終わりからの始まり   作:神信陸

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下積み
1話 修練次第で誰でも出来る技術だけど


「くっ···」

 

 まさか、これ程の実力とはな···。

 言い訳のように聞こえるかもしれないが勝てるとまでは思っていなかった。

 ジュピターを防ぎ、エレメント4の一人との連戦。

 しかしせめて少しでも消耗させられればと思ったんだが、もう魔力が殆んど残っていない。

 それなのに、

 

妖精女王(ティターニア)。まさかこれ程の実力者だったのか」

 

 幽鬼の支配者(ファントムロード)のマスター、ジョゼ・ポーラ。

 これが聖十に数えられる実力か···!

 

「ぐあっ」

 

 私を縛り付けるジョゼの魔力はその力を増し、私の口から苦悶の声が漏れると共に鈍い音が聞こえる。

 胸の辺りが痛む。

 肋骨が軋んでいるのか。

 

「うっ···があっ···」

 

 だが、そんなもの知ったことか!

 家族が傷つけられたのだ。

 骨の一本や二本、くれてやる!

 

「あああああああああっっっ!!!」

 

 少しずつ。

 少しずつだが、拘束が緩んでいく。

 このままいけば···!

 

「力まん方がいい···。余計に苦しむぞ」

 

 しかし、その努力を嘲笑うかのように、魔力の束縛は私の自由を完全に奪い、全身に苦痛を与える。

 クソ!

 全身全霊を以てしても、ピクリともしない。

 

「ぐああああああああああっ!!!」

 

 フッ、と、一瞬痛みが引いた。

 ああ、これが死か、と思ったその時、落下していくような浮遊感を覚えて、何者かに受け止められた。

 いや、何者か、ではない。

 誰がやったかなんて分かっている。

 何の気配も、何の予兆もなくこんな芸当が出来る人物など、そうはいない。

 そして、一人だけいる。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)には、その男が居る。

 

「はぁ~。何やってんだか」

 

 念という力を持った魔導師が。

 魔法を使えない魔導師が。

 リンという男が。

 

 

 

 

 

§§§

 

 

 

 

 

「ジョゼ・ポーラ···か」

 

 突然現れたその男はポツリとそう呟く。

 ソイツは幾度もの戦闘で穴の空いた天井を潜って上階に行き、持っていたパンパンに中が詰まった頭陀袋を置いてきたのか、直ぐさま手ぶらで降りてくる。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のゴミがまだ残ってたか」

 

「ゴミじゃない。クズだよ。オレは」

 

 クソ野郎だよ、とソイツは言う。

 続けてこうとも。

 

「ああ、安心しろよ。お前はオレよりマシなクズさ」

 

 ニッコリと、馬鹿にするような毛色を全く覗かせない笑顔を浮かべて、そう言う。

 チッ、嘗めてんのかこのガキ。

 

「ゴミの分際で調子に乗ってんじゃねええっ!!!」

 

 右手に魔力を収束させてゴミ目掛けて放つ。

 直径三十センチ程の球形の魔力は一直線に飛んでいく。

 一瞬のタメで放った魔力弾だが大した魔力を持っていないゴミクズ一匹を消し飛ばすには十分な威力だ。

 

 それを前にその男は、右手を前に伸ばし、受け止めて──

 

「は···?」

 

 ──ボールを回す様に私の魔力を立てた人差し指の上で維持させる。

 

「返すよ」

 

 なんて軽く言って、私の放った魔力弾が打ち返された。

 クソが!

 それなりの技量があるようだが嘗めてんじゃねえぞ!

 本当にそのまま打ち返しただけ。

 そんなものがこの俺に通用すると思ってんのか!

 こんなもの弾いて消し去って──っ!

 

「な···に···」

 

 確かに、俺は弾いた筈だ。

 弾は一直線に飛んできた──し飛ばした──のに、弾くために振るった俺の腕を避ける様に軌道が変化した(・・・・・・・)···だと。

 

「これが貴様の魔法か」

 

「魔法···。いや、違うさ。オレは魔法は使えない···って言うと語弊があるか」

 

 まあいいや、と付け加える。

 

「ま、今のは修練次第で誰でも出来る技術だけどな。オレの本職はコッチ」

 

 そう言うと、その男は白いエネルギーを湯気の様に全身から立ち上らせる。

 念能力者か。厄介な。

 あのエネルギーはオーラ。

 あれは術者の意思によって自由自在に身体の隅々を行き来し、オーラを纏った肉体は肉体強化の魔法に匹敵するほどの頑強さとなる。

 その上個々人のオーラの系統や嗜好が反映される能力は魔法以上に取り回しが難しく、それ故に強力。

 

「その力までも」

 

 マカロフが有しているとなると、

 

「本当に気に食わん!!!」

 

 私は幽兵(シェイド)を五体生み出して飛ばす。

 術者の怒りの感情によって幽兵(シェイド)はその姿をより凶暴で凶悪なモノとなっている。

 正に幽鬼。怨霊。

 

「キサマらはどこまで大きくなれば気が済むんだ!」

 

 幽鬼の支配者(ファントムロード)はずっと一番だった。

 この国で一番の魔力を、人材を、金を持っていた。

 ···が、ここ数年で妖精の尻尾(フェアリーテイル)は急激に力をつけてきた。

 気に入らんのだよ、クソみてーに弱っちいギルドだったくせに、我が幽鬼の支配者(ファントムロード)と並べて語られるなど、

 

「その妬み嫉みがこの原因か。下らない」

 

「妬み? いいや違うなぁ。ものの優劣をハッキリさせたいだけさ。尤も、切っ掛けは些細なことだったが。ハートフィリア財閥からの依頼さ」

 

 娘を連れ戻してくれという、ジュード・ハートフィリアからの依頼。

 

「この国有数の資産家の娘が妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいるだと!? ふざけるな!!!」

 

 ハートフィリア家の金をキサマ等が自由に使えたとしたら······。

 間違いなく我々よりも強大な力を手に入れる!

 

「それだけは許しておけんのだァ!!!」

 

「···羨ましいよ」

 

 一体一体、刻々と数を増やしていく幽兵(シェイド)の猛撃を縦横無尽に駆け回って避ける男はそう言った。

 

「不平不満を他所(よそ)所為(せい)にしてさ。きっと楽だろうさ。オレは自分の所為だと考えて、抱えこんでしまう」

 

 アイツの所為に出来たらどれだけ楽か、と続ける。

 

「イヤ、それは駄目だな。原因はアイツだけど実行したのはオレだ。オレ自身だ。それはちゃんと自分の背負うべき業で、一生背負っていかないと。楽をするのは逃げてるだけだ。逃げることは時に重要だけど、この件からは逃げちゃ駄目だ」

 

「何をブツブツ言ってやがる! ガキが!」

 

 二十を越した数の幽兵(シェイド)は漸く男を捕らえて締め上げる。

 そして想像を絶する苦痛を与えてから魂を喰らってやる。

 

「は···?」

 

 そう、殺し方を決めたその時、幽兵(シェイド)が私の支配下から外れた(・・・・・・・・)

 

「学習しない奴。さっき見せてやったのにさ」

 

 奴を締め上げていた幽兵(シェイド)たちは私のいうことを全く聞かず、まだ私の制御下にある幽兵(シェイド)たちに襲い掛かり同士討ちを始める。

 

「ま、どの道もう終わりだよ。ほら」

 

 瞬間、膨大な魔力生まれ、全ての幽兵(シェイド)が掻き消えた。

 

「マカロフ···!」

 

 憎々し気に呟く私の眼前には、激しい怒気を孕んだ顔の死に損ないの爺が立っていた。




ガルナ島か、違ってもニルヴァーナ編から始まると思ってページを開いた読者諸君、お前らは一人残らず全て騙された。
的な書き出しから始められるほどの文才とふてぶてしさが欲しいと、心からそう思って書きました。
悪気はないんです。
次話を読んである程度察して下さればと存じます。
まあ、その次話がいつ出来るか、は分かりませんが。
一月以内には出来上がるよう頑張りますので楽しみにしていただけたら本望です。
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