父を追うもの   作:マロ2338

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第三話 祠に住まうもの

 温泉で体も心も癒した次の日のこと、僕はさっそく村長のもとを訪れていた。その理由はというと......

 

「はい、登録完了ですよ」

 

「ありがとうございます、それでは行ってきます」

 

「お気をつけて」

 

もちろん、クエストを受注するためだ。

今回僕が受注したのは村近くにある渓流でのハチミツ採取。最近流行している風邪の薬を作るのにロイヤルハニーという少し特別なハチミツが必要らしい。聞いたところによると、ロイヤルハニーとはハチミツの中でも特に貴重なもので女王蜂のみが口にすることを許されるとても栄養価の高いものなのだそうだ。今回のクエスト内容はそのロイヤルハニーを小瓶五つ分集めて納品することだ。制限時間はベースキャンプ到着から五日間。まぁ、内容からも分かる通り低ランクハンター用の簡単なクエストだ。特に危険な大型モンスターも確認されていないところでの採取になるから練習にはうってつけだろう。

僕は部屋に戻ると装備を装着しながら、部屋で留守番をしていてもらったもときに声をかけた。

 

「もとき、クエストを受注してきたよ。初めてのクエストは渓流でロイヤルハニー五つの納品だ」

 

「にゃぁ」

 

「いよいよこの時が来たんだ。引き締めていこうね」

 

「にゃ!」

 

僕たちは荷物を整えると、雑貨屋へ寄って回復用のアイテムなどを購入し、門の外で待っていた馬車へと乗り込んで渓流へと向かった。

 馬車に揺られること一時間弱、僕たちは活動の拠点となるベースキャンプへと到着した。訓練所で教えてもらっていた通り、ベースキャンプにはベッドとテント、支給品BOXや納品BOXが置かれていた。

 

「ええと、確か青い方が支給品BOXで赤い方が納品BOXだったよな......。おぉ、あったあった」

 

僕が支給品BOXを開けてみると、中には渓流の地図と応急薬、携帯食料などが入っていた。

それらをポーチにしまい、僕たちは渓流へと足を踏み入れた。

ベースキャンプから続く細道を抜けると、そこには人の手のついていないとても綺麗な景色が広がっていた。

流れている小川では水分補給を行っているのかガーグァの群れが集まっており、水際に生えている植物の花や倒木には色々な虫が集まっている。訓練所では、こういう虫などを集めて狩りの道具へと利用することもあると教わったが、今は虫網を持ってきていないのでスルーで良いだろう。そもそも、今回の目的はロイヤルハニーであって虫ではない。僕は集まっている虫を横目に岩場へ向かう上り坂を進んだ。

 

 

 

「......あれがジャギィとジャギィノスか」

 

 渓流の景色を横目に通る岩道の崖。そこには、この場所を縄張りとしているのであろう二種類の肉食獣が群れを成していた。雄特有の扇形をした耳を持つジャギィ、そしてジャギィの一回り二回り大きい雌のジャギィノスだ。奴らは小型の鳥竜種に分類されている。小型といえども奴らも立派なモンスター、鋭い爪や牙を喰らえばただじゃすまないだろう。できれば見つからないようにやり過ごしたいものだが......

 

「まぁ、無理だよなぁ......」

 

崖道は狭く、気づかれずに通るというのは不可能に近いだろう。ここは正面から突破するほかなさそうだ。僕は背中に担いでいる『ユクモノ太刀』の柄へ手を伸ばすと、自分の手が震えていることに気が付いた。「大丈夫、村に来る途中も切り抜けられたじゃないか。僕ならやれる、大丈夫」と自分を鼓舞し、気持ちを落ち着かせる。手の震えが収まってきたのを確認して、突入のために足へ力を入れた。

 

「にゃ!」

 

いざ突入する、といったところでもときに袖を引かれて止められた。なんだろう、と見てみると手には丸い爆弾のようなものを持っている。僕が立ち止まっている間ごそごそしていると思ったらそれを作っていたのか。もときに、それは一体何かと問う前にもときはジャギィ達の群れの真ん中へ向けてそれを放り投げると共に僕の顔へ飛びつき視界をふさいだ。視界をふさがれる前、最後に見たのは突然縄張りへ放り込まれた丸い異物へ注目するジャギィ達の姿であった。

 

カッ

 

突然、真っ暗だった視界が白く光った。それと共にもときが僕の顔から離れる。もときのおかげで僕は平気だったが、ジャギィ達は突然の光に視界を奪われて混乱している。そこでようやく、僕はもときが作っていた物が閃光玉であったことに気が付いた。

 

「一体いつの間に......」「にゃ!!」

 

いつの間に素材を集めていたんだ?と聞こうとしたが、それはもときに遮られた。そうだよな、今はここを抜けることが最優先。奴らの視界が戻る前に一気にここを抜けてしまおう。僕は岩陰から飛び出ると群れのど真ん中を突っ走る。ジャギィ達は視界も戻らないまま、野生の勘なのか縄張りに侵入してきた私へ向かって攻撃を仕掛けてくるが見えていない分その攻撃はかわしやすい。こうして僕ともときは上手く崖道を切り抜けたのだった。

 岩の陰から続く細道を進むこと数分、崖の上にかかっている吊り橋を恐る恐る渡るとその先には壊れた祠のようなものとそこへ巣を作っているのであろう、蜂が集まっているのが目に入った。周囲を警戒してみるが、いるのはケルビと呼ばれる鹿のような姿の草食獣だけで、危険は特になさそうだ。草を食むケルビ達を横目に僕は蜂の巣へと近づき、無事にロイヤルハニーを採取した。

 

「これ、他のと違って色が濃いな。うわ、なにこれ凄く甘い!?......あれ?」

 

ロイヤルハニーを採取して振り返ると、さっきまでいたケルビ達が一匹も居なくなっている。さらに、鳥の声も聞こえなくなっており、聞こえてくるのは風と木々が揺れる音だけ。僕は嫌な予感を感じて、額に冷や汗を流した。早足で吊り橋の方へ戻りながらもときへと話しかける。

 

「ね、ねぇもとき。一回キャンプに帰ろう。嫌な予感がする」

 

『ホギャァァァァァァ!!!』

 

「!?」

 

突如けたたましい叫び声が静寂を切り裂いた。すぐに振りかえるが姿が見えない。ドクドクと自分の鼓動の音だけが聞こえてくる中、神経を研ぎ澄ませているとさっきまで僕等がいた場所、壊れた祠のそのまた奥で紅に光るものが横切るのを一瞬見た気がした。


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