オニキスは過去を振り返っていた。
時は17年前、彼が異世界、黒の世界のとある遺跡に幽閉されている際に『キョーラ・ギア』と言う女性と出会った時まで遡る…………
「ねぇねぇ!…オニキスってさぁ、ずっとここで普通に一人暮らし?」
「うるせぇ。つーか手足を鎖で縛られてるこの姿のどこに普通に暮らしの要素がある」
好奇心が余りにも旺盛であるキョーラ。とてもではないが妊娠1ヶ月とは思えない。
「鎖ね〜……あ、お腹空いてんじゃない?…サンドイッチ食べる?」
「要らねぇ」
「遠慮すんなって、オレが食べさせてやるからさ〜。こんな美人に「あ〜ん」してもらえるなんて早々ないぞ?」
キョーラ・ギアと言う女性は兎に角明るかった。その太陽のような眩しさをオニキスは毛嫌いしていた。
最初のうちは…………
「オマエ、結局のところ何しに来たんだ?……ギアの一族なんだろ?……オレ達ブラックフォースに今度は何しようってんだ?」
「ん?」
何千年も昔の事、オニキス達ブラックフォースはキョーラ・ギアの子孫であるギアの一族にここ、黒の世界へと幽閉され、今のこの状況がある。
オニキスはその子孫たるキョーラが姿を見せた事から、また何か自分達に危害を加えるのではないかと警戒していたが…………
「別になんもしないよ?……ただオレはブラックフォースがどんなんだろうって見に来ただけだ。村のみんなには盛大に反対されるだろうけど」
「なに?」
キョーラは妊娠中の暇潰しに旅をしていて、その道のりで伝説となっていたブラックフォースに会いに行っていただけ。一族間でその行為は禁じられていたようが、好奇心故に彼女はパンドラの箱へと飛び込んだのだ。
ただ、彼女は仮にも自分達を別世界に幽閉した子孫。オニキスが彼女の言葉を信じられるわけがなく………
「惚けるな!!…今度はオレの力でも奪おうってのか!?」
「だから何もしないって………困ったな」
どうやったら信じてもらえるのだろうとキョーラは考え込む。
するとある一つの解決策が頭に浮かんで来て………
「よし。じゃあ切ろうか」
「あぁ?……何をだ?」
「ふっふっふ、無論その鉄の鎖さ。このチェーンソーで!!」
「ッ……オマエ、今どっからそんなモン出しやがった!?」
「細かい事はいいんだよコレ小説だからァァァー!!」
「バカ、やめろ、こんな狭いとこで振り回すな………う、うぉぉぉぉ!!?」
どこからともなく取り出したチェーンソーに電源を入れ、振り回し、オニキスの鎖を切断し始めるキョーラ。
そして何千年も経過した故に錆び付いていた鉄の鎖、ブラックフォースの封印の印を、彼女は凄まじく強引に断ち切って見せて…………
「っしゃぁ!!…これで完了だな!…どうよ久し振りの動く手足ってヤツは!」
「………」
「これで少しは信用してもらえたかな?…流石にちょっと可哀想だったもんね!」
唖然とするオニキス。残忍な特徴を持つブラックフォースである自分が思うのもアレだが、余りに狂気じみたモノをキョーラから感じた。
コレ程のバカは見たことがない。自分達の一族が必死こいて封印した自分を解放するなど…………
「オマエ……バカじゃねぇのか!?……オレはブラックフォースだぞ!?」
「え?…知ってるけど?」
「ブラックフォースはみんな残忍で、クズで、人の不幸や悲しむ姿を見て喜ぶような連中しかいないんだぞ!?……なんで助けた、そんなオレを!?」
ブラックフォースは皆悪魔じみた強さを持っていた。黒の力を用い、世界を混沌の渦に巻き込んだ。
オニキスもまた大勢の人達を傷つけてきた。そんな自分がまさか人間に、しかも自分達を封印したヤツらの子孫に助けられるとは思ってもいなかった事だろう…………
「そんなのオレが助けたかったからに決まってる。それに、ブラックフォースの全員がクズ野郎とは限らないだろ?」
「ッ………」
「つーわけでオレと友達になってよオニキス!!…オレ今、世界中を旅してるからさ、丁度話し相手が欲しいと思ってたんだよね〜!………あ、サンドイッチ食う?」
オニキスが触れたのはキョーラの底なしの器の大きさ。差し伸べられたその手は誰よりも暖かった…………
「………つーかサンドイッチってなんだよ」
「え?……サンドイッチも知らないの!?…美味しいぞ〜」
こうしてしばらくの間、ギアの一族の末裔キョーラ・ギアとブラックフォースのオニキス、2人の黒の世界を回る奇妙な冒険が幕を開けた…………
******
最初のうちはオマエを背後から殺してやろうと思った。
何てったってオマエはオレ達をこの世界に幽閉した一族の末裔なのだからな。
だが、信じられねぇくらい無邪気でどうしようもなく無垢なオマエと色んな所を回っていくにつれてそれが段々馬鹿らしくなって来ちまった。
奴らの子孫に復讐して何になる………
そこまで思い至ったらオレはオマエのことを好きになっちまってた。どうしようもなくな…………
勘違いするな。いわゆる恋愛とか、異性だからとか、そう言うモノじゃねぇ………
生まれて初めて、家族のような温かみをオマエから感じていたんだ………
だから、オマエの腹からガキが産まれた時は、それなりに嬉しかったよ………
******
共に旅をするようになってから早数ヶ月後のとある日の事、オニキスとキョーラが歩みを進めていく中、男の子だろうか、キョーラが抱く赤ん坊が大きな泣き声を上げる。
「………おい、テメェのガキうるせぇぞ」
「まぁまぁいいじゃねぇか、可愛いだろ〜〜!」
「………ハムみてぇ」
「食うなよ!?…オレの子供だぞ!?」
キョーラは反射的に赤ん坊をオニキスの側から背ける。そんな彼女をオニキスは鼻で笑う。
その様子からして、2人があれ以降相当打ち解けている事が容易に理解できる。
「ソイツの名前、どうすんだ?」
「あ〜〜…まだ考えてないんだよね〜…どうせなら贅沢でカッコいい名前が良いよな。『ライジングアポロ』とか『ロードバゼル』とか『シャイニングアーク』とかどう?」
「………悪い事は言わねぇからそれだけはやめとけ」
オニキスはキョーラのネーミングセンスの無さに呆れる。仮にも息子に付ける名前ではない。成長したら周囲の子供に虐められるのが目に見えるようにわかる。
「え〜…良いと思うけどな〜……あ、もうすぐ村に着くよ」
「……そうか」
オニキスとキョーラは今現在『ギアの一族の村』に向かっていた。そこは当然ながらキョーラの生まれ故郷であり、人間が住んでいる村は黒の世界ではそこしかない。
因縁のある一族の村。キョーラとは仲良くなれたとは言え、みんながみんなそうであるとは限らないだろう………
オニキスは自分の存在でキョーラが一族から追い出されてしまうのを懸念していて…………
「本当にいいのか……オレなんかがギアの一族の村に……多分一発でブラックフォースだとバレちまうぞ。場合によっちゃオマエ、村を追放されるぞ?」
「いいよ。そん時はまたオマエと旅をしたらいい!……あ、息子もな!」
「!」
「ねぇ知ってるか?……この世界ともう一つの世界を繋ぐゲートの話。しかもそのゲートの先には沢山人間がいるんだと!!……いつか成長した息子と3人でそこを潜ろうな!!」
「ゼゼゼ………あぁ」
キョーラと言う人間がとてつもないほど前向きな人間である事を再認識するオニキス。何千年も幽閉されてしまっていたが、おそらく自分はこの人間と会うために生きていたのだろうと心の底から思う事ができる………
とても幸せだった。
家族の心地よさはどうしようもなく居心地が良かった。
だが、それは幽閉された時のように、長くは続かなかった…………
ー………
「こ、これは……!?」
「ウソ……村が……!?」
目の前には信じられない光景が広がっていた。
ギアの一族の末裔が住う村、その全てが烈火の如く、まるで天罰でも喰らったかのように燃え盛っていたのだ。
誰が火をつけたのかは定かではないが、この時、キョーラの頭の中に過ったのは大事に思っている村のみんなの数々………
咄嗟に「助けなければ」と思い浮かべると、勝手に身体は動いていた………
「オニキス、息子を頼む!!」
「ッ……おい、どこに行く気だ!?」
「そんなの決まってる!!……助けに行くんだよ村のみんなを!!」
「バカかテメェ、焼き殺されてぇのか!?……行くならオレが行く、ブラックフォースは死なねぇ」
「バカはテメェだろ!!……これ以上仲間や友達を焼き殺されてたまるか!!」
「ッ……!!」
ブラックフォースのオニキスでさえも威圧するキョーラの強い気迫。それは間違いなく大昔に自分達を封印したギアの一族のソレであった。
しかし、そんなオニキスもキョーラにとっては今では仲間友人家族、又はそれ以上………
危険な目に遭わせるわけには行かない。そう思い、無理矢理でも自分一人で火の海の中に飛び込んで行った………
ー………
「クソ……クソッ!!……誰か、誰か生きてるヤツはいないか!?」
火の海と化した村の中を走り回っているキョーラ。途中何度も村の人間を見て来たが、それらは皆既に亡き者にされていた。
しかも火事の火に焼かれたのではなく、身体に穴を開けられた状態でだ。
これ即ち他殺。
間違いなく誰かがこの村を襲ったのだ………
「許さねぇ……誰がこんな事……!!」
村のみんなとの思い出が蘇り、珍しく怒りに顔を歪めるキョーラ。
そんな中、その村の皆を殺して回った、そして火をつけた者達と遭遇する。
「ん?……ジジジ、ねぇオブシディアン、シャーマン、まだ殺してないヤツいたよ〜……いい?…いいよね僕が殺しても♡」
「ズズズ……待てよヘタマイト、順番的に次はオレ様だろ」
「ザザザ………美しい女性ではないか、もったいないな〜」
「オマエら、その姿まさかブラックフォース……!?」
そう。村に火をつけ、村人達を殺人しながら歩き回っていたのは他でもないブラックフォースのオニキスを除いた3体。
「ザザザ……だとしたらなんでしょうギアの一族、その最後の生き残り………苦労したよ、自力で封印を解き、オマエ達をなぶり殺しに行くまでね」
「ッ……最後の生き残り……!?」
「ジジジ……そうそう、君以外は全部壊しちゃった!!……弱過ぎて特に面白くはなかったな〜」
「!!」
楽しみながら殺人を犯していたような発言をする3体に、キョーラは怒りに怒れ…………
「………お、オマエらァァァーーー!!!」
怒り狂い、無鉄砲に一番近くにいたブラックフォース、オブシディアンに突撃していくキョーラであったが…………
ー!!
「脆い。ここまで脆かったのか、ギアの一族とは」
「グ……グフ……ッ!」
オブシディアンの左手と右手はそれぞれキョーラの右肩と左腹部を貫いた。キョーラは視界が歪み、思わず吐血してしまう…………
紛れもなくそれは致命傷。もうキョーラは助からないだろう………
「あ、ズルいオブシディアンだけ最後の持っていて〜」
「ザザザ、すまないねヘタマイト。じゃあ最後は君が息の根を止めるか?」
「ちぇ〜…僕は万全な状態のヤツを殺すのが好きなんだけどな〜………ま、いっか!」
………オニキス……
血が流れ、死ぬ寸前のキョーラにトドメを刺そうと迫るヘタマイト。そんな中、キョーラは最後に一緒にいたオニキスと自分の息子の事を思い出していた…………
そして、その存在が、自分を救い出す…………
「キョーラァァァー!!!」
ー!!
「お、オニキス……!」
飛んで来たのか、上空から着地して来たオニキス。しかし、キョーラの現状を見て、ショックを受ける…………
「キョーラ……オマエ………!?」
「はは……オニキス、助けに来てくれたんだな……やっぱオマエは良いヤツじゃねぇか」
「バカ野郎、喋るんじゃねぇ!!」
彼らと他のブラックフォース達は実に何千年振りも呼べる再会だったが、キョーラを庇うような彼の行動に、他のブラックフォース達は疑問に思い…………
「ザザザ……オニキス、何千年振りだ?……オマエだけ封印されていた場所から姿を消していたから何事かと思っていたが、まさか人間と、しかもギアの一族の女とつるんでいたとはな」
「テメェオニキス!!……その女達がオレ達にした事を忘れたのか!?」
「そうそう。庇うなんてどうかしてるよねん♡」
「オレ達を封印したのはコイツの子孫だ、今を生きているコイツは関係ねぇだろうが!!……何千年前の話に恨み持ってやがんだ!!」
すれ違うブラックフォース達の意見。
オニキスとて、最初からギアの一族に恨みがなかったわけではなかったし、何なら今でも怨恨はある。しかし、それをやったのは昔のギアの一族であって、キョーラではない。
「まぁそう熱くなるなよオニキス。せっかくこうしてまた巡り会えたんだ。また仲間、又は同志として一緒に人間を殺しにいかないか?……今度はこんな暗い世界ではなく、表の世界に戻って」
「………バカ言えオブシディアン。オレはテメェらを仲間だと思った事はこれっぽっちもねぇよ………オレは、オレは許さねぇ……オレの家族をこんな目に合わせたオマエ達を!!」
「家族〜!!?!……ジジジ、本気でイカれたんだねオニキス!!…ギアの一族が家族だなんて〜!!」
「オマエらにイカれたなんて言われたくねぇ」
「だがどうする?……オマエは我らブラックフォースの中で最も脆弱な存在。そんな貴様だけで我らを倒せるとでも?」
「わかってる……だから今は……こうする!!」
ー!!!
次の瞬間、オニキスは手に黒き力を溜め込むと、全力で地面を叩く。すると地盤が歪み、崩壊。他のブラックフォース達を皆地の底へと落下させ、その隙に倒れるキョーラを抱えて一目散に逃げ出した。
「あ〜あ。オニキスマジだよ、本気と書いてマジの方。どうするオブシディアン?」
「ザザザ……まぁ良いよヘタマイト。あのギアの一族はもう長くはない。これで我らが恐れるものはなくなった。大人しく向かおうではないか、表の世界へと!!」
オブシディアンとヘタマイトは落下しながらも余裕の表情で会話を繰り広げる。本当はまだキョーラの産んだ子供が無傷である事に気づかぬまま、自分たちが表の世界へと向かう算段を始めた…………
ー………
そんな中、オニキスは片手にキョーラを、もう片方で赤ん坊を抱きながら燃え盛る村から全力で遠ざかっていた………
「キョーラ、おいキョーラ!!」
「そ、そう言えばオニキス……む、息子は?」
「大丈夫だ。一度置いていって、逃げる途中でまた拾って来た」
「そ、そっか。よかったよかった」
「よかねぇよ!!……オマエその傷じゃ………」
肩と腹を貫かれ、瀕死の重体に陥っているキョーラ。何故話せているのかも不思議なくらいである。
そしてそんな折、ブラックフォース同士が近づいた事によるモノなのかはわからないが、突然空間が渦を巻き、ゲートが開いた。オニキスとキョーラはその巨大な渦を見て唖然とするが、気が付いた………
それこそが表の世界と黒の世界を繋ぐゲートである事を………
「このゲートはまさか表の世界に繋がる………!?」
「………成る程、これはきっと神様の御命令ってヤツだな……………行こうオニキス。さっきの連中が追いかけてくる前に」
「ッ……バカ言え、こんな所に逃げれるか!!…ブラックフォースのオレは力が多少なくなるだけで済むが人間のオマエは……」
表の世界にいたオニキスはこのゲートの事を知っている。通り抜けただけで代償が働く事も…………
ただでさえ瀕死の重体であるキョーラが通ればどうなってしまうかは目に見えている。オニキスは彼女に死んでほしくないのだ。
「大丈夫。私じゃない。アンタと息子が守れれば、それでいいから………」
「!」
「よし。じゃあ行こうか………!!」
「おい、バカ……やめろ、やめろォォォーー!!!!」
最後の力を振り絞り、オニキスの制止を振り切り、彼ごと無理矢理そのゲートへと向かうキョーラ。その強い力に、オニキスは逆らえず…………
遂に3人はまるで吸い込まれるかの如く、凄まじい力の宿るそのゲートを通っていったのだった…………
******
「ナイトを託してすまない………オマエなら……オマエならきっと………」
舞台は移り変わり、およそ16年前の表の世界。パラパラと粉雪が降り積もる中、ゾン・アーサーは1人、当時0歳のロンにミラーライダーである仮面ライダーナイトのカードを託していた。
きっと彼なら仮面ライダーオーディンの魅力に取り憑かれた己の親友であるシスイ・メイキョウを正気に戻す事ができると信じていた。
だが、まさかこの瞬間にそんな事よりも遥かに重大な場面に遭遇してしまうとは思いにも寄らなかった…………
………ドゴォォォーーン!!!
「ッ………なんだ!?」
粉雪が降り続ける中確かに聞こえて来た鈍い音。ゾン・アーサーは息子であるロンを残し、興味本位ですぐさまその場へと向かう。
そしてそこには…………
「おいキョーラ!!……しっかりしろ、キョーラァァァー!!!」
「こ、これは……!?」
当時何も知らなかったゾンが目にしたのはなんとも不気味な光景だった。血塗れで倒れた瀕死の女性。その女性の片腕に抱かれている赤ん坊に加え、それらの周囲に散らばる黒い影…………
その黒い影とはおそらくオニキス。彼はこの世界では肉体がなくなり、実体を持つ事ができなくなるのだ…………
「へへ……まさかこんな形で憧れてた表の世界に来る事になるなんてな……でも無事でよかったよ……息子も、オニキスも……変な博打に付き合ってくれてサンキューな」
「バカ言え、テメェ………自分の命をすり減らしてまで………!!」
どちらにせよ。
黒の世界にいたままだと間違いなく他のブラックフォースに殺されるのを待つだけだった。この行動は命を残すためには正解であると言える………
ただ、どの道を選んだとしても、結局キョーラはもう助からない………
「なぁ、そこのお兄さん」
「!?」
「ここで会えたのも何かの縁だ。オレの頼み、聞いてくれよ……」
どこに目をつけていたのかは知らないが、ゾンの存在にも気が付いていたキョーラ。自分の頼みを聞くよう懇願する。
「この子を……頼む。うんっと強くしてやってくれ……私の分まで表の世界を堪能させてあげてくれ………」
「!?!」
「コイツバカなんだよ、だってこんな状況だってのに、寝てやがんだ。きっとオレ以上の大物になる………ごめんな。オニキスと一緒にもっと一緒にいてあげたかった………ごめんな………ごめんなぁ………!!」
生力を失いつつある弱々しい声色で涙を流しながら自分の抱いていた赤ん坊をゾンに授けるキョーラ。切羽詰まっている彼女からの頼みは、常識離れしたこの状況とも相まって、彼から断るという選択肢を除外させた………
戸惑いながらもその赤ん坊を受け取る…………
「………この子の……この子の名前はなんだ?」
「コイツの名前か………そうだな………」
そう言われ、咄嗟に今日と言う1日を思い出したキョーラ。こんな日は息子には忘れて欲しい………
そう思うと、一つの名前が浮かんで来た…………
どんなに過酷なキョーがあっても、アスだけを精一杯見続けて欲しい………
未来へ向かって、己の夢のために突き進んで欲しい…………
だから名前はアスラだ………
オマエの名前はアスラ・ギア…………
オレの大事な…………
息………子……
そこまで言い切ると、キョーラは力尽き、静かに息を引き取る。22歳と言う短い人生に幕が下りた…………
アスラとオニキスと言う最後の希望を残して…………
「あ……ぁぁぁあ!!!?!?!」
唯一無二に限りなく等しいキョーラを失い、気を保てなくなったオニキスは悲痛な叫びを上げる…………
「許せねぇ……オレは許さねぇぞブラックフォース……シャーマン、ヘタマイト、オブシディアン!!!……テメェらはまとめてこのオレが地獄に送ってやる!!……例え何年掛かろうともォォォォォォー!!!」
ー!!!
唯一残ったのは復讐心のみ。オニキスは他のブラックフォース達に対する怒号を上げると、黒い煙へと姿を変え、吸い込まれるようにアスラの中へと入っていった…………
こうしてアスラは幼くしてその身に黒の力を宿す事となった…………
その後、世界に何かが起こっている事を悟ったゾンは息子であるロンと、ひょんな事から受け取ったアスラを、当時余りにも強過ぎて国から迫害されたと言う少女、シイナ・メザに拾わせると言う形で託し、己は仮面Zとしてブラックフォースについて研究する事にしたのだ。
結果、スーミ村のアスラとスーミ村のロンが誕生した。
これこそがアスラ出生の秘密。オニキスは他のブラックフォース達にキョーラの復讐を果たすために16年もの間その息子であるアスラの中に宿り、力を蓄え続けて来たのだ…………
******
現在。あれから16年の歳月が流れ、アスラとオニキスはアスラの精神世界、アンダーワールドにて、仮面Zとイッカク・アカバネが見守る中、バトルスピリッツを行なっていた。
アスラはオニキスと和解するため、オニキスはアスラの肉体を得て現世に出るため、負けられない戦いが続いて行く…………
「テメェのその顔がウゼェんだよ、死ぬ程ムカつくんだよ!!……龍騎でアタック!」
「いや顔の話はしらねぇよ、生まれつきだし!!……ライフで受ける!!………ぐっ」
〈ライフ5➡︎4〉アスラ
オニキスのライダースピリット、仮面ライダー龍騎が飛び出していき、アスラのライフバリアを拳で砕く。
しかしそれはアスラの伏せていたバーストの発動条件であって………
「ライフ減少後によりバースト発動、アドベントドローだ!」
「!」
「効果で犀ボーグ2体を破壊、でもってコストを支払い、2枚のカードをドロー!」
勢い良く反転したバーストカードはBP7000以下まで好きなだけ破壊できるマジックカードであるアドベントドロー。
飛び行く炎がオニキスの場にいる2体の犀ボーグに直撃し、それらを爆散させた。
「………ターンエンドだ」
手札:4
場:【仮面ライダー龍騎】LV2
バースト:【無】
追撃できる戦力を失い、ターンエンドを迫られたオニキスは致し方なくそのターンを終える。
次はアスラのターンだ。龍騎、リュウガなどがデッキから抜けた事による圧倒的な戦力差。それを覆すべくそのターンを進めて行く。
[ターン06]アスラ
「メインステップ!!……LV2で来い、ドラグノ総軍団長!!…不足コストは突撃兵のLVを1に下げて確保!」
ー【ドラグノ総軍団長】LV2(3)BP7000
アスラの場に現れたのはテンドウ・ヒロミから譲り受けたカードの1枚、ドラグノ総軍団長。4本の腕で3本の剣を構え、戦闘態勢に入る。
「龍騎がいなかろうと、オレにはまだコイツらがいる!!……今あるモン全部ぶつけて勝ってやるぜ!!……アタックステップ、その開始時に総軍団長の効果!…トラッシュにあるコアを5個まで突撃兵に追加、2枚ドローだ!」
ー【ドラグノ突撃兵〈R〉】(1➡︎3)LV1➡︎2
今回は2つのコアが突撃兵に追加。アスラは2枚のカードをドロー………
元から存在するドラゴンヘッドとシャムシーザー含め、スピリットの総数は4体。残りライフが3つしかないオニキスのライフを破壊するには十分過ぎる数であり…………
「頼むぜ、シャムシーザー、ドラゴンヘッド!!」
「ライフで受ける………ッ」
〈ライフ3➡︎2➡︎1〉オニキス
シャムシーザーとドラゴンヘッドの体当たりにより遂にオニキスを追い詰めるアスラ。勝利の一歩手前まで迫る………
「ラストを頼むぜ突撃兵!!……【追撃】の効果でアタック、自身の効果と総軍団長の効果でオレはまた2枚のカードをドロー!」
身の丈程はある大剣を構え、竜人のドラグノ突撃兵が文字通り突撃して行く。
だがしかし、オニキスはそのアタックを待っていたと言わんばかりに手札にあるカードを1枚引き抜いて見せ…………
「フラッシュ、手札にあるブラックウォーグレイモンの効果を発揮!…1コストを支払い、自身を召喚!」
「!」
「暗黒に染まりし黒き龍……その猛き力を見よ!!」
ー【ブラックウォーグレイモン】LV3(4)BP15000
ドラグノ突撃兵の行く道を遮るかの如く、上空から飛来して来たのはその名の通り黒いウォーグレイモン、ブラックウォーグレイモン。
アスラがエールのウォーグレイモンを黒の力で無理矢理強化した姿である。当然このカードもオニキスは使えるのだ。
「召喚時効果でBP12000以下のスピリット、総軍団長を破壊……さらに突撃兵のアタックをブロックする!」
「ッ……!?」
登場するなり凄まじい速度で地を駆け抜け、腕に装備したドラモンキラーと呼ばれる鉤爪で総軍団長、突撃兵といった順番で突き刺して周るブラックウォーグレイモン。
2体をあっという間に爆散させてしまった。
「くっ……届かなかったか………ターンエンド」
手札:10
場:【ドラゴンヘッド】LV1
【ドラゴンヘッド】LV1
バースト:【無】
オニキスの強烈なカウンター。主戦力を失い、アスラはそのままターンエンドを宣言。
それを聞くなりオニキスは圧倒的な力の差を彼に見せつけるべく、巡って来たそのターンを進めて行く…………
[ターン07]オニキス
「メインステップ………仮面ライダーリュウガをLV1で召喚!」
「!!」
ー【仮面ライダーリュウガ】LV1(1)BP6000
龍騎、ブラックウォーグレイモンと続けて出現したのは黒い龍騎、リュウガ。このライダースピリットもまたこれまでアスラを支え続けて来たスピリットの1体。
「召喚時効果……テメェのスピリット全てのコアを2個ずつリザーブに置き、消滅した数だけドローする!!」
「くっ……」
ー【シャムシーザー】(1➡︎0)消滅
ー【ドラゴンヘッド】(1➡︎0)消滅
リュウガが鉄仮面の奥に潜ませる黒い眼光をアスラのスピリット達に向けると、それらはたちまちコアを取り出され、消滅に追い込まれる。
「これでオマエを守るモノは何もない!!……バーストカードを伏せ、アタックステップ……龍騎、リュウガ、ブラックウォーグレイモンの3体で攻撃する!」
「!!」
ここぞとばかりに攻めに転ずるオニキス。龍騎、リュウガ、ブラックウォーグレイモンがアスラのライフを破壊せんと地を駆け抜ける………
多くの手札を有するアスラだが、カウンターのカードがないのか、ここは意を決し、敢えてライフで受けて行く…………
「来い!!……ライフで受ける!!………ッ…ぐっ……ガァッー!?」
〈ライフ4➡︎3➡︎2➡︎1〉アスラ
龍騎とリュウガの炎を纏った拳が、ブラックウォーグレイモンの鋭い鉤爪の一撃がアスラのライフをこれでもかと砕き、切り裂いた。
凄まじいダメージ量がアスラの身体を襲うが、気合と根性で意識を保ち、膝をつきつつも持ち堪える。
「ターンエンド……どうだ、思い知ったか、これが力の差だ。黒の力を持つオレと、ソウルコアも使えないただの人間……決着は最初からついていた。このオレに、ブラックフォースであるこのオレに、勝てると思っていたのか?」
手札:4
場:【ブラックウォーグレイモン】LV3
【仮面ライダー龍騎】LV2
【仮面ライダーリュウガ】LV1
バースト:【有】
「………オマエも、自分1人だけで他のブラックフォースに勝てると思ってんのかよ?」
「!?」
「他の3人はオマエよりもずっと強いんだろ?……死にに行くもんじゃねぇか」
アスラはダメージを受けた身体を奮い立たせ、オニキスに返答しながらも立ち上がって見せる。
「何度も言わせるなよアリンコ。だからオレはこうやって力を蓄えて来たんだ……16年、オマエの身体の中でな」
「アイツらと戦ったオレにはわかる。オマエだけじゃアイツらには絶対勝てねぇ」
「………オマエに何がわかる……仮にそうだとしても、刺し違えてでもヤツらはこの手で殺す………それがオレの復讐なんだよ!!」
オニキスの決意は固い。16年前、他のブラックフォースによって殺されたアスラの実母「キョーラ・ギア」…………
彼女が殺された恨みを晴らすまで、彼は止まる事はないのだろう…………
「おいアリンコ!!……そんなにオレの力が欲しいか?…そんなにオレと力を合わせたいか!?」
「あぁ」
「残念だがそれは無理な話なんだよ!!……どう足掻いた所でオマエとオレは人間とブラックフォース……決して絆を結び、育み、混じり合う事はない!!」
何故だかわかるか!?
ブラックフォースはどいつもこいつもどうしようもないクズだからだ!!
ヘタマイトも………
シャーマンも………
オブシディアンも………
もちろんこのオレも…………
救いようがねぇクズなんだよ!!
「勝手に決めつけんな………みんながみんな、そうとは限らねぇだろ」
「ッ……!?」
「オマエは、誰かに復讐しようとしてる。それってつまり、他の誰かのために復讐してやれる……思いやれる優しいヤツって事じゃねぇのかよ!!」
「……黙れ……黙れ黙れ、黙れェェェー!!!」
………アイツと似たような事言ってんじゃねぇ………
オニキスはそう内心でも叫び、アスラの姿を、かつてのキョーラの姿に重ね合わせてしまう。
「行くぞオニキス!!…このターンでオレの全部をぶつけてやる!!……オレは絶対オマエだけを他のブラックフォースと戦わせたりしねぇ!!」
全てはオニキスと和解するため、心の蟠りを解き放つため…………
全身全霊を込めで、アスラのターンが幕を開けて行く…………
[ターン08]アスラ
「ドローステップ!!………ッ……コイツは…!!」
このターンのドローステップ。ドローしたカードに思わず目が向くアスラ。そして思わず口角が上がって、笑ってしまう………
「へへ……一緒に戦ってくれるのかよ。じゃあ頼りにしてるぜ……!」
その後はすぐさまメインステップに直行。
この後からアスラはもう止まる事はない…………
己の夢と野望を信じ、突き進むだけだ…………
「メインステップ!!…ドラゴンヘッドとシャムシーザーをそれぞれ2体ずつ召喚!」
ー【ドラゴンヘッド】LV1(1)BP1000
ー【ドラゴンヘッド】LV1(1)BP1000
ー【シャムシーザー】LV1(1)BP2000
ー【シャムシーザー】LV1(1)BP2000
手始めに呼び出されて行くいつもの低コストスピリット軍団。そしてお出ましであると言いたげに手札から更なるカードを引き抜くアスラ………
それはこのターンのドローステップでドローしたカードであり、尚且つ自分に大事な事を沢山教えてくれた母親のカード…………
「呼ぶのは赤きロイヤルナイツ!!……来い、デュークモンッ!!」
「なに……!?」
ー【デュークモン】LV2(3)BP14000
「アレは、頂点王シイナを象徴するデジタルスピリット………」
「デュークモン……メザシのエースカード。ヤツの手に渡っていたのか」
アスラが呼び出したのは他でもない、亡き頂点王シイナ・メザのエースカードであったデュークモンのカード。彼女が生き絶える直前にアスラに手渡していた事により、今この場で彼が呼び出した。
当然ながらバトルを観戦している仮面Zもイッカク・アカバネもこのカードの存在は知っている。アスラもまさかこんな形で母の形見であるこのカードを使う事になるとは思っても見なかった事だろう…………
「アタックステップ!!……行けデュークモン、アタックだ!……その効果でブラックウォーグレイモンを破壊!」
「!」
右腕に宿る聖なる槍に光のエネルギーを溜め、それを一点に放出するデュークモン。ブラックウォーグレイモンはそれに腹部を貫かれ、堪らず爆散してしまった…………
流石はあの頂点王シイナのエースカードの事はある。しかし、それだけではオニキスには勝てない………
「アタック後のバースト、覇王爆炎撃!!」
「!」
「効果でBP12000以下のスピリット3体を破壊……シャムシーザー2体、ドラゴンヘッド1体が対象だ、くたばりやがれ!」
オニキスが勢い良く反転させたバーストカードは赤のマジックカード覇王爆炎撃〈R〉………
その効果で燃え盛る赤き爆炎撃がアスラの小さなスピリット達の大半を焼き払って行く。
しかもそれだけではオニキスのカウンターは終わらなくて………
「相手スピリットを破壊した事により、龍騎の【零転醒】!!……効果で龍騎サバイブへと姿を変える!」
「!!」
オニキスの場の龍騎がベルトのデッキからカードを引き抜き、それを新たに出現させたドラグレッダーを元にしたショットガン状の武器に装填………
………サバイブ!!
その音声と共に、仮面ライダー龍騎は強化形態、仮面ライダー龍騎サバイブへと進化を遂げて見せた。
「転醒アタック時効果、最もBPの低いスピリット……残ったドラゴンヘッドを破壊!」
龍騎サバイブがショットガンから炎の弾丸を放つ。アスラの最後のドラゴンヘッドはそれに撃ち抜かれ、他愛もなく爆散させられてしまった…………
「さらに追加でマジック、スクランブルブースター!…リュウガを対象とし、このバトルのみ、疲労ブロッカーと化す。デュークモンの攻撃を防げ」
「!」
オニキスの放ったマジックカード、スクランブルブースターにより、このバトル中のみ唐突にブロッカーに仕立て上げられるリュウガ。
BP差的に敵うわけがないが、果敢にデュークモンへと立ち向かって行く。
しかしこれでアスラの攻め手は全て削ぎ落とされた。次のターン、オニキスは残った龍騎サバイブでデュークモンごとアスラのライフを破壊できる………
「これで本当に終わりだ!!…復讐を遂げるためにその身体を……その身体をオレに寄越せぇ!!!」
「寄越さん!!……今この瞬間、オレはオマエを超える!!……フラッシュマジック、ワイルドライド!!」
「ッ……なに、緑のマジック!?」
アスラが最後の最後で咄嗟に放って見せたのは緑色のマジックカード、ワイルドライド。
それが勝負の命運を左右する…………
「デュークモンを対象に発揮。それによりこのターンの間、デュークモンのBPをプラス3000し、バトル勝利時に回復させる!」
「なんだと!?」
ー【デュークモン】BP14000➡︎17000
緑色のオーラを一瞬纏うデュークモン。風の力をその聖なる槍に込め、勢い良くリュウガに向けて突進して行く…………
オニキスのライフは残り1。この攻撃が通ればこれは負ける…………
そしてそれを覆す一手ももう持ち合わせてはいなくて…………
「……何故だ、何故オレがオマエなんかに………認めねぇ、認めねぇぞ……このオレが人間の傀儡になるなど!!」
「誰もそんな事言っちゃいねぇ!!……オマエはもう……いや最初に力を貸してくれたあの日から……ずっと!!……オレの大事な仲間なんだよ!!」
「ッ……!」
「トドメだ……デュークモンッッ!!……リュウガごと、オニキスの心の蟠りを解き放て!!」
喧しくも一直線なそのアスラの姿を、オニキスは思わずしてキョーラも重ね合わせてしまう…………
そしてデュークモンが聖なる槍でリュウガの腹部を突き刺しながら己へと向かって来るのを見届けながら、ある事に気がつく…………
(………あぁ、そうかオレは………)
キョーラが死んだ事を、認めたくないだけだったんだ………
だからオレはコイツの中にいたんだ。
コイツはキョーラの息子で、信じられないくらいよく似ていたから…………
ー!!
〈ライフ1➡︎0〉オニキス
オニキスは何故16年もの間アスラの中にいたのかを自覚しながら、デュークモンの最後の攻撃を受け入れる。
頂点王シイナが最後の力を振り絞りアスラに託してくれたそのスピリットの槍の一撃は黒きライダースピリット、リュウガ諸共そのライフバリアを貫いた……………
《キャラクタープロフィール》
【キョーラ・ギア】
性別:女
年齢:22歳(享年)
身長:158cm
好きなモノ:村のみんな、オニキス、アスラ
概要:黒の世界で生まれ育ったギアの一族の女性。一人称は「オレ」で、活発を擬人化したような人物。夫を病気で亡くした後に妊娠してた事が判明。心の穴を埋め合わせるように旅に出るが、その道中でオニキスと運命的な出会いを果たす。
アスラを出産して間もない頃、他のブラックフォース達に遭遇し、致命傷を負ってしまった。
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もう一つの連載作品「バトルスピリッツ 王者の鉄華」も順次更新しております!最近ではあのスサノオが主人公のバルバトスと大激突です!
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