興味なさそうに言い返した。

 

 

「てか、別に気にかける事ないんじゃね?……オマエは頂点王になるんだろ??今の頂点王がどこにいるかなんて気にしてどうするよ」

「ッ!!……確かに!!カラーカード6枚集めりゃどっち道またシイナに会える!!……っしゃぁ!!待ってろシイナァァァー!!次に会う時はカラーカードを6枚集めた時だァァァー!!!……そんな時はゼッテー勝ってオレが頂点王になってやるからなァァァー!!!」

(………やっぱコイツ扱い易いな)

 

 

テンドウにそう言われた途端。急速な速さで納得するアスラ。カラーカードを集めて改めて頂点王シイナに挑戦してやると胸に刻んだ。

 

テンドウは単細胞で言いくるめ易いアスラに思わず内心で扱い易いと感じていた。

 

 

「あと小僧、オマエいい加減服決めろや。女じゃあるめぇし、殺されてぇのか??」

「すんませんッッ!!!さっさと選びますゥゥゥー!!」

 

 

テンドウに急かされ、と言うか脅され、服選びに戻るアスラだったが、

 

彼は思った。

 

 

ー『テンドウさん。まさかそんなマフラー1つで行くのか!?』と

 

 

これから年中真冬の町に赴くと言うのに、テンドウは赤いマフラー1つと、後は何故か色鮮やかな花束を購入。

 

彼はいつも上着はドス黒いタンクトップ1枚だけだ。その上からマフラー1つだけでは、アスラから見たら到底冬は越せないように見えてしまう。

 

いや、間違いなく越せないだろう………

 

しかし逆らったら命はないため、アスラはツッコム事は控える事にした…………

 

 

「そういや小僧。オマエ、コラボダンジョンでトゥエンティとか言う複数種のライダースピリットを操る男と対面したんだってな」

「ん??……あ、はい!!…めっちゃ強かったっス!!エールと力を合わせてなんとか勝てましたけど………」

 

 

テンドウはアスラに唐突にコラボダンジョンについて質問してきた。

 

アスラにとって今でも忘れられないあのコラボダンジョンでの出来事。常識ではあり得ない複数種のライダースピリットを操る男トゥエンティとのバトル。エールの協力と、途中でムエが見つけて来た第二の龍騎が無かったら今頃どうなっていたかは定かではない。

 

 

「……まぁ、だろうな。オマエ1人じゃアイツには勝てん」

「………??」

 

 

テンドウの呟いたセリフにアスラは違和感を感じて疑問符を浮かべるが、それまでであり、その後この話は特に進展はしなかった。

 

もう少し鋭い者ならば「まるでトゥエンティを知っているような口振りですね」と訊いて来たに違いない。

 

 

 

******

 

 

「女の買い物って遅せーよな」

「…まぁいいじゃねぇっすか!!…気長に待ちましょう!!」

「だからオマエ声がデケー……さっきから耳が痛てーんだよ……殺すぞ??」

「すんません!!」

「だから声がデケー!!」

 

 

買い物が一通り終わり、買い物袋を手に持ってオウドウモールの広場にあるベンチに腰を下ろすアスラとテンドウ。エールとムエの帰りを待っているのだが、待ち始めて約30分。一向に彼女らの気配は感じられず…………

 

待ち惚けていた………

 

 

「あっいたいた。お〜い!!」

「むえ〜」⬅︎やっほ〜

「おっ、テンドウさんエール達っすよ!!」

 

 

ここでようやくエールとその頭の上に佇むムエが帰って来る。その手にはアスラとテンドウなどよりもずっとパンパンに膨れ上がった買い物袋を持っていて………

 

 

「すげー荷物の量………テンドウさんも言ってたけど女の買い物って長いんだな」

 

 

アスラがエールに訊いた。

 

 

「当たり前じゃない。特にこんな品揃えの多いショッピングモールはね。ちょっと迷ったけど、これでムエの冬服もバッチリよ!」

「ムエにも買ったのかよ!?……犬は服なんか着ねーだろ!?」

「むえ、むえむえ〜」

「………何言ってるかわからんがご機嫌が良いのだけは伝わってくる………オマエもやっぱメスなんだな」

 

 

自分の服だけでは無く、犬であるムエの服まで買っていたエール。ムエはその買ってもらった服が気に入っているのか、偉くご満悦な様子で鳴き声を上げていた。

 

 

「はいアスラ」

「え」

 

 

唐突にエールがアスラに自分の持っている重たそうな買い物袋を差し向けてきた。

 

 

「持ちなさいよ。こう言うところに来たら身分の低い者がエックスの荷物持つって相場は決まってんのよ」

「えぇ!?自分で買ったのに!?………まぁ良いけど」

(こいつ将来尻に敷かれそうだな……)

 

 

なんだかんだでエールの荷物を持ってあげるアスラ。テンドウはそんな様子を目に移しながら近い将来アスラがエールの尻に敷かれている姿を想像していた。

 

 

「よしオマエら。買うもん買ったし、そろそろユキカイ町に行くか……………って言いたいとこだが、あと一ヶ所付き合ってもらう」

「えぇ!?まだどっか行くんすか!?」

「なんだ、嫌なのか小僧??……それはオレに殺される覚悟があっての発言だよな??」

「すんませんしたァァァー!!不肖アスラ、どこまでもついて行きまァァァーす!!」

「……はぁ、めんどくさいわね」

「むえ〜」⬅︎せやな

 

 

何度も言うが、テンドウに逆らったら命の保証はできない。アスラは結局同意し、エールとムエもめんどくさそうにしながらも渋々同行した。

 

そしてテンドウが向かった次の行き先は…………

 

 

******

 

 

「あれ、ここって………」

 

 

オウドウモールには半歩劣るが、それでもそれなりに大きな建物を目に移しながら、アスラはそう呟いた。

 

どこかで見覚えがあったからである。

 

 

「病院ね」

「そうそう!!病院だ!!……エールが倒れて、テンドウさんに連れて行かれて、その後もエールの看病したっけな!!懐かしい〜」

「なっ!?……アンタ私の看病なんてしてたわけ!?」

 

 

そう。ここは「オウドウ病院」………

 

新人交流戦の際にエールが倒れ、アスラとテンドウがその病室に赴いていたのは今でも記憶に新しい。

 

ただ、エールはそれを知らなかったためか、それとも気を失っている時に寝顔を見られた事を恥ずかしく思ったのか、思わず顔を赤くしてしまう。まぁおそらく後者である。

 

 

「でもなんで病室なんて…………ハッ!!まさかテンドウさん体調悪いんすか!?」

「バカかオマエ。オレのどこが体調悪いんだよ。オマエの方が異常だろうが。主に頭の中」

「ひでェェェー!!!」

 

 

などと会話しているうちに、彼らはテンドウを先頭に院内をどんどん進んで行く。そしてある一室でテンドウは足を止めると、彼はその病室のドアを横に動かし、開口した。

 

その病室の中にいた人物は…………

 

 

「あっ兄さん!!」

「よお、カナ。元気そうじゃねぇか」

「わぁ!!綺麗な花束だね〜流石兄さん、センスあるわ〜」

 

 

病室のベッドで横たわり、窓から今日の晴れ晴れとした天気を眺めていたのは、『カナ』と呼ばれる黒髪ロングの女性。彼女はテンドウの声が聞こえるなり、病人とは思えない程に元気に挨拶をした。

 

テンドウはその後、オウドウモールで購入していた色鮮やかな花束を花瓶に供えた。どうやら彼女の見舞い品であったようである。

 

 

「あら。そこにいるのはまさかエールちゃん!?……大きくなったわね〜!!……お母さんに似てとっても美人!!」

「はい!!ありがとうございます!!カナさんも元気そうで何よりです!!」

「………エールが敬語使ってる。誰だこの人??」

 

 

エールが敬語を使う人間は限られている。頂点王シイナとか、兄であるエレンなど、偉大なる人物が多い。つまり目の前にいるこの黒髪ロングの女性もおそらく凄い人物なのではとアスラは勘繰る。

 

そんな疑問を抱いたアスラにエールが偉そうに説明し出した。

 

 

「アンタは初見だったわね、この人は『テンドウ・カナ』………テンドウの妹よ」

「ふ〜ん」

 

 

テンドウさんの妹か〜

 

ん??

 

妹って事は…………

 

…………えーーっと…………

 

あっ!!そうそう、兄妹だ兄妹!!………羨ましいよな〜オレ捨て子だからホントに血の繋がった兄弟とかいないんだよね〜…………

 

………って

 

 

「えぇぇぇえ!?……テンドウさんの妹ォォォー!?!………全然似てねェェェー!!!」

「おい小僧。病室で騒ぐな。後似てないって何??…傷ついちゃうよ??オレのガラスのハートが」

「あっはは!!面白いねこの子!!」

 

 

そうだ。アスラの目の前にいる女性は他でもない………

 

テンドウの妹、「テンドウ・カナ」だ。

 

アスラの言う通り、正直華麗な容姿を持つカナと、髭も剃らないくらい不潔なテンドウとではぱっと見で実の兄妹であるとは判別しづらいものがあって………

 

 

「私はテンドウ・カナ!!…あなたは??……見た感じマスターやエックスじゃなさそうだけど………」

「あっ!オレ、コモンのアスラって言います!!……頂点王になるのが夢っす!!」

「まぁ!!カッコ良くて素敵な夢ね!!じゃあいずれ兄さんやシイナ様より強くなるんだ!!」

「ハイ!!そんためにめっちゃ努力します!!」

 

 

自己紹介するにあたって、取り敢えず己の夢を語るアスラ。

 

普通なら低俗なコモンの人間が何を語ってるんだと罵られるのがこの世界での常であるが、カナはそんな素振りは何一つ見せず、素直にアスラの掲げる大きな夢を褒めて見せた。

 

 

「ところでアスラ君。君はエールちゃんのボーイフレンドかなんか??」

「ボ、ボボボーイフレンドォ!?」

 

 

突然カナがアスラにそんな質問を投げかけてきた。それを聞いた途端エールは思わず首から上が真っ赤になってしまう。

 

 

「……ボ……ボールフレンダってなんすか??」

 

 

しかしアスラはこの様である。田舎者故、と言うか田舎者でも普通は知っている単語だが、知らなかった…………

 

 

「ちちちち違います!!!誰がこんなバカスラと!!」

「えぇ、そうなの〜(この子わかりやすいわね〜)」

 

 

エールが全力で否定するも、彼女の困惑ぶりや顔の赤面度や全く状況を理解できておらずキョトンとしているアスラの様子から、カナはニヤニヤしながら全ての恋愛事情を察した。

 

 

「まっ頑張ってね、エールちゃん!!」

「えっ…何をですか!?」

 

 

親指を上に立て、目をギラギラさせながらエールの恋を応援するテンドウの妹、カナであった…………

 

 

「よし、小僧とエールは一旦病室を出ろ……今から兄妹水入らずの会話が始まるからな」

「自分で言うとこじゃなくない??……まぁ別にいいんだけど」

「お邪魔しましたァァァー!!!」

 

 

テンドウがアスラとエールを急かすように追い出す。正直、自分で連れて来といてなんだと思ったエールだったが、まぁホントに聞かれたくない話でもやるのだと思い、そこは承諾。アスラと共に病室を去っていった………

 

そして病室の扉が閉まる瞬間、エールはある事に気がつく。

 

 

(……あっ……今、私たち2人っきり………ムエはいるけど)

 

 

突然の事で気がつかなかったが、アスラとほぼ2人っきりになった事を自覚して少し嬉しくなるエール。最近は他の人物と一緒にいる時が多くなりつつあったため、実際はそうでもないが、この状況は何気に久し振りに感じる。

 

そう思った直後、アスラがエールに向かってある言葉を言い放つ…………

 

 

「いや〜……カナさん。めっちゃ美人だったな〜……テンドウさんの妹とは思えね〜」

「むえ〜」⬅︎せやな

 

 

そう呟いた。頭の上に乗っかっているオレンジ小動物ムエも同意するように首を縦に振って、「むえ〜」と鳴いた。

 

だが、アスラのこの言葉に過剰に反応して見せたのは他でもないエールだった。

 

 

「えッッ?!……アンタ女の人見て綺麗とか美人だとか思うわけ!?」

「んだよ藪から棒に………まぁそりゃオレも男だし」

 

 

アスラが女性に対して「美人」と言う印象の無かったエールはこの言葉に食いついてしまう。

 

まぁ確かに今までのアスラの行動や言動からして余り異性に興味があるようには思えない。

 

そして、エールは反射的とは言え、ある失敗を犯してしまう………

 

 

「………じゃあ私の事どう思ってるわけ??」

「ん??…どうって??」

「そりゃ、私の事も…………私の事も………」

 

 

……『綺麗とか思ってんの??』……

 

そう訊こうとした。

 

ただ、それを言おうとした途端、エールは自分で喋りながら自身の誤ちに気付いた………

 

 

「ちょちょちょちょっとバカスラ!!今の質問無し!!聞かなかった事にしなさい!!!」

「はぁ!?どう言う事!?」

「い、いいから着いて来ないでよねェェェー!?!」

「………え〜…なんだったのアイツ………」

「むえ〜」⬅︎気づいてやれよチビスラ

「あっ!!今オマエオレの事馬鹿にしただろ!!」

 

 

また顔が真っ赤になったエールはアスラから逃げるように走り出してしまった。その様子を見たムエは澄ました顔でアスラに「むえ〜」の鳴き声を浴びせた。

 

 

「ねぇねぇ!!聞いた兄さん!!『私の事どう思う!?!』だって!!あのエールちゃんが!!遂に春が来たんだよ!!」

「今夏だけどな」

「わぁ!!頑張ってエールちゃん!!女は度胸よ〜!!コモンとエックスの身分の格差恋愛なんて凄くロマンチック!!」

 

 

アスラとエールの会話は病室には筒抜けだったため、テンドウもその妹カナも彼らの会話を耳に入れてしまう。昔からエールを妹のように可愛がって来たカナはそれはそれは嬉しかった。

 

 

「…………オマエ、後余命は何年だ」

「ッ!!」

 

 

テンドウが会話の流れを断ち切るかの如くそうカナに言い放った。

 

 

「………後……1年もないんだって、持って10ヶ月そこら」

「…………そうか」

 

 

カナの病気は重たい。約2年前だろうか。病名も分からず、ただただ身体が衰弱していくという謎めいた病気。今こそ振る舞いや顔色は元気そうにしているが、いつ動かなくなるかも時間の問題であった。

 

 

「あっ……そんなに気落ちしないで!!…今を楽しく生きれれば私はそれで良いから!!」

「……誰も気落ちなんてしてねーよ」

 

 

テンドウは「オマエはそれで良いかもしれねぇが他の奴らはそれじゃダメなんだよ!!」と言う言葉が喉から出かけるも、それを押し殺しながらいつもの低いテンションで気落ちしてる事を否定した。

 

 

「………んじゃ、オレはニコチン切れたからちょっくら屋上でタバコ吸ってくらぁ」

「うん。いってらっしゃい!」

 

 

そう告げて、テンドウは病院で唯一喫煙所として認められている屋上へと足を運んだのだった。言葉自体はいつも通り棒読みで、どこか掴み所が無い感じだが、

 

実の妹であるカナには彼の大きな背中に一抹の寂しさと虚しさを感じていて………

 

 

******

 

 

 

ここは屋上。病院が7階建てなのもあって、そこそこ見晴らしが良く、晴天なのもあって、本日の眺めは最高を極めていた。そんな屋上の手摺りに手を置き、タバコを吸ってニコチンを補給していたのは三王の1人、テンドウ・ヒロミ。

 

彼は何を思っているのか、一見そのタバコを吸っている様子はクールに見えるものの、その背中からはどこか物寂しい雰囲気が伺えて…………

 

 

「…………トゥエンティ……」

 

 

テンドウがその人物の名を口にすると、ふと昔の記憶が蘇って来た………

 

それは今でも毎日のように脳を過ぎり、忘れたくとも忘れられない2年前の記憶………

 

 

ー『テンドウさん!!……貴方のライダーを……カブトをオレにくださいッ!!』

ー『えーーせっかく選ばれたのにーー嫌なんですけどーー』

 

 

ガムシャラとも言える勢いで当時、2年前のテンドウに言い放って来たのはアスラ達がコラボダンジョンにて交戦した銀髪の若い男性、トゥエンティ。

 

何度も頭を下げてテンドウのライダーが欲しいと懇願するがテンドウはいつものやる気のなさそうな感じで適当にその言葉を受け流していた。

 

 

ー『冗談言ってる場合じゃないんです!!わかってるでしょ!?カナはもう長く無い!!……だからオレには20枚のライダースピリットが必要なんです!!』

ー『………バカヤロウッ!!……どこの馬の骨だか知らんがんなもんウソに決まってるだろ!?』

ー『じゃあ手をこまねいてただただ弱っていくカナを見守れって言うんですか!?!』

 

 

……『20枚のライダースピリットを集めれば願いが叶う』

 

トゥエンティはある人物にそう言われていた………

 

そんな信頼性も無い話。馬鹿なのは百も承知だ。しかし、今彼女を………

 

カナを救う方法はこれしか無くて………どうしてもこの方法に身を投じるしか無くて…………

 

 

ー『カナは今の時間をを大事に生きようとしている。そのためにもオマエはアイツのそばにいてやれ、トゥエンティ………それがオマエにできる最善、最高の行為だ』

 

 

トゥエンティに対してそう告げるテンドウ………

 

この言葉は正論だ。トゥエンティとてそんな事理解している。こんな意味のわからない方法に懸ける方が遥かにバカバカしい。

 

………だが、

 

 

ー『………嫌です………約束したんだ。カナを護るって……助けてやるって………必ずオレは20枚のライダースピリットを集めて見せますッ!!』

ー『トゥエンティィィィッッ!!!!』

 

 

トゥエンティの馬鹿げた発言に、遂に本気で怒りを露わにするテンドウは彼を怒鳴りつけながら全力で拳を振るった。

 

この殴打は彼にしては意外にも珍しい行為であり、本気で誰かを殴ったのは後にも先にも存在しなかった。

 

だが、それ程までにトゥエンティを見込んでいたという事でもある。

 

あれから2年程が経過したが、青のカラーリーダー、ローザ・アルファが提出したコラボダンジョンの報告書によれば、どうやらトゥエンティはテンドウの言いつけを無視して未だにライダースピリットを集めているようである。しかも半ば無理矢理な方法で…………

 

 

「………あの野郎………まだそんな馬鹿みてーな事をやってんのか………!!」

 

 

場面は戻り現在。久し振りに何かに怒りを露わにするテンドウは咥えていたタバコを強引に噛み砕く。

 

するとそんな時だ………

 

 

「……テンドウ」

「ッ!?」

 

 

背後から聴き慣れた声が聞こえて来て、テンドウは思わずその後ろを振り向く。そこには肩までかかった赤茶の髪を靡かせるエールの姿であって………

 

テンドウはエールの前では咄嗟にいつもの調子に戻して接する。

 

 

「なんだエールか………どうした屋上なんかに足運んで……小僧はどうした??」

「ッ!!……まぁ、ちょっと別行動って感じ…………(い、言えない………恥ずかしくなって顔が合わせられなくなっただなんて……いや、別にあんなバカスラ、気にも止めて無いんだけど………)」

「ふ〜ん(まぁ理由はわかるけど)」

 

 

半ばアスラから逃げ出すように飛び出していたエール。思わず嘘をついて誤魔化すが、さっきの会話が病室に筒抜けだったのもあって、テンドウにはバレバレであった………

 

 

「あ、アンタこそこんなとこで何考えてたのよ??」

「ギャンブルと胸のデカい女」

「………サイテー」

 

 

テンドウの返答にドン引きするエール。だが、テンドウの言っていることは嘘だ。エールはカナの恋人があのコラボダンジョンで出会ったトゥエンティだとは知らない。テンドウはそれを悟らさないためにわざと適当にお茶を濁したのだ。

 

 

「……オマエ、ホントにアネゴに似て来たな……主に顔」

「はぁ!?何よ急に」

「ちょうどスペースもある事だし、どうだ。久し振りにオレとバトルでもやらねぇか??」

 

 

突然エールにバトルをぶっかけるテンドウ。因みに彼の言う「アネゴ」とはエールの実の母親である『エレナ・オメガ』の事を指している。

 

普段から何を考えているのかわからないテンドウだが、さっきまでの会話の流れから、エレナと瓜二つの容姿を持つエールを見て、久し振りにバトルをやる気になったのかもしれないと推測できる。

 

その後、特に断る理由が無いのもあってエールは「まぁいいけど」とちょっと上目遣いをしながらBパッドとデッキを取り出し、バトルの準備を行った。テンドウも同様である。

 

 

「んじゃ、やるか」

「えぇ、成長した私の力でコテンパンにしてあげるわよ!!」

「そりゃ楽しみだ………行くぜ」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

そして………2人のコールと共に病院の屋上にてバトルスピリッツが開始された…………

 

先行はエールだ。

 

 

[ターン01]エール

 

 

「メインステップ……行くわよ、私は創界神ネクサス、八神太一を配置!!」

 

 

ー【八神太一】LV1

 

 

「あ??…んだそりゃ、聞いた事ねぇカードだな」

「ふんっ……私だって知らなかったわよ!!」

「なんでそこ偉そうなの?」

 

 

エールが配置したネクサスカードは所謂『創界神ネクサス』と呼ばれる特別なネクサスカード。この世界においては僅か一部のデッキ以外には宿らないと言われている。

 

八神太一と呼ばれる創界神ネクサスはあのエレンとのバトルによって進化した際に発現したものである。ネクサス本来は配置したプレイヤーの背後に出現するが、このカードは特別なのか、配置後も特に変化は無く、エールが一瞬だけ赤い光を帯びるだけに留まった。

 

 

「《神託》の効果でデッキからカードを3枚トラッシュへ送るわ!!……対象カードは1枚!!よってコアを1つ追加!!」

 

 

創界神特有の効果だ。八神太一にコアが追加される。その後は対象スピリットが召喚されるたびにコアが置かれていく。

 

 

「これでターンエンドよ」

手札:4

場:【八神太一】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

このターンをエンドとするエール。次はいよいよ三王の1人であり、仮面ライダーを司るテンドウのターンだ。

 

 

[ターン02]テンドウ

 

 

 

「メインステップ…………創界神ね〜………ちょっとだけ本気出さねぇと行けないみたいだな……」

「!?」

 

 

テンドウはそう呟くと、早速手札から1枚のカードを引き抜く。

 

そのカードもまたこの世において特別たりうるカード………

 

 

「変身!!」

 

 

 

ー【変身!!仮面ライダーカブト】LV1

 

 

 

「!!」

 

 

テンドウがそう叫び、カードを配置すると、神々しい光を纏い、瞬く間に赤き一角を持つライダースピリット、カブトに変身して見せた………

 

そう、彼自身がライダースピリットとなったのだ………

 

 

「変身のカード……一部のライダースピリットが内包してるって言うあの……!?」

「よく勉強してるじゃねぇか。このカードも一応カテゴリ上は創界神だからな。目には目を、歯には歯を、創界神には創界神ってな………《神託》を発揮させてカードをトラッシュに。対象は3枚、コアを3つオレに追加」

 

 

ごく僅かのライダースピリットには『変身』できるカードが備わっている。それを使えばこの通り選ばれたバトラー自身がライダーとなる。

 

テンドウもまたその能力を備えた仮面ライダーカブトの使い手なのだ。

 

 

「………まっ、なんだかんだ言って他にできる事ないんだけどな。エンドだ」

手札:4

場:【変身!!仮面ライダーカブト】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

しかし、最初のターンはコアが少なく、それ以外の事はできなかったか、テンドウはそのターンをエンドとした。次はエールのターン。先行で配置した創界神ネクサスのシンボルを活かしてスピリットを呼ぶ。

 

 

 

[ターン03]エール

 

 

 

「変身……自分がライダースピリットになるなんて……」

 

 

メインステップ開始早々、ライダースピリットになったテンドウに向かってそう呟いたエール。テンドウとは昔からのそこそこ長い付き合いで、沢山バトルをやってきたが、あの変身のカードを所持ていた事は知らなかった。

 

 

「だけど関係無い。その真っ赤な仮面ごとライフを破壊するまでよ!!」

「おぉ、怖い怖い」

 

 

しかし、そのカードを見ても物怖じする様子は一切見せず、寧ろ余計に強気になっているエール。テンドウはそれを見て「怖い」と告げるが、棒読みで低テンションなため、とてもでは無いが怖がっているようには見えない。

 

 

「ネクサスカード、勇気の紋章をLV1で配置!!」

 

 

ー【勇気の紋章】LV1

 

 

 

エールの背後に神々しく光り輝く太陽を模した紋章が姿を見せる。

 

 

「さらにベアモンを召喚!!」

 

 

ー【ベアモン】LV1(1)BP2000

 

 

小さな熊のような姿をした成長期スピリット、ベアモンがエールの場に現れた。因みにこのデジタルスピリットはオメガのカードでは無く、市販で販売されているようなごく普通のカードだ。

 

 

「アタックステップ、ベアモンでアタックよ!!……効果でドロー」

 

 

ベアモンがテンドウのライフ目掛けて走る。その効果により、エールは手札を増やした。

 

 

「ライフだ。くれてやるよ」

 

 

 

〈ライフ5➡︎4〉テンドウ

 

 

迷わずライフを切る選択をするテンドウ。見た目がライダーになっても通常の仕様とは変わらず、前方にバリアが展開され、ベアモンはそれを殴りつけ破壊した。

 

 

「ターンエンドよ」

手札:5

場:【ベアモン】LV1

【八神太一】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

できる事を全て終え、そのターンをエンドとしたエール。次はテンドウのターン。自分からバトルをふっかけて来たにもかかわらず、めんどくさそうな仕草をしながらターンを進めていく………

 

 

[ターン04]テンドウ

 

 

 

「メインステップ………仮面ライダーカブト マスクドフォームを召喚」

 

 

 

ー【仮面ライダーカブト マスクドフォーム】LV2(3)BP6000

 

 

テンドウが呼び出したのは強靭な鋼の鎧を持つライダースピリット。三王のライダースピリットと言う事もあって貫禄が際立っている。

 

 

「召喚時効果を発揮。オレはその中の対象カードを手札に加える」

 

 

その召喚時効果はなんの変哲もないサーチ効果。テンドウはその中にある対象内のカードを1枚手札に加え、残りをトラッシュへと破棄した。

 

 

「バーストをセット………オメガのデッキにパワーで立ち向かうのもバカらしいな。ここはいっちょ一発行きますか………マスクドフォームでアタック」

 

 

テンドウの指示でマスクドフォームはカブトの角を象ったような銃を取り出す。攻勢に回った証拠だ。そしてさらにここは速攻で畳み掛けるべくフラッシュタイミングで発揮できるある効果を発揮させる。

 

 

「フラッシュ【神技】!!」

「!?」

 

「オレに置かれたコアを3つボイドに置き、スピリットのシンボルを赤の2つにする。マスクドフォームはこれでダブルシンボル」

 

 

創界神ネクサスが持つ特有の効果【神技】………

 

上に置かれたコアをボイドに戻す事で発揮できる効果だ。これにより、アタック中のマスクドフォームのシンボルが2つとなり、一度のアタックで2つのライフ破壊が可能となった。

 

 

「くっ……ライフで受ける!!……ッ!!」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉エール

 

 

マスクドフォームが1つの銃から3つのレーザーを発射させる。それは瞬く間にエールの元まで届き、そのライフを一気に2つも焼き貫いた。

 

 

「ターンエンド……どうしたエール、そんなもんか??……まだまだオレは全体の3割くらいでバトルやってるぜ〜」

手札:4

場:【仮面ライダーカブト マスクドフォーム】LV2

【変身!!仮面ライダーカブト】LV2(1)

バースト:【有】

 

 

「うっさいわね!!……そんな余裕ぶっこいてると、足元掬われるわよ!!」

 

 

随分と余裕のあるテンドウ。

 

だが、エールも負けてはいない。次のターンを勢い良く開始させていく………

 

 

[ターン05]エール

 

 

 

「メインステップ……行くわよ、私の全力!!……太一のアグモンと第二のアグモンを召喚!!」

 

 

 

ー【太一のアグモン】LV1(1)BP3000

ー【アグモン[2]】LV2(3)BP5000

 

 

 

エールの場に黄色い肉食恐竜をこれでもかとデフォルメしたような見た目の成長期スピリット、アグモンが2体召喚される。その容姿はほとんど同じだが、効果は全くの別物であって………

 

 

「太一のアグモンの効果でカードをオープン、その中の対象内スピリットカード………よし、私は『ウォーグレイモン』を手札に加えるわ!!」

「……来たか、オメガの片割れ」

 

 

エレンとのバトルを経て進化したアグモンの効果により、エールはデッキから自身のエースカードであるウォーグレイモンのカードを手札に加えた。

 

 

「アタックステップ!!…第二のアグモンでアタックするわ!!」

 

 

反撃に出ると言わんばかりの勢いでエールがアタックステップへと移行、第二のアグモンが戦闘態勢に入る。そしてその直後となるフラッシュタイミング。エールは第二のアグモンに秘められたさらなる効果を発揮させて………

 

 

「フラッシュ、第二のアグモンの効果発揮!!」

「!!」

「自身を手札に戻す事でウォーグレイモンを召喚する!!……ワープ進化!!来なさい、ウォーグレイモンッッ!!」

 

 

 

ー【ウォーグレイモン】LV3(4)BP16000

 

 

吠えるアグモン。その際に赤々と燃え滾る炎をその身に纏い、姿をグレイモン、メタルグレイモンへと進化させていき、その最終段階として、強靭たる鎧をその身に纏う竜の戦士、究極体のウォーグレイモンへと進化を遂げた。

 

 

「よぉ、ウォーグレイモン。面と向かうのは10年ぶりか?」

 

 

エールの母であり、尚且つカードの前継承者であるエレナが亡き者となってから約10年。テンドウが前にウォーグレイモンと面と向かって対面したのもまたそれくらいの年月が経過していて………

 

テンドウはどこか感慨に浸るような声を漏らしていた。ウォーグレイモンを操っているエールがエレナと瓜二つの容姿を持つのもあって懐かしく思っていたのだろう。

 

 

「何思い出に浸ってんのよ!!……ウォーグレイモンが出たんだからもう容赦はしないわ!!」

「……はいはい。無駄口は叩きませんよーー」

 

 

そしてエールは進化できるようになったウォーグレイモンの効果を遺憾無く発揮させていく………

 

 

「煌臨時効果!!…マスクドフォームを破壊するわ!!」

「!!」

「ブレイブトルネードッッ!!」

 

 

ウォーグレイモンは薄緑色の眼光を放つと、両手を天に掲げ、自身の身体を竜巻のように回転させると、そのまま両手を前方に向けて空を裂きながらマスクドフォームの元まで突き進む。マスクドフォームは防ぐ事も避ける事も出来ずそれに装甲を貫かれ、大爆発を起こした。

 

その後、ウォーグレイモンは地に足を着けると、目の前には既にライフを砕く対象であるテンドウがいて………

 

 

「ウォーグレイモンでアタックッ!!」

「……ライフだ……ッ!!」

 

 

 

〈ライフ4➡︎3〉テンドウ

 

 

ウォーグレイモンは手に装備されている鉤爪付きの籠手でテンドウのライフ1つを紙切れのように引き裂いた。

 

 

「まだ終わらない!!ウォーグレイモンのLV2以上のアタック時効果!!……トラッシュのソウルコアをウォーグレイモンに置いてライフ1つをボイドに置く!!」

「っ!!……メインステップで事前にソウルコアをトラッシュに置いてたか……」

「その通り!!…くらいなさいテンドウ!!……ガイアフォースッッ!!」

「ぐっ!!」

 

 

 

〈ライフ3➡︎2〉テンドウ

 

 

ウォーグレイモンの真価とも言えるアタック時効果。これを発揮させるためにエールはアグモン達を召喚する際、事前にソウルコアでコストを支払っていたのだ。

 

ウォーグレイモンが両手の間隔から赤き巨大な火球を形成してテンドウのライフに叩きつけた。彼のライフ1つは消し済みになり消滅してしまう。

 

 

「どうテンドウ??……後はアグモンとベアモンでアタックすれば私の勝ちよ!!」

「そう言う説明はフラグだぞ」

「え」

 

 

ウォーグレイモンのガイアフォースをまともに受けたにもかかわらず涼しい表情をエールに見せつけ、軽いメタ発言までかましてくるテンドウ。

 

ただ、それはハッタリではない。

 

テンドウはこのタイミングで事前に伏せていたバーストカードを発動させる…………

 

 

「ライフ減少によりバースト発動………仮面ライダーカブト ライダーフォーム!!」

「!!」

 

 

……クロックアップ!!

 

 

「!?」

 

 

刹那。

 

テンドウのバーストカードが発動し、表向きとなったその直後だ。

 

エールは思わず言葉を失った。

 

それもそのはず、何せ、自分のスピリットであるアグモンとベアモンが突如として爆発してしまったのだから………

 

 

「BP10000以下のスピリット3体を破壊し、その後召喚する」

 

 

ー【仮面ライダーカブト ライダーフォーム[2]】LV3(5)BP10000

 

 

エールがふとテンドウの場に目をやると、そこには今のテンドウと全く同じ姿をしたライダースピリットが1体。

 

それこそが仮面ライダーカブトデッキの花形とも呼べるスピリット、カブト ライダーフォームである。アグモンとベアモンを一瞬にして倒したのもこのスピリットだ。

 

 

「くっ……アタックできるスピリットがいない………ターンエンドよ………」

手札:5

場:【ウォーグレイモン】LV3

【八神太一】LV2(5)

【勇気の紋章】LV2

バースト:【無】

 

 

この場と状況において返す手立ては無く、エールはそのターンをエンドとしてしまう。次はようやくライダーフォームの召喚を成功させて見せたテンドウのターンだ。

 

 

「エール、流石に少しはできるようになったがまだまだだな」

「なんでちょっと偉そうなのよ?」

「オマエがそれ言う??…こう見えてもオレ三王の1人よ?」

 

 

自分にもブーメランな言葉を平気で使ってくるエール。テンドウの言う通り確かにいつも「自分はエックスだ」と偉そうに主張してくる彼女に言われたくはないだろう。

 

 

 

[ターン06]テンドウ

 

 

 

「メインステップ………ブレイヴカード、カブトクナイガンをライダーフォームに合体」

 

 

 

ー【仮面ライダーカブト ライダーフォーム[2]+カブトクナイガン】LV3(5)BP13000

 

 

 

テンドウがそれを召喚すると、クナイのような形をした武器がライダーフォームに取り付けられる。

 

 

「アタックステップ!!……ライダーフォームでアタック。合体しているカブトクナイガンの効果でトラッシュからコアを戻す……さらに赤のシンボルを1つ追加」

「ッ……またダブルシンボル……!?」

 

 

アタックを仕掛けるテンドウ。今度はブレイヴの効果によりダブルシンボルを作り出した。

 

さらにこれだけでは終わらない。テンドウはこのタイミングでさらなる一手を繰り出す。

 

 

「さらにここで【転神】の効果」

「!?……転神!?」

 

 

聴き慣れないその効果名に戸惑うエール。それもそのはずだ。何せ、この【転神】と言う効果はこの世界において、ほんの一握りの創界神ネクサスしか持つ事ができないのだから………

 

 

「オレの上に置かれたコア1つをボイドに置く事でこのターン、オレをBP3000、ブロックされないスピリットとして場に呼ぶ」

 

 

 

 

 

ー【変身!!仮面ライダーカブト】(2➡︎1)BP3000

 

 

 

 

「え!?……アンタ自身が場に!?」

 

 

見た目がカブト ライダーフォームと化しているテンドウ。Bパッドの元を離れ、自ら前戦へと現れた。

 

これこそ【転神】………

 

創界神ネクサスがスピリットとしてアタック及びブロックができるようになる効果である。

 

 

「さぁどうするエール。このままじゃ一気に3点分持ってかれるぜ?」

 

「っ……ライダーフォームのアタックはライフで受ける!!」

ライフ3➡︎1

 

 

ライダーフォームがカブトクナイガンでエールのライフを斬りつけ、それを一気に2つ砕いた。

 

このままでは転神を果たしたテンドウの一撃により、ゲームエンドだが、エールにはまだ奥の手があって………

 

 

「甘いわねテンドウ!!…私の勇気の紋章の効果、BP5000以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!!」

「アンタに引っ付いたその仮面を破壊する!!」

 

 

そう。

 

勇気の紋章だ。

 

エールの背後にある太陽を模した紋章から火炎弾が発射され、カブトと化したテンドウに命中した。

 

 

「よし!!」

 

 

被弾により発生した爆煙。その光景を見て、ガッツポーズするエール。

 

これで次のターン、またウォーグレイモンで攻めれば勝てる………

 

そう思っていたが…………

 

 

「おいおい………なんだよ今のチンケな炎は………」

「え!?」

「ちっとも効かねぇなぁ!!」

「なんで!?……アンタさっきBP3000って……」

 

 

爆煙が晴れた瞬間。エールの目に移ったのは傷一つ無く余裕のある仕草を見せるテンドウ。

 

 

「オレは創界神ネクサス。スピリットとして場に出てもそれを対象とした効果以外は受けねー」

「はぁ!?……何よそれ!?インチキじゃない!!」

 

 

転神の効果について説明するテンドウ。

 

エールが勘違いしていたのも無理はない。この世界では転神は非常に珍しく、知識として内包する機会はほとんどない。テンドウ自身がその効果をあまり使った事がないのも理由の一つである。

 

エールはその効果の事をインチキと称するが、この国の三王の1人であるテンドウにはこのくらいの効果が寧ろお似合いとも言えて………

 

 

「そんじゃ………行くぜ」

「!!」

 

 

突如、テンドウはエールにプレッシャーをかけるような声を上げると、彼は既にエールの眼前にいて………

 

エールはその声に思わず背筋が凍りついた。そのかけられた重圧は間違いなく今まで何人もの挑戦者を葬って来た三王そのモノだ。

 

そしてテンドウはベルトにある赤い角を捻り………

 

 

「………ライダーキック……」

「っ!!」

 

 

 

〈ライフ1➡︎0〉エール

 

 

足にエネルギーを溜め、そのまま回し蹴りを放つテンドウ。エールのライフは無残にも散ってしまった………

 

このバトルの勝者は、やはりと言うべきか、この国の三王の1人で、ライダースピリットを司るテンドウ・ヒロミに終わった…………

 

ー……

 

 

「………なんでアンタって普段おちゃらけてるくせにバトルはめちゃくちゃ強いのよ、意味わかんない」

「ワッハッハッハ!!!…だからオマエ三王を舐めすぎだろ!!」

 

 

バトルも終わり、病院の屋上でたむろするテンドウとエール。

 

エールがテンドウのめちゃくちゃな強さに愚痴を零す。テンドウはタバコを吸いながらそんな彼女の様子を見て笑い飛ばしていた。

 

そして、彼はエールの頭に手をポンっと置くと、

 

 

「いつかオレと肩を並べられるくらい強くなれ。それがこの旅の中でオマエに課せられたノルマだ」

「ふんっ!!……アンタの肩なんか余裕で超えてやるわよ!!」

「ワッハッハッハ!!!…そのいきだ!!」

 

 

アスラと一緒に旅をしろと言って来たり、コラボダンジョンに行けた言って来たりと、テンドウには謎めいた行動が多い。

 

そして今回はエールに旅のノルマを課してきた。到底一朝一夕の旅では三王に肩を並べるなど不可能に等しいが、強気な性格のエールはそれさえをも超えてやると豪語した。

 

すると、そんな時だ。またしても聴き慣れた声が耳に入って来たのは………

 

 

「あれ??…エールとテンドウさん。どうしたんすか2人とも屋上で」

「あ、アスラ!?」

「よぉ小僧」

 

 

アスラが屋上に現れた。その頭の上にはムエも確認できる。

 

 

「着いて来んなって言ったのになんで着いて来てんのよ!!」

「いやいやいや!!ちげーよ、暇だったから病院を探検してたらここに辿り着いたんだよ!!」

「子犬かオマエは」

 

 

アスラは別にエールを追いかけていたわけではない。この間来た時は特に見て回る事はできなかった事もあって、この病院を探検していたのだった。その結果がこの状況を作り上げた。

 

 

「あっそう言えば、さっきオマエが言った『私の事どう思ってる』って質問なんだけどさ!!」

「っ!?……そ、そんな事もうどうだっていいわよ!!」

「えぇ!?……いいじゃん、言うくらいすぐ終わるし!!」

 

 

さっき無意識でエールがアスラにしてしまった質問。それはアスラはエールの事をどう思っているのかと言うものである。

 

アスラはエールに向かって微笑むと、質問の答えとしてこう告げた………

 

 

「オマエはオレの大事な仲間だ!!……これからもよろしくな!!」

「ッ!!!」

 

 

その言葉に思わず顔が赤くなるエール。

 

別に口で言われなくてもわかり切っていたアスラの気持ちだし、何なら質問の趣旨が若干変わってる気もするが、実際にそう言われてみると言葉では表し切れないほど嬉しかった。

 

 

「ふ、ふんっ……わかってるじゃない!!………えへへ…………ま、まぁアンタがそこまで言うならこれからも仲間としてよろしくしてあげなくもないわ!!」

「だからなんで偉そうなんだよオマエは……てかなんでニヤついてんの?」

「べ、別にニヤついてなんかないわよ!!」

 

 

いつもの尊大な態度を取りつつも、堪え切れないほどの幸福が襲って来て、思わず顔がニヤついてしまうエール。素直にならないため、否定はしているものの、内面も表面でもアスラの言葉が嬉しかったのはバレバレであった。

 

 

「………あっ、そうだ小僧。頂点王からオマエにコレを渡せと言われたんだった」

「えぇ!?シイナから!?」

 

 

ここに来てようやくテンドウが会話に混ざって来た。彼は懐からある1枚のパトスピカードをアスラに手渡した。

 

それは彼の言う通り、現頂点王シイナ・メザがアスラのために渡そうと思っていたカード。どのタイミングかは定かではないが、それをテンドウに手渡されていて、今、ようやくこのアスラがそれを握る事になる………

 

そのカードとは………

 

 

「め………めっちゃキレェェェー!!!……何すかコレ、黄金の翼!?」

「なんかこの間とは別のコラボダンジョンで手に入れたんだと。オマエにお守りとしてあげるってさ」

「うぉぉぉぉお!!!シイナァァァー!!!ありがとうございますゥゥゥー!!!一生大事にしまァァァーす!!」

 

 

黄金の片翼が描かれたカード。特に何の効果も無く、バトルにおいては何も使えないが、コラボダンジョンで発見したと言うのもあってその貴重さが窺える。

 

 

「よし。そんじゃオマエら。用も済んだし、そろそろユキカイ町行くか」

「はい!!行きましょォォォー!!」

「むえ〜」

「しょうがないわね、行ってあげるわよ」

「待ってろよロン!!今に追いついてやるぜェェェー!!!」

 

 

やる気は十分。

 

目指せ頂点王。

 

追い越せライバル。

 

アスラの頂点王を目指す物語はまだまだ続く。

 

しかし、まだアスラを含めた面々は知る良しもなかった………

 

アスラの最大のライバルであるロンが今まさに巨大で大きな壁にぶち当たっていた事を……………

 

 

 

 




《オマケストーリーズ!!》
【エールの事好き?】


丁度テンドウとエールがバトルを始める頃、院内を探検していたアスラはカナの病室にいた。そこでアスラはカナにエールが自分の元を走り去って行った事を詳しく教えていた。因みに、彼の頭の上にはオレンジ小動物ムエが乗っかっている。


「ってな感じで走ってどっか行っちまったんすよ!?……変っすよね!?」
「あーー……うん、そうだね(まぁ聞いてたから知ってるけど)」


ぶっちゃけカナはアスラとエールの恋愛事情を全て理解している自信があった。ほぼ確実にアスラは鈍感が過ぎるし、エールはそんな彼に素直になれず、ツンデレを極めていると確信している。


「ねぇ!!アスラ君はエールちゃんの事好き?」


カナが興味津々な様子でアスラにエールが好きかどうか訊いてみた。そんな彼女から質問を受けるなり、アスラは目をギラギラさせながら口を開いて………


「はい!!好きです!!」
「おぉ〜…即答じゃん!」


即答で「好き」だと返事した。これをエールが目の前で聴いていたら気がおかしくなってしまう事だろう。カナもそよ返事を聞いて思わずそこから身分の垣根を超えた恋愛に繋がってくれると期待してしまう。

だが…………


「大事な仲間っすからね!!……これからも持ちつ持たれつつ、一緒に頑張って行く所存です!!」
「…………あはは……君ってやっぱりちょっと残念な子だよね〜」
「えぇぇぇえ!?なんでっすかァァァー!?」
「むえ〜」⬅︎鈍すぎんだよ


アスラはエールの事は仲間として好きなのだ。飽くまでも相棒のような感覚。

彼がエールの恋心に気がつくのはまだまだ先か………







******


《キャラクタープロフィール》
【テンドウ・カナ】
性別:女
年齢:22
身長:164cm
身分:異国人であるため無し
好きなモノ:人の恋バナ、トゥエンティ
概要:テンドウの妹。おっとりしているが、結構恋愛脳で、エールのアスラに対する気持ちに興味津々。2年前から重たい病気を患っている。


《用語設定》
【創界神ネクサス】
この世界においてはごく僅かなデッキにしか宿らないカード。エールのように進化で生まれる事もある。特にライダースピリットのデッキではプレイヤーがそのライダーに変身する。


******


最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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