ロクでなし魔術師たちの奇妙な冒険   作:焼き餃子・改

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第一章 「非常勤講師と始まる物語」(原作一巻)
第一話 「それは『奇妙』な始まり」


「えっと……あったあった、忘れるところだった」

 

 大きな鏡に映っているのは銀色の長髪、なかなかの長身で細身だが筋肉質、そして―――魔術名門校、アルザーノ魔術学院の制服に身を包んでいる少年だ。

 少年は机の上に置かれていた『鉄球』を、普通学生が使うはずもないだろうホルスターに入れ、制服をパシパシ叩いて、どこか不格好なところがないか探っていた。

 しばらくして大丈夫だと判断したのか、少し古びた扉から外に出ようとしたところで後ろから声がかかった。

 振り返ると、そこにはベッドに横たわった少女の姿があった。少年と同じ銀色の長髪で、少しやつれてはいるが、明るい表情で少年に笑いかけており、

 

「レン兄さん、いってらっしゃい」

「あぁ、行ってくる」

 

 そう言って、少年―――『ジョレン=ジョースター』は家を出た。

 向かう先は、アルザーノ帝国魔術学院――――――

 

 

***

 

 ジョレンがアルザーノ帝国魔術学院に向かう道すがら、天幕の下に出来た日陰の椅子に腰かけている老人と、それに向かうようにして膝をついている少女がいた。

 同じようにアルザーノ帝国魔術学院の制服に身を包んだ、短い金髪の少女の名は『ルミア=ティンジェル』という。そして、ジョレンが見ている中でルミアがこっそりとした様子で言葉を紡いだ。

 

「《天使の施しあれ》」

 

 被術者の自己治癒能力を上げて傷を癒す―――白魔【ライフ・アップ】の呪文だ。ルミアの手から広がる癒しの光が、老人の手を包み込んでいく。どうやら指を切っていたようで、その傷が光によってみるみるうちに塞がれていった。

 

「本当は学院の外で魔術を使っちゃいけないので……内緒にしておいてくださいね?」

「聞こえてるぞ」

「えっ!? レン君!?」

 

 ジョレンが声を呆れたように声をかけると、驚いたように振り向くルミア。そしてばつが悪そうに苦笑いして

 

「あはは……えっと、これは―――」

「なんか聞こえたが、見えなかった。多分、聞き間違いだったな」

 

 そう言って、わざとらしく目を逸らすジョレンに、ルミアは驚いたように目を丸めて

 

「……ありがとうね」

 

 感謝の言葉を述べられたジョレンは、何のことやら、と言った様子で肩を竦めた。

 すると、その後ろから声が響いた。

 

「ルミアー!」

 

 ジョレンと同じような長い銀髪をはためかせながら走ってくる少女は、『システィーナ=フィーベル』。成績優秀でルミアの親友だ。

 

「あ……では、ごきげんよう」

「魔術の勉強、頑張ってな。そこの子も」

「えっと、はい、さよなら」

 

 老人と別れた二人にシスティーナがすぐ駆け寄ってきて、そのまま流れで一緒に学院に行くことになった。

 ルミアもシスティーナも学院では同じクラスで、魔術の勉強をしている仲だ。それなりに仲が良く、それなりの関係。嫌われているわけでも、嫌っているわけでもない。そこそこ話はするが、積極的に話しに行く程でもない、そんな感じだった。

 だが、こうやって登校途中に会うというのは珍しかった。

 

「珍しいな、いつもは俺より先に学院にいるはずなのに」

「ちょっと忘れ物しちゃってね」

「それも珍しい……なんか気がかりでもあったか?」

「まぁ……ヒューイ先生が急にやめちゃったからかな」

 

 そう言ってシスティーナは不安そうな表情をかき消すように、肩にかかった髪を下ろすようにした。

 ヒューイ先生とはジョレンたちのクラスの担任だった先生だったが、この前急に講師をやめてしまったらしい。理由は不明で、授業の評判もよかったために、それを惜しむ声も多かった。目の前のシスティーナのように。

 そして不安の種になるとしたら―――

 

「非常勤講師か」

 

 その後釜としてやってくる非常勤講師。つまりは穴埋めというわけだが、どんな先生が来るのだろうか、という期待と不安。クラスの皆が、今それを抱えている状況だった。

 

「ヒューイ先生ぐらいに熱心な方だったらいいんだけど……」

「まぁまぁ、そんなに気にしてばかりじゃなくてもいいんじゃないかな?仲良くやっていけたらいいな、とは思うけど……」

 

 二人が非常勤講師について、思い思いの事を喋っている。

 ヒューイ先生のような熱心な先生だったらいいとか、仲良く触れ合える先生だとか、確かにそういった先生が望ましいだろう。

 しかし、ジョレンは二人とはまた別の理想像を描いていて―――

 

「だぁぁぁぁぁ―――! 遅刻遅刻遅刻ぅぅぅ―――ッ!」

「「「え!?」」」

「邪魔だ、ガキどもぉ―――ッ!」

 

 そんな思考と会話を遮る悲鳴のような一声と共に、男が鬼気迫る表情でこちらに向かって走りこんでくる。

 それに恐怖の念を抱いたのか、システィーナが咄嗟に左手を構え―――

 

「《大いなる風よ》―――!」

「あぎゃああぁぁぁ――――――!?」

 

 まくし立てた呪文と共に放たれた風の黒魔【ゲイル・ブロウ】によって、男の身体は天高く打ち上げられ―――

 

「ああぁぁぁ―――!?」

 

 バッシャーン!とド派手な音を立てながら、広場の噴水に見事に落下していた。

 

「なんだったんだ、あの人……」

「え、えっと……でもどうしよう……魔術使っちゃった」

「謝った方がいいんじゃ……」

 

 三人が突発的に起こった間抜けな惨事にあーだこーだ話し合っていると、また派手な音と水しぶきを立てて、無駄にかっこつけたポーズを取りながら男が立ち上がった。

 

「ふぅー……ケガはないかい、お嬢さんがた? と男一人」

「すっごい、おまけ扱い」

 

 男の遠慮ない言い草にムカッとしながらも、ジョレンは男を見る。

 尻尾髪が特徴の、そこそこ高身長で筋肉質な男だ。年齢の差の分だけジョレンよりも背が高いように見える。

 

「あの……すみませんでした。咄嗟の事で……」

「私からもお詫びします」

 

 そうしているうちに、システィーナとルミアが頭を下げた。完全に遅れたジョレンがつられて下げようかというところで―――

 

「まぁ、そうだなぁ!俺はこれっぽっちも悪くねーけど、そこまで謝れちゃったら、しょ~~~~がないから、許してやってもいいかなぁ!?」

 

 このドうざいムーヴでジョレンの中の謝罪の気持ちは一欠片も残られず粉砕されてしまった。

 すると言い終わって間もなく、男の視線がルミアに向き、目にもとまらぬ速さでルミアを超間近でガン見し始め

 

「えっと……何か……?」

 

 動揺の中、出た言葉も無視して、色んなところを触ったり、覗いたりのハレンチ行為を働きまくる男。

 あまりにも慣れてそうな素早い手つきに、ジョレンとシスティーナが唖然としていた。

 

「ふーむ、気のせい……ん?」

 

 そして一通りチェックし終わった瞬間、不意に男の視線がジョレンがつけていたモノに向けられ―――

 

「え?」

「はッ」

 

―――た瞬間、システィーナが我に返り

 

「何やってるんですか―――ッ!?」

「ああぁぁぁ――――――!?」

 

 鉄球に手を伸ばそうとしていたジョレンよりも早く、【ゲイル・ブロウ】をぶっ放して、さっきの再現を行っていた。

 

「女性に無遠慮に触るなんて最低! レン、行くわよ!」

「お、おう……」

 

 完全に怒り心頭なシスティーナがルミアを引っ張っていく後ろでジョレンが苦笑いでついていく。

 また噴水に頭から突っ込んだ男を気にしながら。

 

***

 

 ジョレンはシスティーナの機嫌が直ってほしいと、地味に思っていた。それは割と席が近いから威圧感がこっちまで届く……ということなのだが。

 残念ながら、学院に着いた後、システィーナの機嫌は更に悪くなることとなった。

 

「遅いわ」

 

 授業時間が半分以上も過ぎた教室に教師の姿が見当たらない。

 完全に遅刻。それもとんでもなく非常識なほど遅い。

 成績も行いも優等生なシスティーナはそれがどうにも気に入らないらしい。ずっと額に青筋を立てて、何も書かれていない黒板を睨んでいた。

 その隣のルミアはそんなシスティーナを宥めようとしているが、焼け石に水だった。

 

「こうなったら生徒を代表して一言文句を―――」

 

 そんなジョレン的にはめんどくさくなりそうだからやめて欲しいと思うことをシスティーナが口走った直後、生徒全員が待ちわびていた人物が教室の扉を開いた。

 

「あ」

「「「あ」」」

 

 そう、さっき登校中のトラブルの元凶だった、その男が。

 

***

 

 これが俺が経験した、ある意味『奇妙』な出会い。

 ここから全てが始まったような気もするし、前々から始まっていたような気もする。

 立ち止まって、変わらなかった景色が、一歩踏み出して変わった気がしたんだ。そしてそれは俺だけじゃなくて、それに関わった皆が。

 今はまだ、最後にどうなるかは分からないけれど。

 これは『生長』の物語。そうであることを願う。

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