機界変生 作:からくり丸
男が二人、森の中で戦っていた。
男の名は
もう一方の名は
雨の降りしきる森の中で幾多の剣閃の鋼色のきらめきが輝く。
ただ、そのきらめきは柊勝也に少しずつ片方の勢いに傾いていく。
武家の中では低い、松原の霊力。
平凡な生まれながら柊の規格外の霊力。
松原の剣技は長年の鍛練により積み上げられた、低いとは言えないがさりとて同年代の最高峰には劣る剣技。
柊の剣技は荒削りながらも規格外の霊力と組合わさり、半端な相手なら受けてもそのまま両断される剛の剣。
松原がその手に握るのは現代の名工の手で作られた真打ちの刀-銘を
数奇の縁を持って柊の手にあるのは、かの茨木童子の腕を切った刀-銘を
「ちぃ」
押されている方の正虎が呪符を数枚ばら蒔くと、土の壁が瞬く間に生成される。
「そりゃぁぁ」
それを勝也は掛け声と共にまるでバターのように切り裂く。
とはいえそれで時間を稼ぐことに成功し、仕切り直す。
出力が足らない、剣技が足りない、小細工で劣勢よりの拮抗に持たせているがその種も仕掛けももはや心ない。
この肉体の非才が憎い。
せめて自分に……もう少しの霊力があればこんな事にはならなかった筈なのに。
戦いの最中の一瞬、正虎の脳裏にふと思ったその考えが明暗を分ける。
銀色の一閃が正虎の右腕を切り落とす。
「クッ、ハァ」
悲鳴をあげるのをこらえ、血を術によって止める。
もう片方の手に握る幾多の戦場を生き抜いてきた、自分の愛刀の切っ先を向ける。
「もう辞めようぜ、今ならまだ……」
もう終わったとして勝也は鮮血を払い、髭切りを鞘に納める。
「……抜かせ、松原家の一門の嫡子を舐めるなよ!!」
追い詰められた正虎は声を大きく、叫ぶ。
しかしそれがただの強がりというのは両者共にわかっていた。
戦いの結果はもう決まっていた。
「……頼む、婿殿
もはや、誰かを犠牲にせねばならんのだ」
そう言うと息を整え、ふらつきながらも隻腕になった正虎は突撃する。
そして…………
「……行ったか」
正虎の体は上と下に分かたれていた。
目は掠れ、意識ももはや消えようとしてた。
…………足音が聞こえる。
「先輩、死なせないっすよ」
最後に聞こえたその声と共に正虎の意識は途絶えた。
「おいおい、いきなりかよ、
流石に契約外だってのこういうのは?」
声が聞こえる。
「いくら、適正があるからってな、選択ってのが大事なんだよ
……クソッ、これだからうちの部下共は」
男の声が聞こえる。
「よう、坊主」
その声と共に目を開ける。
眼前に広がるは白い空間、そして少しずつ触覚が戻ってくる。
同時に何故か自分は座布団に座っていた。
眼前には丸いちゃぶ台と座布団に座る、不釣り合いなやたらフリルが着いたドレス姿の女性とそれに侍る、ロングスカートのメイド服を着た女性。
少なくとも男の姿は見えない。
「オーケー、少なくとも喰われていないと」
そのドレスの女性が男の声音で上機嫌そうに笑う。
直前まで握っていた自分の私を抜こうとして……
わたし?
「おっと、すまないな
まあとりあえず落ち着け」
そう言うとそのドレスの女性は指を軽く鳴らす。
ちゃぶ台の上にせんべいと湯飲みが二つ並ぶ。
「毒の類いは入ってないから安心したまえ」
「……わかった」
信用出来ないがゆえに確認として、正虎が調べるために術を練ろうとして気づく。
先程は動揺してたのか気づいていなかったが前まで少ないとはいえ満たしていた、自分の力が無いことに。
「何をした?お主?」
「んー、簡単にいうとだな、魂だけの存在になってるんだよ」
パリッとせんべいを齧ったあとにドレスの女性は言う。
「ここは黄泉の国なのか?」
その話で有名なのはヨモツヘグイ、少なくとも正虎にはこの眼前に出された物は食べる食欲がなくなった。
「その一個前だ」
茶をすすりながらもドレスの女性は答える。
「まあ、警戒するのはわかる
信用出来ないかもしれないが少なくとも今から言う言葉は嘘はない」
パリッ
「まず、坊主の肉体は厳密に言うと死んでるという訳じゃない、
うちの部下が助けてくれって言われてな」
パリッ
「その時に魂と体を少し弄くらせて、あとそっちの世界だと生きてちゃ不味いだろうから、別の世界に送らせてもらった」
パリッ
「で、ここからはアレなんだが勧誘だ」
せんべいを食べながらドレス姿の女性がそう言うと茶をすするのではなく一気に飲み干す。
「坊主には適正があってな、よければ此方の陣営に来ないか?」
そう言うとちゃぶ台の上には書類の束が置かれ、
代わりに邪魔にならないようにせんべいとお茶は隅に避けられていた。
「断……」
色々と気になることはあるが少なくとも断るのが正しいと思い、選択しようとする。
だがその時脳裏にふと思い浮かぶ。
「若様は松原の嫡男に不適格よのう」
「出来損ないの兄上を持つとは白雪様もお可哀想に」
「汚い銭勘定などに従事するなど、本当松原の面汚しよ」
銀色の右手を悔しそうに握る。
我が非才が憎い。
「……書き物を」
いつの間にか後ろにメイド服の女性から筆と墨、すずりを手渡される。
「所詮終わった命、魔道に堕ちるのも一興か」
契約はここになされた。
意識が堕ちる。
海、星、宇宙。
声が聞こえる。
「あなたはわたし、わたしはあなた」
「抱きしめて、ずっとずっとずっと」
「ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと」
「
お読みいただきありがとうございました