終わりからの始まり   作:神信陸

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5話 X784年

 分からない。

 分かろうとすることが間違っているのではと、そう考えてしまうくらいに、あの人のことが分からない。

 やることなすこと無茶苦茶で意味不明だから。

 

 剣の扱いには長けてないと言っておきながら、彼は私の剣の師なのだ。

 理屈は聞いて、というよりは聞かされているが、それが本当に無茶苦茶で意味不明なんだ。

 なんでも、私が彼の剣を真似して、対策して、そうして振るった剣から学習しているだけ、とかなんとか。

 私が学習した剣から学習された剣を学習して、そこから学習されてそれを学習して···。

 

 ダメだ。

 考えれば考えるほど訳が分からなくなる。

 (いたち)ごっこもいいところだ。

 

 イヤ、それ以前に。

 私が剣を学んだこと、それ自体がおかしいのだ。

 おかしいというか、イカれているのだ。

 

 生活を見れば人となりはよく分かる。

 人となりが分かれば癖が分かる。

 癖が分かれば向き不向きが分かる。

 

 この理論は、まあ分からなくはない。

 分からないけど、分かる。

 

 けど、たかだか二日(・・・・・・)お世話になっただけで剣の才能を見出だされるというのは、幾らなんでも無茶苦茶で意味不明すぎる。

 

 あの人は明らかにおかしい。

 命の恩人で師匠(センセイ)だけれど──あの人は異常だ。

 当人が言う様に普通じゃなくて、周りの皆が言う様な特別じゃなくて──異常だ。

 私は正直、あの人が何を成したところで不思議ではない気がする。

 

 なんでも出来そうな気がする。

 なんでもは出来なくとも、なんでも出来る様になれる人だと、そう思っている。

 

 と言っても、それは結局私の理想であり、妄想なのであって、現実ではない。

 狡猾でいて聡明な、あの人の言には、信憑性なんてあまりないけれど。

 あの人は、言っていた。

 自分は弱いと、自分は無能だと。

 私は信じられなくて、そして何より私や皆を馬鹿にしてるんだと思って、思わず言い返した。言い返してしまった。

 

 あの人は、センセイは──義兄(にい)さんはこの時、初めて怒った。

 感情を、表に出した。

 

 あの人は、ある日生き倒れた私や、細かい事情は知らないけれど身寄りのない子供たちを保護して、その後一人でも生きられるようにと、教養や技能(スキル)を与えてくれる。

 私も色々教えて貰った。

 剣以外にも、情報を集めるノウハウや、真偽を見抜くスキルなんかを。

 後者の方は生憎才能がなかったようで、あの人的には及第点未満なのだけれど、それでも、あの人が常に仮面を被っていることくらいは分かった。

 自分を偽ってることは分かった。

 

 そんなあの人から、ホンの一時(いっとき)外れた仮面から垣間見えた素顔は──とても怖くて、脆い一面だった。

 三年ほどの付き合いで、一度たりとも見せなかった、この世の全てを呪う様な狂気と、全体に亀裂の入ったガラス細工の様な弱さを。

 あの人は心の奥底に秘めていた。

 

 懺悔なのか、感情に身を任せた怒号だったのか、確かにあの人は怒鳴り散らした。言った。

 

 ──守りたいモノを守れないような、壊すようなこんな力が強さなら、弱くありたい

 

 ──努力して、試行して、尽力して、そうやって身に付けた力も知識も経験も技術も、全部が裏目に出ただけだった

 

 それは紛れもない、初めて見せたあの人の本心であり、涙だった。

 泣いていた。

 

 あの人ならなんでも出来そうとは変わらず思うけれど。

 才能や能力は確かに異常だけれど。

 あの人は決して化物ではない、一人の人間だ。

 

 それが分かった瞬間だった。

 

「でもなんだったんだろう」

 

 つい口に衝いてしまった。

 

「あの人の守りたかったモノって」

 

 何時(いつ)か聞いた妹さんのことか。

 幼い頃に亡くなったと聞いている。

 けれどこれは違う気がする。

 

 私に限らず周りの子たちの共通認識で、『代わり』とはいえ、年齢差からあの人は親──父ではなく、兄の様な存在だった。

 だから初めの頃は「お兄ちゃん」などと言う子は沢山いて、その度にあの人は機嫌を悪くしていた。

 私も、一度誤ってそう呼んでしまった。

 私には何年も前に生き別れた兄がいたから、馴れてきた頃につい、口に出てしまった。

 

 そのことを言うとあの人は、特別枠の特別扱いと称して、私には許可をくれた。

 てっきり真逆の境遇から、兄代わりになってくれると言うことで、だから私は、妹さんの代わりにと思ったのだけれど、あの人は「必要ない。もう間に合ってる」と返した。

 

 その言葉が、字面通りの意味なのか、将又(はたまた)隠された意味があったのかは分からないけれど、あの様子なら、あれだけの『脆さ』の原因とは別だろう。

 気にしていないからか、踏ん切りが付いているからかは、分からないけれど。

 

 ならば、ならば、ならば。

 こうして考えると、私はあの人のことを殆んど知らないんだと思い知らされる。

 あの人のことも、あの人の言葉も。

 

 ──何時かお前は、人を怨むだろうけど、その時は此処に来い

 

 あれは一体、どういう意味なんだろうか。

 

 

 

 

 

§§§

 

 

 

 

 

 此処は何処だ?

 見覚えがない部屋だ。

 異常なほど、という量ではないけれど、決して一般的とはいえないだけの数の本が貯蔵されている。

 そんな所だった。

 他には特徴といえるだけの特徴が何もない。

 強いて挙げるならば少し埃っぽい所だろうか。

 一部とはいえ綺麗になっており、なんというか、長らく使われてない部屋なんだろうな、と思った。

 どういう経緯で俺がこの部屋で寝かされる様な状況になったのだろうか。

 

 よく見れば身体の至る所に包帯が巻かれており、全身痛くて動かせない。

 今現在置かれている状況を認識している内に、段々と意識がハッキリしていき、気を失う直前の記憶が──あれ···?

 

 記憶···ここで目覚めるその前。

 

 イヤ、もっとそれ以前。

 

 俺が産まれてからそれ以降の記憶が···

 

「っ···痛!」

 

 頭が、割れそうだ。

 考えれば考える程に頭痛が増す。

 分かることが一つしかない。

 

 俺は誰だ?

 

 無知の知。

 分からないことが分かるというだけで、他が一切分からない。

 記憶が、ない。




 最近書いてて、状況や情景なんかの描写が特に苦手なんだと知りました。
 書けるか書けないかの違いであって、クオリティにどれ程の差があるのかは分かりませんけれど、考え事なんかのシーン、心理描写とでも言うんですか?そこはとても筆が進みます。
 やばいなあ、ここから先心理描写オンリーが暫くない。
 そして今回登場した二人はこれから暫く出番がない。
 名前だけでも出せるようにしたいんですけどね···。

 察しの良い人なら分かりそうな内容だし、上手く出し抜きたいモノです。
 バレないように伏線を張ったり、ミスリードを誘ったり。

 まあ何はともあれ、序盤のアンケート結局無意味でマジすいません。
 こんな作品ですが、感想・評価等頂けたら幸いです。
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