第一話 出発と出会い
家を出発してから十数分。僕はギルド集会所の門の前へと来ていた。中からは他のハンターたちと思われる声が騒がしく聞こえてくる。そのあまりの騒々しさに僕は一瞬門を開けるのを躊躇ったが「よし!」と自分に喝を入れると勢いよく門を開けた。
「おぉ......これがギルド......」
門を開けた瞬間に飛び込んできたのはあちこちから響き渡る笑い声と充満する酒と肉の香り。
新しく入ってきた僕をちらりと見る人もいたが、すぐに自分の話へと戻っていく。
とりあえずは、ハンターとしての登録を済ませなければならない。僕は、ギルドカウンターの方へと向かった。
「はいこちらギルドカウンターです。ご用件はなんでしょうか?」
僕を迎えてくれたのはギルドの受付嬢だった。ハンター登録の受付をしたいと申し出ると、すぐに「かしこまりました。では、こちらの方へどうぞ」とカウンター裏の部屋へと通してくれた。
通された部屋に入ると、膨大な書類の山を整理している人や、忙しそうに手紙を書いている人など色々な人が働いているのが見えた。カウンターの受付嬢が裏で仕事をしていた一人に声をかけ、少し話をすると僕は室内の一角にあった応接室のような場所に案内された。
「こんにちは、初めまして。新規ハンター受付を担当している、ルカと申します。聞いたところではハンター登録をしたいということですが、書類の方はお持ちでしょうか?」
「初めまして、りゅうと言います。書類も全部持ってきています」
ハンターはいつ命を落とすかわからない危険な職業。いくら全て自己責任で行う職業であるとはいえ、その職に就くには正式な手続きが必要になる。
僕は事前に用意していた書類をルカさんに手渡すと、ルカさんは書類に目を通して言った。
「なるほど......はい。書類に不備はありませんね。これならすぐにハンターカードも発行できそうです。説明は必要でしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
一応訓練所で色々勉強してきたとはいえ、聞いておいて損はないだろう。もしかしたら知らないこともあるかもしれないし。
「分かりました。ではまずハンターカードについての説明からしますね。
ハンターカードには、ハンターの受けることができるクエストのレベルの目安になるハンターランク、主にどの武器種を使用しているかといった軽い自己紹介欄。
そして、もし不慮の事故でも身元が分からない状況にならないように写真を貼っていただいております。ハンターカードには本人が所持するオリジナルカードと、他のハンターとの交流に使用するコピーカードがあります。いつ必要になるのかわからないので常に複数枚所持していることをお勧めしますよ」
「なるほど、オリジナルの方にはコピーと何か違うところがあるんですか?」
「ええ。オリジナルには本人と証明できるようにギルドから正式な印が押されます。くれぐれも無くしたりしないようにお願いしますね。
では、続いてクエストレベルについて説明します。
クエストには大きく分けると二つありまして、ギルドの大本営からそれぞれの集会所に向けて正式に発行される集会所クエストと、それぞれのギルドの所属する村の民などから村長を通じて申請される村クエストがあります。
どちらもそれほど違いはないのですが、村クエストでは手に負えないクエストや、長く解決するハンターが現れなかったクエストがギルドに集まってくるシステムの構造上、集会所クエストは村クエストよりも危険なものが多くなる傾向にあります。
最初は村クエストを中心に活動していただいて、腕を磨いていくと良いかと思います。
そして、集会所や村でのクエストを行っていくうちにその功績を称え、腕の上達を認められる時が来るかと思います。その時、緊急クエストという名でワンランク上のクエストを集会所ではご用意しております。そのクエストを見事クリアされた暁にはハンターランクが一つ上がり、さらに上のレベルのクエストに挑戦することが可能となります」
「分かりました。報酬金などはどのように計算するのですか?」
「まず、クエストを受けていただく際に前金として契約金をいただいております。
でも安心してください。クリアされた際には全額返金されますので。
報酬金についてですが、報酬金はまず最初に大きく三つに分けられます。
もしハンターの皆様が生死を分ける状況に陥った時、ギルドの本営からそれぞれの狩場へ派遣されているアイルーがベースキャンプ地まで送り届けてくれます。その際に、報酬金の三割が支払われます。
ですので、報酬金の残りが0になった時、クエストは失敗とみなされてハンターは強制帰還させられます。くれぐれもご注意ください。」
「心に刻みつけておきます」
その後、これから住むことになる村の紹介と部屋の紹介、最初に支給されている装備などの説明などを受けて、僕はようやくハンターへのスタートを切った。
初期装備として支給されたユクモノシリーズを身に着けると、ハンターになったという実感がふつふつ湧いてくるとともにいよいよだという緊張が出てきた。訓練所時代にどの武器種も扱えるように練習はしていたが、その中でも特に得意な武器種であった太刀を背中に背負い、僕はその村へと向かうために乗る馬車へ向かうとともにある場所へ立ち寄ったのだった。
「おやぁ、初めて見る顔だねぇ。オトモをお探しかい?」
そう、狩りの手助けをしてくれる獣人族、通称オトモアイルーとの契約に来たのだ。
一人での狩りでは何が致命傷になるかわからない。その危険を減らすうえでも、オトモの存在は僕にとってとても重要と言えるものだ。
「はい。誰か僕と一緒に頑張ってくれる子を探しているのですが」
僕がそう言うと、オトモ仲介屋のおばぁちゃん(ねこばぁ)は僕を観察し始めた。
「ふむふむ......そうやねぇ、お前さんにはこの子がぴったりやと思うよ」
しばらく観察した後に僕の前に連れてこられたのは一匹の透き通るような白い毛をしたアイルーだった。
「お前さん新人じゃろう?この子はわけあって前の主人との契約が解消されてしまった子でなぁ。
きっとお前さんを助けてくれる存在になってくれるじゃろうよ」
僕は、それを聞くとしゃがんでアイルーの顔を見て言った。
「初めまして、僕の名前はりゅう。これから、僕のオトモアイルーとして手伝ってくれないかな?」
アイルーはしばらく僕の顔を見ていたが、「にゃ!」と力強く頷いてくれた。
これが、僕とオトモの最初の出会いだった。
無事にオトモとの契約を果たした僕は、その後すぐに馬車へと乗り込んで街を出発した。
ガーグァという鳥を大きくしたような姿のモンスターが引く馬車に揺られながら、僕はさっきねこばぁから渡されたものを眺めていた。
「ねぇ、きみ。これって何?」
「にゃぁ」
ねこばぁ曰く、このオトモがねこばぁのもとに来た時には既に持っていたものらしい。
この少し欠けた石のようなものが入ったネックレスには、運気を少し良くする効果があるとか、対になるものと合わせるととても良い効果を発揮するとかいうものらしいのだが......
一体本当のことなのかはわからないが、このオトモの大切なものだというので受け取っておいたのだった。僕はオトモの首元、防具の内側に来るようにネックレスを付けてあげると、馬車の横を流れる景色に目を向けた。
少しずつ遠くなっていく生まれ故郷に名残惜しさを感じながらも僕の心は期待であふれていた。