ロクでなし魔術師たちの奇妙な冒険   作:焼き餃子・改

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第十一話 「事の顛末と『後日談』」

 「アルザーノ帝国魔術学院自爆テロ未遂事件」から数週間が経過した。

 あの後、ようやく学院の結界を突破した帝国宮廷魔導師団によって、事後処理は全て請け負われ、ジョレンやグレンなどの負傷者は魔導師団専属の法医師によって治療され、近くの病院で療養することになり、人質たちも何事もなく開放された。

 傷は法医呪文(ヒーラー・スペル)でほとんど治療されていたため、療養は数日で済み、またいつもの学院生活が始まっていた。

 そして、帝国宮廷魔道士団が総力を上げて徹底的に情報統制をしたおかげで事件の詳細な情報を知ったのはごく一部の講師達や当事者の生徒達しかいなかった。

 端的に言うと、黒幕は二組の元担任だった『ヒューイ=ルイセン』によるもので、ルミアを転送方陣で転送すると同時に、自身の魂を消費して、この学院を爆破しようとしていたのだとか。

 しかし、学院内に敷設されていた転送方陣の書き換えが完了する前にグレンに意図を感づかれ、阻止されたことで今回の事件は終わりを迎えた。

 そして、今回の騒動の中心であったルミア=ティンジェルは―――

 

「まさか、三年前にご崩御なされたって聞いたエルミアナ王女だったなんてな……」

 

 授業が終わった後の放課後、生徒たちもすっかり帰っていなくなった、学院の空き教室で夕暮れに染まるメルガリウスの天空城を見上げながら、ジョレンがぼんやりと呟いた。

 ルミア=ティンジェル。それは国の中では悪魔の生まれ変わりとも言われ、差別される『異能者』であった。そして、その事が露見するのを防ぐために、表向きは病死としながらも追放された元王女であるということ。

 退院してからすぐに、学院長室に呼ばれたと思ったら、上の事実がジョレンとグレンとシスティーナには伝えられることになった。

 グレンは事件を解決まで持ち込んだ一番の功績者だし、システィーナはルミアと一緒に生活しているので、知っておいた方がいいだろうという判断だ。そしてジョレンも、外道魔術師一人を倒した功績者として、帝国政府の上層部から、ルミアの素性について極秘に聞かされたのだ。

 

「そーゆーことは学院内で呟くもんじゃねぇぜ? 誰が聞いてるか分かったもんじゃねぇからな」

 

 その声にジョレンが振り向くと、そこには呆れた様子のグレンが立っていた。

 そしてゆっくり、気だるそうに歩いてきて、ジョレンと並んで一緒に空を見上げ始めた。

 

「先生はこういうこと慣れてそうですもんね」

「? そりゃどういうことだ?」

 

 ジョレンの謎の物言いに、グレンは訝し気な顔になっていた。

 

「いや? 元軍属のグレン大先生は、機密事項とかちゃんと守秘義務守ってきてる口の固い人なんだろうなって思いまして」

「なッ!? なんで知ってんだ!?」

 

 グレンが驚愕に目を剥いていると、ジョレンは満足そうに目を細めて、腰のホルスターに留めていた鉄球を持ち上げて。

 

「これ」

「その鉄球は……」

「知ってる人はそれぐらいしか考えられませんから」

「やっぱ、それロートゥの鉄球かよ……」

「真似て作っただけだから自作ですよ。技術も真似た劣化版です」

 

 タネを知って、驚いて損したとばかりにため息をつくグレンに、ジョレンは笑いかけた。

 

「ロートゥ=ツェペリ……俺の憧れの人です」

「あいつがか? 言い回しとかかなりうざい部類に入ると思うんだけどな。どんな時も緊張感がねーような感じするし」

「はは……詳しいんですね」

「ちょっとは一緒に任務もした身だしな……帝国宮廷魔導師団なのに、使うのはほぼあの鉄球で魔術はオマケって感じだった。なのに、その魔術の腕も一流……他の奴らからはかなり妬まれてたな」

「そうなんですか……元気でしたか?」

「俺が除隊した時まではすっげぇ元気だったよ」

「それならよかった」

 

 グレンが除隊した時までは分からないが、それまで元気だったと聞けるだけで、こっちまで元気が出てくる。いつか会える可能性が少しだけ保証されたような気がしたから。

 

「そういえば、なんで先生は正式な講師になったんですか?」

「あ?」

「めんどくさがって、非常勤講師のまま辞めると思ってたんですけど」

 

 あの後、グレンが非常勤講師としての期限が過ぎた後、なんと正式な講師になって、二組の担当を続けていた。誰もが驚愕し、口々に真意を問い詰めたが、その時のグレンはのらりくらりとはぐらかしてばっかりだった。

 

「ま、ルミアの件もあるし、そのまま講師職にいた方がいいって上とセリカのお達しだ。セリカの方は定職に就けるなら丁度いいって考えだけどな」

「アルフォネア教授も苦労なさってるんですね」

「頼むから俺の前だけでもいいから、あいつの肩持たないで、傷ついちゃう」

「それだけですか?」

「……」

 

 ジョレンが真剣な眼差しで聞いている。それを見て、グレンもつられたように数秒、真剣に考えて―――

 

「ま、こういうのもいいかなって」

「それはシスティーナやルミアを見て?」

「その二人に限定するのは、俺がロリコンみたいになるからNGな。単純に二組を見ててだよ」

「まぁ、でも俺としてはプラスなんで動機はなんでも別にいいんですけどね」

「おい」

 

 聞いといてなんだ、という顔のグレンを差し置いて、ジョレンは床に置かれた鞄をひったくるように取って、教室の扉を手にかけ。

 

「もう帰るのか?」

「家で妹が待ってますし。最近、ご立腹なんで遅くなると心配させてしまいます」

「そっか、なら帰れ」

「グレン先生」

「なんだ?」

「これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

 

 そう言って、グレンに対し正面を向き、深く、深くお辞儀をした。

 グレンがそんな気は一切ないのは分かっているが、それでも自分を助けてくれていることに変わりはないから。

 

「わーったから帰るならさっさと帰れ、めんどくせー教え子君よ」

「はい、それではさようなら」

 

 けんもほろろにあしらわれても、すっきりした笑みを浮かべ、ジョレンは走り去っていった。

 それを見送った後、グレンもふっと穏やかに微笑み……

 

「全く元気だな……ったく」

「おいグレン!? お前だろ、私の名義で勝手に商品なんて頼んだ奴!」

「は!? セリカ!? なんでここにいることがバレてんだ!?」

「さっき、お前の教え子だと言っていたジョレン=ジョースターという生徒が喋ってくれた! さぁ、《お仕置きだ》ッ、この馬鹿ッ!」

「あの野郎、何平然とチクってんだよ!? 違う、違うんだセリカッ! 強いて言うならそれは時代のせいなんだッ! 待てェ―――ッ!? 死ぬ! 死ぬから魔術やめてぇ―――ッ!?」

 

 直後にグレンの女々しい悲鳴とセリカが放った爆裂魔術のとんでもない爆発音が学院全体に響いた。

 その時は、帰り際のジョレンは楽し気な顔で帰っていったが、その翌日から、グレンに逆恨みされ一週間強制教室掃除を言い渡されることになったそうな。

 

***

 

「グレン先生……やっぱ子供だわ」

「あはは……災難だったね?」

 

 ある日の学院内の図書館。強制教室掃除の刑で学院に残っていたジョレンを見かねてか、手助けしてくれたルミアと終わった後もせっかくだから図書館で勉強をしようと言ってくれたので、夕飯前には帰らなくてはいけないものの、少しだけ時間をとったのだ。

 

「うーん……ここ、よく分からないんだが」

「どこかな? えっと、ここはね―――」

 

 静かな時間が過ぎる。気になるところはつらつらとノートに書き取り、分からないところがあれば、お互いに教え合う。その気になれば、ずっと過ごせそうな錯覚にすら陥りそうだった。

 

「ねぇ、レン君。その本は?」

「ん……」

 

 そんな中、それを打ち破るかのように、ルミアが静かに話を切り出した。

 ルミアが指さしているのは、ジョレンが取ってきた一つの本だ。勉強に使う本ではなく、タイムリーな話題が乗っている雑誌のようなものだ。しかも、オカルト的な話題に絞ってある。

 

「ちょっと調べておきたくて……ためになるかはよく分からないけど」

「それって……レン君が言ってた、その……スタンド使いっていうの?」

「そう、スタンド……それの手がかりになればと思って」

 

 そう言いながら、右手人差し指の爪をシュルシュルと回転させて見せるジョレン。すぐに回転は止まり、爪が元に戻る。その間に、最初出てきていたあの謎の生物は一切出てきていない。

 ルミアはその光景を目を丸くして見ていた。

 

「これと同じように、魔術とも技術とも違う力……もしかしたら『現象』とかその類にもなるのかもしれない。何にも知らないままっていうのも、怖くて」

「そうだね……急に発現したんだもんね……」

 

 ルミアがゆっくりと両手をジョレンの方に近づき、右手を優しくとり、撫でまわすように触る。それは、興味本位とか好奇心といったものではなく、単純に心配して、というのが見て取れた。

 ルミア自身も異能者という、スタンドとはまた違う不可思議な力を持っている。そして、その力のせいで追放されたという過去が、余計不安にさせているようだった。

 

「まぁ、大丈夫だよ。異能と誤解されるにしても、ショボいもショボいし、追放とかは多分ないから」

「そう、かな……? でも、それだけじゃないんでしょ?」

「……まぁ、それはそうだけど」

 

 ジョレンはルミアの素性を聞くときに、自身もスタンド使いのことや、ダークコートの男から聞いたスタンド使いだけの組織のこと、そしてその目的である聖なる遺体、それを体内に秘めてしまった自分を狙ってくるだろうことを正直に話した。残念ながら、それで聖なる遺体やスタンド使いに関しての有力な情報は得られなかったが、政府の中でも魔術に拠らない不可思議な術を使う組織のことは問題視されていたらしく、それがスタンド使いというものなのでは? という考えが出来るようになり、非常に助けになったらしい。

 

「私、心配だよ……レン君もなんて……」

「俺はまだいい方だよ、こんなでも戦う力ではあるんだから。でも、そっちは違うでしょ」

「うん……私にも戦う力があってレン君を助けてあげられたらよかったんだけど……」

 

 そう言って、ルミアは悲し気に俯いた。ジョレンの右手を触っていた、ルミアの手が引っ込められて―――

 

「大丈夫、ルミアは一番大事なもの持ってるし」

「え……?」

「勇気。俺が思う一番大事なもの」

 

 嘘ではない。落ち込むルミアを慰めたいと思ったのは確かだけれど。別に慰めるための嘘ではなくて。

 気が付いたら、ルミアの手を咄嗟にこっちから掴み引き留めて、そんなことを言っていた。

 

「俺の憧れの人が……まぁ、そんなことを直接言ってたんじゃないけど、俺に勇気を教えてくれたんだ」

「レン君の憧れの人が……」

「うん、あの人がいてくれたから、俺は今ここにいる……まぁ、そう、大したことはなかったんだけどね?」

「ふふっ」

 

 なんて、苦笑してあやふやに誤魔化すジョレンに、ルミアは笑って。

 

「あ、ごめんね? 笑っちゃって……」

「いや、笑ってもよかったけど、どこかに笑う要素あった?」

「いや、私たちって似た者同士なんだなって」

「え? どこが?」

「ふふっ、内緒」

 

 ポカンとしてるジョレンの手をするっと抜けて、ルミアは人差し指を立てて、悪戯っぽい笑顔で指を口の前に持ってきた。どうやら、完全に立ち直ったようだった。

 

「あ、そろそろ言ってた時間過ぎちゃうけど、大丈夫?」

「え? あ、ヤバい! 買い物も行かないと! えっと、今日はありがとう」

「ううん、私も色々教えてもらったし、これからも色々と助けてもらうと思うから」

「まぁね、俺もこれからも色々お願いすると思う」

「うん、『約束』だもんね」

「あぁ、『約束』だ」

 

 約束……あの事件の日、二人を結び付けていたモノ。こうやって、それを再確認できると、なんだか、あの時、戦ったのは間違いじゃなかったって思えて。それを想うと心が暖かくなっていくようで。

 

「えっと……またな?」

「う、うん。また明日」

 

 それがどこか照れくさくて、二人ともちょっと焦りながら別れることになった。

 ジョレンがそそくさと去ってから、ルミアも帰るために持ち物を整理しだして―――

 

「本当にありがとうね、レン君」

 

 もういなくなったジョレンに向かって、誰にも聞こえることもない呟きとして、感謝の言葉を残した。

 ジョレンもルミアも、本人に感謝を伝えられるのはいつの日か―――それはまだ、誰も知らない。

 

 

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