バトルスピリッツ コラボストーリーズ   作:バナナ 

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25コア「飛べガンダム、エールを救出せよ」

「どこだ…………ここ?」

 

 

薄れている意識の中、アスラは気がつけば一寸先どころか百寸先まで闇だと錯覚してしまう程のドス黒い空間の中にいた。だが、どこかひんやりしていて気持ち良い。

 

 

「おい。何奪われてんだ……」

「?」

「ぐずぐずするなよ、さっさと赤き龍を取り返して来い………アレが無ければ困るだろう、お互いにな」

「オマエ……誰だ?……どこにいんだ?」

 

 

闇の中から図太い声が聞こえて来た。実はこの声は一度ユキカイ町でも耳にしているが、アスラの記憶からはすっぽりと抜け落ちているのか、彼は覚えていなかった。

 

いや、どちらかと言えば忘れさせられたと言うべきか………

 

 

「赤き龍………龍騎………そうか、獲られたんだ」

「ゼゼゼ……二度と負けんなよ、特にあのイカれたヘビヤロウにはな」

「………ヘビ………!!」

 

 

図太い声の主の言葉からオロチの顔がアスラの頭の中で想起させられる。その途端、アスラは思い出した。

 

奪われたのは龍騎だけじゃない。もっと大事なモノも奪われたと言うことを…………

 

そう思うと薄れていた意識が徐々にハッキリとして来て…………

 

 

 

「………そうだ、あのヘビヤロウに………奪われた………大事なモノ…………龍騎なんかよりももっと大事な………」

 

 

二度と負けてたまるか!!

 

エールは必ず助ける!!

 

オレは頂点王になる男だ!!

 

 

「ゼゼゼ……期待しておこう………まぁ、死なねー程度に頑張んな」

「!!」

 

 

オロチにリベンジを果たし、必ずエールを救い出すと誓うアスラ………

 

その刹那、闇が晴れ、大いなる光が彼の体を覆い尽くして……………

 

 

 

 

******

 

 

「ッ!!」

 

 

反射的に起き上がるアスラ。場所はベッドの上だ。悪い夢でも観ていたのか、寝汗がべっとりしていて酷い。と言うか上半身が包帯でぐるぐる巻きにされていて変な感じがする。

 

 

「………オレ、夢の中で何かと話してたような………??」

 

 

又しても見ていた悪夢を思い出せないアスラ。しかしオロチにリベンジしてエールを救い出すと言う誓うはハッキリと覚えている。

 

そして彼が今のこの現状を把握しようとした直後だ。見知った声が聞こえて来たのは…………

 

 

「よぉ小僧。起きて早々、案外元気そうじゃねぇか」

「ッ!!……テンドウさん!?………なんでここに………ってかここどこですかァァァー!?」

「あぁ?…ライライ町の病院に決まってんだろ?…このオレンジ犬がオマエの場所教えに来たんだよ。そんでわざわざオマエをここまで運んでやったんだ。感謝しろよ小僧。じゃなきゃ殺す」

「えぇぇぇぇ!?…でもありがとうございまァァァーす!!」

「むえ〜」

 

 

すぐ横にいたのは他でもない、この国のライダースピリットの三王、テンドウ・ヒロミだ。その肩の上にはオレンジ色のもふもふ、ムエも確認できる。

 

だが、そこにいたのはテンドウだけではなくて………

 

 

「ようやく起きたかコモンのドブネズミ、待ちわびたぞ」

「えぇ!?…エールの兄ちゃんまで!?」

「さぁ、早く我が妹、エールの居場所を吐け。さもなくばこの場で八つ裂きの刑にしてくれる」

 

 

さらにモビルスピリットの三王、エレン・オメガまでいた。この病室は2人の三王が腰を置く凄い状況だった。常人なら2人の放つ強者のオーラだけで意識が途絶えそうだが、場慣れしているアスラは驚愕しつつも案外平然としていた。

 

そして、今はそんな事よりもエールだ………

 

アスラは苦々しく表情を見せながらもエレンの質問に答える………

 

 

「エールは………オレを庇ってオロチとか言うライダーハンターズのヘビヤロウと一緒にどっか行っちまった………場所はわかんねぇ………」

「ッ……オロチと共に姿を晦ましただとぉ!?…奴は殺人鬼だ。ふざけるなよ貴様!!」

「まぁまぁ、ツンデレお兄様。そんくらいは初めから何となく予想できてたろ」

「誰がツンデレだ!!」

 

 

怒りに我を忘れ、アスラの胸ぐらを掴んで殴りかかろうとするエレン。しかしそれをテンドウが制止させる。

 

エレンはエールやアスラと違い、オロチが10年前にオメガ兄妹の母親で、三王の1人でもあったエレナ・オメガを殺害した事を最初から知っている。それ故にエールとオロチの接触を遠ざけていた。

 

しかしその均衡は遂に破られ、今のこの最悪な状況がある。

 

 

「よし。じゃあ怒り狂うツンデレお兄様のために良いものを見せよう」

「?」

 

 

テンドウがそう言いながら自分のBパッドをエレンに見せつけた。その画面には位置情報の詳細が表示される、所謂マップの画面だったのだが…………

 

 

「何だこれは?」

「何って、可愛い妹様の位置情報だよ」

「!?」

「昔、アイツがどこにいてもわかるようにBパッドにGPS付けろって頂点王がうるさくてな。そんでオレとあの呑気な頂点王のBパッドはエールの場所がわかるのよ」

 

 

なんとエールの位置情報だった。エレンとしては喉から手が出る程に欲しい情報だったが…………

 

 

「貴様、何で早くそれを見せない!!」

「何で最初からそれ見せなかったんすかァァァー!!」

 

 

ほぼ同じタイミングでツッコミを入れるアスラとエレン。彼らとしては珍しく意見が一致した。

 

 

「ハッハッハ!!…悪りぃ悪りぃ、今のさっきまでシンプルに忘れてたわ!!」

「笑うとこ!?」

「……まぁ良いだろう。これでエールの場所がわかる……借りるぞ」

 

 

エレンはそう言いながらテンドウのBパッドを手に取ると、もう要はないと言わんばかりに病室を出ようとする。

 

 

「ちょっと待ってくれ!!…オレにも行かせてください!!………ッ!」

「貴様では足手まといだ……ベッドの上で這いつくばっていろ」

 

 

エレンについて行こうと飛び出そうとするアスラだったが、さっきのバトルダメージがまだ残っているのか、痛みが体中に迸った。

 

 

「おいおい小僧。オマエはダメだろー。仕方ねぇオレはコイツがどっか行かねーように監視しとくから、ツンデレお兄様はGPS辿ってエールを探しな」

「来ないつもりか?……テンドウ、ヤツは母上を殺した男だ。オマエも少なからず恨みはあるだろ?」

「恨みを晴らすならオメガ家のお偉いさんに限られるだろうよ。オレは面倒くせー。いいからとっとと言って来い」

「………腰抜けめ」

 

 

エレンはテンドウに悪態を吐きながら病室を後にした。いや、おそらく帰ってくる事はないだろう。

 

 

「……てか、エールの兄ちゃんってあんなエールの事大事に思ってたんですか?」

「あぁ、だから言ってるだろ?…ツンデレお兄様ってな」

「むえ〜」

 

 

エレンが病室を出たのを目に移すなり、アスラがそうテンドウに聞いた。

 

今回のやり取りをきっかけに、アスラはエレンのエールに対する本当の想いを知る事になった。少なくとも今までの彼の悪い印象は若干だが拭われた事だろう。

 

 

******

 

 

 

「まさかあの殺人鬼がライダーハンターズとはな………」

 

 

ライライ町近辺の森の中。エレンはテンドウのBパッドに表示されているマップを頼りに走っていた。全てはオロチに攫われたエールを救い出すため、

 

そして………

 

 

「ヤツは母上の仇だ。この手で必ず倒す」

 

 

心の中で憎しみをスパイスに燃え上がる怒り。

 

オロチが憎くてしょうがない。しかしそれは無理もない事、何せ、10年前、実の母親に手をかけたどころか今度は妹まで連れ去ったのだから………

 

 

「着いた………この辺りか………」

 

 

テンドウのBパッドが指し示す場所へとたどり着いたエレン。だが、そこには森の木々、人通りの悪い並木道があるだけで、それ以外は自分以外何も存在していなかった…………

 

 

「オロチィィィー!!!……そこにいるのはわかっている!!…大人しく余と共に投降しろ!!」

 

 

怒号の混ざったエレンの叫び。その叫びに怯えるように木々に止まっていた小鳥の群れが翼音を立てながら飛び立っていく。

 

そして出て来たのはそれだけではなかった………

 

 

「もーー…うるさいわね〜……でも良いわ。許し上げる……イケメンだから♡」

「!?」

 

 

叫びに反応するかのように姿を見せたのは、エールでもなければましてやオロチでもない。長い髪を靡かせる絶世の美女とも呼べる人物。

 

 

「私はイバラ……ライダーハンターズのイバラよ…お探し物はこれでしょ?」

「ッ……エールのBパッド!!……貴様らエールに何をした!!」

 

 

エールのBパッドをエレンに見せつけるように投げ捨てるイバラ。この時点でエレンは察した。オロチがエールのBパッドのGPSに気が付いた事、そして目の前のこの女が身代わりとなってエールのBパッドを持ち出した事を………

 

 

「別にまだ何もしてないわよーーー…私はオロチに頼まれて囮役になっただけだし〜……あっ、でもオロチの事だから保証はできないんだけどねん」

「本当の場所はどこだ?……早く教えた方が身のためだぞ」

「うっふふ、三王様は本当に妹さんが好きなのね〜……でもわかる。可愛いよねエールちゃん!!」

「貴様とはまともな会話ができんようだな。ならば力づくで吐かせてやるまでだ」

「あらあら光栄〜…あの三王にバトル振られるなんて」

 

 

エレンがそう言いながらBパッドを展開すると、イバラもそう反応しながら自分のBパッドを展開した。賭けるモノはエールの居場所という情報。

 

2人はBパッドにデッキをセットし、バトルの準備を行うとすぐさま………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

コールと共にバトルスピリッツを開始した。

 

先行はイバラだ。

 

 

[ターン01]イバラ

 

 

「メインステップ、湖に咲く薔薇をポンっと配置してエンドよ〜」

 

 

ー【湖に咲く薔薇】LV1

 

 

バトル開始直後、イバラの背後に不気味な雰囲気を醸し出す巨大な薔薇が姿を見せる。

 

アスラとエールならわかる事だが、これがあるだけでイバラのデッキはより円滑にコアブーストが行えるようになる。当然、イバラはそれを狙っているのだが…………

 

 

[ターン02]エレン

 

 

「メインステップ……ストライクガンダムを召喚!!」

 

 

ー【ストライクガンダム】LV1

 

 

そんな彼女のターン終了直後にエレンが呼び出したのは一体の機械兵、世界三大スピリットの一角でもあるモビルスピリットのストライクガンダムだ。

 

 

「これがストライクガンダムね〜…想像よりも小ちゃいのねん」

 

 

ストライクガンダムに感想を残すイバラだが、会話もしたくないエレンはそのまま「アタックステップ……」と、静かに、それでいて迫力のある宣言をすると………

 

 

「行けストライクガンダム!!…効果でコアを追加!!」

 

 

戦闘態勢に入ったのか、その鉄の瞳から強い眼光を放つストライクガンダム。コアが追加され、LV2へと上昇する。

 

そしてその直後、エレンは手札からあるカードを引き抜いて………

 

 

「このタイミングで、手札にあるソードストライクの【換装:ストライカーパック】を発揮!!」

「!!」

「ストライクをソードストライクの姿へと昇華!!……現れ出でよ!!」

 

 

ー【ソードストライクガンダム】LV2(2)BP7000

 

 

自身の身の丈ほどはある巨大なビームサーベルを装備するストライクガンダム。その名称も変化し、その風貌に相応しいソードの名を冠するようになる。

 

 

「さらにソードストライクの効果、1コストを支払う事でネクサス1つを斬り裂く!!」

「っ!?」

「ソードストライクのコアから支払い、湖に咲く薔薇を対象に取る!!…やれ!!」

 

 

天空にビームサーベルを掲げるソードストライク。そのままイバラの背後に聳える巨大な薔薇へと振り下ろし、それを一刀両断にして見せた………

 

 

「そのネクサスの効果は知らんが、先手必勝だ。先に断ち切らせてもらった」

「あらあら〜……抜け目がないのねん。流石三王」

 

 

エレンにとって、イバラのネクサスは全てが未知数だった。

 

しかし、そんな破壊時効果があるかもしれない初見のネクサスカードを何の躊躇もなく颯爽と破壊したのは三王としての長年の感と直感が冴えているとしか考えられなくて………

 

 

「【換装:ストライカーパック】の効果で呼び出されたソードストライクは回復している……つまり二度の攻撃が可能だ!!」

「ッ……まぁ良いわ。全部ライフで受けましょ!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉イバラ

 

 

アタック中のスピリットと回復状態で入れ替えられたソードストライクガンダムはこのターン二度のアタックが可能だった。エレンはそのアタック権利を全て浪費させ、イバラのライフを極限まで減らしに掛かる。

 

ソードストライクはその巨大なビームサーベルを二度振い、そのライフを1つずつ斬り裂いて見せた。

 

 

「ターンエンドだ……ライダーハンターズの女、時間が惜しい、早くターンを進めろ」

手札:4

場:【ソードストライクガンダム】LV1

バースト:【無】

 

 

「うっふふ、面白いわ〜……本当にエールちゃんの事しか頭にないのね〜……ま、あの子可愛いから気持ちはわかるけど♡」

 

 

僅か2ターン目で三王たる者の実力をイバラに見せつけるエレン。その頭の中はエールを助け出す事しか頭にない。しかし、イバラはそんな彼の内心を見抜きながら余裕の表情で手札を構えていて…………

 

 

******

 

 

 

「…………」

「おい、何ソワソワしてんだ小僧。まさかここを出たいとか言うんじゃねぇだろーな?」

「ハイィィィ!!!……やっぱオレも行きたかったです!!」

「直球だな、ダメだけど」

 

 

エレンとイバラがバトルしている中、時同じくして、ライライ町の病院ではアスラが無理して飛び出さないようにテンドウが監視していた。アスラとしては自分のせいでエールが居なくなったと考えているため、性格上、助けに行きたくてウズウズしていても致し方ないと言えるが………

 

 

「…………ところでテンドウさん」

「あ?」

「エールの母ちゃんってどんな人だったんすか?……オレ今までずっとエールと旅して来ましたけど、そう言う事はあんまり聞いてなくて……て言うか気まずくなるから聞けなくて……」

 

 

アスラがテンドウに訊いた。エールの母親が三王である事はまあ訊いていたが、既に故人になっていると知ってからはどうも聞くことが出来なかった。そのため、彼はエールの母親、エレナについてほとんど無知だった。

 

テンドウはタバコに火をつけながら間を置き、その事を徐にアスラに語りだした。

 

 

「エールとエレンのお袋、オレが『姉御』と呼び慕っていたエレナ・オメガ。あの人はオレが知る限りだと最強の三王だった」

「最強の三王………」

「あぁ、赤のオメガと紫のオメガ。2つのデッキで如何なる挑戦者も………と言うかオレとエレンも一度だって勝てた事はなかった………勝てたのはそれこそオマエの知る頂点王くらいだよ」

 

 

当時は2つのデッキを操る最強の三王とまで言われていたエレナ。何故当時はただの殺人鬼に負けて紫のオメガを取られたのかがいささか疑問に残るが…………

 

テンドウは「そんで何より………」と言葉を付け足して………

 

 

「凄く優しいババアだった」

「ババアって……」

 

 

どこか重みがあり、説得力のある一言だった。おそらくエレナ・オメガを間近で見て来ていた彼だからこそであろう。この時点でそのエレナ様がどれだけ皆に親しまれ、信用されていたのかがわかる。

 

 

「だがある日突然殺された……当時はまだあまり名の知れてなかった殺人鬼、オロチにな」

「!!」

「あのヘビヤロウはその後、全国から指名手配を受けたが、この10年姿形の気配すら見せなかった。そんな事もあってか、殆どの連中は迷信かなんかだと思ってただろうな………………おっと悪い、話が逸れたな」

 

 

オロチの内容に話が逸れる。信用できるエレナを失った事により、テンドウはオロチに対して怒りを露わにしているかと思われたが、実際そうでもないようで、この事を話している際もあまりそのような兆候は見られなかった。

 

 

「姉御が死んでから何もかもが変わった。エレンは居なくなった三王の枠を補うべく多忙を極めながらも、姉御と瓜二つの顔だった唯一の肉親であるエールを護るために強引に城に閉じ込めた。そしてエールは半ば無理矢理受け継がれた赤のオメガを扱いきれずに苦悩した………それはオマエもわかるだろ?」

「…………はい」

 

 

エレンがエールを城に閉じ込めていたのも今ではなんとなく理解できた。きっと大事なモノをこれ以上失いたくなかったのだろう…………

 

エールだけでなくエレンもこの10年で相当な苦労や努力を重ねていた事がこの時点で理解できる。

 

 

「オレ……エールの事知ってるようで、何も知らなかったんすね………」

「………ま、オマエが気にする事じゃねぇんじゃね?…それより小僧、タバコ切れたからちょっと買って来い」

「ここ病院っすよ!?」

「むえ〜」

 

 

エールの事をあまり理解してやれていなかった事を反省するアスラ。テンドウは慰めているつもりなのか、テンドウはお気楽な言葉を彼に伝える。

 

そして、彼らの会話を一旦締め括るかのように、ムエは「むえ〜」と鳴き声を上げた。

 

 

 

******

 

 

場面は戻り、森中でのエレンとイバラのバトル。モビルスピリット、ソードストライクガンダムを目に映し、余裕のある表情を浮かべながら、イバラの第4ターンが幕を開ける。

 

 

[ターン03]イバラ

 

 

「そんじゃ、ちゃちゃっとやっちゃいましょか!!……メインステップ、スピリットカード、ビオランテ・花獣形態ちゃんをLV2で召喚!!」

「!!」

 

 

ー【ビオランテ(花獣形態)】LV2(3)BP5000

 

 

破壊したはずの湖に咲く薔薇と全く同じ姿をしたモノが、今度はイバラの前衛に現れる。

 

 

「さっきのネクサスと全く同じ姿をしたスピリットか」

「うっふふ、ネクサス戦法が通じないならスピリットカードで戦うまでよ〜……ターンエンド」

手札:4

場:【ビオランテ(花獣形態)】LV2

バースト:【無】

 

 

不気味な薔薇が前に出て来た事で、より重たいプレッシャーがエレンを襲う。しかし、彼はそれを物ともせず、堂々と己のターンを進行していき…………

 

 

「ターン04]エレン

 

 

「メインステップ、ソードストライクをLV2へアップさせ、ストライクガンダムを再起動させる」

 

 

ー【ストライクガンダム】LV2(2)BP6000

 

 

ソードストライクのLVが上昇すると共に、【換装】の効果で手札に戻っていた通常のストライクガンダムが今一度姿を見せる。

 

そして2体の強大なモビルスピリットが並んだ事にも関心を示す事なく、エレンは己のアタックステップを開始する。

 

 

「罠見え見えの盤面だが、ここは攻めさせてもらう!!……いけストライクガンダム!!…効果でコアブースト」

 

 

ストライクガンダムが背中のブースターでイバラの元へと低空飛行で翔る。

 

 

「うっふふ、それでも正直に飛び込んで来てくれるのねん!!…イケメンにそう言われると嬉しいわ!!……花獣形態ちゃんでブロックよ!!」

 

 

ストライクガンダムの行手を巨大で不気味な薔薇が阻む。しかしながらBPは僅差でストライクガンダムの方が上。トゲのある触手がストライクガンダムを縛り付けるが、それを容易く擦り抜け、中心の花弁を鋼鉄の拳による一撃で殴り飛ばす。

 

それにより巨大な薔薇の怪物は力尽きて爆散してしまう…………

 

 

「このタイミング……狙いは破壊時の効果か。いいだろう、使うがいい」

「うっふふ、偉そうな所はエールちゃんにくりそつね!!……そしてお察しの通り花獣形態ちゃんの効果を発揮させちゃうわ!!」

 

 

バトルによって破壊されるまで一切の効果を使わなかった事からイバラの狙いはスピリットの破壊時効果だと悟ったエレン。そしてそんな彼の予測は完璧に的中しており、イバラはそれを出し惜しみせず使用する………

 

 

「この効果で、手札にあるビオランテと名前のあるスピリット1体をノーコスト召喚!!」

「!!」

「呼んじゃうのは最強のビオランテ………今日もよろしくやっちゃって!!…現れなさい、バイオ怪獣ビオランテ!!……LV2!!」

 

 

ー【バイオ怪獣ビオランテ】LV2(3)BP20000

 

 

爆散して飛び散った花弁の残骸が蠢きながら再生し、再び密集、さらに肥大化していく…………

 

完全に薔薇の姿に戻るかと思われたが、現れたのはまるで触手を引っ提げたワニみたいな怪物。2機のストライクガンダムを自身の影で隠してしまうほどの巨躯を持ち、三王であるエレンを威嚇するかの如く鋭い咆哮を上げる。

 

 

「どう?…イケてるでしょ〜…これで残ったソードストライクでアタックしても返り討ちに会うだけだから無理無理の無理ね!!」

「フン……この程度の事で粋がるな無法者、ターンエンドだ」

手札:4

場:【ソードストライクガンダム】LV2

【ストライクガンダム】LV2

バースト:【無】

 

 

三王らしく堂々と振る舞うエレンだが、流石にこのターンではまだあの巨大なビオランテを倒す手段が無いか、このターンはエンドとし、イバラにそれを譲る。

 

逆に勢いに乗って来たのか、イバラは意気揚々に己のターンを進めていった…………

 

 

[ターン05]イバラ

 

 

「メインステップ〜……バーストをセット〜……さらにテッポウナナフシをしょーかん〜!!…バイオ怪獣ビオランテちゃんに直接合体よ!!」

 

 

ー【バイオ怪獣ビオランテ+テッポウナナフシ】LV2(3)BP22000

 

 

名前の通り鉄砲の形をした虫のスピリットがイバラの場に出現すると、巨大なビオランテは自身の触手でそれを掴み取り、吸収、より強大な力を持つ合体スピリットとなった。

 

 

「召喚時効果。残った手札を捨て、あなたの手札の枚数分だけドローさせてもらうわ!」

 

 

テッポウナナフシの効果だ。イバラは残り2枚となった手札を捨て、エレンの手札の枚数分、計4枚のカードを新たにドローした。

 

 

「さぁ!!お待ちかねのアタックステップよ!!…行きなさいビオランテちゃん!!」

 

 

イバラの指示を聞くなり眼光を鋭く放つビオランテ。その目先に存在するのはエレンの場にいるソードストライクガンダムだ………

 

 

「アタック時効果発揮〜!!……ソードストライクガンダムを疲労させる。さらにコア2個以下のスピリットを疲労させた事で回復するわ!!」

「!!」

 

 

【バイオ怪獣ビオランテ+テッポウナナフシ】(疲労➡︎回復)

 

 

ビオランテは触手を鞭のようにしなりをつけ、ソードストライクガンダムを叩きつける。ソードストライクガンダムはその場で叩き伏せられてしまい、このターンの身動きを封じられてしまった。

 

 

「さらにビオランテちゃんは元々ダブルシンボル!!…テッポウナナフシちゃんと合わせてトリプルシンボルとなっているわ〜!!……つまり何が言いたいかわかる?……これで終わりって事よ!!」

 

 

トリプルシンボルと化したビオランテの二度の攻撃。並大抵のカードバトラーならこの時点で早々に決着が着いたはずだろう…………

 

しかし、イバラの今回の敵はこの国の最強カードバトラー三王の一角、エレン・オメガ。当然この程度で終わるわけがなくて…………

 

 

「一撃目はライフで受ける…………ッ」

 

 

〈ライフ5➡︎2〉エレン

 

 

ビオランテの触手を振るった一撃がエレンを襲う。エレンに多大なバトルダメージがのし掛かるが、それでも彼は平然と場を見つめていて…………

 

 

「終わりよ!!……二撃目ぇ!!」

 

 

狂った目でエレンを見つめながらそう宣言するイバラ。ビオランテが二撃目を構えるが…………

 

その瞬間に三王たるエレンは手札にあるカードを引き抜いて…………

 

 

 

「フラッシュチェンジ、フリーダムガンダム・ハイマットフルバースト!!」

「!?」

「この効果により、コスト40まで好きなだけスピリットを手札に戻す。醜き獣物よ、去れ!!」

「あら?」

 

 

エレンの放ったカード効果により、草花で構成された身体がたちまち粒子と化し、テッポウナナフシごと消滅してしまうビオランテ。自身の最強カードのそんな呆気ない幕引きに、イバラは思わず声を漏らす。

 

そして、ビオランテを倒したカードの真骨頂はその効果発揮後だ。

 

 

「チェンジの効果により、ストライクガンダムと回復状態で入れ替える………現れ出でよ、フリーダムガンダム・ハイマットフルバースト!!」

 

 

ー【フリーダムガンダム[ハイマットフルバースト]】LV2(2)BP12000

 

 

通常のストライクガンダムが溢れんばかりの光量に包み込まれていき、その中で姿形を大きく変える。そしてそれを弾き飛ばしながら姿を見せたのはストライクではなく、フリーダムの名を持つモビルスピリット、無数の銃火器を持つハイマットフルバーストだ。

 

 

「どうした三下。これで終わりか??」

「あらあら〜……やっぱりエールちゃんが絡んで来ると張り切っちゃうのねーーー………ターンエンドよ」

手札:6

バースト:【有】

 

 

ハイマットフルバーストの強力なバウンス効果により半ば強引にターンエンドを迫られたイバラは致し方なくこのターンをエンドとした。しかし、劣勢なのは見るよりも明らかだが、その表情はどこかまだ余裕があって………

 

 

(うっふふ、馬鹿正直にパワーカードをぶつけるだけが私のバトルじゃなくてよ……次のターン、私のバーストが火を吹くわ!!)

 

 

内心でそう呟くイバラ。彼女の狙いは伏せていたバーストカードだ。これを発揮させ、次のターンでこの劣勢から一気に大逆転を狙う気でいた…………

 

 

しかし…………

 

 

[ターン06]エレン

 

 

「メインステップ………何を狙っているのか見え見えだ。この程度で三王である余を欺けると思うなよ」

「?」

「手札に戻ったストライクガンダムを再召喚!!」

 

 

ー【ストライクガンダム】LV2(2)BP6000

 

 

エレンがそういい放つと、三度通常のストライクガンダムが現れる。

 

 

「召喚時効果、貴様のバーストを破棄する」

「え?」

 

 

ストライクガンダムが地面に向かって鋼鉄の拳を打ち付けると、地割れが発生し、イバラのバーストをその狭間へと沈めた。今まで使う機会がなかったが、これがストライクガンダムの強力な効果の1つだ。

 

 

「えぇぇぇぇ!?……うっそー!!」

「翔烈降臨か、成る程。この効果で手札に戻ったビオランテの再度召喚が狙いだったか」

 

 

この光景に両手で頬を挟んで驚愕であると言い表すイバラ。伏せていたのは緑のマジックカード、翔烈降臨。エレンの言う通り、この効果でハイマットフルバーストによって手札に戻ったビオランテを呼び戻そうとしていた。

 

しかし、それももはや叶わぬ夢。

 

エレンはこれで終わりだと言わんばかりに「アタックステップ!!」と強く宣言すると………

 

 

「三機一斉攻撃!!」

「!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2➡︎1➡︎0〉イバラ

 

 

ストライクガンダムが鋼鉄の拳で、ソードストライクが巨大なビームサーベルで、ハイマットフルバーストが銃火器による一斉射撃で、それぞれイバラのライフを1つ残らず叩き壊した。

 

これにより、勝者はエレンだ。最後は意外と呆気なかったが、完璧な予測と圧倒的な実力差を見せつけ、ライダーハンターズのイバラに勝利を収めて見せた。

 

 

「あ〜あ、負けちゃったーーー流石は三王でイケメン。正に隙無しって感じ〜」

「余の勝ちだ。エールとオロチの居場所を洗いざらい吐いてもらう」

「おーこわ〜……激おこだね〜」

 

 

勝利した事により、エレンはイバラに情報を言えと脅迫するようにジリジリと詰め寄っていく。ついでにライダーハンターズの一員でもある彼女を拘束するかなのだろう。

 

イバラとしては絶体絶命のこの状況………だが、彼女はこれと言って焦っている様子もなく、「でも……」と小さく笑いながらそう呟くと………

 

 

「この仕事が終わったらオロチから赤いライダースピリットをもらえる約束してるから、そう簡単にお縄に付くわけにはいかないのよねーーー!!!」

「!!」

 

 

オロチから借りていたGPS付きのエールのBパッドをエレンに向かってぶん投げるイバラ。決してヤケクソになったわけではなく、エレンがそれをキャッチしている間に、自分のBパッドからライダーハンターズ特有のワームホールを開き、この場から瞬時に逃げ出したのだ。

 

 

「ッ……貴様ァァァー!!!」

 

 

逃げるように消え失せたイバラに対し、激怒するエレン。無理もない、散々足を止められた挙句、殆どの情報を得られないまま終わってしまったのだから…………

 

彼はただただ行き場の無い怒りを誰もいやしない空間にぶつける事しかできなくて……

 

 

******

 

 

 

ここはどこかの洞窟、その最も奥にある広大な空間…………

 

そこにはエレンが探し求めていたエールと、そんな彼女をここまで連れてきた殺人鬼の大男、オロチがいた。

 

 

「ここはオレの隠れ家。三王どころか同じライダーハンターズの連中でさえも知らない場所だ」

「………」

「オマエをここまで連れて来てやったのには当然わけがある……わかるよな?」

 

 

オロチがエールに訊いた。それは彼女にとっては至極簡単な質問。いや、彼女でなくともオロチと言う男を知っていれば誰にでもわかるものだ。

 

 

「えぇ、当然わかってるわ。私を倒して赤のオメガのカードを手に入れたいんでしょ?……まぁそうでもしないと赤のオメガは他の誰かの手に渡る事はないんだけどね」

「あぁそうだ。ここでオマエを殺す………あの時のオマエの母親みたいにな。考えただけでも唆る展開だ」

 

 

オロチはエールとエレンの母親を殺害した事を思い出しながら告げた。普通なら、親を殺害した仇が目の前にいれば復讐心に囚われてしまい、我を忘れてしまうだろうが、エールはどこか冷静な表情を浮かべていて…………

 

 

「………アンタに着いて行く時、赤のオメガを渡すって言ったけど、アレは全くのウソよ……最初から渡す気なんてさらさらないわ」

「ほほぉ……つまりオマエはこのオレに勝つ気でいるのか。三王たるオマエの母親に勝利したこのオレに!!」

「………関係無い。そのカードは、紫のオメガは私達オメガ家のモノ………アンタには相応しく無い。今ここで返してもらうわよ!!」

「ハッ……いいね〜……それだけ強気で来られると殺しがいがあるってもんだぜ………ほらよ!!」

「!!」

 

 

オロチはBパッドを持たないエールにBパッドを投げ渡す。どこの誰から奪ったのかは定かでは無いが、これでエールもバトルができる。

 

エールは初めからアスラの元を離れる気などなかった。全てはオロチがエレナから強奪した紫のオメガを取り返すためだ。そのためにアスラに騙すような事を言い放ち、オロチの後をついて行ったのだ。

 

 

その後、2人はお互いのBパッドを展開し、デッキをセットした。そして、初手の手札を引きながら互いに鋭く睨み合い、言葉を交わしていく。

 

 

「オレは10年間この時を待ちわびた………行くぞオメガの女ぁぁ……必ずその赤のオメガをいただく!!」

「そんな事はさせないし、私はアンタを絶対許さない!!」

 

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

 

オロチはエールから赤のオメガを奪うため、逆にエールはオロチから紫のオメガを取り戻すため、命を賭けたバトルスピリッツが幕を開けた…………

 

 

 




先日、同じ架空バトスピ小説家のLoBrisさんにコラボストーリーズを推薦していただきました!!
この場を借りて改めてお礼を申し上げたいと思います。
今回の推薦、誠にありがとうございました!!



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最後までお読みくださりありがとうございます!!

今回のバトルはなんかさっぱりしてた気がしますが、次回からは怒涛のバトル内容となるはずですのでご容赦ください。



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