「おぉ!!ここがオオカブ町かァァァー!!」
「むえぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」⬅︎便乗
「ちょっと、恥ずかしいからやめなさいよバカスラ!!」
「誰がバカスラだァァァー!!」
オウドウ都を出発したアスラ、エール、ムエの一行は、目的地であるオオカブ町へと辿り着いた。
この国の中心であるオウドウ都。その周辺にある6つの大きな町の1つオオカブ町。他の街と比べても街並みに並木通りが多く存在し、家や建造物も全てが木製である。首都の周辺にと言うだけあって人の数も多く、たいへん賑わっているのが伺える。
このオオカブ町がオウドウ都から最も距離が近いのもあり、新人達は先ずこの街に潜むカラーリーダーにバトルを挑む事が多い。
「いい?ちゃんと理解しなさいよバカスラ。私は別にあんたと旅をしたいんじゃなくて、あんたの頭の上に乗っかっているムエと一緒に旅をしたいんだからね?…そこら辺を履き違えるんじゃないわよ」
「むえ〜?」
「エール、オマエムエと会う前にオレに『よろしくお願いします』って言ってなかった??」
「っ!!……あ、アレは何かの聞き間違いよ!!勘違いしないでよね、バカスラ!!」
「だから誰がバカスラだァァァー!!」
「あんたしかいないじゃないアホスラ」
「くっ……どれも語呂が良いのが悔しい………」
雑談を繰り広げるアスラとエール。彼女によってどんどんアスラのあだ名が製造されていく。しかも超がつくほど語呂が良く、それでいてアスラらしいとも言えるあだ名であった。
エールもエールでどこかアスラに素直になれないでいた。アスラと手を繋いで以降、何故か彼を見ていると胸の奥が苦しく感じてしまい、つい強く当たってしまう。その理由がなんなのかは今のところ自分でもよく分からなくて…………
「おっ?……なんかあそこに人集りができてるぞ?」
「え?…あぁ、『市場』ね、オウドウ都にもよくあったわ」
アスラが人集りができている通り道を見つけ、それをエールが説明した。この世界での『市場』と言えば、所謂カードショップ。カードが所狭しと陳列しており、転売されている。
高値のカードなどはあまり取引されないため、基本的に、身分の高いエックスのエールはこんな市場など見向きもしない。
ただ、この最も身分の低いコモンのアスラは…………
「い、市場………こ、これが!?こんなに広くて長いのかよ!?」
目を輝かせ、感動していた。もちろんアスラの故郷であるスーミ村にも市場はあったが、ここまでたいそう立派なものではない。
「オレ、ちょっとカード買って来る!!」
「えぇ!?なんでよ!?…あんたこれからカラーリーダーに挑むんじゃないわけ!?」
「デッキ強くしてから行くに決まってるだろ!!…あんま金ないけど!!」
アスラはそう言いながらも満員電車のような窮屈さを感じさせる市場へと潜り込んでいった。まだ見ぬ新しいカードを発掘しに行くつもりである。
「……別にたいしたカードなんて置かれてないと思うけど…………って、あいつムエまで連れて行ってるじゃないの!?………あんなむさ苦しい集まりにカワイイムエを連れていくなんて何考えてるのよっ!!」
エックスであるエールはアスラと違って市場にさほどの興味も示さなかったが、アスラではなく、その頭の上に乗っかっているムエを追いかけるように自らも市場へと足を踏み入れた…………
ー…
「ったく………最近言い事1つもねぇな………ブッハハ……」
そんなただっ広い市場。その中にある唯一の休憩場のスペースにあるベンチに腰を掛けながら、身分がレアであるトミオ・ブスジマはそう落ち込むように口ずさんだ。
「チクショー…これもアスラとか言うチビのせいだ………!」
いもしないアスラに八つ当たりするブスジマ。カラーリーダーを1人でも多く倒して適当にいい思い出を作るはずが、見下していたコモンにコテンパンに叩きのめされた挙句、未だに1人もカラーリーダーを倒せないでいるのだ。彼は今とてつもない劣等感に苛まれていた。
「あ〜あ、何かいい事起きないかー……ん?」
ブスジマがそう独り言を漏らしたその時だった…………
「あわわわっ!!……ちょっと、押さないでよね!!」
「………ほお?」
人混みの中、大勢の人々の身体に弾かれ、エールがブスジマの近くに飛び出して来た。エールは押し出された事に文句を言いつけるが、これだけ人が混み合っているのだ。当然ながら誰も返事はしない。
ブスジマはそんなエールに目をつけた…………
「ブッハハ!!」
「!!」
「よおオマエ、中々カワイイ顔してるじゃねぇか、このカラーリーダーをも倒したオレと一緒に遊びに行ってやってもいいぞ!」
意気揚々とエールにナンパを始めるブスジマ。因みに、「カラーリーダー」を倒したと言うのは自分を大きく見せるための真っ赤な嘘だ。実際は情けない姿を晒しながら逃げ出してしまっている………
エールはそんなブスジマの方へと振り向いて……
「………失せなさいネズミ」
「…………!?!」
と、見下すような目を向けながら刺のある言葉を言い放った。どうやら新人交流戦で一度顔を見ているのを忘れているようである。目も大きく、整ったカワイイ顔のエールから鋭利で刺のある言葉が飛んできた事により、ブスジマは驚愕する。
エールは身分の高いエックスであるため、基本的に身分の低い者達を見下すような教育を受けて来た。そのため、実際は心優しくても、どうしてもこのような態度になってしまうのだ。
まぁ、今回に限っては自分に突っかかって来たネズミを取り払おうとしているだけなのが見て取れるが………
「おぉ〜い!!エールゥゥゥー!!」
「……あぁアスラ!!あんた私のムエをあんなむさ苦しいところに連れて行かないでよね!?」
「むえ?」
「げぇ!?!…コイツはー………」
今度はアスラが現れた。買ってきた安くて使えそうなカードをエールに自慢気に見せつけようとするが、その前にエールの文句が炸裂した。一方でブスジマは目の前のチビがあの時の薄汚いコモン、アスラであると理解する。
「あっ!!オマエは!!」
「!!」
バレた。アスラはすぐさまブスジマの存在に気付いた。指をブスジマに刺しながら彼の名前を思い出すが………
「ブッハハ!!」
「違ぇぇ!!…ブスジマだ!!…ブッハハ!!」
『ブッハハ』と言うからの独特な掛け声で覚えていたアスラ。思わずそっちの単語で読んでしまう。腹を立てたブスジマは全力でそれを訂正した。
「誰よ?」
「新人交流戦で一緒だったヤツ」
「こんなのいたかしら??」
(こ、こんなカワイイ子がコイツの連れだと〜〜〜〜〜!?)
ブスジマはアスラとエールが中良さげに話しているのを視認してさらに腹を立てる。自分を散々な目に合わせた挙句、そんな奴がいい思いをしていると思う時どうしようもなく怒りがこみ上げてくる。
まぁ、等のアスラにはそんな自覚が有りはしないのだが………
「コモンのクセに女連れで買い物とはイイ御身分だな。そんな暇があるならカラーリーダーにでもバトルを挑んだらどうだ?」
「あ、この間はごめんな!!思いっきりぶっ倒しちまってよ!!」
「話を聞けぇぇぇぇえ!!!」
馴れ馴れしく友達のように接して来るアスラ。そんな彼に嫌味を言いたいだけのブスジマとは中々話が噛み合わないでいた………
「オラオラァァァー!!どけどけぇぇ!!!」
ー!!!
と、その噛み合わない会話を遮るかのようにイグアナのような形をしたバギー型のスピリット、『イグア・バギー』に乗って、人が比較的少ないところを突き抜け、爽快に駆ける髭面の男が1人。何やら手にはスピリット召喚用のBパッド以外にも大きな袋を所持している。
「つ、捕まえてくれぇぇ!!そいつ泥棒だぁーー!!」
息を切らしながら必死にイグア・バギーに乗っている男を追いかけている人物がいた。彼の証言や状況を察するに、あの髭面の男が泥棒である事は誰もが理解できる事であって………
「っしゃぁ!!…任せてくれ!!」
「むえぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」⬅︎便乗
「ちょっとアスラ!?」
人一倍正義感の強いアスラはそれを見るなり全力疾走でイグア・バギーを追いかけた。頭の上に乗っているムエもご機嫌良く鳴き声を上げる。
「テメーにだけいいカッコさせてたまるかよ!!……召喚、ドクグモン!!」
ブスジマも動く。懐から瞬時にBパッドを取り出し、展開。デッキのカードを1枚召喚する。現れたのはクモのような形をした成熟期スピリット、ドクグモンだ。ブスジマはBパッドを片手にそのドクグモンの背へと飛び上がった。
「ブッハハ!!おいそこの女、ちょっと待っとけよ、後でちゃんとオレ様がデートしてやるからな!!」
「………キモッ!!」
ブスジマの言い回しに鳥肌が立ったエール。そんな彼女の気も知らずに、ブスジマはドクグモンを駆ってアスラ同様イグア・バギーを追いかけて行った。
ー…
Bパッドの召喚機能を使い、イグア・バギーとともに盗人を働いた髭面の男は今まさに驚愕していた。
「待てコラァァアー!!!」
「な、なんでコイツただ走ってるだけなのにイグア・バギーについて来れるんだ!?!」
アスラの超人並の足の速さに度肝を抜かれていた。とても人間業とは思えない。アスラは昔からソウルコアが使えなかったため、あの手この手でなんとかソウルコアを出そうとしていた過去がある。その一つが己の身体の鍛錬。いつ報われるかもわからない途方に暮れた特訓の日々であったが、今それがこの場で活きて活躍していた。
「だ、だが、並走できるくらいじゃ追いつけねぇ、このまま街を出て………」
「むえ〜〜〜!!!」
「そうそう、むえ〜…………え!?」
「むえぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」⬅︎こんにちわ!!
「な、なんだこの生き物ぉぉぉォォォ!?!」
このまま振り切れると予測した泥棒であったが、ふと気づくと自分の肩には謎のオレンジ犬??であるムエがそこにいた。ホラー映画並の登場の仕方に泥棒は思わず驚嘆の声を上げてしまう………
そしてムエはそのまま短い脚をちょこちょこ動かしながら男の手に持つBパッドの方へと赴いて………
「ど、どっから湧いて来やがったこのへんちくりん」
「むえ♪むえ♪」⬅︎Bパッド上のカードを眺める
「お、おい何する気だ………」
「むえぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」⬅︎美味しそう!!
「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ムエは泥棒のBパッドに置かれているイグア・バギーのカードを小さな前脚で拾い上げ、そのまま飛び去ってしまう。着地する時にはその口には奪い取ったカードが咥えられており…………どうやらこれを甘噛みしたいようだ。
そして、当然の如くBパッドからカードが消えたため、イグア・バギーは実体を保てなくなり、消滅してしまう。
「むえぇ〜〜♪」⬅︎カードをあむあむ
「よぉしよしよし!!良くやったぞ、ムエ!!…お手柄だな!!」
「むえぇ〜〜♪」⬅︎嬉しい
慣性の法則に従い、その場で転がり込んでしまう泥棒を他所に、ムエはアスラに褒められてご満悦のようだ。その若者と謎の小動物の勇気ある行動に、周囲にいた人々が拍手喝采し、称賛を浴びせていた………
「くっ………だ、だがBパッドに新しいスピリットカードを置ければ………」
諦めの悪い泥棒がBパッドと盗んだ大きな袋を手に再び立ち上がろうと試みるが…………
「そこだ!!ドクグモン!!」
「っ!?……な、なんだこの糸は!?」
「ブッハハ!?」
「ブッハハ!!…アスラ、オマエにだけいい思いはさせないぜ!!手柄はオレのモンだぜ!!………後オレ様はブスジマだ!!」
ブスジマの乗るクモのようなスピリット、ドクグモンの口内から発射される糸が泥棒の手足を縛り、完全に拘束した。
これにて、一件落着。後は盗まれた物を持ち主に返却すれば全て解決する……………
はずだった………
「ほぉ、『オマエ達』かいな………ワイの街で好き放題暴れてるっちゅう奴らは………!!」
「っ!?……こ、この声………ま、まさか!?」
普通の常識で言うところの関西弁訛りの男性の声が聞こえて来た。その圧のあって、凄みのある声色にブスジマは思わず背筋を冷やしてしまう。知っているのだ、この声の主が誰なのかを………どれだけ恐ろしい存在なのかを…………
「………誰??」
「召喚………アトラーカブテリモン!!」
アスラもその声の主の方へと顔を向ける。そこには長身で褐色肌、緑色の髪をした端正な顔つきの男性が1人。彼はBパッドを展開し、カードをセット。スピリットを召喚した。
そのスピリットは言わば巨大なカブトムシの化物。燃えるように赤い甲殻と、その口から放たれる奇声は、この場に居合わせた誰をも戦慄させた…………
「あのクモとあの2人、とっ捕まえろ」
「えぇ!?……お、オレ様も!?…………う、うぁぁぁぁぁぁぁあ!?!」
男はそのカブトムシ型のスピリットに命令を送ると、そのスピリットは4本ある腕を巧みに扱い、ドクグモンと泥棒、そしてブスジマまでもを軽々しく捕らえてしまった…………
「な、何がどうなってんだ??」
「むえ〜〜??」⬅︎さあ?
事は一件落着となったはずなのになんだこの光景は………ブスジマが捕らえたはずの泥棒。だが、そんなブスジマまでもを泥棒とみなして、彼はブスジマごととっ捕まえてしまったではないか。
「ちょ、ちょっと待て!!オレは何もしてねぇぞ!!……緑のカラーリーダー…………『ヘラクレス』!!」
「えぇ!?……緑のカラーリーダー!?」
アトラーカブテリモンに片手で捕らえられ、宙ぶらりんになったブスジマが精一杯の声量でその男にそう言った。その名称にアスラは驚いた。
それもそのはず、この街で必死こいて探そうとしていたカラーリーダー。それがこんな出来事の途中で出会すなんて想像もしていなかった事だろう…………
「あぁ!?……うっさいわブサイクデブ、ちょっと黙ってろや。オマエみたいな悪人面が悪させんわけないやろ?」
「偏見にも程があるだろ!!……オレ様は昨日オマエとバトルしてやったじゃねぇか!?」
「生憎やけど、ワイは男の顔は1日も覚えん太刀やねん」
「なんだとコンヤローー!!!」
「もうええわ、おもんない奴は眠っとけ………」
「ぐっ!?………」
ヘラクレスの指示でアトラーカブテリモンが指で器用にブスジマの頭を叩いた。その衝撃により、ブスジマはまたしても気を失ってしまう………
「さぁ〜〜てと、これでほぼ仕事完了や……後は盗まれたモンを返して………」
「なぁアンタ!!」
「??」
「オレ、今年の新人チャレンジャーのスーミ村のアスラっス!!…カラーリーダーのアンタにバトルを挑みまァァァーす!!」
彼がこの街のカラーリーダーと聞き、居ても立ってもいられなくなったアスラが勢い良くヘラクレスに声をかけに来た。要求はもちろん彼とのバトルスピリッツ。
だがヘラクレスはアスラの顔や身なりを目に映すなり………
「なんやオマエ、ブッサイクやな〜」
「えぇぇぇえ!?……会って早々に顔を侮辱されたぁ〜!?」
「いや……オマエにはワイのようなモテ要素が無さ過ぎる言うとんのや…………ワイは恵まれた体格、整った顔に加え、バトルも強いっちゅうのに、オマエはチビで顔も中の下くらいで全くモテ要素が無い、しかも弱そうと来たもんや………悲しいな」
「うるせぇ!!…別に見た目がカッコよくなくてもいいじゃねぇっすか〜!!!」
「むえぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」⬅︎そうだそうだぁ!!
ヘラクレスに侮辱され、プンプンと怒るアスラ。ムエもそんな彼の気持ちを理解しているのか、ヘラクレスを威嚇するような「むえぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」の鳴き声を浴びせる。
「まぁまぁ、落ち着けやブサイクチビ。コイツらを刑務所に叩き込んだらゆっくり相手してやるで」
しかし、ヘラクレスも仕事は仕事か、カラーリーダーとしての責務を果たすべく、一応はアスラとバトルしてくれるようだ。
なんだか腹の立つ奴だったが、挑戦を引き受けてくれる事に安堵するアスラ。と、その時、またしても背後から声が聞こえて来た。この声はアスラも聞き慣れた声であって………
「はぁ……やっと追いついた、何なのよもう…………ってアレ、何この状況??」
「あ、エール」
エールが息を切らしながらも遅れて追いついて来た。ただ、これまでの事を何も見ていなかったため、アトラーカブテリモンがブスジマと犯人、ドクグモンを捕らえている状況を目に入れるなり頭の上に疑問符を浮かべる。
「おぉ!!カワイイ女の子めぇぇっけえぇぇぇ!!」
「は??」
「えぇ!?…急にどうしたんすかァァァー!??」
ヘラクレスはエールの姿を目に入れるなり、ブスジマやアスラに対するこれまでの冷ややかな態度が嘘みたいに変貌し、目の色を変えてエールに近づいて来た。エールはこれに対しても疑問符を浮かべる。
「やぁやぁ、可愛らしいお顔の素敵なお嬢さ〜ん!!…どうや?…ワイ、こう見えてこの街のカラーリーダーなんや〜……一緒にお茶でも…………」
「失せなさいネズミ」
「……………え?」
猛烈な勢いでエールをナンパするヘラクレスであったが、エールはブスジマ同様彼をネズミと呼称し一蹴。尊大且つ冷たい態度で軽くあしらってみせた。案外一番ナンパ対策に効果的なのかもしれない。
「いや待て待てエールゥゥゥー!!!」
「何よ?」
「何よ?じゃねぇ!!失礼だろォォォー!!!相手はカラーリーダーだぞぉーー!?」
「知らないわよそんなの、私はエックスよ?」
「だから関係ねぇぇー!!!…それよりも先ずは歳上を尊敬しよう!!そこから!!」
いくら完全に身体がそうなるように染み付いてしまっているとは言え、このままではダメだと思ったアスラが全力でエールを注意しにいくものの、「私はエックスよ」の一点張り、中々直る気配が無い。
アスラとエールの会話の様子を見たヘラクレスは彼らが一緒に旅をしている事を瞬時に見抜いて………
「お、オマエ……ブサイクのくせにモテるんやな………」
「え??何がっすか?」
「だから、そんなカワイイ彼女いたんやなって言っとんのや!!…腹立つはホンマ!!」
「か、彼女ぉぉお!?……な、な、な、なな訳な、なないじゃない!?こ、こここ、コイツはコモンよ!!」
ヘラクレスがそう言うと、エールは動揺を隠せず、顔がトマトみたいに真っ赤になり滑舌も上手く回らなくなる。しかし、アスラは…………
(………かのじょってなんだ??)
この有様である。田舎者故、余り言葉を知らないのであった…………
「はぁ〜〜…まぁええわ、そこのチビの相手はしてやるで、一応仕事やし………ほな、先ずはとっ捕まえた泥棒共を連行しますか」
エールには既に意中の男がいる事を心の隅々まで察したヘラクレスがアトラーカブテリモンを動かし、ブスジマ達を運ぼうとするが………
「あっ、因みにブスジマは悪い奴じゃないですよ!?……犯人捕まえたのあいつですから!!」
「…………へ〜いへい」
アスラはブスジマの誤解を解こうとヘラクレスの説得を試みた。ヘラクレスはまるで始めから知っていたような表情と仕草を見せながらアトラーカブテリモンを刑務所の方へと向かわせた…………
ー…
あれから1時間は経っただろうか………
アスラとエール、ムエ。そしてこのオオカブ町の緑のカラーリーダー、トーマ・ヘラクレスはバトル専用の誰もいない殺風景なコロシアムへと足を運んでいた。
一触即発。今にもアスラとヘラクレスのカラーカードを賭けた戦いが始まろうとしていて………
「そう言えばエール」
「ん?」
「オレが先にカラーリーダーとバトルしちゃっていいの?」
「良いわよ、別に私旅はしたかったけどカラーリーダーとバトルする気は無かったし………」
「え??そうなの??」
「むえぇ〜〜♪」⬅︎エールに首ゴロゴロされてる
と、エールはムエで遊びながら適当にアスラの質問に答えた。エールがカラーリーダーにバトルを挑まないのは、単純に勝ってしまった時に目立つから。そんな風に目立って仕舞えば間違いなく他のエックスに何かを言われるからである。
「さぁ、もう御託はええか??……このバトル、カラーカード以外にもエールちゃんのデートもかかってんねん、負けられへんわ」
「賭けた覚えないわよ」
「そこをなんとか!!」
「嫌よ」
(………デートってなんだ??)
ちゃっかりエールとデートする賭けを持ち込もうとする。下心丸出しのヘラクレス。その様子だけなら一見この国が代表するカラーリーダーとは到底思えなくて………
「へへ、んじゃ、オレの初めてのカラー戦、よろしくお願いしまァァァーす!!」
「オマエ、うっさいねん。声デカイわ……まぁええ、ワイの実力、とことん見せつけたるで」
早速………
2人は懐からBパッドを取り出し、それを展開してセット。デッキも置いて準備万端。
いよいよ幕を開ける。隅っこにあるコモンの村『スーミ村』出身の田舎カードバトラー、アスラの果てしなく長くて険しい、頂点王への旅路が…………
………ゲートオープン、界放!!
コールと共にバトルスピリッツが幕を開ける。
先行はアスラだ。颯爽とターンを進行させて行く………
[ターン01]アスラ
「メインステップゥゥゥー!!!……ドラゴンヘッド、シャムシーザーを召喚!!でもってネクサスカード、ミラーワールドを配置!!」
ー【ドラゴンヘッド】LV2(2)BP2000
ー【シャムシーザー】LV1(1)BP2000
ー【ミラーワールド】LV1
「!?」
開始早々、いつも通りのアスラの速攻展開。龍の頭部と翼のみの姿をしたドラゴンヘッドと、背に数本の鋭利な刺を生やした赤いトカゲのスピリット、シャムシーザーが場に現れると共に、配置中は周囲の全てが鏡向きになるネクサスカード、ミラーワールドが発動された。
(………なんやコイツ、妙やと思ったら……Bパッドにソウルコアが置かれてないやん。何モンや?)
開始早々、アスラのバトルに違和感を覚えるヘラクレス。その正体はアスラのBパッドにソウルコアが置かれて無いことであって…………
「おーい、オマエ、ソウルコア使わんとしゃんとバトルできるんか??」
「へへ、大丈夫っすよ!!…オレ、生まれつきソウルコア使えないんで!!」
「………生まれつきソウルコアが使えない??」
「俺はこれでエンド!!……さぁカラーリーダーさん、いらっしゃいませぇぇえー!!」
手札:2
場:【ドラゴンヘッド】LV2(2)BP2000
【シャムシーザー】LV1(1)BP2000
【ミラーワールド】LV1
バースト:【無】
ソウルコアが出ないという自身の謎体質を説明しながらアスラはそのターンをエンドとした。次はカラーリーダーであるヘラクレスのターンだ。アスラの奇怪な体質を不思議に思いながらもそれを進行させていく………
[ターン02]ヘラクレス
「メインステップ………ソウルコアが使えないねぇ〜初めて見たわそんな天然記念物、他におらんやろ?」
「あぁ、まあな、見た事ねぇ!!」
嫌味の込められたヘラクレスの言葉。だが、アスラは全く気にしていないように笑い飛ばしていた。生まれて15年。散々言われて来たことであるため、この程度は慣れっ子なのである。
「だけどそれでもオレは最強の『頂点王』になる!!!!コモンでもソウルコアが使えなくてもこの世界で一番強くなれるって証明する!!」
「ほぉ〜〜『頂点王』…見据えているのは遥か先って感じやな〜………まぁ限界はある思うけどな………トゲアントとテントモンを召喚や」
「!!」
ー【トゲアント】LV1(1S)BP1000
ー【テントモン】LV1(1)BP2000
「テントモンの効果でコアブースト」
ヘラクレスが初手で呼び出したのはアリのようなスピリット、トゲアントと、緑のてんとう虫型の成長期スピリット、テントモン。
「バーストを伏せてエンドや〜……ほな、かかって来いや」
手札:2
場:【トゲアント】LV1
【テントモン】LV1
バースト:【有】
彼の場の端に、所謂罠カードであるバーストカードが裏側で現れた。しかし、アタックはできたものの、これも戦略のうちか、それ以降はこのバーストカードをセットするだけで何もせずそのターンをエンドとした。
次は再びアスラのターン。勝ちに行くためにターンシークエンスを進行させて行く………
[ターン03]アスラ
「メインステップ!!オレは2体目のドラゴンヘッドをLV2で召喚!!」
ー【ドラゴンヘッド】LV2(2)BP2000
アスラの場に2体目のドラゴンヘッドが飛翔する。
「こちとら初めてのカラー戦だ!!すっ飛ばしていくぜぇぇー!!……アタックステップ、いけシャムシーザー!!」
「………トゲアントでブロックや」
地面を這ってヘラクレスのライフへと進行するシャムシーザー。それを阻むかの如くトゲアントが前方に立ち塞がるが………
「BPはシャムシーザーの方が上だァァァー!!!」
シャムシーザーはトゲアントに噛み付く。トゲアントはダメージに耐えられず、破裂して場から消え去ってしまった。
………だが、ただでは転ばない。
「トゲアント破壊時効果、ソウルコアが置かれている時、ボイドからコア2つを追加するで」
「!?」
流石にこれは計算のうちだったか、ヘラクレスのリザーブにコアがさらに追加された。
「だけどここで尻込みするオレじゃねぇぇえ!!……行け、ドラゴンヘッド!!」
「バカ!!また何の考えも無しに………」
止まる事を知らないアスラ。ドラゴンヘッド1体でさらに追撃を仕掛ける。余りの計画性の無さにエールは呆れる。
「………ライフや………っ!」
〈ライフ5➡︎4〉ヘラクレス
上空から繰り出されるドラゴンヘッドの体当たりがヘラクレスのライフを1つ砕く。ヘラクレスのリザーブにさらにコアが追加されると共に、今度は事前に伏せられていたバーストカードが勢い良く反転して………
「バースト発動、手裏剣大地!!」
「!?」
「この効果でさらにコアを1つ追加し、配置!!」
ー【手裏剣大地】LV2(2)
反転するバーストカード。その時、ヘラクレスの背後に巨大な手裏剣の形をした大地が出現する。
「配置時効果。回復状態のドラゴンヘッドを疲労」
「っ!?」
その場で風車の如く回転して行く巨大手裏剣。そこから育まれる風がアスラの残ったドラゴンヘッドを疲労状態へと追い込んだ。
「くっ、これじゃアタックできねぇ………ターンエンドだ」
手札:2
場:【シャムシーザー】LV1
【ドラゴンヘッド】LV2
【ドラゴンヘッド】LV2
【ミラーワールド】LV1
バースト:【無】
全てのスピリットが疲労状態、完全にアタックを封じ込まれてしまい、そのターンをエンドとすしてしまうアスラ。次はカラーリーダーのヘラクレスのターンだが…………
(………なんやコイツ……大口叩く割には全然大した事ないやんけ…………アホくさ。こんなつまらんバトルさっさと終わらせよ)
そんな事を心の中で呟いていた。ソウルコアが使えないと言うからどんなバトルをするかと期待していたようだが、さっきのアスラの軽はずみなアタックのプレイを見て落胆してしまったのが明らかに見て取れる………
[ターン04]ヘラクレス
「メインステップ……もうええわ、さっさと終わらせてエールちゃんとデートしよ」
「しないわよ!!」
「まぁまぁ、そうお硬い事言わさんなって…………ほな、召喚するで………アトラーカブテリモン!!」
ー【アトラーカブテリモン】LV2(3)BP13000
「!!」
地中より地響きと共に現れたのは赤き一角を持つ甲虫型、完全体スピリット、アトラーカブテリモン。ヘラクレスのデッキにおいてのメインアタッカーである。
「さっき召喚した奴!!」
「あぁそうや。ブサイクの割には物覚えがええな」
「だから誰がブサイクだぁぁー!!」
「ふふ、アトラーカブテリモンの召喚時効果、疲労状態のスピリット2体を手札に戻す……ドラゴンヘッド2体や」
「なにっ!?」
軽くアスラを煽りながら、ヘラクレスはアトラーカブテリモンの効果を発揮させる。赤き一角から放たれた稲妻の衝撃がアスラのドラゴンヘッド2体をデジタルの粒子へと変え、手札へと強制帰還させた。
「スピリットが2体も手札に戻った!?」
「驚くのはまだ早い、アタックステップ、アトラーカブテリモンでアタックするで!!………そしてこの時にも全く同じ効果が発揮される」
「!?」
颯爽と駆け出すアトラーカブテリモン。その瞬間にも赤き一角から稲妻が迸り、今度はシャムシーザーが強制的にアスラの手札へと帰還してしまう。
「次はライフや!!」
「っ……仕方ねぇ、ライフだ!!………っ!!」
〈ライフ5➡︎4〉アスラ
飽くまでアタック時効果であるため、アトラーカブテリモンの継続された本命のアタックがアスラを襲う。赤き一角による刺突がそのライフ1つを貫いた。
「まだ終わらんで!!アトラーカブテリモンのLV2効果!!……バトル終了時、完全体スピリット1体につきライフ1つを破壊する!!」
「!!」
「いまはこのアトラーカブテリモンが1体、よって追加で1ダメージや!!」
「ぐっ、ぐぁっ!?」
〈ライフ4➡︎3〉アスラ
アトラーカブテリモンの一角から放たれる赤い電撃が今度はアスラ自身を襲う。そのライフはまたしても砕け散って………
「最後はテントモン、かましたれぇ!!」
「っ……ライフだ!!……ぐっ!!」
〈ライフ3➡︎2〉アスラ
テントモンが翅を広げアスラの元へと飛翔する。勢い良くライフへと体当たりし、それをさらに砕いた。
「エンドステップ、手裏剣大地LV2効果、アトラーカブテリモンとテントモンを回復。……これでエンドや」
手札:2
場:【アトラーカブテリモン】LV2
【テントモン】LV1
【手裏剣大地】LV2
バースト:【無】
手裏剣大地の巨大手裏剣が回転する。そこから育まれる風は、今度はアトラーカブテリモンとテントモンに今一度活力を与える。
「……すごい……まるで隙が無いじゃない……」
ここに来て初めてエールがヘラクレスに称賛の声を上げた。確かに隙が無い。アスラのライフを大きく削ぎつつ、回復により次のターンの防御も完璧。流石はカラーリーダーと言える。
「終わりやな。オマエの手札にあるスピリットじゃワイのアトラーカブテリモンには勝てん………」
圧倒的な実力差を見せつけ、勝ちを確信するヘラクレス。だがアスラは………
「へへ、流石カラーリーダー……面白くなって来たな!!……オレのターンだぜ!!」
(??……なんやそのえらいたっぷりな自信は)
ヘラクレスが思っていたよりも全くこのバトルを諦めてはいない。寧ろ余裕の表情をしていた。その溢れる自信を感じたヘラクレスは僅かな違和感を感じる。
それは次のターンでアスラが呼び出すスピリットが全てを教えてくれて………
[ターン05]アスラ
「メインステップ!!……手札に戻ったドラゴンヘッド2体とシャムシーザーをもう一度召喚!!」
ー【ドラゴンヘッド】LV1(1)BP1000
ー【ドラゴンヘッド】LV1(1)BP1000
ー【シャムシーザー】LV1(1)BP2000
アトラーカブテリモンの効果によって手札に戻されていたスピリット達が次々と復活を果たしていく。そして、アスラは『真打登場』と言わんばかりの顔つきで手札のカードをさらに引き抜いて………
「仮面ライダー龍騎を召喚!!」
ー【仮面ライダー龍騎】LV2(2)BP4000
「なに!?…ライダースピリットやと!?」
「龍騎は効果によって手札とデッキに戻らない!!…アトラーカブテリモンの効果は効かないぜ!!」
「…………!!」
アスラは赤きライダースピリット、龍騎を召喚する。その際に召喚時効果が発揮され、対象カードのサーチを行うが、今回は対象カードは無し。全て破棄される。
流石のヘラクレスもまさかアスラの切り札がライダースピリットだとは思ってもなかった事だろう。何せ………
(変や………『ライダースピリット』や『デジタルスピリット』のデッキっちゅうのは最終進化の段階までには必ず『ソウルコアの力を必要とする』………どんな病気か知らんけどもソウルコアが使えない奴なんかにライダースピリットが宿るわけない)
そう、ヘラクレスが考えている通り………
普通はソウルコアが使えないアスラなんかにライダースピリットが宿るなんて事は先ず考えられないし、あり得ない。可能性があるとしたら龍騎が特別なのだ。ソウルコアが使えないアスラだからこその理由があったのか………
それはまだ誰もが未曾有の謎であって………
「ミラーワールドのLVを2に上げ、マジック、ストライクベント発揮!!………BP8000以下のスピリット、テントモンを破壊する!!」
「!?」
龍騎が腰にあるベルトに装着されているカード束から1枚引き抜き、それを左手の龍の頭部を象ったバイザーへと装填。
すると……
……『ストライクベント!』
という無機質な音声と共に、龍騎の右腕に赤い龍の頭部を模したガントレットのような武器が取り付けられる。
龍騎はその右腕をテントモンへと向け、龍の口から爆炎を放つ。勢いよく放たれたそれはテントモンを瞬く間に包み込んで焼き尽くした。
「追加効果でカードをドロー!!……でもってアタックステップ!!…行け、龍騎!!」
「バカか!!たかがBP4000のスピリットで特攻やと!?…アトラーカブテリモンで踏み潰して………」
「ミラーワールドの効果!!」
「!?」
「龍騎がアタックした時、デッキの上からカードを1枚オープンできる。それがアドベントカードならノーコストで発揮する!!」
ヘラクレスの威勢を遮るようにネクサスカード、ミラーワールドの効果を発揮するアスラ。デッキからカードが1枚オープンされる。そしてそのカードはアドベントカードの一種『ファイナルベント』………
「っしゃぁ!!…これを発揮!!…効果によりアトラーカブテリモンを破壊し、龍騎のシンボルを赤の2つにする!!」
「はぁ!?…なんやと!?」
龍騎が再び腰のベルトからカードを1枚引き抜き、左手のバイザーにそれを装填…………
………『ファイナルベント』!!
と、また無機質な音声が流れた……
龍騎の背後に赤き龍が身体を唸らせ、咆哮を上げながら現れる。龍騎はそれと共に上空を跳び上がる。そしてそのまま赤き龍の火炎弾に背中を押されながらアトラーカブテリモン目掛けて跳び蹴りをぶちかました。アトラーカブテリモンはその跳び蹴りに強固な甲殻を貫かれ、堪らず爆発四散してしまう。
「ぐっ!?……ぐおぉぉぉぉ!?!」
〈ライフ4➡︎2〉ヘラクレス
アトラーカブテリモンの爆発の余波がヘラクレスを襲う。それだけでそのライフが一気に2つも砕け散った。
「っしゃぁ!!…これで一気に形成逆転!!」
(なんや……何された??…ライダースピリットとは言え、たかがコスト3のスピリットが場を一掃するばかりかライフ2つ破壊するやと!?…いや、あいつだけやない。専用のマジックとネクサスもあってこそか………)
形成逆転に歓喜するアスラ。そして今のこの状況を分析するヘラクレス。
彼にとっては予想がつくわけもなかった事だろう。あのコモンで、ソウルコアも使えないような奴がまさかライダースピリットを召喚するどころか自分が作り上げた盤面を一掃し、一気に追い詰めて来たのだから………
並大抵のカードバトラーならアスラの強さに恐れ慄くはずだ。しかし、この緑のカラーリーダー、ヘラクレスは………
「ふ、ふふふ…ハッハッハッハ!!」
「!?」
「前言撤回!!!……ええなぁ!!オマエ、おもろいわぁ!!…今年の新人でワイを唸らせたのはオマエで『2人目』やで!!」
逆に気が狂ったように笑い出した。しかし、その声色から感じられるのは明らかな闘争本能。つまり、アスラは彼を本気の中の本気にさせた事になる。
「なんか本気になったっぽいけどもう遅ぇ!!…このターンで決める!!……ドラゴンヘッド!!」
そうだ。ヘラクレスの闘争本能が剥き出しになったとは言え、今はまだアスラのターン。このターンで決めて仕舞えば恐れるものは何もない。
ドラゴンヘッド2体のうち1体が翼を広げ、飛翔するが………
ヘラクレスはその動きに合わせるように手札からカードを1枚引き抜いて………
「フラッシュアクセル!!…六刃騎士ムツバセイボウ・A!!」
「!!」
「効果によりシャムシーザーを疲労!!…その後コスト3以下の疲労状態のスピリット2体をデッキ下に戻す!!…アタック中のドラゴンヘッドと疲労させたシャムシーザーをデッキに叩き込んでやるで!!」
「なにィィィー!?」
アタック中のドラゴンヘッドとシャムシーザーが緑の光を纏ったかと思えば、その力によりデジタル粒子へと変換されてしまい、アスラのデッキ下へと叩き込まれてしまった。
「やっぱな。手札とデッキに戻らんのはその赤いライダースピリットだけか」
「くっ……だけどまだドラゴンヘッドはもう1体残ってるぜ!!……いけぇ!!」
この程度ではまだ諦めない。アスラは勢いを殺さず、残ったドラゴンヘッドでもヘラクレスのライフ破壊を試みるが…………
「フラッシュ!!手元に置かれたムツバセイボウの効果!!…コストを支払い、手元から召喚する!!……そんでもってドラゴンヘッドのアタックをブロックや!!」
「!?」
ー【六刃騎士ムツバセイボウ・A】LV1(1)BP3000
ドラゴンヘッドの道を阻むように現れたのは系統殻人を持つ緑のスピリット、ムツバセイボウ・A。その4本の腕にそれぞれ握られた4本の剣でドラゴンヘッドを串刺しにした。ドラゴンヘッドは堪らず爆発してしまう………
「そんな……アスラのスピリットが尽くやられて行く……」
「むえ〜〜」⬅︎悲しみ
気がつけばアスラの場には龍騎ただ1人………有利だった状況が次々と覆されるのを見て、そう呟くエール。その手に抱かれているムエも悲しそうな鳴き声を上げた。
「ほら、どないした??…さっきまでの勢いはどうしたんや??……『頂点王』になるんやなかったんか??」
「くっ………ターンエンドだ」
手札:2
場:【仮面ライダー龍騎】LV2
【ミラーワールド】LV2
バースト:【無】
「ターンエンドぉ!?…どうしたどうした??……もっとワイを楽しませろや!!」
「何なのよあいつ……さっきから人が変わったみたいに」
龍騎以外のスピリットを全て消され、一気に劣勢に立たされたアスラはそのターンをエンドとせざるを得なかった。
この国の緑のカラーリーダー。トーマ・ヘラクレスは女好きで有名だが、自分が強いと認めたカードバトラーに出会すと目の色を変え、一種の戦闘狂になってしまう。現に今回もアスラの強さを認め、死力を尽くしたバトルスピリッツをとことん満喫しようとしている。それが彼がこのカラーリーダーと言う職務を全うしている理由でもあった。
[ターン06]ヘラクレス
「メインステップ……マジック、ハンドリバース〈R〉!!…効果で残りの手札を捨て、オマエの手札と同じ枚数ドロー……さらにコストの支払いにソウルコアを使った事により、それより1枚多い枚数のカードをドロー!!」
ヘラクレスはメインステップ早々に緑特有の相手依存のドロー型カードを使用して来た。これにより、残りの手札全てを犠牲にする事で、アスラの手札の枚数+1枚のカードをドローした。
「そして、2体目のアトラーカブテリモンを召喚!!」
ー【アトラーカブテリモン】LV2(3)BP13000
「っ!!……2体目!!」
「ワッハッハッハ!!……強いカードは複数枚積むもんやろ!!」
ヘラクレスの場の地中から飛び出してくるのは、このバトル2体目となるアトラーカブテリモン。そこから鳴り響く甲高い奇声はまさに絶望の雄叫びとも喩えられて………
「アタックステップ!!アトラーカブテリモンでアタック!!……まさか効果は忘れちゃいないやろな!?」
「っ……ライフを追加で破壊する……」
アスラのライフは残り2つ。既にアトラーカブテリモンの一撃で沈むラインまでたどり着いている。つまり何もなければこの一撃でゲームエンドだ。
「ワッハッハッハ!!クタバレやブサイク!!」
「……アスラ!!」
エールがピンチになったアスラの名を叫ぶ。その時、アスラは反射的に手札にある1枚のカードを抜き取って………
「フラッシュマジック!!…『ソードベント』!!」
「!!」
龍騎が再び腰にあるベルトからカードを1枚抜き取り、それを左手のバイザーに装填した。
……『ソードベント!!』
と、無機質な音がそこから発せられると、龍騎の手に龍の尾を象った柳葉型の剣が装備される。
「ソードベントの効果!!龍騎のBPを5000上げ、スピリットのコア2つをリザーブに置く!!……龍騎、アトラーカブテリモンのコア2つをリザーブへ叩き込め!!」
「っ!?……コアを!?」
龍騎はその剣を手に、地を蹴って勢い良く駆け出した。狙った先はアトラーカブテリモン。豪快な剣技でその中に眠るコアを弾き飛ばして見せた。
「どうだ!!これでLV1!!……アトラーカブテリモンのライフを破壊する効果は発揮されないぜ!!」
アスラの言う通り、これにより、アトラーカブテリモンのLVはダウン。バトルの終了時にライフを追加で破壊する効果は消え失せて………
「だが!!効果消したくらいでいい気になんなや!!…どちらにせよアトラーカブテリモンとムツバセイボウのアタックで2つライフを破壊できる!!」
そう、別にアスラの敗北の危機が完全に去って行ったわけでもない。「一撃でやれないなら二撃で決めるまで」……そう言わんばかりの姿勢を見せるヘラクレス。
しかし、アスラもその姿勢に負けじと手札にある最後のカードを引き抜いて………
「フラッシュマジック、ファイアーウォール!!」
「!?」
「この効果により、龍騎を破壊し、このバトルでこのターンのアタックステップを終了させる!!」
龍騎は今一度ベルトからカードをドローし、その1枚をバイザーへと装填…………
………『アドベント!!』
と、また無機質な音声が流れたかと思えば、龍騎は真っ赤に燃え滾る炎の中へと姿を消していき、新たに全長6メートル程はある赤き龍が場へと出現した。
「そのアタックはライフで受ける!!……ぐうっ!!」
〈ライフ2➡︎1〉アスラ
アトラーカブテリモンが赤き一角を活かした突進でアスラの残り2つのライフのうち1つを砕く。
「ファイアーウォールの効果発動!!……このターンのアタックステップは終わりだァァァー!!!」
赤き龍がアスラを守るかのようにアトラーカブテリモンを長い尾で弾き飛ばした。おそらくこのターン内では何をしようともこの赤き龍がアスラの身を守る事であろう………
「ほぉ?……よく凌いだな。……ワイはこれでエンドや………さぁ、まだクタバらんのやったらもっと見せろや!!オマエの力を!!」
手札:2
場:【アトラーカブテリモン】LV1
【六刃騎士ムツバセイボウ・A】LV1
【手裏剣大地】LV2
バースト:【無】
致し方なくそのターンをエンドとした緑のカラーリーダー、ヘラクレス。手裏剣大地の効果でアトラーカブテリモンが疲労状態から起き上がった。そしてその宣言と共にアスラの場にいた赤き龍が姿を眩ましてしまう。
次はアスラのターン。
その手札はヘラクレスの猛攻を凌ぎ切るために使い果たし、今や0枚。片やヘラクレスの場には強力なスピリットを含めた合計2体のスピリット。
崖っぷち。絶対絶命の状況。普通のカードバトラーなら先ず諦め、サレンダーでこの場を終わらせてしまうであろう………
ただ、このアスラは………
「諦めねぇ!!カード達が繋いでくれたこのターンを無駄にはしねぇぇ!!」
「………アスラ……!!」
「おぉ、熱い……ゾクゾクするで……やっぱオマエ、ええなぁ!!……さぁ!!早くしろ!!」
未だにその燃える闘志は冷めてはいない。再びアスラの逆襲のターンが幕を開ける…………
「オレのタァァァァーン!!!」
[ターン07]アスラ
「ドローステップ………ドロォォォー!!!」
アスラの勝利を信じた全身全霊のドロー。
そのカードとは………
「メインステップ!!……へへ、強いカードは複数枚積むんだよな?」
「っ……まさか……」
「あぁ、そのまさかだ!!……オレは、2体目の龍騎を召喚!!」
ー【仮面ライダー龍騎】LV2(2)BP4000
ニヤリと口角を上げるアスラ。そしてこの場に2体目の龍騎を呼び出して見せる。
圧倒的な引きの強さ、豪運………いや、幼き頃から血の滲むような努力を積み重ねて来たアスラだからこそできたドローと言っても過言ではない。
「召喚時効果!!カードをオープンし、アドベントカードを加える…………よし、オレは『ソードベント』を加えるぜ!!」
召喚時効果も見事に成功させ、これまた2枚目となるソードベントのカードを手札に加えた。
「さらにこれを発揮!!……龍騎のBPを5000上げ、ムツバセイボウ・Aのコア2つをリザーブに置き、消滅させる!!」
ー【仮面ライダー龍騎】BP4000➡︎9000
「くっ!?」
ソードベントの力により、再び柳葉型の剣を手にした龍騎がムツバセイボウへと攻め寄り、豪快な剣技でその中にあるコアを弾き飛ばした。全てのコアを失ったムツバセイボウは堪らず消滅してしまう。
「アタックステップ!!……行け龍騎!!………でもってミラーワールドの効果!!……カードをオープンし、アドベントカードならノーコストで発揮できる!!」
「っ……そう何度も来るわけ………」
そうたった1枚しかオープンできないネクサスの効果。捲れるわけがない。
しかし………
アスラのデッキからオープンされたのは、これまたこのバトル中2枚目となる『ファイナルベント』のカードであって………
「なんやとっ!?」
「っしゃぁ!!…これを発揮!!……アトラーカブテリモンを破壊し、シンボルを追加!!」
今回で何度目だろうか………龍騎はベルトからカードを1枚抜き取り、それを左腕のバイザーに装填。
……『ファイナルベント』!!
と、無機質な音声が流れ、龍騎の背後へ赤き龍が身体を唸らせ、咆哮を張り上げながら出現した。
「これで最後だ、ぶちかませぇぇぇー!!!………ドラゴンライダーキックッッ!!」
龍騎はその赤き龍と共に上空へと跳び上がり、その赤き龍の口内から放たれる火炎弾に背を押され、ヘラクレスのアトラーカブテリモンに跳び蹴りをかます。
「ワイのアトラーカブテリモンが一度ならず二度までも!?……まるでデッキがこいつに勝たそうとしてるような………スーミ村のアスラ………ほんまオマエおもろいやんけぇぇぇえ!!!」
貫かれる強固な甲殻。アトラーカブテリモンは力付き、その場で大爆発を起こした。ヘラクレスはこの瞬間、敗北を確信しながらもアスラというカードバトラーを心の底で認めていて…………
「ぐっ………ぐぉぉぉぉぉぉお!!!」
〈ライフ2➡︎0〉ヘラクレス
………ピー
アトラーカブテリモンの爆発の余波はヘラクレスのライフをも砕いた。その瞬間、彼のBパッドから敗北を告げる無機質な音が聞こえて来て…………
「ハァッ、ハァッ……どうだ、勝ったぞ!!……コモンでも、ソウルコアが使えなくても、カラーリーダーに……勝ったぞぉぉおお!!!」
勝者はアスラだ。全力を出し切っての勝利に満身創痍ながらも精一杯腹の底から歓喜の声を上げた。
頂点王になるために何年も積み重ねてきた努力。それが今この場で報われ始めているのだと心より実感したのだ。
(アスラ、ホント、ムチャクチャなヤツね………馬鹿で、うるさくて、チビで、コモンで…………けど、なんかすごいヤツ………)
その様子を終始見届けたエールは内心でそう考え、少しだけ頬を赤く染めた。コモンの身分だが、カラーリーダーの強さに臆す事なく、何の迷わずデッキだけを信じて突き進む小さな勇姿を不本意ながら認めていた事をこの瞬間より改めて認識して…………
「へへ、ほらよ!!」
「!?」
一息ついたヘラクレスが懐から1枚のカードを取り出して、それをアスラに投げつける。アスラはそれをキャッチするなり凝視してみるが、特に何の変哲も無く、バトスピカードでも無い普通の緑色で塗りつぶされたカードだった。
ただ、普通に見えるのは外観だけ、その正体は………
「あげるで、このワイ、緑のカラーリーダーであるヘラクレスに勝利した証、『グリーンカード』や!!」
「っ!!……お、おぉぉぉ!!!これ『カラーカード』だったんすかァァァー!!!……ありがとうございまァァァす!!一生大事にしまァァァーす!!」
「えぇバトルやった。夢はあいつと同じ『頂点王』やったな。頑張りや」
「ハイィィィー!!…頑張りま………って、『あいつと同じ??』」
カラーリーダーに勝利した証、カラーカードを受け取ったアスラ。それと同時にカラーリーダーであるヘラクレスにテンドウ同様認められた事を感じ取り、その心を喜びで満たす。
が、ヘラクレスの『あいつと同じ』と言う言葉がつい頭の中で引っかかってしまい………
「あぁそうや。オマエと同じコモンの奴が今日オレをぶっ飛ばしよった。あのバトルも滾ったなぁ、ホンマ!!………名前は『ロン』とか言っとったな」
「っ!!……ロン!!」
ヘラクレスの言葉により、アスラはロンに先を越されていた事を理解する。
「あのイケメン天才ヤロー!!……オレは必ずオマエに追いついてやるからなァァァー!!!……でもってオレが先に頂点王になるッッ!!」
アスラは幼馴染みであるロンの躍進を聞き、微笑ましく思いつつも、ライバルでもあるため、燃えるような闘争心をそのまま目標と共に言葉で表した。
「…………じゃあ、この後ワイは約束通りエールちゃんとデートを………」
「しないわよ!!」
「いや、そこを何とか!!」
「しかもあなた負けたじゃない!!」
バトルを行う前の性格に戻るヘラクレス。早速エールをナンパして行く。ただしあっさりと拒絶されてはいるが…………
「ん〜〜なんかよくわかんねぇっすけど、『デート』って言う奴??……オレがヘラクレスさんとしますよ!!」
「キショッッ!!…キモいねんオマエ、赤字タグ増やす気か!?」
「あかじたぐ??」
国の最果てにある村出身。つまり田舎者故、デートの意味がわかっていないアスラ。ヘラクレスはそんなアスラの誘いを全力で断って………
「オマエはえぇよなアスラ!!……毎日こんなカワえぇエールちゃんとデートできるんやから!!」
「!!」
「え??そんなに直ぐできるモンなんすか!?」
ヘラクレスのデリカシーの無い発言に、エールは思わず顔を真っ赤に染め上げる。
「だ、誰が………」
「ん??」
「誰があんたなんかとデートするかァァァー!!!」
「ギャァァァ!?!」
問題のある発言をしたのはヘラクレスの方だが、エールは思わずアスラの方を全力でぶん殴ってしまった。
「オレ………何もしてないんですけど………」
力尽きたアスラは地面の感触を肌で感じながら、エールに対する精一杯の愚痴を零すのであった…………
《キャラクタープロフィール》
【ムエ】
性別:メス?
全長:40cm
鳴き声:むえ〜
好きなモノ:コロコロ転がる、ツッテケテー、アスラの髪あむあむ
概要:全てが謎に包まれたオレンジ色のアホ毛小動物。犬なのか猫なのかよくわからない特徴があるが、何故か大抵の登場人物は犬だと言い当てる。「むえ〜」としか口にできない。アスラの頭の上が定位置。見た目と仕草等含め、全ての『カワイイ』が詰まっているため、エールのお気に入りである。
《用語設定》
【カラーリーダー】
この国に存在する6人の凄腕カードバトラー。彼らに勝利した証である『カラーカード』を6枚集める事によって三王に挑戦する事が可能となる。因みに、カラーカードは売ればお金になる。それが目的の挑戦者も多い。ただし逆に購入する事はできない。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!!