終わりからの始まり   作:神信陸

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13話 変な兄妹

 その後はまあ、色々あった。

 ジェラールの助力もあって火竜(サラマンダー)はマスターゼロを下すことに成功し、無事ニルヴァーナの機能を停止させた。

 それからは、王の間でのやり取りに似ている。

 六魔将軍(オラシオンセイス)を捕縛するために駆け付けた評議院たちが、散々正論で殴られた、そんな感じだ。

 

「すげえよなあ。どれもこれも、『暴論』もいいところなのに『正論』だから、碌に『反論』もできないっていうね。しかもその上で、決して綺麗事でも理想論でもないんだからさ」

 

 オレたちの所属するギルド悪魔の心臓(グリモアハート)のアジトである戦艦。その内部で、オレの隣を歩く男がそう言った。

 その台詞が、無意識に頭を働かせてあの弁舌を脳内で再生させる。

 

──成る程、つまり評議院(てめえら)が謳う正義ってのは、死ぬか法を犯すかの二者択一で、死ぬことを選ばなかった奴はクソ野郎ってことだな

 

 こんなことを言っていた。

 そして、これだけでは終わらなかった。

 

──ああ、ごめんごめん間違えた。お前らがクソ野郎認定するのは『生きたい』と思う奴だったな。

(かどわ)かされて強制された奴、騙されて利用された奴、家族を殺されて一人になった奴。そういった奴らが悪人に(すが)ったのは何故か。

生きたいからだろ。どっかの誰かさんどもが助けてくれないからさぁ。

つまり、てめえら自称正義の味方は──『生きたい』と想い、願い、望むことを否定する訳だな、クズども

 

「名言がすぎるよな~。まあ僕は個人的にはジェラールを庇った時の台詞の方が好きかな。『おいおい、良いように利用されて業腹なのは分かるけどさ~、何自分たちの無能を棚上げにしてんだよ。評議員に任命して、聖十の称号を与えて、これじゃあ最早自業自得だろ、自己責任だろ。ああそうか、そんな簡単なことを理解する脳ならぬ能が無いからお前らは"無能"なんだったな』ってさ」

 

「今日はやけに機嫌が良さそうだなリカ」

 

「そりゃ機嫌も良くなるよアズマ。数年ぶりに弟に会えたんだからさ」

 

「会えたね···。遠目で見ただけじゃないか。だからこそ、機嫌を損ねているんじゃと思っていたのだがね」

 

「ほうほうそれを言うかねアズマくん。人が折角に触れずにいてやったのにさあ。僕だって久しぶりに話したかったよ。てめえだけ話に行きやがって」

 

 鼻歌交じり、とまではいかないが機嫌が良さそうな雰囲気が一変、リカは拗ねたような態度を取る。

 リカ。

 リカ・オレルス。

 オレルス家の長兄。

 本人のみが否定する。

 コイツは何でも知っている。

 

「何でも知らないよ」

 

 人の心中を読んでおいて何を言うか。

 リカを相手にしてはプライバシーもへったくれもない。

 面と向かっていれば、いや、いなくとも、リカの弟妹たちと深い関り合いがなければ、その気になったリカには全て読まれる。

 リカにとっては世界は宛らボードゲームのような物で、人は駒のような物なのだろう。

 

「おいおい風評被害も大概にしろよ。僕にとって人は思い通りに動く存在じゃねえぞ」

 

「そうだったな。思った通り(・・・・・)にしか動かない存在だったな」

 

 いっそ予知といって差し支えない、ハイレベルな未来予測。

 念能力でなければ魔法でもない。他の異能の能力(チカラ)でもない。

 単なる持って生まれた才能からくる、異常で異常な、常軌を逸した分析・解析・処理(シミュレーション)能力。

 当人すらも原理は知らないが、リカ(コイツ)のその能力は、行ったこともない土地にいる会ったこともない相手の思考や行動さえも筒抜けとする。

 それでは人を人として見れなくなると思うのは無理もないだろう。

 だからリカは、その脳の高速処理をする際には、弟妹たちのことは除外して考える。二人のことを、間違っても駒や人形のように思いたくないから。

 しかし(ひと)一人(ひとり)他人(ひと)に、そして世界に与える影響というのは存外大きい。

 コイツのハイスペックな高速処理で導き出されるこの世の未来は、人間二人も除外されたそれだ。

 その二人が為したこと、関わった人間の内面の変化。そういった物が一切インプットされていない状態のシミュレートでしかない。

 それでは読めないことは多々生まれる。

 二人と深く関わったような奴の心情など特に。

 尤も、面と向かってしまえば『その時考えていること』に限って読まれるが。

 

「ホントお前は分からないな。僕の二人に対する思いなんかには気付けて、理解までできているのに、なんでエリックたちが気を遣って出頭したことに理解が及ばないんだ?」

 

「お前は家族だろ。六魔連中にとって、アイツは赤の他人じゃないか。いや、当人の意見を踏まえるのなら寧ろ恨まれて然るべき人物だ。そんな相手に気なんて普通使うかね」

 

「お前自身の意見は? 本当に恨まれて然るべき人物だと思っているのか? もしそうだってんなら──戦争だぞ」

 

 ギラ付いた眼。

 中性的な整った顔が猟奇的で狂気的な殺意の籠った表情に染まる。

 烈火の如く全身からオーラを迸らせて、完全に戦闘態勢に入っている。

 はあ、全く、

 

「オレがそう思っていると、思っているのかね」

 

「ふん、つまんねえの。ちょうどいい八つ当たりの口実だと思ったんだけどな」

 

 そんなに目の敵にするくらいならお前も会いに行け、話しに行け。

 

「それを言うか···それを言うのかお前···どれだけ残酷なんだお前は。僕が避けられていることくらい分かってるだろうに···」

 

 年甲斐もなくリカは本気で凹む。

 全く、この弟妹大好き(ブラシスコン)野郎は、面倒くさい。

 

「へいへい面倒くさいですよ。つかてめえは結局何がしたかったんだよ。わざわざあんなところに呼び寄せてさ」

 

「何を? いや、特に何も。たまの休暇に、久しぶりに友人に会おうと呼び出したら"たまたま"そこに友の復讐相手がいた、それだけのことだろ。空気を読んで、気を遣って、オレは大人しく(けん)に回った。それだけだろ」

 

「お前、人のアイデンティティを」

 

 どういう結果に結びつくかを予想して、偶然を装って仕組む、お前のよくやる手法だね。

 まあ、流石にあの二人は予想外だったがね。

 

「あの二人···? ああ、グレイ・フルバスターとリオン・バスティアか。え? あの二人に関してはお前関与してねえの?」

 

「ああ、してない。そこまで趣味が悪い自覚はないんだがね。お前にとってオレはそんなに性悪なのか?」

 

「よく言うよ。お前がメルディにさせたこと、忘れたとは言わせねえぞ」

 

「忘れた」

 

「いや言うなよ」

 

 全く、責めるみたいに言ってくれるな。

 ただ単に、死んだ妹に似た奴が出てきたから、同じ呼び方をさせただけじゃないか。

 

「いやそれ相当(たち)が悪いからな。死んだ肉親にそっくりな娘に同じ呼称で慕われるとか、嫌がらせの域越えとるだろ」

 

「しかし、結果功を奏しただろ?」

 

「痛し痒しだけどな。メルディにレムの面影を重ねて、立ち直った反面罪悪感を抱いてるんだぞ、アイツは」

 

「ふん、ベタベタな小説のような展開だね。『現実は小説より奇なり』、か」

 

「現実ねえ」

 

 この顔だ。

 リカは『現実』という単語に対して、この顔を示す。

 まるで全てを見透かして、嘲笑うような、そんな顔を。

 

「まあ、現実でも事実でも小説でも創作でも原作でも二次でも妄想でも空想でも幻想でもなんでもいいけどさ···。で、マスターハデスにはどこまで話す? 『データの収集』はできたのか? ええおい」

 

「そんなもの端からしてないのは知っているだろうが。適当にそれっぽい理由をでっち上げただけだ」

 

「だろうねえ。じゃあこれは個人的に気になったこと──あの白髪がどういうことか、分かってる?」

 

 意地の悪い笑み。

 そんな笑顔でニヤニヤ笑って、リカは尋ねてくる。

 そういうお前はどうなのか。

 コイツに限って、皆目検討がつかないからオレの意見を参考にしようとしてるなんてことはないと思うが。

 

「ん? ほぼ全部」

 

 だろうな。

 異常で異常な、常軌を逸した分析・解析・処理(シミュレーション)能力。

 そんなものに頼らなくたって、コイツの分析能力は人並み外れている。

 普通に、見て、聞いて、調べて、考えて。そうして導き出した、誰もが普通にするような予想も、コイツがやってしまえば高精度だ。

 単純な話、滅茶苦茶頭が良いのだ。ただスイッチでも押すような気楽さで、そのグレードを飛躍的に上げられるというだけで、それだけが、常軌を逸しているだけで。

 

「オレが分かったのは、身体能力が爆発的に跳ね上がったこと、オーラ量が急激に落ちたこと、そして、動きに無駄が生まれるようになったこと。そんなところだ」

 

「ふ~ん。ま、そんだけ分かってりゃ十分だな。褒めて遣わす」

 

「後、オーラの系統にも微妙に変化があった」

 

「···何でそう思った?」

 

「勘」

 

「か···勘? ふっふふふ」

 

 クックック、と噛み殺した笑いを漏らして、リカはオレを見てくる。

 

「はあ、何となく、イヤに操作系の精度が高いと思っただけだよ」

 

「よく気付いたな。普通に成長しただけとは思わなかったか? 特質系は、操作系の隣に位置してる。元来高精度で使える系統だろ」

 

「だから『勘』なんだ」

 

 誰もがお前みたいに頭が良くはないんだよ。

 全く、頭が良かったり、能力を最適化させたり、ただただ気持ち悪いくらいに運が良かったり、変な兄妹だ。

 付き合わされるこっちの身にもなってほしい。

 はあっ、こんなことを言えばアイツは『じゃあ関わるの止めれば』とでも言うんだろうね。

 コイツの場合は···言い方を変えるだけだな。『嫌ならなんで関わってくるの?』とでも聞くのだろう。

 まあ、言外に含まれたニュアンスは変わるのだろうが。

 前者は、『嫌な思いをするくらいなら付き合ってくれるな』という気遣いからくるもので、後者は、額面通りと言うべきか、『そもそもお前はなんで僕たちに構うの?』という疑問も投げかけているのだろう。

 長い付き合いだ。リカのような異常スペックのそれではないが多少の考えは分かる。

 だが"あれは"、完全にオレの理解を超えていた。

 肉体のみならず、オーラの流れ、表情、雰囲気、全てが一変していた。

 まるでオレの知らない"別の誰か"かのように。

 それなのに不思議と、白髪の時(あの状態)のアイツには懐しさを覚えた。

 

「それ、あながち間違いじゃないかもよ」

 

 リカは笑う。

 全てを見通しているかのように、笑う。

 

「時期わかるさ」

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