ロクでなし魔術師たちの奇妙な冒険   作:焼き餃子・改

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第二章 「一波乱の魔術競技祭」(原作二巻)
第十二話 「『種目選択』のひと悶着」


 放課後のアルザーノ帝国魔術学院、東館2階。

 その時、二年次生二組の教室はびっくりするほどに盛り下がっていた。他のクラスでは魔術競技祭に向けて練習などをしていて、とても盛り上がっているというのに、である。

 

「はーい、『飛行競争』の種目に出たい人ー?」

 

 壇上に立っているシスティーナがそう呼びかけるが、誰も応じない。

 なんというか、もう静かにしないといけないのではないか、と誤認するぐらいの葬式ムードだった。

 

「じゃあ『変身』の種目に出たい人は?」

 

 やはり無反応。誰も応じることはない。遠慮している者、元々やる気のない者、色んな人の思惑が雁字搦めになっていて、自分勝手に手を上げるのが難しい雰囲気となっていた。

 

「はぁ、困ったわね……来週には魔術競技祭だっていうのに全然決まらない……」

「ねぇ、せっかくだし、皆で頑張って見ないかな?」

 

 壇上で項垂れるシスティーナに助け船を出そうと声を出したのは、書記をしていたルミアだった。

 しかし、それでも、この場の誰も応じようとはしなかった。皆、気まずそうにしていた。

 ルミアは少しばかり助けを求めるような視線をある生徒に向けるが……

 

「すぅ……すぅ……」

 

 その生徒、ジョレン=ジョースターはなんと居眠りをしてしまっていた。なお、眠る直前に、アルバイトがどうのこうのと言っていたので、それで寝不足だったのだろう。

 そして、誰も動かない生産性のない時間が過ぎていく中、うんざりしたような様子の眼鏡の男子生徒、ギイブルが遂に席を立った。

 

「無駄だよ、二人とも。皆、気後れしてるんだよ、他のクラスは成績上位者だけで固められていて、敗北必至なんだ。そんな戦い、誰もしたくないんだよ」

「でも、せっかくなんだし……」

 

 その言葉にむっとして反論しようとするシスティーナを無視し、ギイブルが続ける。

 

「おまけに今回、僕たち二年次生の魔術競技祭には、あの女王陛下が賓客(ひんかく)として御尊来になるんだ。皆、陛下の前で無様をさらしたくないんだよ」

 

 嫌味な言い方だが、それはこのクラスの生徒の心理を的確に突いていた。

 

「だからシスティーナ。そろそろ真面目に決めようよ」

「私は今でも真面目に決めようとしているんだけど?」

「はは、冗談上手いね。成績下位者にお情けで出番を与えようとしているのに?」

「ちょっと、貴方それ本気で言ってるの!?」

 

 怒鳴るシスティーナにギイブルは一歩も引かず、皮肉げな薄笑いを口の端に浮かべ、クラスの生徒たちを一瞥した。

 

「見なよ、君の突拍子もない提案のおかげで、元々、魔術競技祭に出る資格があった優秀な連中も気まずくなって委縮している。それでも、これ以上我儘を続ける気かい? さっさと全種目を僕や君のような成績上位者で固めないと、勝てるわけがないだろう?」

「勝つことだけが競技祭の目的じゃないでしょう? それに、それ去年やったけど、凄くつまらなかったし……」

 

 しかし、ギイブルはそんなシスティーナの言い分を鼻で笑い。

 

「勝つことが目的じゃない? つまらない? 魔術競技祭はつまるつまらないの問題じゃないだろ? めったなことじゃ魔術の技比べが出来ないこの学園において、本当に一番優れた魔術の技を持っているのは誰か……それを明確に出来る数少ない機会じゃないか」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

「それに、今回の優勝クラスには、女王陛下から直々に勲章を賜る栄誉が与えられるんだよ? これにどんな価値があるか、馬鹿でも分かる。だから、大人しく出場メンバーを成績上位陣で固めなよ、これはこのクラスのためでもあるんだ」

「ギイブル、貴方いい加減に―――」

 

 騒ぎはそのまま際限なくヒートアップしていくものと、この場の誰もが思っていた。

 しかし、それは廊下の方からどんどん近づいてくる大きな物音によって一時中断され。

 

「……来た」

 

 いつの間にか起きていたジョレンが呟くと同時に、その物音の正体が、バンッ!と教室の扉を開けて入ってきた。

 

「話は聞いたッ! そういうことなら、俺に任せろ! このグレン=レーダス大先生様になッ!」

「ややこしいのが来た……」

 

 それは、バァーーンなんて擬音が可視化しそうな程に右手人差し指でシスティーナを指さし、左手で顔隠すような謎ポーズをかましたグレンだった。

 そして、早速システィーナから、魔術競技祭の種目が書かれた紙をひったくって。

 

「おうおう、やっぱまだ決まってなかったか。他のクラスはとっくに決めて練習に取り掛かってんのに、意識の差が丸見えだぜ?」

「やる気なかったのは先生でしょ!? 先日聞いたら、私たちで勝手に決めて良いって言ってたの先生自身じゃない!」

「え? そうだっけ?」

 

 まるで身に覚えのないといった様子のグレンに、システィーナが更に突っかかっていくが、グレン、それをザ・スルー。

 

「まぁ、そんな過去のことはどうだっていい。お前らに任せて決まらない以上、この俺様の超カリスマ魔術講師的英断力を駆使して決めてやろう。言っておくが……勝ちに行くぜ、お前ら」

 

 野心と情熱に満ち満ちた態度で、グレンが偉そうに宣言する。

 

「というわけで、まずは勝つための選出からだ。遊びは無しだ、心しろ」

 

 普段のやる気ない反面教師でしかなかったグレンの、この熱のある物言いに、さっきまで夜の人気のない裏路地並みに静かだったクラスがざわめきだす。

 

「ふーむ、白猫、これは毎年同じ競技なのか?」

「そんなことはないわ。新しい競技が勝手に出来ることもあるし、無くなったりも当然。同じ競技でもルールが変わったりもするわ」

「なるほど、生徒の応用力を試す意味合いもあり、か……」

 

 ざわめいているクラスを無視し、一人自分の世界に入り込んだかのように集中するグレン。

 何時間でもそうしていられるだろうと、周りに思わせるぐらいの考える石像ぶりを発揮していると、バッと顔を上げ、ニヤリと口角を上げた。

 どうやら、編成が決まったらしい。その様子を見て、やっと編成が決まるのか、と思う生徒と、どんな編成をするのか、と若干期待している生徒と半々な様子だった。

 

「さて、それじゃ一番配点の大きい『決闘戦』だが、これは白猫、ギイブル……あとカッシュだ。この三人で出てもらう」

 

 それを発表した瞬間、クラス中が驚きでどよめいた。何故なら、決闘戦は三対三の団体戦。常に各クラスの最強戦力が投入される競技だ。このクラスで成績上位者のトップスリーはシスティーナ、ギイブル、その次はウェンディのはずだ。しかし、投入されたのはウェンディではなくカッシュである。その理由が指名されたカッシュも含めて、全員分からなかった。

 

「次、『暗号早解き』はウェンディ一択。『飛行競争』はロッドとカイ。『精神防御』はルミアに頼む。それから―――」

 

 どんどんと決められていく種目。しかし、その中に使いまわされている生徒は誰一人いない。勝ちに行く、と宣言していたのに、どうしてこんな編成にしているのか、クラス中が困惑しながらも、種目は埋まっていき―――

 

「―――『変身』はリンにやってもらおう。んで、最後『バトルロワイアル』はジョレンに決定だ。よし、これで出場枠は全部埋まったな」

 

 結果。今回の競技祭の選出から漏れた生徒は一人としていない。誰もが、一回は種目に出るような編成になっていた。

 

「なんか質問ある奴はいるか?」

「私は納得いたしませんわ!」

 

 あるに決まってるとばかりに、声を荒げてウェンディが立ち上がる。

 

「なぜ私が『決闘戦』の選出から漏れているんですの!? 私はカッシュさんよりも成績は上ですわよ!」

「あーそれ。確かにお前は呪文の数とか魔力容量(キャパシティ)とかはすげぇが、要所でドジ踏むからな。たまに呪文も噛むし」

「な―――ッ!?」

「だから、『決闘戦』やるなら、運動神経と状況判断がいいカッシュが適任と判断した。その代わり、『暗号早解き』ならお前の独壇場だろ? 【リード・ランゲージ】は文句なしのピカ一だからな。是非とも、そっちで点数を稼いでほしい」

「そ、そういうことなら……仕方ありませんわね」

 

 すごすごと席に着くウェンディを皮切りに、何故自分がその種目に選ばれたのか、疑問を持った生徒が次々に手を上げて、グレンに問いかけた。

 そして、グレンはそれにちゃんと筋の通った回答をし続けている。それを聞いた生徒は一人ずつ、席に着き、どんどんとその数を減らしていった。

 

「一応、俺のもなんでか教えてください」

 

 そして、人がいなくなった時、さっきまで傍観していたジョレンが手を上げた。

 ジョレンが出ることになったのは『バトルロワイアル』。10クラスの生徒が一つの舞台に上がり、敵味方区別無しの戦いをして、最後まで生き残った人が勝者というルールだ。

 その配点は1位、2位、3位から順に配られ、それ以下の順位には配点無しだ。そして、これに出場した生徒は『決闘戦』には出てはいけないというルールが明文化されている。そのため、決闘戦には漏れたが、優秀、という生徒が多い。

 ジョレンは未だに【ショック・ボルト】も三節詠唱。魔術師としては、どうしても劣った部類に入る。この采配に疑問を持っていた生徒は多かった。

 

「まぁ、カッシュと同じで状況判断と運動神経がいいってのもあるが、一番の理由は武器使用ありってルールかな」

 

 そう、『バトルロワイアル』は非殺傷武器を使っての近接戦が可能なのだ。それがグレンがジョレンを選んだ理由だった。

 グレンはジョレンの鉄球を指さして、言う。

 

「お前は確かに魔術師としては劣るかもしれん。しかし、魔術戦ではお前は才能はある方だし、何といっても武器を使っていいんだ。鉄球を使う状態のお前に勝てる学生なんて、俺は想像したくねーな」

「なるほど、分かりました。んじゃ、俺はそれでいいです」

「じゃ、これで決まりってことでいいな?」

 

 満足そうに上げていた手を引っ込めたジョレンを見て、グレンが生徒たちに問いかける。

 どうやら、もう異論は無いようだった。確かに勝つと言う割には非効率的ではあるが、グレンはグレンなりに勝ちを考えた最強の編成をしたのだから。

 グレンが急にやる気になった内情は誰も知らないが、とにかくやる気になった講師が必死で考え出したこの編成で―――

 

「やれやれ、いい加減にしてくれませんかね」

 

 しかし、ここで異を唱える生徒が一人。さっきも色々言っていたギイブルである。

 

「そんな編成で勝てるわけないでしょう?」

「んあ? んじゃギイブル、お前はこれ以上勝率の上がる編成が出来るのか? 言ってみろ」

「先生……それ本気で言ってるんですか?」

 

 ギイブルからしたら、かなり間抜けなことを言っているグレンに対し、苛立ちを隠そうともせず、吐き捨てるように言った。

 

「そんなの決まってるじゃないですか! 成績上位者だけで全種目を固めるんですよ! それが毎年恒例で、どのクラスもやってることじゃないですか!」

 

 ギイブルの言を聞き、グレンの動きが時でも止まったかのようにピタッと止まる。それを見て、ジョレンは察した。

 

(あの人、さっきまで興味なさ過ぎて知らなかったな……?)

 

 ジョレンとしては、グレンが素でクラス全員出場なんてことを考える人じゃないことを知っている。というか、そもそも魔術競技祭なんてガン無視を決め込むだろうとまで思っていたが、こうやってやる気満々で来た以上、単純にグレンに優勝しなければいけない事情が出来たのだろうと察していた。そうなると、グレンと言えども、類まれな程のプライドの無さによる意地汚い戦法を考え出すだろうとは思っていたが、まさか、そこまで知らないとは思っていなかった。だがまぁ、それでも何とかなるだろうとも思っていて―――

 

「ちょっと、ギイブル! せっかく先生が考えてくれた編成にケチつける気!?」

 

 だから、ギイブルの言葉に食ってかかるシスティーナにグレンが戦々恐々している姿がなんとも面白かった。

 というより、グレンがギイブルに対し念でも送ってるかのようなポーズが単純に面白いとも言えた。

 そして、その後に続いたシスティーナの熱演によって、クラスの雰囲気は盛り上がっていき、ギイブルはそれを皮肉げに冷笑して着席してしまい―――

 

「ま、せいぜいお手並みを拝見させてもらいますよ」

 

 その言葉に、内心逆ギレしている様子が目に浮かぶようだった。

 

「あはは、よかったですね。先生の目論見通りにいきそうですよ?」

 

 その言葉に、グレンはもう引きつった笑みを浮かべるしかなく。

 

「ま、せっかく先生がたまにやる気出して、一生懸命考えてくれたみたいですから、私たちも精一杯、頑張ってあげるわ。期待しててね、先生」

「お、おぅ……任せたぞ」

 

 ご機嫌な様子のシスティーナと、最早吐血するんじゃないかって程ギリギリの作り笑いを浮かべるグレン。

 

「なんか……噛み合っていないような気がするなぁ……」

 

 そんな二人の様子を、苦笑いで眺めていたルミアに、ジョレンが密かに賛同していた。

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