父を追うもの   作:マロ2338

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第六話 心新たに

 太刀を振り上げると同時に、僕は左腕に確かな手応えを感じた。ナルガクルガの叫び声と共に顔に血飛沫が降り掛かる。ナルガクルガは大きく後ろへ飛び下がると、残った右眼で僕のことを睨みつけた。大ダメージを与えたのだ、迂闊にこちらへ攻撃を仕掛けてくることはないはずだが......。生憎、こちらにももう戦う力は残されてはいない。右腕の痛みも増してきているし、無理に体を動かしたせいで少しでも動こうとすると崩れ落ちてしまいそうなほどに消耗している。今は太刀を杖代わりに何とか立っている状態だが、これもいつまで持つかわからない。と、その時だった。顔の横を何かが掠めてナルガクルガへと飛んでいく。ナルガクルガはそれを躱すと僕のそのさらに後ろ......戦闘への乱入者を睨みつけた。

 

「おい、ぎりぎり間に合ったみたいだ。あの小僧まだ生きてるぞ!」

 

「早くナルガクルガを狩りましょう。酷い怪我だわ、急いで治療しないと!」

 

(助かった......のか......?)

 

レイア装備に身を包んだ女ハンターが肩を貸してくれると同時に、レウス装備を身に着けた男ハンターがナルガクルガへと向かっていく。女ハンターは僕をゆっくりと座らせると「もう大丈夫。よく頑張ったね」と言いながら弓を構えた。そんな彼女達の背中を見ていると、力が抜けたのか意識が一気に遠のいていった。

 

 

 

「まったくよぉ、なんでまたあんなところに居たんだ?あそこには居ても下位級モンスターだろ」

 

「わからないわよ、そんなこと。まぁ、あのまま戦闘になっていたら私達も......あら、目が覚めたみたいね」

 

「おっ、目が覚めたか!全治三ヵ月みてぇだから当分狩りは控えるようにってギルドから言われてるぞ」

 

 僕が目が覚めた時に迎えてくれたのはあの時に助けてくれた二人のハンターだった。あの時は体も限界で装備と男か女かしか分からなかったが、改めて見てみるとどんな人なのか少しわかった気がした。男ハンターの方は体格もがっしりしていて力がありそうで、顔は厳つく言動は荒いが表情から優しさが滲み出ている感じがする。一方女ハンターの方は華奢な体格をしていながらも要所要所でしっかりと筋肉を付けている。特に腕周りと足の筋肉が凄く、長い間弓を扱ってきているというのが見て取れた。

 

「えっと......あなた達が助けてくれたんですよね。ありがとうございます。僕、りゅうって言います」

 

「おう、そんなに畏まらなくても良いぞ。俺はたけし。そのままたけしって呼んでくれや」

 

「私はゆい。あのナルガクルガだけどね、私たちが狩る前に逃げてしまったわ。あの戦況把握能力、俊敏性、体格。上位級のさらに上を行くG級モンスターだとギルドは判断したらしいわ」

 

「クエスト情報に問題があったということで今回の治療費と休養期間中の費用は全部村長が出してくれるってよ。太っ腹だよなぁ」

 

「そうなんですか......。あの、一つ聞きたいんですけど......」

 

 あぁ、オトモなら今別室で休んでるよ。出てすぐ左の部屋だ。というたけしさんの言葉を聞いてすぐに

僕は病室を飛び出して隣の病室へノックもせずに入った。そこには体に包帯を巻いてはいるものの、とても元気そうなもときが上体を起こしてこちらを見ていた。

 

「もとき!?」

 

「うるさいにゃぁ。ここは病院にゃよ?もっと静かにするにゃ」

 

「あ、ご、ごめん。怪我とかは大丈夫?」

 

「大丈夫にゃ。そ、れ、よ、り、も、にゃ!にゃんなのにゃ、あの狩りは!緊急事態に直面していたとはいえ焦りすぎにゃ!もっと落ち着くにゃ!」

 

「はい、すみません」

 

「このままじゃダメダメにゃ。僕が鍛え直してやるからそのつもりで!にゃ!」

 

病室に入った瞬間にもときから怒られる僕。ぐうの音も出ない言葉がどんどん僕の心に突き刺さってくる。オトモから怒られているハンターという構図に何だか自分が情けなってくる......って、あれ?

 

「いや、もう本当に反省してます......って、待って。もときが喋ってる!?」

 

「にゃ?」

 

「え、待って、なんで?なんでいきなり?」

 

「むしろ今までどうして疑問を持たなかったのかが不思議にゃんだけど......。まぁあれにゃね。りゅうの実力をしっかり見せてもらうためだにゃ」

 

「僕の......実力?」

 

「そうだにゃ。しっかりハンターとしてやっていけるのかとかを試させてもらったにゃ。まぁ、結果はこうにゃってしまったけどにゃ」

 

「そんなぁ......」

 

「理由としては......そうにゃね。僕も命を懸けているわけにゃから主様の実力は知っておかなくちゃいけないにゃ。それと......おっと、これは言っちゃダメだったにゃ。ごめんだにゃ」

 

「え、それって「おいこら!おめぇはまだ安静にしてなきゃダメだろうがりゅう!!」

 

僕が今もときが言いかけたことについて聞こうとした時、病室のドアが勢いよく開いてたけしさんが突入してきた。たけしさんはそのまま僕のことをたやすく片脇に抱えるとあっという間に僕の病室へと運んでいったのだった。

 それから毎日僕は検診を受け、一ヶ月もたったころには大分腕も治っていた。もときは僕より先に退院許可が下り、僕の病室の片隅に小さなベッドを用意してもらって寝泊りをしていた。リハビリをしていき、太刀を元の通り振るえるようになってきたころ、僕の入院生活は幕を閉じた。たけしさんとゆいさんはそれからもちょくちょく僕の病室へ顔を出しては差し入れや雑談などをしてくれた。凄くありがたかったし、それのおかげでこの数ヵ月僕は退屈をしないで済んだ。さらに、たけしさん達は僕の退院後一緒に狩りに行こうと提案してくれたのだった。そしてその日が明日。明日、僕はたけしさん達と初めてのパーティーを組んで狩りへと向かう。彼等が言うには簡単な大型モンスターの狩りへと連れて行ってくれるらしいのだが......。

 

 

 

「久しぶりな気がするなぁ、装備を付けるの」

 

「今度はしっかり対処するにゃよ。あの二人に迷惑をかけてはいけないにゃ」

 

 久しぶりに全身をユクモノ装備に身を包んだ僕は、改めて身体をほぐしながらもときへと話しかけた。今日はこれから村のギルドへ向かう。何のクエストに行くのかは結局聞いても教えてはもらえなかったが、まぁ行けば分かるだろう。持っていく持ち物を再確認してポーチに詰めた後、僕はもときと共に部屋を出たのだった。


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