終わりからの始まり   作:神信陸

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2話 三つじゃなくて四つだよ

「貴様···!」

 

 エルザの怒号で一度は静まりかえった場がざわつく。

 先の怒号によって思い思いにやっていた奴らの意識がオレたちに向いて注目が集まったからだ。

 

「ファントムごときに嘗められやがって。恥ずかしくて外も歩けねーよ」

 

 ギルドの建物を潰されちまって、結果的には勝ったが、こんな惨状じゃ負けも同然。

 マグノリアに住む人間全員にどう思われてるか、そしてオレまで同格に見られるとなっちゃあ堪ったモンじゃねえ。

 同じギルドに居る以上、否が応にもオレは同列に扱われちまう。

 勝手に期待されるのもムカツクが、不当に低い評価はもっと気に食わねえ。

 仮にオレ自身の名に傷が付かなくとも、オレのギルドの名に傷が付く。泥を塗られる。

 それは不愉快だ。

 ガジルにやられるような弱ェ奴らやら今回の抗争の元凶の女やら、どいつもこいつも気に食わねえ。

 

「ラクサス! もう全部終わったのよ。誰のせいとかとか、そういう話は初めからない。戦争に参加しなかったラクサスにもお咎めなし。マスターはそう言ってるのよ」

 

「そりゃそうだろ。オレには関係ねえことだ。オレは参戦しなかったし何よりあの場にいなかった。それで咎められるってなら堪ったモンじゃねえよ」

 

 ま、行く気もなかったがな。

 しかし、そういう意味では咎められて然るべき奴が居るが、フン、これもオレにとっちゃあ関係ねえことか。

 

「ま、オレが居たらこんな不様な目にはあわなかったがな」

 

「ラクサスてめえ!」

 

 オレの態度にとうとう我慢の限界がきたか、ナツが飛び掛かってくる。

 前よりは速くなってるが、オレとやり合おうってならまだ遅い。

 避けるのは容易いが、その必要はない。

 

「ぶもぉ!」

 

 なんて、無様な声を上げてナツがスッ転ぶ。

 

「ナツ」

 

 と、名前を呼んで、ゆっくりと(あゆ)みを進める男が一人。

 そいつはナツのすぐ傍まで来て、そのまま──ナツの頭を踏みつける。

 

「今さ、色んな物が散乱してるって解んない? それとああやって飛び出すと足元の物が飛び散るって。危ねえだろうが」

 

 グリグリと、ナツの頭を踏み潰して、リンは説教垂れる。イヤ、文句を言ってるだけか。

 言い終わると足を退けて、リンはさっきナツに投げ付けた木材を拾う。

 

「それと、ラクサスが言ってることは間違ってねえよ。正しくもないだろうが。少なくとも嘘は言ってない。そんな相手に暴力を振るうのは喧嘩で勝っても負けだ。ま、お前がラクサスに勝てるとは露程も思わんが」

 

「ハハッ! よく解ってんじゃねえか」

 

 お前のそういうところ、オレは個人的には結構気にいってんだぜ。

 実力だって十二分にある。

 いずれオレがこのギルドを継いだ時に、このギルドに残ってもいいと認めるほどにな。

 オレの率いる、最強のギルドの一員に相応しい人間だ。

 最強のギルドをつくる。

 そのために削除する弱者とは違う。

 

「オレが作るんだ! 誰にも嘗められねえ、最強のギルドを!」

 

 

 

 

 

§§§

 

 

 

 

 

「不愉快だな」

 

 今回の騒動の一件。

 評議員のお偉方が下した事の顛末を話して、最初に返された言葉はそれじゃった。

 

「お咎めなしの無罪じゃぞ。何が不満なんじゃ」

 

「バランスが成り立ってない」

 

 と、言う。

 

「オレが使う念能力はバランスで成り立っている。使いづらい程強くなる。だから不愉快」

 

「お前さん、話をちゃんと聞いとったか?」

 

「聞いてたさ。確かに、向こうが攻めてきたから応戦した。こっち側は正当防衛。だから裁決に差が出るのは解る。けど、幾らなんでも大きすぎる」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)幽鬼の支配者(ファントムロード)の抗争。

 この件における儂らに下された判決は先に言ったように無罪放免。

 対するファントムに下された判決。

 ギルドの解散。

 そしてギルドマスターであるジョゼの持つ聖十の称号剥奪。

 まあ、些かこっちが優遇されとる気はするのは儂も同様じゃな。

 ああ、イヤ。

 そういや、ヤン坊に(たか)られたんじゃったの。

 ラーメンチャーシュー十二枚乗せ。

 

「その程度かよ」

 

「その程度とはなんじゃ」

 

「その程度だろ。たかだか数百Jで賄える」

 

「一銭を笑う者は一銭に泣く、じゃぞ」

 

「生憎と、貯金には余裕があるんだよ。詐欺師だぜ。オレ」

 

 実入りはいいんだよ、と言う。

 

「お前さん、もっと真っ当に働かんのか」

 

「こっちはこっちで事情があんだよ。善良な一般市民にまで手を出さないだけマシだろ。それに、オレの詐欺活動で救われた子だって沢山いる」

 

 だからこそ無理に止められないんじゃよな。

 犯罪者のみを対象とした詐欺師。

 魔導師であり念能力者であり、詐欺師。

 三つの面を持っておる。

 

「三つじゃなくて四つだよ。金貸し。善良な一般市民には合法でクリーンな活動をしてる。長期間の無利子無担保の契約だったり、場合によっては利息分はチャラにしてやったり、とかな」

 

「それによってプラマイゼロというわけか」

 

「イヤ、プラマイマイナス。正直言って大赤字だよ。相手が破産するまで搾り取ってるとはいえそんなもんさ。元々の資金がなければこんな活動ができなければ、その日を生きるのにも精一杯だったろうさ」

 

 破産するまでって、何故そこまで···。

 事情があるとか言っとるがどんな事情じゃ。

 

「人探し」

 

「普通に探せ!」

 

 この手の話をする時は決まって事情と言って濁すから言う気がないと思ってたのに隠す気なしかい。

 早々に聞いとりゃよかったわい。

 しかし、詐欺活動と人探しに何の繋がりがあるんじゃ。

 

「あくどい連中ってのはどこも後ろ楯がないとやってけないんだよ。つまりはコミュニティを形成してるんだ。だから詐欺に引っ掛けて追い詰めて」

 

 情報をせしめる、と言って、リンは笑った。

 クックック、と。

 

「まあ、収穫なしが現状さ。寧ろ人身売買とかやってる奴らが担保に出したり、破産して路頭に迷った孤児だったりを保護したりで、最近は出費が嵩んでる」

 

 子供って苦手なんだよな、なんて言いながら、リンは膝の上に座らせている子の頭を撫でる。

 苦手と言うのは嘘か。

 

「本当だよ。こんなことで嘘なんかつくか」

 

 正直信用ならんの。

 本人が言うように相手を選んでいるとはいえ詐欺師じゃし、何より昔コイツの言うことを信じて痛い目にあったしの。

 

「あの件に関してはいい加減水に流せよ。つうかあんな分かりやすい嘘に引っ掛かる方がどうかしてる。何より慰謝料払っただろうが。文句があるんだったら金返せ。三千万」

 

「そんなことよりギルドも新しくなる。これを機にマスターも次の世代へと託すべきか···」

 

「······お好きにどうぞ。オレはもう帰るよ。元々老人の晩酌に付き合うのはイヤだったしな」

 

 一度も酒を注がん、飲まんで言いよるわい。

 全く、少しくらいは付き合ってくれてもいいじゃろうに。ノリが悪い。

 飲み直すか。

 

 はあ。

 次の世代···か。

 だとして誰が適任か。

 ラクサスは心に大きな問題を抱えておるし、ミストガンはディスコミュニケーションの見本みたいな奴じゃし、リンは論外、ギルダーツは···まあ無理じゃろうな。

 となるとエルザか···。

 しかしエルザは任せるにがまだ若いしの。

 はあ。任せられそうなのが一人もおらん。

 もう老い先短い老人だというのに、引退してゆっくり休むこともままならなそうじゃ。

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