この国の中央に位置する最大都市、『オウドウ都』
ここには国の人間の約3割が集結しており、尚且つ最も技術が発展していて、街並みにはたいへん賑やかな印象を残す。また、国を代表するカードバトラーである『三王』『頂点王』が住う場所でもあるため、国の首都と呼ぶに相応しい都市であった………
そんなオウドウ都にある殺風景だが広大なコロシアムにて行われる新人交流戦。アスラとロンはこれに参加すべくそのコロシアム内にいたのだが………
******
「あ、アンタが三王の1人ぃ!?」
「だからそうだって言ってんだろおがぁあ!!殺されてぇのか小僧!!」
「すんませんんんん!!!」
反射的にテンドウに頭を下げるアスラ。
新人交流戦が行われる前、アスラがブスジマとバトルした直後、今年の新人チャレンジャー達の前に現れたのは三王の1人『テンドウ・ヒロミ』………型破りで破天荒な性格で有名である。
「あ〜〜あ〜〜どうしてくれるの、
「えぇぇぇえ!?」
「あと、これからオレの舎弟になれ」
「さらっととんでもない事言ったァァァ!?」
テンドウが気絶したブスジマを確認し、アスラを指差しながら言った。
「まぁいいや。よし、これから今年の新人交流戦を始める。オレは名簿から適当に名前読み上げてやるから、さっさとバトルしろや」
テンドウは面倒くさそうに新人達に言った。他の新人達はテンドウの登場にまだざわついている。それもそうだ。何せ、この国の最強バトラー候補が目の前にいるのだから………
「は〜い、じゃあ先ずは………」
テンドウはそんなざわつきなぞ気にせず、やる気の無い声で手に持つ名簿を読み上げた。こうして、新人交流戦が幕を開ける。名前を呼ばれた新人挑戦者達は1組ずつ、次々とバトルを始めて行った……
******
「おぉ!!すっげぇ!!」
コロシアムの端で他の新人達のバトルを傍観しながら感激の声を上げるアスラ。現在、バトルしているのはマスターの身分同士のバトル。高級なカード同士の激しいぶつかり合いは確かに見る者達の心を魅了していた。
「やっぱ、マスターとかのバトルは見応えがあるよな〜。強いカードいっぱい見れるし」
「こうして見るとあのコモンのチビ、地味で大した事なかったのかもな」
「あのブスジマって奴が油断しただけだな」
周囲の新人挑戦者が現在バトルしているマスターの身分の者達とそれを見て騒いでいるアスラを目に入れながらそう話していた。
カードにもセンスにも恵まれているマスターの身分の者達が行う高度な駆け引き。高級なカードの派手なバトル。アスラの龍騎は活躍が一瞬だったのもあり、どうしても派手さに欠けているものがあって………
ー…
「は〜い次、『スーミ村のロン』と『キシ・クシロ』……前に出ろ。そんで早くオレのこの面倒な仕事を終わらせてくれ」
「おぉ!!…次はロンか!!…頑張れよ!!」
「アスラうるさい」
次はロンのバトルのようだ。ロンは涼しい表情のままコロシアムの中央へと躍り出た。そして、その相手だが………
「アレって……確かクシロ家のキシ!!」
「今年のクシロの最高傑作って言われてる奴か!!」
周囲の誰かがそう声を漏らした。
『クシロ家』………
この世界におけるマスターの身分の家系であり、白のデジタルスピリットを統一で使用する。マスターの身分の中では最多の人数を誇っている。
そんなクシロ家の今年の最高傑作、キシ・クシロがロンとコロシアムの中央で対峙した。
「やぁ、ボクはキシ・クシロ……誇り高き身分マスター、クシロ家の最高傑作さ」
「オレは………」
「知ってるよ……『スーミ村のロン』………コモンの育ちながらに生まれつきライダースピリットを所持している天才」
「!!」
キシはロンが名乗るよりも早く彼の素性を口にした。
「何で知っているのか?って顔だね。マスターの情報網をなめてもらっては困る。今年の新人達の詳細くらい、この頭の中に全て叩き込んであるのさ」
「………そうか」
ロンはべつにそんな事思っていないが、キシは偉そうに微笑みながら自慢げにそう言った。
「ふふ、でも、『ライダースピリット』に選ばれたと言っても所詮はコモン……マスターとの身分と力の差を教えてあげるよ」
「御託はいいから、早くやろう。あまり大口を叩くと、負けた時のショックが大きくなるだけだぞ」
「………は??」
今なんて言った??
よりにもよってコモンの集る村出身の分際で………
このマスター、クシロ家であるボクになんて言った??
オマエがライダースピリットに選ばれたのはただの偶然なんだろ?
調子に乗るなよ、この世界の底辺が………
「今わからせてやるよ、哀れなコモン君!!」
「あぁ、よろしく頼む」
ロンの一言に苛立ちを覚えるキシ。マスターである彼がコモンであるロンにあのような言葉を言われるのは屈辱以外の何物でもなかったのだろう。
そんなロンはいつものクールな表情のまま、自身のBパッドを展開し、キシもまた、それに合わせて自身のBパッドを展開した。
………ゲートオープン、界放!!
2人のコールと共にバトルスピリッツが始まる。
先行はクシロ家のキシだ。
[ターン01]キシ
「メインステップ、ボクは白のデジタルスピリット、ゴツモンを召喚!!……効果によりカードをオープン………対象カードは無し」
ー【ゴツモン】LV1(1S)BP2000
キシが呼び出したのは岩人間とも呼べる白の成長期のデジタルスピリット、ゴツモン。その効果でデッキからカードが2枚オープンされるが、対象カードが無いため、全てトラッシュへと破棄された。
クシロ家のデッキから基本的に白一色。それ以外の色は断じて許されない。白こそが至高で、白こそが最強であると言う教えがあるのだ。その例に溺れず、このキシのデッキも全て白属性のカードである。
「ボクはこれでターンエンド!!……さぁ、遠慮無くかかってくるといい!!」
手札:4
場:【ゴツモン】LV1
バースト:【無】
そのターンをエンドとするキシ・クシロ。次はロンのターンだ。ターンを進行していく………
[ターン02]ロン
「メインステップ、オレはライダースピリット……ナイトを召喚!!」
ー【仮面ライダーナイト】LV2(2S)BP4000
「っ……早速来たか、ライダースピリット!!」
一瞬にしてロンの場に現れたのは騎士のような姿をした黒に近い青色のライダースピリット、名をナイト。彼の生涯の相棒である。
「召喚時効果で1枚」
ナイトの召喚時効果だ。確実に1枚のアドバンテージを獲得した。
「アタックステップ……ナイトでアタックする!!」
「ライフで受けようか!!………ッ」
〈ライフ5➡︎4〉キシ
ナイトでアタックを仕掛けるロン。キシはBPの弱いゴツモンでブロックはできなかったか、それをライフで受ける。
ナイトが彼のライフ目掛けて走り出し、それを手に持つ剣で1つ斬りつけ、破壊した。
「ターンエンドだ」
手札:5
場:【仮面ライダーナイト】LV2
バースト:【無】
できる事を全て終え、そのターンをエンドとするロン。次は再びキシのターン。無礼極まりない愚かなコモンに力と身分の差を叩き込むべくそのターンを進行させていく………
[ターン03]キシ
「メインステップ、ボクはハグルモンを2体召喚する!!」
ー【ハグルモン】LV1(1)BP2000(回復)
ー【ハグルモン】LV1(1)BP2000(回復)
キシの場に歯車のような形をした成長期スピリット、ハグルモンが呼び出される。
「この効果により、他の成長期スピリットにコア1つを追加!!ボクはゴツモンを対象にコアを増やす!!」
ハグルモンの効果だ。同じ成長期スピリットであるゴツモンにコアが追加されていき、半ば強制的にLVが上昇した。
「さらにボクはゴツモンのLVを下げ、3体目のハグルモンを召喚!!…効果により別のハグルモンにコアを追加する!!」
ー【ハグルモン】LV1(1)BP2000
立て続けに3体目のハグルモンを召喚するキシ。その効果で今度は別のハグルモンのLVが上昇した。
「流石クシロ家、一気に3体のスピリットを並べた!!」
「こりゃコモンのアイツは終わりだな………」
周囲の新人達は完全にクシロの勝利を確信していた。ライダースピリットに選ばれていると言ってもコモンであるロンの勝利を信じているのは同じコモンの村出身のアスラと、その頭の上に乗っかっているオレンジ犬??のムエくらいであろう………
「うぉぉぉぉお!!!相手すげぇ!!頑張れロン!!負けるなァァァ!!」
「むえぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」
(………うるさい)
アスラとムエの全力の応援に対してそう思いつつ、ロンは手札を視認し、次なる一手を考えていた。
が、多量にスピリットを展開したキシがこのターンで何もしないわけがなくて………
「アタックステップ、さぁ、ボクの白きスピリット達よ!!愚かで見窄らしいコモンのライフを破壊したまえ!!」
キシの指示により、ゴツモンを残したハグルモン3体がロンのライフ目掛けて飛び行く。ブロッカーのいないロンはライフで受けざるを得なくて………
「ライフだ………っ!!」
〈ライフ5➡︎4➡︎3➡︎2〉ロン
3体のハグルモンの体当たりがロンのライフを半数以上破壊する。凄まじい連続攻撃により、ロンは思わず半歩後ろに下がる。
「ふふ、他愛無い………ターンをエンドだ!!」
手札:2
場:【ゴツモン】LV1
【ハグルモン】LV1
【ハグルモン】LV1
【ハグルモン】LV2
バースト:【無】
勝ちを確信し、余裕を持って見せ始めるキシ。ゴツモンをブロッカーとして場に残し、そのターンをエンドとした。
次はロンのターンだ。一見ピンチに見えるが、不思議と彼は全く涼しい表情をしていて………
[ターン04]ロン
「メインステップ……ナイトのLVを下げ、鎧魂を召喚」
ー【鎧魂】LV1(1S)BP1000
ロンの場に甲冑と二本の刀を身に着けた丸っこい幽霊が現れる。そしてさらにロンはここからが本気だと言わんばかりに手札からカードを1枚引き抜いて………
「さらにオレは、第二のナイトを召喚!!」
ー【仮面ライダーナイト[2]】LV2(2)BP6000
ナイトが腰にあるベルトからカードを1枚引き抜き、手に持つ剣の持ち手にあるバイザーへとそれを装填………
すると………
………『トリックベント!!』
と、アスラの龍騎同様無機質な音声が鳴り響き、その瞬間、ナイトが2人へと分身した。
「っ……2体目!?」
「第二のナイトの召喚時効果、相手スピリット1体のコア2つをリザーブに置く……ゴツモンから取り除き、消滅させる!!」
「っ………!!」
現れたもう一体のナイトが同じようにベルトにあるカード束から1枚抜き取り、剣に付随しているバイザーに装填………
………『ソードベント!!』
と、また無機質な音声が流れ、2体目のナイトに黒くて太い槍が装備された。ナイトはその槍を手に、キシの場へと駆け出し、場にいたゴツモンに強烈な刺突をお見舞いする。ゴツモンはコアを全て抜き取られ、消滅に陥ってしまう。
「消滅の成功により、1枚ドロー」
「ッ……オマエ、コモンの癖にデッキを一段階『進化』させているのか………」
「まぁな」
キシはロンが呼び出した2体目のナイトを見ながらそう言った。
この世界において、デッキとはカードバトラーと共に『進化』していく存在。ライダースピリットやデジタルスピリットなどの一部のデッキには[2]のカードが出てくるため、そのデッキが進化しているか否か非常に分かりやすい。
主にデッキやカードを『進化』させるために必要な要素は3つ。
1つ目は『生まれ持った才能』……これは一番大きな因子であり、身分が高ければ高い程その才能は大きく、それだけで何度も進化できるものもいる。そしてそれはこの国が身分によって人を差別する理由の一つでもある。
2つ目は『たゆまぬ努力』………そのデッキと共に研鑚を積み重ね、多くのバトル、死戦潜り抜け、それらを乗り越えて来たデッキとバトラーも進化を行える可能性が高いと言える。
3つ目は『感情』………これは稀なケースだが、カードバトラーの激しい想いや感情、窮地での強い意志や願いにデッキが応え、進化する場合もある。
ロンのデッキの進化は2つ目の『たゆまぬ努力』だ。今までの小さな積み重ねが第二のナイトを得るに至ったのだ。
「第一のナイトのLVを2に上げ、アタックステップ、第二のナイトでアタック!!その効果、コア2つ以下のスピリット1体を破壊する!!……LV2のハグルモンを破壊!!」
「……!!」
一息つく間も無くアタックを仕掛けるロン。第二のナイトの効果がここで発揮される。その黒槍から繰り出される強烈な刺突がハグルモンを貫いて爆発させた。
「当然、アタックは継続中だ……」
「っ………ライフで受ける!!」
〈ライフ4➡︎3〉キシ
2番目のナイトが再び黒槍を振い、キシのライフ1つを粉々に砕いた。
「次は第一のナイトでアタック!!」
「そいつもだ!!………っ!!」
〈ライフ3➡︎2〉キシ
今度は最初に召喚されたナイトがアタックを仕掛ける。バイザー付きの細い剣でキシのライフをまた1つ斬り裂いた。
「オレはこれでターンエンド」
手札:5
【仮面ライダーナイト】LV2
【仮面ライダーナイト[2]】LV2
【鎧魂】LV1
バースト:【無】
「……いい気になるなよ、コモンの分際で……!!」
鎧魂をブロッカーとして残し、そのターンをエンドとしたロン。次は今一度キシのターン。ロンを叩き潰すべく、明らかな怒りを示しながらそのターンシークエンスを行なっていく………
[ターン05]キシ
「メインステップ………来た来た……これでオマエを倒せる」
「??」
キシはこのターンのドローカードを見てニヤケ顔が取れない。
ようやく態度の気に食わない愚かなコモンを倒す事ができるのだ。そう思うとどうしても顔が緩んでしまう。
そして彼はそのカードを手札から引き抜いて召喚する………
「来い、完全体……ナイトモン!!」
ー【ナイトモン】LV3(5S)BP12000
「っ………ナイト!?」
「そう、ナイトだ!!だが、オマエのチンケなライダースピリットとは違う!!このナイトモンこそが真の騎士だ!!」
騎士が呼び出したのはなんと仮面ライダーナイトと同じく騎士型の完全体スピリット、ナイトモン。巨大な体格と重圧な装甲がどうやってもロンの視界に入ってくる。
「別に真の騎士とかどうでもいい、勝つか負けるか………それだけだ」
「減らず口を!!今すぐ楽にしてくれる!!……ナイトモンの召喚時効果!!コスト5以下のスピリット3体を手札に戻す!!」
「!!」
ナイトモンが鉄製の大剣を天に掲げ、全力でそれを振るうと、その風圧のみでロンのナイト2体と鎧魂は吹き飛ばされ、デジタルの粒子と化し、ロンの手札へと戻って行ってしまう。
「さぁ、アタックステップ、ナイトモンでアタックする!!」
ナイトモンがキシの指示に従い、腰にある大剣を抜き取り、構え、走り出した。狙うは当然ガラ空きとなったロンのライフだが…………
ロンは焦る顔一つせず、手札からカードを引き抜いて………
「フラッシュマジック、リアクティブバリア!!」
「ッ……白のカード!?」
「そのアタックはライフで受ける………っ!」
〈ライフ2➡︎1〉ロン
ナイトモンはもう一度剣を振い、今度はロンのライフを風圧で破壊した。
が、このタイミングでロンが使った白のマジックカードの効果が発揮されて………
「このアタックの終わりが、オマエのアタックステップの終わりだ」
キシの場に突如として猛吹雪が発生する。残ったハグルモンはおろかナイトモンでさえもそこから動く事は不可能であって………
「どうした??オレはまだ余裕があるぞ」
「っ……嘘をつけ、残りライフ1の分際で……ターンエンド!!」
手札:2
場:【ハグルモン】LV1
【ハグルモン】LV1
【ナイトモン】LV3
バースト:【無】
このターンで決めるつもりが凌がれたのもあって、悔しさをわかりやすく顔に出しながらそのターンを終えるマスターの身分のキシ・クシロ。その宣言と共に猛吹雪は収まった。
次はロンのターンだが………
「……しかし、オマエのナイトではオレのナイトモンは超えられ無い!!このナイトモンは疲労状態でのブロックが可能だからだ!!……もうオマエに勝ちは無い!!諦めろ!!」
ナイトモンの効果を思い出し、再び余裕のある表情に返り咲くキシ。
そう、ナイトモンには何度でもスピリットをブロックできる効果を持つ。しかもその上に高BPだ。ロンのナイト達では突破はほぼ不可能………
だが………
「生憎だが、こんなしょうもないところで諦めたら
「はぁ!?…コモンのくせにまだそんな大口を叩くか!!やってみろよこのゴミ!!」
だからと言ってあの最高に諦めの悪いアスラとほとんど同じ時を過ごして来たロンがそんな簡単に諦めるわけがない。ロンは逆にこのターンで勝負を決めるべく自身のターンを進行させていく…………
[ターン06]ロン
「メインステップ、オレは鎧魂、2体のナイトを再召喚!!」
ー【鎧魂】LV1(1S)BP1000
ー【仮面ライダーナイト】LV2(2)BP4000
ー【仮面ライダーナイト[2]】LV2(2)BP6000
ナイトモンの効果で手札に戻されていたロンのスピリット達がこのターンで復活を遂げる。
「最初のナイトの効果でカードをドロー!!……さらに2番目のナイトでハグルモンのコアを除去し、ドロー!!」
「くっ………」
復活早々2番目のナイトがソードベントで黒槍を装備し、それを用いてハグルモンの中心を貫いた。
「……アタックステップ!!…2番目のナイトでアタックする!!…その効果でハグルモンを破壊!!」
「!!」
ドローしたカードだけで十分なのか、2番目のナイトで今一度アタックを仕掛けるロン。その効果により、再びナイトが黒槍でハグルモンを貫き、爆発させた。これにより、キシの場のスピリットはナイトモン以外全て消え去った。
だが……
「だから言ってるだろ!?…ハグルモンなんて雑魚を破壊しようが、ボクの場には強力なナイトモンがいる!!…これだからバカのコモン共は!!」
そう。
ナイトモンさえ生き残っていれば仮面ライダーナイトの攻撃などどうとでもできる。
しかし、当然あのロンが何の策も無しに攻め入るわけがなくて………
「その考えが捨てられないようならオマエはオレには勝てない……フラッシュマジック、ファイナルベント!!」
「なに!?それはあのもう1人のコモンが使ったカードと同じ!?!」
ナイトがベルトからカードを1枚引き抜き、剣に付随するバイザーにそれを装填…………
…………『ファイナルベント!!』
と、また無機質な音声が流れる。すると、どこからともなく飛翔して来た黒い翼を持つコウモリ型のモンスターが黒いマントへと変形し、ナイトと合体。空を飛翔して見せる。
「この効果により、BP15000以下のスピリット1体を破壊し、ナイトに赤のシンボルを1つ追加する!!」
「ば、バカな………そんなバカな!!オマエはコモンで、ボクはマスターのクシロ家なんだぞ!?!」
「だからなんだ。オマエが負けてオレが勝つ……それだけの話だ」
アスラも披露したファイナルベントとライダースピリットのコンボ。それがロンのナイトにも発揮される。上空に飛び立ったナイトは黒マントを身体に纏わせ、巨大な槍上の物とし、キシのナイトモン目掛けて急降下していく………
「飛翔斬!!」
ロンがその技名を叫ぶと共に、それはナイトモンに直撃。ナイトモンは守る隙もなく、あっさりとその重圧な装甲を貫かれ、爆発四散してしまう…………
………そして……
「…うぁぁぁぁぁぁぁあ!?!」
〈ライフ2➡︎0〉キシ
……ピー
ナイトは勢い余り、ナイトモンはおろか、キシのライフまでもをその余波で破壊してしまう。その凄まじい衝撃にキシは吹き飛ばされ、気を失った。
ライフゼロに伴い、彼のBパッドから敗北を告げるように無機質な機械音が虚しく鳴り響いた………
これにより、勝者はロンだ。圧倒的な実力差を見せつけ、あのマスターであるクシロ家を倒して見せた………
「あぉぉおおすっげぇぇ!!あのコモン、本当にマスターをぶっ倒した!!」
「カッコいい!!」
バトスピ貴族と呼ばれるマスターの身分を持つクシロ家のキシを倒した事により、周囲から大きなロンに対して歓声が上がる。アスラの時と違って、その向けられる眼差しは英雄を見ているかのようだ。
ただ、ロンはそれに対しても興味がないのか、寡黙なままBパッドを閉じ、中央から退いだ。
「いや、ホントにすげぇぇぇぇぇえ!!!」
「むえぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」⬅︎便乗
思った以上に強くなっていたライバル、ロンのバトルを見て、思わず声を上げるアスラ。そしてそれを面白がり、便乗して声を上げるムエ。兎に角可愛い。
「よし、次のバトルで最後だ」
今年の新人交流戦を仕切り役を務める三王の1人、テンドウがそう言った。実際面倒な仕事であるため、内心は早く終わってくれと思っている………
何はともあれ、次のバトルで今年の新人交流戦は最後となる。
そんなトリを任された栄誉ある2名は…………
「小僧!!オマエだ」
「………え?」
テンドウが指でアスラを刺して来た。アスラは戸惑い、混乱する。それはさっき『オマエはバトル無しな』と言われたからである………まさかそれを言われた人物から今度は逆にバトルする事を強要されるとは思ってもいなかっただろう…………
「あ、あの〜〜オレって、もうバトルできないんじゃ………」
「あの
「すみませんっしたぁぁあ!!」
また殺し屋のような強烈な威圧をかけてくるテンドウ。逆らったら命は無い。これでアスラは是が非でももう一度バトルをしなければ行けなくなって………
「まぁいいか………んじゃ、ムエ。オマエは一旦下がってろ………ってアレ??ムエ??」
アスラがバトルするため、コロシアムの端から中央の方へと歩み寄りながら自分の頭の上に乗っているムエを一旦降ろそうとするが、既にそこにはムエの姿は消えていて………
「よし………んじゃ、もう1人は………」
アスラが知らぬうちに消えてしまったムエを探そうとした直後、テンドウが名簿からそこに記された1人の人物の名前を挙げようとする…………
それは………
その名前は………
この世界の殆どの人間達が驚愕してしまう程の名であって…………
「……『エール・オメガ』………」
テンドウが名前を読み上げると、共に周囲の新人達が唖然とする。そしてアスラの立つ中央の方へと歩み寄ってくる美しい少女が1人、肩まで伸びている艶やかなブロンドヘアを揺らしながら現れた。
「………『オメガ』って……まさかあの『オメガ家』!?」
「うそ………エックスじゃん!?なんでここに混ざってるんだ!?」
「でも、流石……めっちゃくっちゃ可愛い!!」
「バカ、オマエじゃ一生かけてもお近づきにはなれねぇよ!!」
「オマエもな!!」
その美少女が現れた途端、またしても周囲がざわつき、騒がしくなる。
ただ、騒がしくなるのも無理はない。
何せ、この少女はあのエックスの身分である『オメガ家』であるからだ。
エックスの人々はこの国の王族とも呼べる存在であり、数も少ない故に最も崇高な一族である。そのため、毎年行われる新人交流戦には参加せず、エックスはエックス同士で行う傾向にある。
この少女のこの場での登場は例外中の例外と言えるのであった………
「ん??なんか急にまた騒がしくなったな……なんで??」
だが、あのおバカなアスラがそんな事知ってるわけもない。彼女の有名な『オメガ』の名を聞いてもキョトンとしている。
「まぁいいや、オレスーミ村のアスラ!!同期としてお互い切磋琢磨して頑張ろうぜ〜〜〜〜」
ブスジマの時とほぼ同じだ。アスラは目を輝かせながらエールと言う名の彼女に握手を求める。このまま彼女が見た目通り社交的な人間であればその握手に応えるだけで終わるはずだったが………
……ぺしーーん
と言う音と共にアスラの握手を求めていた手はエールに弾かれた。
「気安く話しかけないで。コモンの小ネズミが」
「え」
「私はエール・オメガ。この国のエックスよ」
「!!」
彼女の偉そうな口から「エックス」という単語が聞こえてきて、ようやくアスラも彼女がどれだけ身分の高い人間かを理解した。
「えぇぇぇえ!?エックスゥゥゥ!?!…………こ、これはこれはワタクシのような小ネズミが多大なる無礼をば〜〜」
「わかればいいのよ」
エックスの身分を聞くと、アスラは急に態度を翻し、土下座でエールに謝罪する。
かに見えたが…………
「いやいや違ァァァう!!…誰が小ネズミだぁぁあーー!!」
「アンタに決まってるじゃない」
ノリツッコミだった。土下座の姿勢から勢い良く立ち上がり、全力で少女に反発していく。
「オレとオマエは同期!!…同じ歳!!…エックスとかコモンとか関係あるかァァァ!!」
「関係あるわよ、バッカじゃないの??」
この世界では最も身分の高く、王に等しいエックス。逆に最も身分の低いコモン。普通ならばコモンの人間が話しかけるだけでも無礼極まりないのである。エールも幼い頃からそう教わってきたため、アスラに対してこのような冷たい態度を取っている………
「ハァ……愚かなコモンは言葉では理解できないのね………なら、力の差で教えてあげるわ」
「!!」
エールは唐突にアスラに向かってBパッドを展開する。アスラに力の差、格の違いを見せつけるべくバトルを申し込んだのだ。それを見るなり、アスラも懐から自分のBパッドを取り出し、展開した。
「おっ…やっとやる気か、早く終わらせてくれよ。この後オレ、『男の勝負』に行かなきゃ行けねぇんだから……」
「うっさいわねテンドウ。言われなくてもこんなのさっさと終わらせてあげるわよ…………ってか、『男の勝負』って何!?」
「ギャンブル。今日はなんか勝てそうな気がするんだよね」
テンドウとエール。2人は顔見知りなのか、そのような発言が多々見受けられた。ただ、アスラがそんな事気にするわけもなく、気合をいれながらデッキをBパッドにセットした。
「っしゃぁ!!…行くぜ!!」
………そして………
………ゲートオープン、界放!!
エックスのエールとコモンのアスラ。身分に月とスッポンの差がある2人のコールと共にバトルスピリッツが開始される………
先行はエックスのエールだ。
[ターン01]エール
「メインステップ……ネクサスカード、勇気の紋章を配置するわ……!」
「!!」
ー【勇気の紋章】LV1
エールの背後に現れたのは太陽の形を模した紋章。その神々しさ、存在感は彼女の身分の高さを証明しているように見える………
「ターンエンドよ……さぁ、早くターンを進めなさい」
手札:4
場:【勇気の紋章】LV1
バースト:【無】
「なんで偉そうなんだァァァー!!」
「私はエックスよ!!」
「だから関係ねぇぇぇー!!」
兎に角自分が最高の身分であるエックスである事を強調するエール。アスラに対してどこまでも偉そうだ。
アスラはエールの上目遣いに対するリアクションに疲れを見せながらも自分のターンを進行させていく………
[ターン02]アスラ
「メインステップゥゥゥ!!…ドラゴンヘッド、シャムシーザーを召喚し、ネクサスカード、ミラーワールドを配置だァァァー!!」
ー【ドラゴンヘッド】LV1(1)BP1000
ー【シャムシーザー】LV2(3)BP3000
ー【ミラーワールド】LV1
アスラの場に龍の頭部だけを残し飛行するドラゴンヘッドと、赤いトカゲのようなスピリット、シャムシーザーが現れると同時に、ネクサスカード、ミラーワールドの影響で全ての景色が鏡向きに変更された。
「先手必勝だァァァー!!!…アタックステップ、シャムシーザーでアタック!!」
「…ライフで受けるわ……っ!!」
〈ライフ5➡︎4〉エール
アスラの指示によりシャムシーザーが地を這ってエールのライフへと直進する。そのまま体当たりでそれを1つ砕いて見せる………
………だが、
「え」
まるでシャムシーザーのその行為に反応する様に、エールの配置したネクサスカード、勇気の紋章の中心部から火炎弾が形成され、上空に佇むドラゴンヘッドへと射出された。ドラゴンヘッドはそれに撃ち抜かれ、焼き尽くされると共に撃墜されてしまった………
「えぇぇぇえ!?…何事ですかァァァー!?!」
「バカね………私の配置したネクサス、勇気の紋章は私のライフが減る度にBP5000以下のスピリットを破壊するのよ」
「ま、マジかよ………」
「何も警戒せずにアタックして来るなんて……やっぱりコモンの小ネズミね」
エールはアスラを見下すような目で見つめながら、勇気の紋章の効果について説明した。アスラのこのターンでの失敗はこの後も大きく響いてくるのは明白であるが………
「へへ、でもこれで勇気の紋章の効果はわかった!!…次は失敗しねぇぇ!!……ターンエンドだ!!」
手札:2
場:【シャムシーザー】LV2
【ミラーワールド】LV1
バースト:【無】
それでもアスラはこの失敗をポジティブに捉えていた。まだこのターンが次のターンに繋がってくれると心の底から信じている。
次はエールのターン。彼女はこのターンからが本気だと言わんばかりにターンを進行していき………
[ターン03]エール
「メインステップ……勇気の紋章をLV2でアップするわ」
ー【勇気の紋章】(0➡︎1)LV1➡︎2
勇気の紋章のLVが上昇し、わかりやすく赤く発光。新たな効果をその内に宿す。さらにエールは手札からあるスピリットカードを召喚する。
それはエールの身分がエックスで、そのうちのオメガ家だからこそ手にできるカードであって………
「………そしてさらにこのカード、赤のデジタルスピリット、アグモンをLV2で召喚!!」
ー【アグモン】LV2(3S)BP5000
エールの場に現れたのは黄色い肉食恐竜をこれでもかとデフォルメした成長期のデジタルスピリット、アグモン。エールの属する『オメガ家』に伝わる最上級のデジタルスピリット。
その内に秘めた力、進化先は他のデジタルスピリットとは一線を画すと言われている。
「赤属性のデジタルスピリット………」
「召喚時効果………カードを2枚オープンし、その中の対象となるカードを加える………私はこの中の対象カード『グレイモン』を加えるわ」
アグモンの効果が発揮され、エールの手札に新たなカードが加えられる。
「見せてあげるわ、光栄に思うのね………アグモンの【進化:赤】を発揮!!」
「!!」
「アグモンを手札に戻す事で、手札にある成熟期スピリット、グレイモンを召喚!!」
ー【グレイモン】LV3(3S)BP5000
デジタルスピリットのお家芸、【進化】が発揮される。
アグモンが青白く発光し、その中で姿形を大きく変える。やがてアグモンだったそれはその光を弾き飛ばし、新たに立派な3つの頭角を持つ肉食恐竜のような成熟期スピリット、グレイモンが現れた。
「うぉぉぉぉお!!!カッケェぇぇ!!そしてデッケェェ!!」
「一々うっさいわね!!……アタックステップは続行、グレイモンでアタック!!」
アスラのリアクションは一蹴し、グレイモンでアタックを仕掛けるエール。そしてこのグレイモンにはアタック時に効果が存在し………
「効果発揮、BP5000以下のスピリット1体を破壊してカードを1枚ドローするわ!!」
「なに!?」
「私の目の前から消え失せなさいシャムシーザー!!」
グレイモンは口内に高音の炎を溜め、それをアスラのシャムシーザーに向けて放出する。シャムシーザーは耐えられるわけもなく、あっさり焼き尽くされてしまった………
「アタックは継続中よ!!」
「っ……ライフだ!!……ぐっ!!」
〈ライフ5➡︎4〉アスラ
シャムシーザーを焼き尽くした直後、すかさずグレイモンはアスラに向かって突進して来る。その立派な頭角がアスラのライフを1つ砕いた。
「ふんっ……ざっとこんなもんね、ターンエンドよ」
手札:6
場:【グレイモン】LV2
【勇気の紋章】LV2
バースト:【無】
エールは偉そうに片手で赤茶の艶やかな髪を"ファサッ”となびかせながらそのターンをエンドとした。
次はアスラのターン。劣勢だが、最後まで諦めない心を胸に刻み、そのターンを進行させていく………
[ターン04]アスラ
「メインステップ……行くぜ、これが対抗策だ。炎盾の守護者コロナ・ドラゴンを召喚!!」
ー【炎盾の守護者コロナ・ドラゴン】LV1(1)BP2000
アスラが対抗策と称して呼び出したのは剣と盾を持つ竜騎士。その剣は敵を斬り裂き、その盾は弱き者を護り抜く。
「そして真打の登場だぜ、来い……仮面ライダー龍騎!!」
「!!」
ー【仮面ライダー龍騎】LV2(2)BP4000
立て続けに場へと呼び出されたのはアスラの相棒………
ソウルコアを使うことができないアスラだからこそ握ることのできた………
ソウルコアの力を必要としない赤いライダースピリット、龍騎。
「来たわね、コモンの小ネズミなんかを選んだ哀れなライダースピリット………」
「へへ、コイツは哀れなんかじゃないぜ!!……オレがいつか見合うバトラーになってやる!!……召喚時効果!!カードをオープンし、対象のカードを加える!!………オレはこの『ストライクベント』のカードを手札に!」
アスラは龍騎の効果を使用し、その中の対象カードである『ストライクベント』を手札に加えた。
「さらにこれを発揮!!……BP8000以下のスピリット1体を破壊する!!」
「!!」
「グレイモンを破壊だ!!」
龍騎が腰にあるベルトに装着されているカード束から1枚引き抜き、それを左手の龍の頭部を象ったバイザーへと装填。
すると……
……『ストライクベント!』
という無機質な音声と共に、龍騎の右腕に赤い龍の頭部を模したガントレットのような武器が取り付けられる。
龍騎はその右腕をグレイモンへと向け、龍の口から爆炎を放つ。勢いよく放たれたそれはグレイモンを瞬く間に包み込んで焼き尽くした。
「グレイモン!?!………何すんのよ!!」
「へへ、どんなもんだい!!…この効果発揮後、カードをドロー……こんままアタックステップだ!!いけ、龍騎!!」
グレイモンを倒した直後、畳み掛けるように龍騎でアタックするアスラ。エールとしては場にブロッカーがいないため、このアタックはライフで受ける他ないが………
「ライフで受けるわ………ッ」
〈ライフ4➡︎3〉エール
龍騎の硬い鉄拳がエールのライフを1つ砕いた。だが、ここでもネクサス、勇気の紋章の効果が発動してしまい………
「何度ミスればいいのアンタは!!…勇気の紋章の効果、私のライフが減った事でBP5000以下のスピリット、コロナ・ドラゴンを破壊するわ!!」
再び勇気の紋章の中心部から火炎弾が形成され、今度はコロナ・ドラゴンへと放たれる。避ける間も無く直撃し、爆発してしまうが………
「………え?」
エールはその光景に思わず目を見開いた。それもそのはず、ついさっき破壊したはずのコロナ・ドラゴンが爆発による爆風と爆煙の中から姿を見せたのだから………
「ちょっと!!なんでそいつが場に残ってるのよ!?」
「あぁ、コロナ・ドラゴンはコスト3以下のスピリットが効果で破壊された時に疲労状態で場に残す効果があるんだ!!…コスト3の自分も守れるってわけさ!!」
「!!」
コロナ・ドラゴンなどの『守護者』と名のつくスピリットには低コストのスピリットを効果破壊から身を守る効果を持つ。アスラはこの効果を使い、エールの勇気の紋章の火炎弾を躱したのだ。
「へへ、当然コスト3の龍騎もこの効果で守れる!!…これで頭数を減らされる心配はねぇ!!…ターンエンドだ!!」
手札:2
場:【仮面ライダー龍騎】LV2(2)
【炎盾の守護者コロナ・ドラゴン】LV1
【ミラーワールド】LV1
バースト:【無】
そのターンをエンドとするアスラ。次はエールのターン。破壊の対策を施された中、彼女はどう対処していくか………
「めんどくさ………小ネズミのコモンのくせに…………さっさと諦めさせてやるんだから………!!」
そう意気込んでエールはターンを進めて行く………
[ターン05]エール
「ドローステップ時、勇気の紋章LV2効果でドロー枚数を1枚増やして、その後1枚捨てるわ」
勇気の紋章の2つ目の効果がここで発揮され、エールはその多量の手札の質を向上させた。
「メインステップ……もう一度アグモンを呼ぶわ」
ー【アグモン】LV3(4)BP6000
【進化】の効果によって手札に戻っていたアグモンが今一度エールの場に呼び出される。その際に召喚時効果でデッキからカードがオープンされるが、今回は失敗。全てトラッシュへと破棄された。
「アタックステップ、【進化:赤】発揮!!…アグモンを2体目のグレイモンに進化よ!!」
ー【グレイモン】LV3(4)BP7000
「げぇ!?!2体目ぇ!?」
「バカね、1枚しか持ってないわけないでしょう?」
アグモンが再び進化し、2体目のグレイモンが姿を見せる。
「アタックステップ継続、グレイモンでアタック!!……効果で龍騎を破壊して1枚ドロー!!」
「!!」
グレイモンが口内から火炎弾を放出。それは龍騎に直撃し、爆発。
龍騎は破壊されたかに見えたが………
「龍騎はコロナ・ドラゴンの効果で場に残る!!」
爆発による爆風と爆煙の中から龍騎が姿を見せる。いくらやっても無駄だ。効果破壊したところでコロナ・ドラゴンがある限り龍騎は場を離れない。だが、エールは「そんなのお見通しよ!!」とアスラに言い放ちながら更なるカードを切る………
「グレイモンのもう1つのアタック時効果、【超進化:赤】を発揮するわ!!」
「!!」
「グレイモンを完全体、メタルグレイモンへと進化!!」
ー【メタルグレイモン】LV3(4)BP11000
グレイモンは溢れんばかりの咆哮を張り上げると、青白い光に身を包まれ、その中で姿形を大きく変化させていく。やがてグレイモンだったそれはその光を弾き飛ばし、場に現れる。
それは左半身をサイボーグ化し、穴の開いたボロボロの翼を持つ完全体のグレイモン、メタルグレイモン…………
「ま、また進化しやがった………」
「見せてあげるわ、オメガのカード、メタルグレイモンの力を!!…召喚時効果、BP12000以下のスピリット1体を破壊!!…もう一度龍騎を破壊!!」
メタルグレイモンは登場するなり咆哮を張り上げながら胸部のハッチを開き、そこから凶弾を発射。龍騎に直撃し、爆発するが………
龍騎はコロナ・ドラゴンの効果で場に残っていた………
「いくらやっても龍騎は場に残るぜ!!」
「だからそんなのお見通しって言ってるでしょ!!……メタルグレイモンでアタック!!」
すかさずエールはメタルグレイモンにアタックの指示を送る。メタルグレイモンはその瞳に龍騎を移しながら自身のアタック時効果を起動させ………
「アタック時効果、BP10000以下のスピリット1体を破壊!!……龍騎を破壊するわ!!」
「!!」
メタルグレイモンが左手のアームを自在に伸ばし、しなりをつけて上から龍騎に叩き込む。龍騎は衝撃で地面に倒されてしまうが、コロナの効果で破壊は免れた………
「いくらやったってコロナ・ドラゴンの効果が龍騎を守る!!」
「だったら好きなだけ守ってあげればいいわ……メタルグレイモンはこの効果でスピリットを破壊した時、回復する!!」
ー【メタルグレイモン】(疲労➡︎回復)
「なに!?」
「もう止められないわよ!!…さぁ、早くこのバトルを諦めなさい!!」
メタルグレイモンがその眼光を強く放ち、疲労状態から回復状態となる。
アスラのコロナの効果を逆手に取られた。これではメタルグレイモンはアタックの度に破壊と回復を繰り返し、アスラのライフが無くなるまで攻撃をやめないだろう………
別にコロナの効果を無理に使う必要はない。破壊を受け入れれば連続アタックは一定の回数で収まる………が、そうすれば全滅は必至………
(や、ヤベぇぇぇえ!?……どうしよう、こんままじゃ負ける…………)
優勢からの劣勢な状況に戻り、本格的に焦り出すアスラ。
だが、その焦りも自身の手札を見るなり、すぐさま元どおりになる事になる。咄嗟に閃いたのだ。この状況を打開する強力な一手が………
「こ、これだ!!」
アスラはこの一手に……
一筋の光明に懸ける………
「フラッシュマジック……『ガードベント』!!」
「!?」
「不足コストはコロナと龍騎から確保!!よってコロナ・ドラゴンは消滅するぜ!!」
アスラのそのカードの発揮と共にコロナ・ドラゴンがコア不足により消滅してしまうが、龍騎はベルトからカードを1枚抜き取り、今一度それを左手の龍の頭部を模したバイザーに装填する。
………『ガードベント!!』
と、無機質な音声が鳴り響くと、龍騎の右肩に赤き龍の胴体を模した盾のような物が装着される。
「カードベントの効果、このターン、龍騎は相手の効果を受けない!!」
「!!」
「コロナ・ドラゴンはもう場にいない、今はこの龍騎だけ……つまり、メタルグレイモンはこれ以上回復はしねぇぇ!!」
「くっ……!!」
そう、ガードベントの効果により龍騎は効果を受けない。破壊ができなければメタルグレイモンは回復することはない。これでアスラのライフを全て破壊されることはないし、龍騎も場に残すことができる。
咄嗟に閃いたにしては最善の一手と言える………
「……なんで………」
「??」
「なんでよ!!…さっさと諦めなさいよ!!…カードパワーの差は歴然としてるのに!!」
アスラの諦めの悪さに腹を立てるエール。確かにカードスペックの差はどう考えてもエールのグレイモンの方が上。ガードベントで守ろうとも時間稼ぎにしかならない事は明白。
なのに何故……
なのに何故ここまで食い下がる………
「なんでって……そりゃ、オレは『頂点王』になるからな!!……コモンでも、ソウルコアが使えなくても、諦めなければ最強になれるって証明するのがオレの夢なんだ!!」
「っ!?」
……本気なの……??
本気でコイツはそんな事言ってるの……??
身分が最底辺のコモンで……
しかもソウルコアが使えない身体の分際で………
この国最強の称号『頂点王』だなんて………
………そんなの……
「無理に決まってるでしょ………虫唾が走るわアンタ………」
「無理じゃねぇ!!…オマエが勝手に決めんな!!」
アスラの諦めない真っ直ぐな姿勢を前に徐々に表情から余裕が消え去って行くエール。諦めなければどうにかなると思っているアスラにはどうしても腹が立つ。
まるで『自分を見ている』気がしたから………
エールは脳裏に自分の周囲の人達との記憶が蘇ってきた………
ー…
『エールゥゥゥ…オマエまだ究極体を呼び出せないのかぁぁ!?』
黒髪の男性がエールに言った………
とてもではないが同じ人間を見るような目ではなかった………
『なんか裏で特訓??…してるみたいだけど無駄無駄ァァァ!!…なんでオマエにオメガ家のカードが託されてんだよ!!……オメガ家も落ちたもんだなぁ!!はっはっはっは!!』
そうよ……
なんで私がオメガのカードの継承者なの??
他の候補者はいたのに………
その人の方が必ずオメガのカードを使いこなせるのに………
『オマエみたいな奴が何故誇り高きエックスであるオメガ家の人間として生まれなければならなかったのだ。理解に悩む………どうしてくれるのだ。オマエのせいでオメガ家の名が廃る』
エールと同じ艶やかな赤茶の髪を持つ男性もそこに加わり、エールを蔑む。
忘れたくとも忘れられない思い出がこれでもかとエールの頭の中を急襲して来る。
でも、やるしか無いじゃない。
いくら才能がなくったって……
いくら進化の力を制御するのが下手くそだって………
そんなの言い訳にしたりしない。逃げるなんて選択肢は無い。継承者に選ばれたからにはやってやるわよ…………
そしていつか………
ー…
そしていつか絶対に認めさせてやるんだからァァァァァァ!!!
「えぇ!?……どうしたんだよ!?」
場面は戻る。
エールは昔の記憶を蹴散らそうとするように大きな声で叫んだ。何も事情を知らないアスラには当然意味がわからない。
そしてエールは激情に駆られ、その手札の中からカードを1枚抜き取り、そのカードの発揮を宣言して………
「【煌臨】発揮!!……対象はアタック中のメタルグレイモンッッッッ!!!!」
「っ……煌臨!?………デジタルスピリットのデッキで煌臨って事は………」
「そう、究極体よ!!」
メタルグレイモンの身体中から溢れんばかりの炎が飛び散って行く。その熱量はアスラがこれまでに相手してきたどのスピリットよりも熱くて………
だが………
その強大な何かに変貌しようとする進化は思わぬ方向へと進んでしまうことになる………
「え?………う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
「っ!?」
メタルグレイモンから溢れ出た炎がメタルグレイモンは愚かエールまでもを包み込んでしまう。その様子に驚愕するアスラや周囲の面々。
やがてその炎はメタルグレイモンを完全に溶解、エールを取り込み、まるで本物の太陽になったようにアスラの前に姿を現した……………
「な、なんだ………なんだよ………アレ……」
神々しい擬似太陽と化したその中からは気を失ったエールの姿が確認できるが、とうのアスラには何が何だかさっぱりである。ただただ目の前の真っ赤な太陽にたじろいでいて…………
『究極体』………
デジタルスピリットの中では最上位の力を持つとされる文字通り究極の形態。それを扱うには類稀なるセンスが必要不可欠。そのため、エックスの人間や一分の人間にしか扱えないと言う………
ただ………
エックスの中で、このエール・オメガだけは究極体を呼び出す事が出来なかった。それを理由に、彼女はずっと同じエックスの身分を持つ者達から蔑まれてきた。
彼女はエックスの人間の中でもぶっちぎりで落ちこぼれだったのだ………
ー…
「あ〜あ。結局こうなるのね………はてさて、この先どうすんだ………スーミのアスラ………」
唐突にエールを取り込んだ擬似太陽に会場中が慌てふためく中、テンドウは呑気に煙草を吸いながらアスラに目を向けて言った………
《キャラクタープロフィール》
【テンドウ・ヒロミ】
性別:男
年齢:29歳
身長:181cm
身分:元々異国人であるため無し
使用デッキ:??
好きなモノ:煙草、面白い奴
概要:この国の最強のバトラー集団『三王』の1人。殺し屋のボスみたいな見た目をしている。性格も見た目通り横暴で、理不尽な事をよく口にする。が、意外と周囲から信頼されている。ヘビースモーカー。
【用語設定】
《ライダースピリット》
使い手を選ぶと言われている奇怪なスピリットの総称。基本は人型の姿をしているが、必ずと言っていい程、そこには別の何かが宿っており、個体によって個性が大きく分かれている。そのためか、『ライダースピリットは1人につきたった1種』しか持つ事ができない。
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最後までお読みになってくださり、ありがとうございました!!
今回出たデッキやカードの進化はポケモンの進化みたいなものだと考えておいてください!