「……ここが出来立てホヤホヤのライライ町テーマパーク……改めて見ると壮観ね」
「うおぉぉぉお!!…スッゲェェェー!!…そしてデッケェェェェー!!」
「むえぇぇぇぇえ!!!」
4番目の娯楽の塊の町、ライライ町。その名物であるテーマパークに足を運んでいたアスラとエール、そしてオレンジ色のもふもふした犬みたいな生物ムエ。
多くのアトラクションが所狭しと並び、華やかなテーマパークを前にして、アスラは目をギラギラと輝かせながら思わず感激の気持ちを言葉にして叫び、ムエはそんなアスラの大声に便乗して鳴き声を上げていた。
「で、結局テーマパークって何するとこなんだ?」
「…………なんでそこに説明しなきゃいけないのよ」
テーマパークがなんなのかを分からずについてきていた田舎者のアスラ。彼の常識の知らなさにエールもツッコム気が失せる。
「見てわかんないの?…楽しむ所よ」
「楽しむのか?……なんかさっきから悲鳴とかめっちゃ聞こえてきて怖えぇんだけど」
「アレはそう言うモノなの!!……いいからさっさと一緒に行くわよ!!……えへへ」
「えぇ!?」
「むえ〜」⬅︎let's go
絶叫マシーンに乗っている者達を見ながらそう言うアスラ。テーマパークや遊園地のイロハを理解していない田舎者に一々口で説明するのは効果的ではないと見たエールは、嬉しそうな笑みを浮かべながら彼の手を引き、その絶叫アトラクションの方へと向かった。
ー…
「おいエール。これ乗っても大丈夫なの?」
「多分」
「多分!?」
「むえ〜」⬅︎楽しみ
今現在、アスラ達は絶叫アトラクション……いわゆるジェットコースター……その先頭に搭乗している。アスラはしっかりと手摺りを握っているが、彼にとってジェットコースターは未知の乗り物である事ため、凄く不安そうな表情を見せている。
そしてムエはそんなアスラの頭の上に乗っかっている。ハッキリ言って凄く危ない。
「私も初めてだから。ちょっとワクワクして来たわ」
「なんで!?…こんな高いとこから振り落とされたら死んじまうぞ!?」
「振り落とされるわけないでしょ?…何のために固定されていると思ってるのよ」
「むえ〜」⬅︎楽しみ
「うぉっ…動いた!!」
そんな中、ジェットコースターが遂にゆっくりと車輪を回し動き出した。レールの頂目掛けてじわじわとしたペースで登っていく………
エールは楽しみやワクワクの感情で心を埋めていくが、その反面、アスラは徐々に恐怖が刻まれて行く………
「え!?…ちょっと待てエール、これいつ速く何の!?」
「わかんなーい!!」
「えぇぇぇぇ!?…てかなんでオマエさっきからそんな楽しそうなの!?」
「だって初めて乗るのよ!!…オウドウ都にはこんなの無いから………」
珍しく楽しそうな表情を見せながら、ジェットコースターにビクビクするアスラにそう言ったエール。そして、さらに彼女は自分の言葉に「それに……」と、顔を赤くしながら付け足すと………
「あ、アンタと来れて……ちょ、ちょっと嬉しいし……」
「あ?…なんだって??…聞こえなかっ……たァァァー!?!!」
「キャァァァァァー!!!」
「むえぇぇぇぇえ!!!」
アスラがエールの言葉の内容をもう一度聞こうとしたその一瞬で遂に頂に到達したジェットコースターは落下するように滑り出し、速度が異常に上がる。
凄まじい速度で直進しつつ、右往左往と突き進む恐怖のアトラクション、ジェットコースター。
その間でアスラは正直これのどこか楽しいのかさっぱり分からなかったが、自分の横にいるエールの横顔が、というか笑顔がまぁ楽しそうだったので、これはこれで良し。と、勝手に結論づけて満足した。
ー…
10分後くらいでアスラ達はアトラクションから降りる。途中途中でムエがアスラの頭の上から飛んでいってしまったりとアクシンデントは尽きなかったが、少なくともエールはなんやかんやで楽しめた様子。
ただアスラは乗り物には弱かったか、少々疲れ気味である。
「あーー楽しかった〜!!…じゃあバカスラ、次はアレに乗るわよ!!」
「スパンが短けぇ!?…しかも似たようなヤツじゃねぇか!!」
「むっ…似て非なるものよ!!…いいからさっさと歩く!!」
「おぉ、マジかよオマエ………」
エールに嫌々歩かされるアスラ。彼としてはエールがこれで喜んでくれるのであれば動くしかあるまい。なんやかんやでアスラはエールに優しいのだ。
しかしこの後が地獄だった。エールは絶叫アトラクションというアトラクションを全て巡り、アスラはそれらに搭乗するたびに心体諸共疲労困憊に陥り、衰弱していった……
そして時刻はそれら全てを乗り終えた夕方前。夏の季節でも比較的涼しい時間帯で、アスラとエール、ムエは休憩所でもあるアイスクリーム屋に足を運んでいた……………
「あーーー……まだ目が回る………」
「どうしたのよ?…体力だけが取り柄のアンタらしくないわね」
「寧ろなんでオマエが疲れてないのか疑問なんだけど……てか、「だけ」は余計だろ」
「むえ〜……」
アスラとムエはこの時点で疲れ切ってしまいテーブルにぐったり。それに比べてエールは乗り物は強いのか、全然余裕そうだ。
「まぁ気を取り直してバニラシェイクでも食べましょ。仕方がないから今回は特別に私が買って来てあげる」
「おぉ!!…いつもはオレをコキ使うくせに!!…珍しい!!」
「うっさいわね!!…買って来ないわよ!?」
「ごめんなさいィィィー!!…お願いしますゥゥゥー!!」
この手の役回りは大抵アスラに行かせるのがエールと言うエックスの少女であるが、今回ばかりはアスラを無理矢理付き合わせてしまったと非を感じているのか、率先してテーブルから立ち上がり、甘いバニラシェイクを買いに行った。
当然、自分とアスラの分だが…………
「ッ………こ、これは………」
エールはアイスクリーム屋のメニューであるものを発見してしまう………
それは普通なら注文などしないとあるバニラシェイク………
しかし、エールは恥を凌ぎ、何を血迷ったのか本能的にそれを店員に注文してしまう………
そのバニラシェイクとは…………
ー…
「………おお、これがバニラシェイクってモンか〜初めて見たな。こんなかにアイスクリームが入ってんのはなんか新鮮…………………で、なんで1つしかない上にストローが2つもついてるんだ?」
エールが注文して持って来たのは高さ20センチはありそうな巨大なバニラシェイク。2つのストローがアスラとエールの方向についており、如何にも2人で食べろと言われている。
無論。これはカップル専用のシェイクだ。実際はカップルでも注文しない代物だが、エールは恥を忍んで本能的にアスラとの距離を縮めたいがために購入して来た。
「おい聞いてるかエール!?…なんでこんなデッカイの!?…そしてなんで1個しかねぇの!?」
「黙りなさいコモン………さ、サイズがコレしかなかったのよ………」
「えぇぇぇぇ!?…この店ピーキー過ぎんだろ!?」
好意を抱いているのを隠すため、咄嗟に苦し紛れのウソをついたエール。しかし流石は田舎者のバカスラ。根も葉もないエールのウソを簡単に信じてしまっている。
「まぁ良いや。じゃあ食って見ますか……アイスクリームをストローで吸うの初めてだな」
「う、うん………そうね……」
割り切ってバニラシェイクをストローで吸い始めるアスラ。しかしこれを買ってきた当の本人であるエールは顔を赤くしてなかなか手をつけないでいる。
「おぉうめぇ!!…これがバニラシェイクってヤツか!!…うめぇぞエール!!…オマエも吸ってみろよ!!」
「はぁ!?…なんでよ!?」
「なんでってオマエが買ってきたんだろ!?」
「そ、そりゃそうだけど………」
アスラはほぼ無意識で自覚していないが、2人同時にこんなの食べたら恋人同然だ。エールは当然その事を承知の上で購入して来たが、いざ食べてみようとするとどうも気恥ずかしくなって手が進まない…………
そんなエールの様子を見て、アスラは何かに気がついたように口を開けると………
「あっ……ひょっとして食欲ねーとか!?…だったらオレ1人で食っていい!?」
「そ、それはダメよ!!…2人で食べなきゃ意味がないの!!」
「えぇ!?…なら一緒に食おうぜ」
どことなく言っていることが矛盾し始めたエール。彼女の気持ちを理解できていないアスラから見ればこれを食べたいのか食べたくないのか皆目見当がつかない。
「え、えぇ!!…食べるわよ!!…吸って見せるわよこのバカデカイバニラシェイクを!!」
「お、おぉ……そんな凄まなくても………」
決意を固め、ようやくバニラシェイクに手をつけようとするエール。顔を赤らめながらもストローに口をつけようとする………
しかし………
その直前に彼女の目に焼き付いて来たのは他でもないアスラ………
自分の反対側でバニラシェイクをストローで吸うアスラだ。
刹那
エールは思い浮かべてしまう。
アスラと自分が同時にこのバニラシェイクを吸う姿を…………
その様子は紛れもない……………
カップル…………
「ッ……!?★♪%$〒○$€%#☆!?!!!!?!」
「え?…何……この声にならない声………」
今までの自分の行いをようやく自覚してしまい、恥ずかしさで声にならない声を発してしまうエール。アスラはそんな彼女に気を使いながらも、何故かは知らないが嫌な予感がしていて…………
「な、なんで…………」
「え」
「なんで私がこんなの食べなきゃいけないのよ、このバカスラァァァー!!!」
「ブワァァァァー!!!…オマエが買って来たくせにィィィー!!?」
恥ずかしさのあまり巨大なバニラシェイクを片手でアスラの顔に投げつけるエール。アスラの顔は一瞬にしてバニラシェイクの飛沫と共に真っ白に変わった……………
いつもの事だが、もう彼には何がなんだかわからない。
「むえ〜」⬅︎うめ〜
「…………」
そんな中、空気が読めるのか読めないのか、ムエがバニラシェイクまみれになったアスラの顔をペロペロと舐め始めて来た。もはやツッコム気も失せたアスラは黙り込んでそのままそのオレンジの犬みたいな生物の奇行を放置した。
******
「おーーーい!!…悪かったから機嫌直せって、エールーーー」
「………」
「むえ〜」
あれから小一時間は経過したか、テーマパーク内を歩く2人だが、エールがムエを抱えながらアスラよりかなり前に出ている。
アスラは機嫌が悪くなったと考えているようだが、実際はただ単にエールがアスラに対して気まずくなっただけだ。無理もない。珍しくあそこまで大胆にアプローチしたのだから………
「何よあのバカスラ。人の気も知らないでのほほんとしちゃって」
「むえ〜」
「大体、何であんなチビなのよ……せめてもうちょっと背が高ければかっこ………」
「むえ〜」
「いやいや!!いやいや!!…カッコよくない!!…なんであんなバカスラの事……」
「むえ〜」
己の恋愛心と葛藤するエール。今の距離、周りの人達の声、そして所々でムエの鳴き声が挟まって来ているのもあって、アスラには彼女の声が全く聞こえなかった。
「うーーーむ……エールのヤツ、なんか悩んでるっぽいな。ここはどうにかしてご機嫌を取らねば………」
エールが悩んでいるのは理解している様子だが、やはり彼女の気持ちには全く持って気がついていないようであるバカスラ。
正直、ここまでアプローチされても彼女の気持ちに気が付かないのであれば、もはやアスラが悪い。
もう一度言う。アスラが悪い。エールは決して悪くない。彼が余りにも鈍感過ぎるのだ。
だが、こう言った甘酸っぱい経験も彼らの青春の1ページと言える……………
しかし、その時間は唐突に終わりを告げる事になる…………
「おい。そこのチビ」
「ん?」
人混みの中、男性の太い声が突然アスラを呼び止めた。それに伴ってエールも足を止める。その男性はかなり大柄だが、深々とフードを被っており、顔がはっきり見えなかった。
だが、男は直ぐにそのフードを外し、正体を公にする。
「へっへっ……ようやく会えたな。オレはオロチ……大蛇のオロチだ………!!」
「??」
「ッ……お、オロチ………って、まさか……」
その正体はオロチ。
アスラは誰なのか全く分からずキョトンとしているが、エールは違う。その声と顔を見るなり恐怖が体に刻み込まれていく………
「え!?……ウソ……オロチ!?」
「指名手配中の殺人鬼じゃねぇか!?」
「やばい……殺される………」
「うァァァーーー!!……逃げろォォォー!!!」
周囲の人々も、突如として目の前に現れたその驚異的な存在に気がつき、一目散に逃げ出して行った。そしてそれらの声は連鎖していたのか、賑わっていたテーマパークはアスラとエール、オロチを残し、一瞬にしてお通夜の如く静寂と化した………
「へっへっ……オレも有名になったもんだな」
「あぁ。有名人っぽいなアンタ……メチャクチャ悪い意味で」
アスラもオロチと呼ばれる人物がどれほど危険なのかを瞬時に察知した。溢れ出る殺気と狂気。それに伴う圧倒的な強者のオーラは、彼を脅かすにはあまりにも十分すぎる。
「アスラ。コイツ指名手配中の殺人鬼よ……なんでこんなところに」
「エックスの女、その質問に答えてやる……ライダーハンターズとして、そこのチビのライダースピリットを奪いに来たって言えばわかるか?」
「ライダーハンターズ!?」
「アンタがそれに属してるって言う事!?」
オロチがライダーハンターズの一員であると言う事に驚愕するアスラとエール。一般的には殺人鬼、大蛇のオロチは単なる指名手配中の殺人鬼と言う概念のみの存在であり、この国の者達は彼の顔こそ知っているが、その情報を知っている者はごくわずかに限られていた。
一般でこの情報を知ったのはアスラとエールがおそらく初であろう。
「ッ……テメェもオレの龍騎を奪おうってか!!……望むところだ!!…返り討ちにしてやるぜ!!」
「へっ…待ってたぜその言葉」
売られたバトルは買わずにはいられない。オロチを撃退するため、そして龍騎を守るため、当然アスラはこのバトルを受けようとするが…………
「ダメ、アスラ!!…なんか嫌な予感がする………」
「ッ………」
それをエールが止めようとする。
エール自身も何が理由なのかはわからない。単に彼が殺人鬼で怖い言う理由かもしれないが、どうしても何か引っかかる様子であり………
「大丈夫!!…オレはライダーハンターズなんかに、況してや殺人鬼なんかに負けやしない!!」
「ッ………本当?……本当に大丈夫なの!?」
「あぁ、何てったってオレは未来の頂点王だからなッ!!」
身分も最底辺な上にソウルコアが使えない奇怪な病気持ちの癖に、不思議と安心してしまうその彼の声。理由も理屈も無しに何故か心の底から信用してしまう…………
自分が止めようが止めまいが、どちらにせよアスラは前を見て突き進む。なら今は見守るしかないと彼女は判断して…………
「トゥエンティの時見たく、そこのオメガ家の女と2人がかりで挑んで来てもいいんだぜ?」
「そんな心配はいらねぇ!!…オマエはオレがぶっ倒すぜヘビヤロウ!!…でもってその身柄をテンドウさんあたりに受け渡してやる!!」
「やる気十分か。いいね〜…唆るぞ。勢いだけなら近年稀に見る上者だよオマエは」
そう話しながら、2人はBパッドを展開し、己のデッキをセットする。オロチはアスラの威勢の良さにますます興味を示しているようだ。
………ゲートオープン、界放!!
そして誰もいなくなった寂しげなテーマパークにて、エールとムエが見守る中、ソウルコアが生まれつき使えない少年アスラと、指名手配中の殺人鬼且つライダーハンターズの一員であるオロチのバトルスピリッツが幕を開ける…………
先行はアスラだ。相手が殺人鬼だろうがライダーハンターズだろうが関係ない。彼は全力で己のターンを進めていく。
[ターン01]アスラ
「メインステップ!!……ミラーワールドを配置してターンエンドだ!!」
ー【ミラーワールド】LV1
ミラーワールドが配置される。その影響で現実のこの世界が鏡像の世界へと移り変わった。
「はっは、オマエホントにソウルコアが使えないんだな」
「あぁ!!…悪いか?」
「いや別に。逆に面白い」
先行のアスラのターンはこれで終了。次は常にニタニタと不気味な笑みを浮かべているオロチのターンだ。
[ターン02]オロチ
「メインステップ……オレもネクサスだ、来い水銀海に浮かぶ工場島」
「!!」
ー【水銀海に浮かぶ工場島】LV1
オロチの背後にその名の通り水銀の海に浮かぶ工場島が出現した。それは周囲が色鮮やかで華やかなテーマパークなのもあってとても浮いている。
「ターンエンドだ」
手札:4
場:【水銀海に浮かぶ工場島】LV1
バースト:【無】
全てのコアを使い切りそのターンをエンドとしたオロチ。次は再びアスラのターンだ。お互いにネクサスでシンボルを稼いだ事もあり、このターンからバトルスピードが加速するのは目に見えていて…………
[ターン03]アスラ
「メインステップ!!…行くぜ、仮面ライダー龍騎をLV2で召喚!!」
ー【仮面ライダー龍騎】LV2(2)BP4000
アスラの場に赤きライダースピリット、第一の龍騎が現れる。そのスピリットの登場を目に移すなりオロチはまた興味が唆られるような表情をして………
「来たな赤いライダースピリット……!!」
「召喚時効果だ!!…カードを3枚オープンしてそんなかの対象カードを加える!!」
オロチの言葉は無視して龍騎の召喚時効果を使用するアスラ。2枚のカードが対象内であったため、その2枚を手札へと加えた。
しかし………
「そう簡単に手札は増やさせやしない。水銀海に浮かぶ工場島LV1の効果!!…オマエのターン中に増えた手札のカード1枚につき手札を1枚破棄させる!!」
「なにっ!?」
「これじゃ手札が増えない……」
アスラの手札が紫と白色の光に覆われる。彼が増えた枚数2枚分のカードをトラッシュへと送らなければそれは消える事はない。
手札2枚の損失は痛いが、致し方ない。アスラは6枚あるうちの2枚を破棄した。
「くっ………」
「どうした?…たかだか手札2枚捨てられただけじゃねぇか……ほら、来いよ!!」
「ッ……行け龍騎!!」
アスラを挑発するように言葉を告げるオロチ。彼はそれにあえて挑むかのように龍騎に攻撃の指示を送った。
そして当然ながら前のターンでネクサスの配置のみでコアを使い果たしたオロチにカウンターの余地は一切無くて………
「来た来た……ライフで受ける………ッ!」
〈ライフ5➡︎4〉オロチ
固められた龍騎の熱き拳がオロチのライフバリアを粉々に粉砕する。
この世界においてのバトルスピリッツはそれなりのダメージ、痛みが存在する。しかし、オロチはその痛みを受けてもそれが快感にでも変わったのではと錯覚してしまうほどに笑っていて…………
「いいね。流石ライダースピリット……ソウルコア無しのヤツが使い手でもこれ程とはな……へへ、より楽しみになって来たぜ」
「ッ………何なんだよオマエは……マジで気持ち悪いぞ!!」
「さっきも言ったろ、オレはライダーハンターズのオロチだ……それ以外の何者でもない……さぁ、まだ何かあるのか?…このオレをもっと楽しませてみろ」
バトルに対する考え方が常人のそれからかなりズレているオロチ。今までバトルを楽しむ人達とは何度か接点があったアスラだったが、オロチは異常だ。
ヘラクレスやカゲミツのような戦闘狂達には少なからず真剣さがあった。だからアスラは彼らが周囲とズレた発言をしても受け入れられるし、寧ろ好きだった。
だが彼は違う。そこに真剣さはなく、ただただ目の前の敵を痛ぶるためだけにバトルしているように思えた。そしてライダーハンターズや殺人鬼という肩書や立場がよりそれらを際立たせている。
「………ターンエンドだ」
手札:4
場:【仮面ライダー龍騎】LV2
【ミラーワールド】LV1
バースト:【無】
アスラはそんな彼を限界まで警戒しつつも、バトルを進めるべくそのターンをエンドとした。
[ターン04]オロチ
「メインステップ……水銀海に浮かぶ工場島2枚目を配置」
「なに!?」
ー【水銀海に浮かぶ工場島】LV1
オロチの背後に連なる工場島。これでアスラは己のターンでの手札増加時、増えた枚数の倍の数のカードを破棄したければいけなくなる。
もはや不用意にその手の効果は発揮できなくなったと言えよう………
「そしてバイ・パイソンをLV2で呼ぶ」
ー【バイ・パイソン〈R〉】LV2(2S)BP3000
オロチはさらに宝石のアメジストが所々体内に埋められている白蛇のスピリット、バイ・パイソンを前戦へと呼び出した。
そして彼は徐に「アタックステップ……!!」と宣言して………
「行けバイ・パイソン!!…効果により自身のソウルコアをトラッシュに置き、2枚ドロー!!」
ー【バイ・パイソン】(2S➡︎1)LV2➡︎1
バイ・パイソンが蛇らしい動きで走り出すと共に、アスラに宿ることのないソウルコアの力を発揮させる。オロチはその力で減って来た手札を潤す。
そして前のターン、龍騎でアタックしたアスラはこの攻撃をかわす手段がなくて…………
「ライフだ!!………ッ」
〈ライフ5➡︎4〉アスラ
バイ・パイソンの体当たりがアスラのライフ1つを粉々に砕く。
彼からの手痛い反撃。トゥエンティの時同様の多大なバトルダメージを彼は受ける。
「アスラ……!!」
「大丈夫だエール………まだ、まだこれからだ!!」
「あぁ、だろうな。そうでなくちゃ困る……まだまだオレを楽しませてくれ…ターンエンドだ」
手札:5
場:【バイ・パイソン】LV1
【水銀海に浮かぶ工場島】LV1
【水銀海に浮かぶ工場島】LV1
バースト:【無】
多大なバトルダメージに思わずしてよろけるアスラ。その様子に彼を心配するエール。
当然ながらあのアスラがこんな序盤で諦めるわけないのだが、その執着心がまたオロチの残虐性を高めさせているようにもエールは感じていて………
[ターン05]アスラ
「メインステップ、バーストをセットしてターンエンドだ!!」
手札:4
場:【仮面ライダー龍騎】LV2
【ミラーワールド】LV1
バースト:【有】
アスラのターンはバーストを伏せるだけにとどまる。普段なら攻撃を優先する彼の戦い方としては非常に珍しい行いだ。冷静に状況を見ているとも言えるが、無意識下では余程彼を警戒している事も窺えて………
「どうした?…バーストを伏せただけじゃ、そのバーストに何か策があるのが丸わかりだぞ」
「どうしたどうしたってうっせェェェー!!…オレにも色々考えがあんだよ!!」
「へっへ…期待してやるぜ」
これまで幾度となく強敵達に強き心でぶつかって来たアスラ。無法が常識のライダーハンターズや殺人鬼が相手だろうとそれを恐れてはいない。いや、正確には恐れてはいるが気合と根性でそれを押し殺して戦っていると言った方が適切か………その証拠にその額や頬には緊張感を象徴する汗が流れている。
兎に角ライダーハンターズに龍騎を取られるわけにはいかない。今はその考えで頭がいっぱいだった。
[ターン06]オロチ
「メインステップ……そろそろ見せてやろう……!!」
「ッ……何か来る!?」
メインステップ開始直後、オロチが自分の手札に手を掛ける。その雰囲気や表情から、アスラはかなりの強敵が降って来ると予想して………
「…コイツの声を聞きな!!…月光死龍ルナヘイズ・ストライクヴルム!!…LV2だ」
「!!」
ー【月光死龍ルナヘイズ・ストライクヴルム】LV2(2)BP100000
オロチの背後から巨大な死神の鎌を携えるドラゴンが咆哮を張り上げながら飛び出して来た。
その名はルナヘイズ。この世界においての強力な力を持つ三大スピリットではないが、それでも十分な実力を保有するレアカードのドラゴンだ。
「さらにバーストを伏せ、アタックステップ……飛べルナヘイズ!!」
その目にアスラを映し、鎌を構えて飛び出したルナヘイズ。そしてこの瞬間にもその強力無慈悲な効果が発揮されて………
「ルナヘイズの効果!!…手札1枚を裏向きで手元に置く事で、コイツのBP以下のスピリット1体をデッキの下に戻す」
「!!」
「消え去れ龍騎!!」
「消えん!!……第一の龍騎は効果によって手札とデッキに戻らねぇ!!」
「!!」
武器である鎌に死煙を纏わせ龍騎に斬りかかるルナヘイズだったが、龍騎はその一撃を両手を用い、見事な早技で押さえ込んだ。
「どうだ!!」
「なかなかやるな!!…だがアタックそのものはどうする!?…その雑魚じゃ当たり負けするぞ!!」
「!!」
ルナヘイズの鎌を受け止めたまでは良かったが、その後ルナヘイズは「邪魔だ」と言わんばかりに力任せに鎌を振って龍騎を吹き飛ばして見せる。
全てはその眼前に映し出されているアスラのライフを斬り裂くためだ。そして龍騎を失うわけにもいかないため、アスラはこの攻撃を自分で受け止めるしかなくて………
「ライフだ!!………ぐっ!」
〈ライフ4➡︎3〉アスラ
振り下ろされた鎌がアスラを襲う。そのライフ1つは紙のように斬り裂かれた。
またしても多大なバトルダメージがアスラに与えられるが、彼もやられっぱなしではない。伏せていたバーストカードに目を向けると………
「ライフ減少後のバースト、アドベントドロー!!」
「!!」
「効果でBP7000以下のバイ・パイソンを破壊!!…でもってコストを払って2枚ドローだ!!」
アスラのバーストが反転すると共に、オロチの場で休んでいたバイ・パイソンが真っ赤な炎で焼却される。
しかもそれだけではない。アスラはデッキから2枚のカードをドローするが、この際にオロチのネクサスである水銀海に浮かぶ工場島の効果は発揮されなくて…………
「上手い!!…敵のターンで手札を増やせば、水銀に浮かぶ工場島の手札を捨てる効果は発揮されない!!……アイツ、色々考えるようになって来てるじゃない!!」
エールがアスラに向けて関心の意味を含んだ言葉を漏らした。
そう。
このカウンターを狙ってアスラはアドベントドローをメインステップで使わずにバーストとして伏せたのだ。事実効果は的面。オロチはこれ以上の攻撃手段を失う。
「なるほど。伊達に3人もカラーリーダーを倒しちゃいないか。ターンエンドだ」
手札:4
場:【月光死龍ルナヘイズ・ストライクヴルム】LV2
【水銀海に浮かぶ工場島】LV1
【水銀海に浮かぶ工場島】LV1
バースト:【有】
未だに余裕の表情を浮かべてはいるが、少なくともこのターンでは何もできなくなってしまったオロチはそのターンをエンドとした。
次はアスラのターン、一気加勢に攻めるべくターンシークエンスを進めるその前に、彼はオロチにある質問を投げつけて…………
「おいヘビヤロウ……アンタも何かあのちょび髭シルクハットに叶えて欲しい事でもあるのか?」
「あぁ?…ちょび髭シルクハット………あぁ、主任の事か」
「トゥエンティもイバラも、方向性はチゲェけど自分の叶えたい願いがあった。アンタは何なんだよ?」
どうしてもこれが聞きたかった。
アスラはまだオロチの全貌を知らない。ひょっとしたらトゥエンティみたいにやむを得ない理由でもあるのかと考えてもいた。別に本当にそんなものがあっても負けてやるつもりはないが、
どうしてもオロチと言う人間を理解したかった。
しかし………
「ねぇよ」
「!!」
オロチは即答でアスラからの質問に返答した。
「オレはただ強い奴らと戦えれば良い。あそこにはトゥエンティ、主任もいる。殺しがいのある奴らがいる上、向こうから強い奴と戦えと依頼して来る。こんなに楽しい団体は他にねぇ、まぁ、強いて言うなら「このまま戦いを続けたい」……か」
「ッ……そんなに戦いたければカラーリーダーにでもなればいいじゃんか!!」
「カラーリーダーになったらそいつらを殺せなくなる」
「殺すって……どう言う事だよ!?」
「聞いたろ。オレは殺人鬼だ。バトルで負かした相手を殺し、そのカードを奪う。それがモットーだ……顔は忘れたが、このルナヘイズもその戦利品だ」
全く持って会話にならない。
ライダーハンターズにまともな人間はトゥエンティくらいしかいないのか………そう言った感想を抱くアスラ。
オロチにとって、戦いは、バトルは快楽に等しい。だからこそ本気で戦って殺したいのだ。その考えが常人に理解できる事はまず有り得ない。
「あ、アスラが………殺される……!?」
オロチの心情やこれまでの行いを知ったエールはアスラが彼に殺されてしまうのではないかと考えてしまう。当然だ。今では大事な存在になった彼を失いたいわけがない………
「安心しろエール……オレはこんなイカレヤロウに殺されたりしねぇ!!…意地でも勝って頂点王になってやる!!」
「!!」
そんな彼女の恐れを吹き飛ばすかのように声を張るアスラ。
そしてその声色には僅かながらに怒りも感じられる。しかしそれは今まで何人かが彼の理不尽な殺害で命を失ったと考えれば、正義感の強い彼からしたら当然の感情であると言える。
「へっへっ…そうかよ。だったらさっさとかかって来な。全力でオレにぶつかって来い」
「上等だッッ!!…ぶっ倒してやるッッ!!」
彼を倒したいその一心で、アスラの逆襲のターンが始まる。
[ターン07]アスラ
「メインステップッ!!…先ずはゴラドンを召喚!!」
ー【ゴラドン〈R〉】LV1(1)BP2000
小さな怪獣のようなスピリット、ゴラドンがアスラの場に召喚される。
そして、十分な軽減シンボルが揃った事で、アスラは手札にある最強のカードを引き抜いて………
「召喚!!…仮面ライダー龍騎サバイブ!!」
「!!」
アスラの場に新たな龍騎が現れる。
その龍騎はベルトにあるカードデッキからカードを引き抜くと、瞬間に烈火の如く炎が燃え上がり、その中で龍を模した銃器にカードを装填………
………サバイブ!!
ー【仮面ライダー龍騎サバイブ】LV2(2)BP11000
龍騎はさらなる強化形態、仮面ライダー龍騎サバイブとなり、アスラの目の前に現れた。
「いいな強化形態。唆るな」
「コイツで……オマエに勝つ!!」
アスラは続け様に「アタックステップッ!!」と強く宣言すると、Bパッド上にある切札である龍騎サバイブのカードに手をかける………
「行け龍騎サバイブ!!…効果によりBP15000以下のスピリットを破壊!!」
「!!」
「ルナヘイズ・ストライクヴルムをぶっ飛ばせェェェー!!!」
龍騎サバイブの武器である龍を模した銃器から烈火の弾丸がルナヘイズへ向けて発射される。ルナヘイズは咄嗟に鎌を盾代わりとして構えるが、それも虚しく、あっさり鎌ごと焼き尽くされてしまった。
「さらに赤のシンボルを1つ追加!!…ダブルシンボルになる!!」
「ほぉ、やるじゃねぇか」
「龍騎サバイブはライダースピリットのバトル終了時、そのシンボルの数だけ追加でライフを破壊する!!…この一撃で終わりだ!!」
龍騎サバイブの赤属性の特徴をこれでもかと詰め込んだ超攻撃的な効果がオロチに迫る。
今回のアスラは彼ながらに完璧な戦術だった。これまでの失敗や敗北からの経験を活かし、龍騎サバイブの超攻撃的な効果を最大限発揮させるためにオロチのライフを4に調整。オマケに防御にも手を回した………
完璧だった………
しかし…………
オロチはそれだけで倒せる男ではなくて…………
「フラッシュマジック、ネクロブライト!!」
「なに!?」
「この効果でトラッシュからバイ・パイソンを蘇生させる!!」
ー【バイ・パイソン】LV1(1)BP2000
咄嗟に引き抜かれたオロチのマジックカード。
その力により、紫の輝きと共にバイ・パイソンが場へと復活を果たす。呼び出された理由はただ1つ…………
壁だ。
「オレを守れ」
主人の声を聞くなり、バイ・パイソンが龍騎サバイブに向かって飛びつくが、BPの差は歴然。龍騎サバイブの空いている拳に殴り飛ばされて呆気なく爆発してしまう。
しかし、その役割は果たした………
「くっ……効果で龍騎サバイブのシンボル分、2点のダメージを与える!!」
「!!」
「メテオバレットッッ!!」
龍騎サバイブはベルトからカードを引き抜き、それを武器である銃器に装填…………
………シュートベント!!
その音声と共に赤き武装龍が龍騎サバイブの背後に現れ、龍騎サバイブの銃撃と、その武装龍の豪快な火炎放射がオロチのライフまで届いて…………
「ッ………!!」
〈ライフ4➡︎2〉オロチ
壁など物ともしない龍騎サバイブの破壊力。オロチのライフを遂に半数以下まで追い込む事に成功した。
「よし!!…予定はちょっと狂っちまったけど、龍騎とゴラドンのアタックで…………」
勝てる………
アスラがそう確信し、言い切る前に………
オロチの伏せていたバーストカードが勢いよく反転した………
「ライフ減少により、バースト発動……!!」
「!?」
オロチは決してライフを守りたいがためにバイ・パイソンを蘇生させたわけではない。その真の狙いはライフを中途半端に破壊させる事だ。
「来いよ……仮面ライダー王蛇!!」
「!!」
ー【仮面ライダー王蛇】LV2(3S)BP8000
アスラとそのスピリット達の眼前に一瞬にして現れたのはライダースピリットの1種………邪悪な鎧をその身に纏う仮面ライダー王蛇だ………
その禍々しさはアスラ達が見てきたどのスピリットよりも凄まじく、その存在を目に映しているだけで重圧がのし掛かり、身体が重たく感じてしまう程だ。
「オマエも、ライダースピリットの使い手だったのか……!?」
「あぁ。どうだ?…立派なもんだろ」
ライダースピリットの使い手はこの世界においては一握りしか存在しない。まさかこの男が………よりにもよって殺人鬼であるこの男が選ばれていたことなど、アスラにとっては想像もしていない事であって………
「大蛇の召喚時効果!!…疲労しているスピリットを殺す!!」
「!!」
「龍騎サバイブを破壊する!!」
邪悪なライダースピリット、大蛇の召喚時効果が発揮される。その眼光が紫色に輝くと、紫炎がアスラの龍騎サバイブを襲い、それを塵になるまで焼き尽くした。
「そんな……龍騎サバイブが一撃で………」
そう言葉を漏らしたのはアスラではなくエールだった。このバトルでのアスラの敗北を誰よりも恐れているからこその言葉である。
しかし、まだまだ大蛇の効果は終わらなくて………
「そしてこの効果で破壊したスピリットのLVの数だけ、ソウルコア以外のコアをボイドに置く」
「龍騎サバイブのLVは2………」
「あぁ、そしてオマエはソウルコアが無い。デメリットも関係ねぇな!!」
アスラのBパッド上にあるコアが2つ破壊される。ボイドに送るコア除去効果はトラッシュやリザーブに送られるコア除去とは訳が違う。これにより、アスラの使用できるコア数は一気に削減された………
「どうした?…頂点王になるんじゃなかったのか??…反撃して来いよ」
「ッ………ターン……エンドだ」
手札:5
場:【仮面ライダー龍騎】LV2
【ゴラドン〈R〉】LV1
【ミラーワールド】LV1
バースト:【無】
「んだよ。つまらねぇな……所詮はソウルコア無しか……」
このターンでは決めきれない事を考えると、次のターンでの防御を優先したアスラ。だが、オロチはその判断を良しとはせず、アスラに対する興味が一気に失せてしまったかのような発言をする………
「興醒めだクソチビ。オマエはこのオレのターンで殺す」
「!?」
この国のライダースピリットの三王、テンドウ・ヒロミがいつも自分に行って来るような「殺す」ではない。
オロチは本気だ。本気でアスラを殺害する気で襲いかかって来る………
[ターン08]オロチ
「メインステップ……先ずはミラーワールドを配置」
ー【ミラーワールド】LV1
「なに!?…ミラーワールド!?……オレとロン以外にも使えるヤツがいたのか!?」
「当然だ!!…オマエらのライダースピリットとオレのライダースピリット、王蛇は同型だからな!!」
「!?」
配置される2枚目のミラーワールド。それに発覚する王蛇が龍騎と同じタイプのライダースピリットであると言う事実。アスラは少なからずショックを受ける。
無理もない。何せ、自分が今まで相棒と称してきたライダースピリットが殺人鬼を選んだライダースピリットと同型なのだから…………
だが………
まだまだこんな物ではなかった…………
「へっへ、おいエックスの女。よく見とけよ」
「!?」
オロチはニタニタと不気味に笑いながらエールに視線を向けると、そのカードをBパッド上に叩きつける………
そのスピリットカードとは………
メタルガルルモンを召喚!!
ー【メタルガルルモン】LV2(3)BP14000
オロチの場に現れたのは………
薄水色の機械のボディでできた神獣にして、究極体のデジタルスピリット………
知らぬ者からみたらそれは単なるちょっと特別なスピリットカードにしか見えないだろう…………
実際アスラは分からなかった…………
だが、エールは違った…………
「ウソ………なんで!?!……なんでアンタがそれを持ってるのよ!?」
「へへっ……!」
「エール?」
その究極体を見るなり困惑してしまうエール。鬼気迫る勢いでオロチを問い詰める。アスラは彼女が一体なにをそこまで困惑しているのかと疑問を抱いてしまう。
だがその理由は直ぐにわかる………
「それは……それは私達オメガ家のカードじゃない!!」
「!?」
「あぁ。そうだな。オメガ家にしか使えない特別なデジタルスピリット、オメガのカード……その片割れだ」
「え……ちょ、ちょっとどういう事だよエール!?」
エールの言葉に、今度はアスラが焦り、困惑する。エールは一度心を軽く落ち着かせてから彼に説明して…………
「………本来……オメガのカードは2種類あるの……1つは私の持ってるウォーグレイモンを主軸とした赤のオメガ。そしてもう片方は目の前のメタルガルルモンが切札の紫のオメガ……」
「!?……アイツ、なんでそんなカード持ってんだ!?」
「こっちが聞きたいわよ!!…紫のオメガはお母様が死んでから紛失した。なのになんでアンタみたいなヤツが………」
赤と紫のオメガ。その内の紫のオメガはエールの母であり、尚且つデジタルスピリットの三王でもあったエレナ・オメガが赤のオメガと共に所有していたのだが、彼女が亡くなってからは何故か紫のオメガは紛失してしまい、10年間それっきりだった。
それが今になって自分の目の前に現れているのだ。エールが混乱してしまうのも無理はない………
だが、そのカラクリは非常に簡潔且つ単純明快なものであった………
オロチはまた不気味に笑いながら衝撃的な真実を2人の目の前で口にする……………
そりゃそうだろ。オマエの母親はオレがこの手で殺したんだからな
「は?」
一瞬だけ唖然としてしまう2人だったが、やがてそれはすぐさま怒りに変わる。
「どう言う事よ!?…お母様は転落事故で……そう、事故で死んだのよ!!……アンタなんかに殺される訳………」
「いいや、殺された。オマエはあの三王の兄貴に嘘を教えられているみたいだが、コイツはその時の戦利品だ。本当は赤のオメガも欲しかったが、逃げられちまってな」
「ウソだ………ウソだァァァァァァーー!!!」
10年越しに明かされる衝撃的な真実…………
この国のデジタルスピリットの三王エレナ・オメガは殺人鬼オロチに殺害され、紫のオメガを強奪されていた………
エールは母の死を事故だと言い聞かされていた。しかし、それはまだ彼女が幼すぎた故に真実が教えられていなかっただけ。本当はこの通り、残虐極まりない酷い事件だった…………
まさにオロチは母親の仇とも言える存在であったのだ。
「エール………」
エールの悲痛な叫びがアスラの胸に突き刺さる。本当の母親が殺されていたと言う気持ちは、肉親のいない彼には完全に理解できるものではないが、怒りと憎しみが込み上げて来るのを感じて…………
「テメェェ!!…ヘビヤロォォォー!!」
「粋がるな弱者!!…言ったろ、オマエはこのターンで殺す!!」
「ッ……アスラ!!」
込み上げてくる怒りを今直ぐにでもオロチにぶつけたいアスラだが、今はオロチのターン。どう足掻いても何もできないのがは凄まじく腹立たしくて…………
「アタックステップ、メタルガルルモンで攻撃!!…その効果で龍騎とゴラドンからコア1つずつをトラッシュに送り、回復!!」
「なに!?」
ー【メタルガルルモン】(疲労➡︎回復)
オロチの指示を聞くなり、メタルガルルモンは体中にあるミサイルを全弾発射させる。それに狙われたゴラドンと龍騎はなす術なくそれに直撃。龍騎は辛うじて生き残るが、ゴラドンは耐えられず消滅してしまった。
「ハッハッハーー!!!…アタックは継続だ!!」
「ッ……ライフで受ける…………ぐっ、ぐぁぁあ!?!」
「アスラ!?!」
〈ライフ3➡︎2〉アスラ
オロチの影響か、狂気に狂わされたかのような勢いでアスラのライフ1つを噛み砕くメタルガルルモン。バイ・パイソンやルナヘイズの非にならない程のバトルダメージが彼を襲った、思わず膝をついてしまう………
直ぐにでも立ち上がらないといけないのは分かってはいるが、無意識の恐怖と信じられない程に高いバトルダメージでどうしても立ち上がれなくて………
「まだだ………まだオレは諦めねぇ……!!」
しかし心はまだ負けてはいない。アスラは掠れかけた声を必死に張り上げながらオロチに啖呵を切った。
しかし、今までその諦めない心と気合いとど根性で強敵を退け、又は突破してきたアスラだが………
今回ばかりは、それだけではどうしても届かなくて…………
「オレがコイツをあの三王から奪ったって事はどう言う事だかわかるよな??」
「……!?」
「オレは三王を超えてるんだよ!!……ソウルコアが使えないオマエ如きがオレに敵うわけないんだよ!!」
「!!」
オロチは高らかに笑いながらそう言うと、「王蛇でアタック……!!」と、強気に宣言して…………
「王蛇のアタック時効果。龍騎のコアをリザーブに置き、消滅させる」
「っ!!」
王蛇がソードベントのカードを杖の形をした武器のバイザー部分に装填すると、ドリルのような形をした剣がその手に握られる。そして徐に首を回しながら龍騎に迫っていき、それを腹部に突き刺す。
龍騎は堪らず消滅してしまった………
「龍騎!?」
「スピリットの死を嘆いている場合じゃないぞ。今度はオマエの番だ。フラッシュマジック、ファイナルベント!!」
「!!」
「効果は当然わかるよな?……これにより、アタックしている王蛇に赤のシンボルを1つ追加………ダブルシンボルになる」
王蛇はファイナルベントのカードをベルトから引き抜くと、それを再び杖のバイザー部分に装填………
………ファイナルベント!!
と言う音声と共に紫色に包まれた巨大な大蛇が地を這いながら王蛇の背後に現れる。その後王蛇は謎めいた浮力で飛び上がると、大蛇が勢いよく吐きつけた毒液で勢いをつけ、アスラ目掛けて発進した………
アスラの残りライフは2つ………
そしてもう………
彼にこれを防ぐ手立ては残っていなくて…………
「ぐっ………ぐぁぁぁぁあ!?!」
〈ライフ2➡︎0〉アスラ
ピー……
王蛇の勢いをつけた連続蹴りがアスラのライフを1つ残らず破壊した。アスラはBパッドの「ピー」という敗北音声と共に、余の爆風により吹き飛ばされ、蓄積されたダメージに耐えられず、その場で転がり込んでしまう………
「ぐっ………」
「アスラ………そんな………!?」
エールの恐れていた事が真実になろうとしていた。アスラはオロチに敗北し、オロチに殺害されてしまうと言うものだ。
「はっは……興味はないが、一応仕事なんでな。このカードはもらっていくぜ」
「………龍騎……」
オロチは王蛇のソードベントの剣を手にしながらアスラのBパッドまで近づくと、彼の命よりも大事なカードである仮面ライダー龍騎のカードが奪い取られてしまった。
「コイツが無ければオマエはもう頂点王になるのは無理だな………はっはっ…それどころかそこらへんのバトラーにも勝てなくなったか!!」
「か、関係ねぇよ……ハァッ、ハァッ……オレは諦めねぇ。頂点王になる!!……それがシイナとの約束だ!!」
敗北しても尚、龍騎を奪われても尚………
アスラは夢を諦めなかった。身体は弱り切っていても心だけで強い覇気をオロチに向けて放って見せる。
「そうか………死ね」
しかし、オロチはそのアスラの覇気に怯む事はなく、王蛇のソードベントの剣の切っ先をアスラはと向ける………
無論、殺害するためだ。
そしてその剣が振り下ろされる直前…………アスラは不本意ながら死を覚悟してしまうが………
「やめてェェェー!!!」
ー!!
刹那。エールの叫びが木霊し、オロチはその手を反射的に止める。
「お願いやめて。アンタの欲しがってた赤のオメガは私の手の中にある…………これをあげるから………許して………!!」
「何言ってんだエール……!?」
自分のデッキをオロチに突きつけるエール。命よりも大事な母親の形見であるデッキを譲ると言うのだ。かなりの覚悟が見受けられる………
オロチはそんなエールの言葉を聞くなり、またしてもニタニタと不適に笑いながらソードベントの剣を投げ捨てると………
「はっはっ……いいぜ。ついて来い」
オロチはそう言いながら己のBパッドの機能を使い、ワームホールを形成、エールに自分の後をついてくるように催促する。
エールは黙ってそれに従うように、そこへと足を進めるが………
「待てよエール………どこ行く気だ……!!」
「!!」
倒れたアスラがエールを止めるべく、声を振り絞った。
行かせてたまるか。仮にも殺人鬼と一緒にどっか行くんだぞ。怖くないわけないだろ…………
「お別れね。さよならよ」
「!?」
「清々するわ。コモンのドブネズミと一緒に行動しなくてもよくなるもの……頂点王なんて叶いもしない夢なんて見るのはやめて、さっさと故郷の貧相な村にでも帰れば?」
「何、言ってんだ……!!」
しかし、エールは初めてアスラと出会った時みたいな冷ややかな態度を向ける。
ウソなのはわかる。一目瞭然だ。自分を護るために犠牲になろうとしているのはわかっている。だけどそんな事見過ごせるわけがない…………
「私はこの国で最も身分が高いエックスよ?……薄汚いコモンのアンタと今まで一緒に居てやっただけでも感謝なさい」
「仲間だろうが!!」
「アンタみたい喧しいヤツを仲間だなんて思った事ないわよ………いいから早く失せなさいって………」
「おい行くぞエックスの女。早くここを潜れ」
「わかったわ」
「おいエール!!」
オロチに言われるがまま、エールはオロチの元まで赴き、出現しているワームホールを潜ろうとする…………
だが…………
「待てエール………行くな………行くなァァァー!!!」
「………じゃあね………アンタとの時間はそれなりに楽しかったわ………!!」
アスラの怒号が混ざった悲痛な叫びも虚しく、最後は本当の事を口にしながら、エールは片目から一粒の涙を流し、オロチと共にこの場を去っていった…………
龍騎も仲間も奪われ、ただ1人無人のテーマパークに取り残されたアスラは蓄積されたダメージにより気を失ってしまう………そしてその後直ぐに彼らの唐突な別れを悲しむかのような大粒の雨がポツポツと降り始めた…………